ピクサーがなぜヒット作品を出しつづけることができるのか。
その理由のひとつは、徹底したストーリーづくりにあります。
ピクサーでは、ひとつの作品について2年をストリーづくりに費やすそうです。
CG技術の高さが目立ちがちなピクサーですが、ただのCG職人の集団ではありません。
物語をつくる工房、のようなところといったらいいのでしょうか。
物語ありきで、それに最適なCG技術を使う。
だから、ピクサー作品の質は高く、ヒットを続けているのですね。
では具体的にどういったところが上手なのか。ストーリーづくりにおいてどういったところがしっかりしているのでしょうか。
■ 人間と動物の関係
ピクサー作品の多くは、人間以外の生き物やモノが主人公であることが多いですね。
おもちゃの人形。モンスター。魚。車。
人間以外が主人公の作品にも、人間が登場することがあります。
しかし、登場する人間は子どもだけだったり、大人は声だけだったり、大人の体の一部がチラッと映るだけだったりします。
これは意図してそうしているのでしょう。
主人公を中心とした世界を軸に物語を展開する場合、異質な世界はあくまで異質のままにしておく必要があります。
これには、物語世界の雰囲気の統一感を保つ目的があるとともに、観客の視点を主人公の世界につなぎとめておく役割もあるためです。
「ファインティング・ニモ」にも人間が登場しますが、それはニモが父親と再会する障害(オブスタクル)のひとつの役割しか持たせていません。人間の内面には踏み込んでいないのです。
それは魚のニモの物語だからです。ニモが父親と再会するための物語だからです。
だから、人間の内面を描く必要はないのです。
これまでのピクサー作品の基本では、どちらかの世界を中心に描きはじめたら、もう一方の異質な世界へは深く入り込みませんでした。
魚の世界を描いたら、人間の世界に深く入り込まない。
おもちゃの人形の世界を描いたら、人間の世界に深く入り込まない。
しかし、表面的には人間の世界を描いていないようで、作品を見終わってみると、それはけっして魚だけの世界でもなく、おもちゃの人形だけでなく、まさに人間の世界を描いていることに気づく、という仕掛けになっています。
「人間以外の生き物やモノを主人公に描きながら作品としては人間を描く」というスゴ技を披露してきたのがピクサー作品だというわけです。
■ ふたりの事情と内面
さて「レミーのおいしいレストラン」では、ねずみのレミーと、人間のリングイニのふたりの事情と内面が描かれます。
これはスゴいことです。
物語世界の統一感を保ちつつ、観客の視点を「ねずみ世界」と「人間世界」との間をブラブラと浮遊させることなく、共に自然にリンクさせている。
これをサラッとやっているところが、ほんとうにスゴい!
こんなスゴ技ができるのは、やはり 「魔法の鏡」職人(作家)ブラッド・バードだからなのでしょう。
「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」を作るために、外部から招き入れられた新しい監督、それがブラッド・バードです。
皆さんご存知のように「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」はそれまでのピクサー作品とはちょっと雰囲気が違います。まず、人間が主人公です。厳密にはスーパーヒーローですが、基本は人間です。
そして「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」のアクション描写もどちらかというと過激なほうで、上映時間も過去最長です。
そんなブラッド・バード監督は「レミーのおいしいレストラン」で作品づくりでは明確に分けられるふたつの世界(ねずみ世界と人間世界)を同時に描くというスゴ技を披露してみせたのです。
お・そ・る・べ・し。ブラッド・バード監督。
■ 異なる世界を同時に描く方法
では、どうやってふたつの異なる世界を同時に描くことができたのでしょうか。
その鍵は「レミーのしゃべり」と「動き」にあります。
レミーはねずみ世界ではしゃべります。でも、レミーは人間世界ではしゃべりません。
レミーは人間の言うことを理解しますが、人間の言葉はしゃべらないのです。
さらにレミーは四本足でも二本足でも歩きます。ねずみらしい動き(四本足歩行)をすると同時に、ねずみらしくない動き(二本足歩行)もします。
このようにレミーの「しゃべり」と「動き」は、双方の世界の中間にあります。双方の世界の橋渡しができる位置にあるのです。
■ エッジに立つ新ヒーロー
橋渡しができる位置で活動するためには、自身が所属する集団や共同体の「エッジ(ふち。へり。端)」にいる必要があります。
レミーはその優れた臭覚によって食べ物の良し悪しを判定する重要な役割を持っていました。それに父親はねずみのリーダーです。
ねずみだけど、ねずみ界のサラブレッド。ねずみ界の王子みたいなものです。
自分たちを危険な目にあわせる人間と関わるなんて考えられない。人間は敵だとあらためて教えられるレミーですが、それでも良い人間だっている! とリングイニと協力して料理を作ります。
共同体の中心にいながら、エッジに立ち、敵対するふたつの世界の橋渡しをする。
ほら、聖書の出エジプト記のモーゼだって、エジプト王子として育てられましたが、リーダーとしてイスラエルの民と共に約束の地・カナンへ旅立ったのと似ていますね。
これは偶然ではなく、当然のようにキリスト教文化を物語づくりの要素として研究して活かしているからでしょう。
なにはともあれ、レミーは新時代のヒーロー像なのですね。
「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」でそのものズバリのスーパーヒーローを描いた監督が、今度は料理を題材にヒーローを描いたのです。
▼「レミーのおいしいレストラン(RATATOUILLE)」作品レビュー
▼「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」作品レビュー
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