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ボーンとは戦い方が違う 映画「ボーン・レガシー」

▼「ボーン・レガシー(THE BOURNE LEGACY)」

監督:トニー・ギルロイ
アメリカ/2012年/135分


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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ジェイソン・ボーンは登場しません。


ボーンとは別の暗殺者アーロン・クロスの物語です。とはいえボーン3部作と同じ世界と時系列で描かれており、具体的には第3作「ボーン・アルティメイタム」のはじまりの部分(CIAの極秘情報を取材中の新聞記者が射殺される)からスタートします。


アーロンは強靭な肉体と強い精神力を持っていますが、それは人為的に染色体から強化されたものです。そのため定期的に2種の薬を服用しなければなりません。


彼の他にも強化された暗殺者たちが世界各国にいるのですが、組織の都合で彼らは不要となり、次々と始末(暗殺)されます。


極寒の山奥で訓練中だったアーロンも例外ではありません。でもね、彼は生き残ります。そして女性科学者マルタ(レイチェル・ワイズ)に会いにいく。


このあたりまでの経緯はボーン3部作との兼ね合いの話などが合わさって進行しますから、やはりボーンシリーズを観ていたほうが断然わかりやすいでしょう。


とはいえボーン3部作を観たことがなくても、細かいことを気にせずにアーロンのサバイバル物語として楽しむこともできますのでご安心を。


私はボーン3部作を観ていますので、どうしてもアーロンとボーンとを比較してしまいます。そこで共通するのは暗殺者でありながら人間味に溢れているということです。


むしろ暗殺者だからこそ描き方によっては人間味を強く表現できるというのはありますが、自分を探す旅であったり、生き残る戦いであったりしたときに出会った人を守るためにも行動する彼らの姿に、観客の多くは冷酷な暗殺者という印象よりも、過酷な状況にありながら大事な人のために戦う男の姿をそこにみるのです。


一方でふたりには違いもあります。それは能力です。もって生まれた素材といってもいいでしょう。そういう意味ではボーンよりもアーロンのほうが観客の共感を得やすいでしょう。


ボーンはいわば天才です。そもそも暗殺者養成候補としてリストアップされるということは、もともと身体・頭脳ともに優れた特別な者なのですが、その中でもボーンはズバ抜けています。


ひとりの暗殺者としてだけでなく、CIAのチームを率いる立場だとしても類いまれな指揮力を発揮するでしょう。とにかく天才なのです。


一方のアーロンはたしかに素質はあるのだけど、暗殺者養成候補として選出される過程にちょっとした「裏」があります。


そのあたりは作品中で明かされますからここでは詳しく述べませんが、つまり素質はあるけどけっして天才肌ではないということです。


格闘だってたしかにアーロンは強い。でも彼は自身満々に自ら格闘を仕掛けていくというタイプには見えません。


今回のストーリーは巻き込まれ型ですから必然的に逃亡がメインになるという理由はあるにしても、積極的に戦いを仕掛けるのではなく、むしろ避けられるならそのほうがいいというような雰囲気さえ垣間見れます。(でもアクションシーン満載ですけどね)


これは私の感じ方にすぎないのですが、数人の敵を倒そうとするときもボーンならもっと少ない時間と手間でスマートに倒せたんじゃないかと思えるシーンもあります。


アーロンも高度な戦闘技術を駆使して戦いますが、できることなら仲間の力を借りて協力して倒す方法を選びます。


ひとりの超人が圧倒的な力で数人の敵を倒すというのではなく、より現実的と思える方法(協力・連携)を用いて戦う。


このあたりのいい意味での「泥臭さ」がかえってアクションを際立たせているように感じました。


そんなわけでアーロンはどちらかというと、めっちゃ努力の人。それも落ちこぼれないよう必死にがんばってきたほう。それを普段は隠していますが、ふとしたときに明らかになる。このシーンのところまでくれば観客はほぼ完全にアーロンに感情移入できます。


こういったストーリーの運び方はやはり巧いですね。ボーン3部作の脚本を書いたトニー・ギルロイが本作では脚本・監督を担当していますからこのあたりの技術はバッチリです。


さて、あなたが会社員や公務員だとします。それら組織の一員でなくなってもひとりで歩いていけるでしょうか?


組織の肩書きがなければどこも相手にされないとイヤというほど身にしみた矢先に、かつて属していた組織から社会的に亡き者にさせられそうになったら?


あんなに残業して長年尽くしてきたのに……などと嘆いている間もなく生ごみを処理するかのようにテキパキとやってしまおうと次々と手が下される。


使い捨て。――捨てるときは迅速・確実・完璧に。


そんなことは自分の身におきるはずはない、ときっぱり言えるなら「ボーン・レガシー」を観ても何も感じないでしょう。ボーン3部作を観ても同じです。


もしかしたら自分にも起こるかもしれない。命までは狙われなくても、それと同じと思えるような目にあうかもしれない。そんな危機感を誰でも少しは持っているでしょう。


だからボーンシリーズはヒット作なのです。そして「ボーン・レガシー」では観客との距離がさらにグッと縮まった。


これは終盤のチェイスシーンに表れています。アメリカ合衆国とかヨーロッパとかの町じゃない。アジアのマニラの町を、路地裏を走り回り、狭い道をバイクで駆け抜ける。


ボーンシリーズといえば車でのチェイスシーンが特徴でしたが、今回はバイクです。車ならつぶかっても周囲の壁が衝撃をある程度和らげてくれますから、自ら当てに行って活路を見い出すことができます。


ボーンはこの戦法を積極的に使って車と自身の身をボロボロにしながらもあえてぶるけることで幾度も道を切り開いてきました。


思い出してください。第2作「ボーン・スプレマシー」の冒頭でボーンとマリーは車に乗っていて刺客に狙撃されます。弾は愛するマリーに当たり……。


ボーンは車で愛する人(マリー)と出会い(第1作「ボーン・アイデンティティー」)、車で愛する人(マリー)を失います(第2作「ボーン・スプレマシー」)。


一方で「ボーン・レガシー」のマニラではバイクに乗ります。車ではありませんから自ら当てにいくことはできません。まして守るべき女性科学者マルタと二人乗りですから無茶はできない(とはいえ普通からしたら無茶な走りをしてますけどね……)。


ボーンとは戦い方が違うんですね。ボーンは頭脳明晰で常に先を読み、自ら仕掛けていく戦いで生き残る。


アーロンは本作ではとりあえず逃れる。追跡チームの裏をかくこともありますが、あくまで生き残るために必死に行動する。


ボーン3部作を観た人は、こうした対比をしながら観るのもいいですね。


さて逃れ者のふたり(アーロンとマルタ)が宿泊した安宿の部屋には追跡チームへ向けて、次のようなメッセージが残されていました。


「NO MORE(もう追ってくるな)」


追いつづけるとどうなるか。それは作品の冒頭部分にあたる極寒の山中で執拗にアーロンを追ってきた狼とのシーンにアーロンのスタンスが垣間見れます。


この部分はボーンと共通していますね。ボーンも第1作のラストと第2作の冒頭ではほんとうの自分を模索し自身の記憶を探りながらも、インドのゴアでマリーと静かに暮らしていました。


刺客が来なければ、ボーンはふたたびCIAの前に姿を現さなかったかもしれません。でも追ってきた。


追ってこなければストーリーは進展しないのですが、主人公のスタンスとして「NO MORE(もう追ってくるな)」といのはやはり大事です。


秘密などを知っている(とみなされる)、または存在自体がやっかいだとされるから追われ、そのためにCIAといった組織と戦うのがアーロンやボーンです。


一方で組織から使い捨てられた個人は、よほどの人物でないかぎり追われませんから戦う相手が違います。


普通の人なら、肩書きがなくなっても歩けるようになるための自身との戦いがメインになるでしょう。ただしそれでは「画」的には地味なので映画では敵対するものを用意してアクションとサスペンスを取り入れるというわけです。


戦いは誰にでもある。その表現のひとつがボーンシリーズであり「ボーン・レガシー」なのです。


この作品の特にいいところは、マニラでのバイクチェイスのラストシーンです。マルタは守られるだけの存在ではなく、ちゃんとアーロンの助けにもなっている。ふたりがお互いに助け合っているということが具体的なアクションでわかるようになっています。


それにしても証拠隠滅のために冷静かつ着実に全プログラムの抹消を命じるリック・バイヤー(エドワード・ノートン)はおそろしく適役ですね。


ストーリーのテンポもアクションのテンポもいいので上映時間の割りにけっこうあっとう間にも感じられます。


観ないという選択に理由が見当たらない。


早い話がオススメです。

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