01/23/2008

演劇「LOOSER~失い続けてしまうアルバム~」

脚本・演出:森崎博之 
出演:TEAM-NACS(森崎博之、安田顕、大泉洋、佐藤重幸、音尾琢真)

新撰組なんて知らなくても幕末青春群像劇にどっぷりハマれる傑作。幕末ヲタも喜ぶ新解釈も織り込まれ、両者を楽しませるバランス感覚があっぱれ☆想像力を形にするとはこのこと。大泉洋の演劇人姿をこれにみよ!


ストーリー(概要)
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むか~しむか~し、京都でおっかけっこがありました。

おっかけるほうが新撰組で、おっかけられるほうが長州藩士。

現代の若者がタイムスリップして京都のおっかけっこに参加します。

はじめは新撰組の隊士として(組員じゃないよ)。

次に長州藩士として。

おっかけっこはやがて最大のヤマ場、池田屋襲撃事件へ。

さてさて、どうなる?


主な登場人物の紹介
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△佐藤重幸。
現代人。30歳男。
タイムスリップ先の京都ではサンナンさん、またはヨシダくんと呼ばれる。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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新撰組なんて知らなくても幕末青春群像劇にどっぷりハマれる傑作。幕末ヲタも喜ぶ新解釈も織り込まれ、両者を楽しませるバランス感覚があっぱれ☆想像力を形にするとはこのこと。大泉洋の演劇人姿をこれにみよ!

■ TEAM-NACSとは

TEAM-NACSとは5人組の演劇ユニットのこと。北海学園大学演劇研究会出身の5人、森崎博之、安田顕、大泉洋、佐藤重幸、音尾琢真から成る。

全国に広く名前が知られている大泉洋が所属する演劇ユニットしてTEAM-NACSという名前はどこかで耳にしたことがある人も多いだろう。

地元北海道で公演をしてきた彼らの初の東京公演。そこで大好評だったのが「LOOSER~失い続けてしまうアルバム~」だ。

え? そもそも大泉洋を知らない?

北海道テレビの深夜番組「水曜どうでしょう」の人。映画「ゲゲゲの鬼太郎」でねずみ男役の人。ドラマ「暴れん坊ママ」で上戸彩の夫役の人。アニメ「千と千尋の神隠し」の番台の蛙役等々。メディアを問わず超売れっ子俳優だ。

そんな大泉洋の原点ともいえる演劇ユニットの代表作ともいわれる「LOOSER~失い続けてしまうアルバム~」(以下「LOOSER」)とはどんな話なのか。


■ 幕末青春群像劇

「LOOSER」は幕末青春群像劇だ。

群像劇といっても出演者数は5人。新撰組の面々と長州藩士を中心とする面々が登場する。5人で間に合うのか? 間に合うはずがないのだが、そこはうまくやっている。

着物の上着をサッと裏返して色を変えることにより新撰組隊士と長州藩士を素早く演じわけている。演劇はテンポが命だから衣装替に何度も時間をかけるわけにはいかない。演劇ならではの工夫だ。

群像劇を5人で。しかもひとりはタイムトラベラーの現代人だ。

現代で平凡な日々を憂いながら過ごす、どこにでもいるような30男の佐藤重幸が幕末動乱の京都にタイムスリップ。そこで佐藤はなぜか新撰組の面々に「サンナンさん」と呼ばれる。


■ サンナンさんってだれ?

「サンナンさん」とは山南敬助のこと。陸奥国仙台藩出身で新撰組総長・副長。新撰組局長の近藤勇とは、多摩の天然理心流剣術道場試衛館時代からの仲。つまり、新撰組の中核にいる大幹部である。

そんな山南敬助は、とても謎の多い人物だ。

世にいう新撰組とは、近藤勇をトップとする多摩試衛館派が実権を握ったときからを指すことが多い。近藤派が実権を握ることになった契機の事件が「芹沢の暗殺」である。

要は近藤派が、悪評高く邪魔者となっていた芹沢を暗殺して芹沢派を壊滅させ、新撰組の実権を得た事件で、そこから新撰組が名を上げる活躍をしていくことになるのだが、なぜか芹沢暗殺以後の山南敬助の記録はほとんどないという。

新撰組で一番有名な出来事の「池田屋襲撃事件」にも山南敬助の名はない。

次にその名が登場するのは、新撰組脱走。そして切腹においてである。

山南敬助は。小野派一刀流の免許皆伝。後に北辰一刀流・千葉周作の門人になる。剣の腕がたち、学識もあり、周囲の人たちから慕われ、とても人柄がよく、隊士たちにも信頼されていたという。

隊内では年下の一番隊隊長・沖田総司をかわいがっていた。沖田も山南を慕い、ふたりはたいへん仲がよかったという。

壬生狼と陰口を言われた新撰組を人斬り集団だと嫌う人の中にも山南敬助の悪口を言う人はあまりいない。そもそも剣を振るった記録はあるにはあるが、総長や副長でありながらその活動記録が少なく、謎多き人物だ。

サンナンさんと呼ばれた佐藤は新撰組の山南敬助として近藤や土方や沖田たちと出会い、新撰組の考えや思いに触れる。

こうして現代に戻ってきた佐藤は、ふたたび幕末の京都にタイムスリップする。

すると今度は「ヨシダくん」と呼ばれる。


■ ヨシダくんってだれ?

ヨシダくんとは吉田稔麿(よしだ としまろ)のこと。長州藩の活動家。吉田松陰の松下村塾に入門。松陰門下の三秀のひとりとされる(他に久坂玄瑞、高杉晋作)。のち高杉晋作の創設した奇兵隊に参加。

いわば長州藩の活動家の中核人物である。

吉田稔麿は新撰組の池田屋襲撃で討ち死にするのだが、そのときのいきさつについては諸説がある。

長州藩邸にいた吉田稔麿は池田屋襲撃の知らせをうけて駆けつけたとするもの。

池田屋にいた吉田稔麿たちが襲撃を受け、事態を長州藩邸に知らせに走ったが、幕府と表立って問題を起こせないと判断した長州藩邸は門を閉ざし、吉田稔麿は門前で自刃したとするもの。

池田屋にいた吉田稔麿がいったん席を外してふたたび戻ってくると新撰組に襲撃されていて、自らも奮闘して討ち死にしたとするもの。

このように池田屋事件のときの吉田稔麿の行動には諸説があって謎が多い。


■ 名も無き男

幕末の新撰組と聞いてすぐに思い浮かぶのは近藤勇や土方歳三であって、サンナンさんこと山南敬助ではない。

山南敬助は池田屋襲撃事件でも名前すら登場しない。のちに新撰組を脱走。切腹して亡くなる。

新撰組の大幹部であったにもかかわらず、ほとんどの人は山南敬助のことを知らない。

幕末の長州藩の吉田と聞いてすぐに思い浮かぶのは吉田松陰。ヨシダくんこと吉田稔麿ではない。

吉田稔麿は新撰組の池田屋襲撃で討ち死にする。もしも生き残っていたら、明治新政府で要職についていたことは間違いないにもかかわらず、ほとんどの人は吉田稔麿のことを知らない。

幕末という時代を熱く生きたそんな男たちも、今では名も無き男――。


■ 学校の教科書には載っていない

サンナンさん(山南敬助)にしろヨシダくん(吉田稔麿)にしろ、その行動に謎が多い。そしてどちらも歴史に名を残していない。

もちろん幕末史には名を残しているが、一般的には無名といっていいだろう。

新撰組隊士といえば近藤勇、土方歳三、沖田総司、永倉新八。

長州藩士といえば桂小五郎(木戸孝允)、高杉晋作、伊藤俊輔(博文)、山縣狂介(有朋)。

サンナンさんやヨシダくんの名は学校の教科書には登場しない。

名も無き(に等しい)男の生き様。それは現代で平凡な日々を憂いながら過ごす、どこにでもいるような30男の佐藤重幸の目にどのように映ったか。

現代では名も無き男であっても、幕末という時代をあれほど熱く己の信念を貫いて生き抜いた男たちに出会った佐藤重幸。

彼がタイムスリップした幕末で、あの池田屋でどんな行動をとったのか。それによって幕府転覆・新政府樹立への道の大きな一歩を踏み出したあの幕末史最大の出来事にどのように関係したのか。

そしてもうひとつ。今度は学校の教科書に必ず登場する幕末最大の功労者にして最も有名な人物、坂本龍馬とは何だったのか? を考えてみよう。


■ 坂本龍馬とは何だったのか?

坂本龍馬とは、一般的には土佐藩出身の幕末の政治家、実業家といわれている。

子供の頃は泣き虫で甘えん坊。北辰一刀流剣術開祖千葉周作の弟の千葉定吉道場に入門。北辰一刀流免許皆伝。

土佐勤王党に加盟。のち脱藩。千葉道場に身を寄せ、幕府政事総裁職の松平春嶽の紹介で幕臣勝海舟の弟子になる。

勝の神戸海軍操練所の塾頭になるも、禁門の変により海軍塾は弾圧を受け、龍馬は大阪の薩摩藩邸に身を寄せる。

のち長崎で亀山社中(のちの海援隊)を組織。物産や武器の貿易を行い、薩長同盟締結に大きな役割を果たす。

船中八策を策定して大政奉還実現を促す。のち、京都の近江屋で襲撃され、亡くなる。


■ 名が有りすぎる男

幕末といえばこの人! というほど有名な坂本龍馬。

幕末の大きな出来事や事件の裏には坂本龍馬の名がたびたび登場する。

土佐藩の商家の家に生まれ、金で買った郷士の身分では藩政に参加できるわけもなく(当時の土佐藩は侍の身分であっても激しい差別があった)脱藩して江戸の道場に身を寄せていた。そんな浪人が幕府政事総裁職の松平春嶽の紹介で幕臣勝海舟の弟子になる。

そんなアホな! どこの馬の骨ともわから奴にうちの娘をやれるか! ではないが、どこの脱藩浪士ともわからんようなたいして財力もない若造が神戸海軍操練所の塾頭になったり、薩摩藩の西郷隆盛の計らいで船を持てるようになり、日本初の株式会社亀山社中を作って武器を長州へ運んだりできるものか! と思う人がいたって不思議はない。

さらに犬猿の仲の薩摩と長州が手を結ぶきっかけを作ったり、幕府に大政奉還させる原案の船中八策をつくったりと、ちょいと活躍しすぎではあるまいか、ぐらいは思う人がいたって不思議ではない。

なにせ当時の幕府が考える浪人対策は、暇そうで放っておいたら面倒起こしそうな浪人を集めて将軍警護の名目でなんかやらせたらエエやん。ぐらいなものである(将軍警護の名目で集められた浪士隊の一部がのちの新撰組になった)。浪人なんて厄介者は都合のいいように使い捨てたらエエがな(なんで江戸幕府が関西弁?笑)ぐらいなものであり、ひとりの浪人にすぎない坂本龍馬がそんな活躍をするなんてどうにも都合が良さ過ぎやしませんか、と勘ぐる人がいてむしろ普通だ。

そう考えると、こんな疑問が浮かぶ。

――ほんとうに坂本龍馬という男は存在したのか?

そこにおもしろい作品をつくるヒントを拾った男がいる。

考えてもみよ。明治新政府の樹立後に幕末動乱期の裏事情を詮索されたくない人々が、さまざまな出来事や事件はある男が成し遂げたことにしてしまえば都合が良かった、と考えられないだろうか。

その男の名として「坂本龍馬」がひとり歩きしたのではないか。

そもそも日本初の株式会社設立者といえば聞こえはいいが、幕末期において亀山社中が担った大きな業績は情報の伝達速度を加速させたことと、武器の密輸である。戦いに情報は欠かせないし、武器も必要だ。表向きは政治家や実業家となっているが、武器ブローカーの親玉や闇の武器商人というのも坂本龍馬の肩書きである。

薩摩がイギリスといった欧米列強国から買った武器を、亀山社中という別組織(会社)を通して、いわば闇・裏ルートで長州に届ける。藩は自分の手を汚したくないので裏の道を使った。その裏のヨゴレ仕事をしたのが亀山社中だったわけである。

薩摩・長州をはじめとする新政府関係者にとっては都合のいい人物。それが坂本龍馬だ。なぜなら上記の理由で用済みになったかのように、明治改元の1868年の一年前、大政奉還・王政復古があった1867年に坂本龍馬は京都の近江屋で何者かに襲撃されて亡くなったことになっているからだ。いまだに誰が襲撃したのかはっきりわかっていない。

坂本龍馬はそれ以前もなんどか襲われているが、北辰一刀流の免許皆伝の腕を持ちながら、剣を抜いて人を斬ったことがないとされる。寺田屋で襲撃された際は主に銃で反撃して左手の親指を負傷したとされる。屋内では太刀は不利というのはわかるが、ほぼだれも坂本龍馬と真剣を交えたことがないというのも不思議だ。

そもそも坂本龍馬は同郷土佐の刺客・岡田以蔵や、薩摩の人斬り半次郎ともいわれた桐野利秋に護衛されたことがあるとされる。北辰一刀流の免許皆伝者が剣も抜かず、腕の立つ護衛を連れているときもあったというのだから、いくら京都で新撰組や見回り組に目をつけられていたとはいえ、なんとも謎が多い人物である。

さらに当時は写真は普及しておらず、写真や動画が普及した現代よりも人物を特定するのは困難だったことからも、新撰組隊士たちが坂本龍馬だと思っていた人物と、長州藩士たちが坂本龍馬だと思っていた人物がはたして同一人物だったのかは定かではない、と思わせもする。

そのあたりにおもしろい作品をつくるヒントを拾った男がいる。(スゴい着眼点だ!)


■ 名も無き男と名が有りすぎる男

どの時代もヒーローを必要とする。

映画「父親たちの星条旗」では、たまたま星条旗を2度目に立てた際に写真に写っていた者だけでなく、本当は写っていない者まで英雄にされた男たちの苦悩の日々を描いた作品だ。

時代はヒーローを必要とするといえば聞こえはいいが、要は時の支配者層・権力者が民衆を鼓舞するために象徴となる英雄を作りあげる必要があったということだ。それは今もたいして変わらない。

だから「坂本龍馬とは何だったのか」と書いたのだ。坂本龍馬とはどんな人物だったのか、ではない。

坂本龍馬に関するこれまで書いてきたこと、そういったことすべては「LOOSER」が教えてくれた。このレビューは「LOOSER」による坂本龍馬研究、幕末歴史新解釈の一部を文字のカタチで紹介したに過ぎない。

しかも、このレビューみたいにダラダラと新撰組がどうの長州藩がどうのとせずに、笑いと涙で楽しませつつやってのけてしまう。それが「LOOSER」だ。

そんな「LOOSER」の脚本を書いた男。名も無き男たちと、名が有りすぎる男のそれぞれに、おもしろい作品をつくるヒントを得た男。――それが森崎博之氏だ。


■ TEAM-NACSのチカラ

名も無き男、山南敬助と吉田稔麿。

名が有りすぎる男、坂本龍馬。

彼らを通して、時代を行き来して、人生という動乱を必死に駆け抜けた男たちを描いた「LOOSER」。

私がここまでダラダラと書きつらねてきたことを、もっとわかりやすく、もっと楽しく、涙と笑いと感動の演劇というカタチにしたTEAM-NACS。

その秘めたる(秘めてない?)チカラは計り知れない。


■ その他

幕末の話はとても興味深いんだけど、イザ鎌倉! じゃなくてイザ幕末モノってなると、尊皇攘夷派が長州が薩摩が公武合体がどうのこうのってワケワカんなくなりがち。

幕末の歴史が好きな人ほど、イザ幕末作品をつくるとなるとマニアにしかウケないモノを作ってしまいがち。

その点で「LOOSER」の脚本・演出を担当した森崎博之さんは、新撰組のファンだったわけでも歴史ヲタクだったわけでもなく、演劇の題材として魅力的なものとして、歴史を題材にするにあたって新撰組の本を読みまくったといいます。

はじめに手に取ったのが司馬遼太郎氏の歴史小説「燃えよ剣」。新撰組副長土方歳三が主人公の物語です。

幕末って難しそうなワケわからない用語がたくさん出てきて読みにくいんだろうなぁとページをめくると、多摩で薬屋をしていた土方歳三がどんだけ女たらしだったかみたいな話がつづくので、おもしろがって読み進めることができたそうです。

幕末の難しそうな話をどうやったら広くみんなに楽しみながら知ってもらえるか。

さらに、一般的に知られている物語の謎の部分に想像力を働かせ、新たな歴史解釈を織り込むことで幕末歴史ファンの知的好奇心をも刺激する。

私はずぅっと、幕末を題材とした魅力的な作品ができないものかと願っていましたが、映画ではなく演劇の世界にそれはありました!

幕末歴史好きな人ほど「LOOSER」の着眼点の良さとそれをカタチにする歴史勉強量の多さと、ヲタに走らずにだれもが楽しめる物語づくりのバランス感覚の良さに感心し、歴史新解釈のおもしろさを堪能できるでしょう。

もちろん、幕末ってなに? っていう人でもじゅうぶんに楽しめるようにできています。

両者を満足させる匙加減がうますぎる! 

ひさしぶりに、たいへんおもしろい作品を観させてもらいました☆

大泉洋さんがさらにカッコよくみえるゾ。

デート      ○ 
フラっと     ○ 
脚本勉強    ◎ 
脚本       ◎ 
演出       ○ 
キャラクター   ○ 
映像       - 
お涙       ○ 
笑い       ○ 
ファミリー    - 
アクション    -
挑戦       ◎ 
大泉洋ファン  ◎
知的好奇心   ◎
歴史ファン    ◎

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TEAM-NACS 森崎博之 安田顕
アミューズソフトエンタテインメント 2004-12-24

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