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MC狙いの雛壇芸人監督作「ドロップ」は露骨すぎる!?


▼「ドロップ」
品川ヒロシ監督 
2008年 122分 日本
原作:品川ヒロシ『ドロップ』


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Comments(論評、批評、意見)
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(お笑い芸人コンビ「品川庄司」の品川ヒロシが自らの青春時代を元に書いた同名小説を自ら監督〈脚本も〉した作品)

注:品川祐は作家や映画監督では品川ヒロシ名義で活動しているため、本記事においては主に「品川ヒロシ」の表記とする。


以下、映画単体でのレビューである。


不良にあこがれて私立中学から公立中学に転校した信濃川ヒロシ。転校初日に学校の不良グループのリーダー井口達也に呼び出されて喧嘩したことで、その仲間になる。


品川監督は本作を青春映画だと言っている。

「ただの不良映画ではなく、観ていて楽しくなる青春映画に仕上げたかった。」(品川ヒロシ)


不良が主人公というよりも、たまたま趣味が不良だったというようなかんじだ。青春のいちページを描く題材として、より身近な学生時代のエピソードに「不良」を借りてみただけのようにみえる。


東京の調布や狛江あたりに限らず、どこにでもいる少年たちの日常の話である。


不良……。これはなかなか強力な題材である。特に若者である場合には、それは大人社会への反抗の象徴として使える魅力的な題材である。広い意味での青春だ(これをAとする)


それと同時に、男たちの数取り(椅子取り)ゲームとしても需要がある。このゲームは大人の男も大好きだ。社内の派閥争い。業界地図再編。政権交代……等々。これは青春からは距離を置く(これをBとする)


Aでいくのか、Bでいくのか、おもいっきりどちらかに舵取りをしなければ、「不良」は強力ゆえにその扱いがあいまいなまま焦点がボヤけてしまう。


残念ながら映画「ドロップ」はその例に当てはまってしまったようだ。


「ドロップ」が青春に舵をとったのならば、おもいきって「不良」は味付け程度でじゅうぶんであった。極端な話、喧嘩シーンは無くてもいい。


ところが「ドロップ」では不良たちのアクション(喧嘩)シーンがけっこうある。おそらく監督がアクションが好きなのだろう。不良モノだから喧嘩シーンを入れるのはあたりまえという感覚で、好きゆえに力が入っている。


ボコボコにする・されるシーンがけっこうあるため、観客はB(バリバリの数取りゲーム・不良モノ)を目指した作品だと思っていいのか戸惑っていると、物語が中盤を過ぎたあたりから急にBでもなくAでもなく、Cが前面に出てくる。


Cとは、直球のお涙頂戴系をモロに狙いすぎてしまった青春ドラマである。これが監督のやりたかったことなのだろうか。


青春を描く方法にはいろいろある。題材はなんでもアリだ。不良はそのうちのひとつではある。


ならば、徹底的に不良を描くことで青春を浮かび上がらせることもできる。その好例には「クローズ ZERO」シリーズがある。


▼映画「クローズ ZERO」作品レビュー

▼映画「クローズZERO II」作品レビュー


これら「クローズZERO」シリーズの映画では、どんだけ~といわんばかりに登場人物たちはガンガン喧嘩する。痛さはあまり感じられないアクションとはいえ、とにかく殴りあい蹴りあい、吹っ飛びまくる。大乱闘どんちゃん騒ぎである。


そこまでやってはじめて、ジワ~と青春のいちページが浮かび上がってくるのだ。


一方で「ドロップ」は、途中から急に取ってつけたようなお涙頂戴ドラマになってしまっている(具体的には、身近な大事な人の死である)


ただ喧嘩するだけじゃなくてしっかり愛や友情も盛り込んでいるんだよ、と制作者が前へ飛び出してアピールしてしまっているのだ。


物語よりも、その裏側が「狙っている」モノのほうが目立ってしまっているのである。


「ドロップ」を観ると、お笑い芸人の土田晃之が、雛壇芸人のなかでも品川くんはMCがやりたくて雛壇をがんばっている系ですね、といったようなことをコメントしていたことの意味がよくわかる気がする。


狙っているモノが目立ってしまうのは、初の長編監督デビュー作だからしょうがない。まして成宮寛貴や水嶋ヒロといった有名イケメン俳優や名の知られた芸人たちも起用できるとなれば、浮かれるな、というほうが無理ではある。


それらを考慮しても「狙い」や「浮かれ具合」が露骨すぎるのだ。この露骨さが活きるのはお笑いの場合や、学芸会といった場所である。


「ここでお涙いただきます!」「俺ってデキるでしょ!」「こんなに有名な俳優さんを使えてスゴいでしょ!」という声が聞こえたと錯覚しそうになるような、そんな「イタさ」は芸人としてはアリだ。品川ヒロシが有吉弘行に「おしゃべりクソ野郎」とあだ名を付けられたことは、芸人としてたいへんオイシイ。


それでもお笑い以外の領域ではマイナスに働いてしまうことがある。これに見事にハマッてしまったのが「ドロップ」ではないだろうか。


観客の多くは芸人「品川祐」を知っている。雛壇芸人として活躍したり、小説を書いたり、俳優をしたり、歌を歌ったり……。


多才で幅広く活躍する品川ヒロシを知っている。しかも「ドロップ」は彼の青春時代を元にした作品であることも知っている。


これほど「顔」が見られている中でつくる作品は、宣伝としては有効であると同時に「品川祐(品川ヒロシ)」という記号が「物語自体の魅力」を邪魔するリスクもある。


物語よりもその裏側で「狙っている」モノのほうが目立ってしまってることがわかりやすく出てしまっているのはお涙頂戴シーンだけではない。主人公ヒロシがヒロインの女性に告白するシーンも狙いすぎだ。お笑いの技を使ってみました、といわんばかりである。キャラの心情ではなく、制作者の心情が出てしまっている。


もしも、なるべく「品川ヒロシ=我」を抑えて作品づくりに専念できたなら、とんでもなく感動する作品になっていたかもしれない――。


品川ヒロシは多才で、器用で、頭がいいとするならば、それ故にデキる者だからこそ見落としがちな小さな石に躓かないよう気をつけてほしかった。


芸人は「前へ前へ」の強い気持ちが必要だが、物語づくりにおいてはそれを力強く持ちつつも、そっと作品の奥深くに込めなくてはならない。


それをするには「観客第一」を念頭におく必要がある。


品川監督が目指したと言う「観ていて楽しくなる青春映画」は、誰が楽しいのかを考えなくてはならない。制作者ばかりでなく、第一に観客が楽くなければならないのだ。


「ドロップ」を観ると、いったいこれは誰に向けて作られのだろうかと思える。


監督が考える偉い人やスゴい人に褒めてもらいたくて、またはもっともっと自分はスゴいんだとたくさんの人に認めてもらいたくて一生懸命に作りました感が前面に出過ぎてしまっている。


そのため、観客はおいてきぼりに。


それは上映時間にも表れている。このテイストの作品で122分は長い。スパッと90分ぐらいでじゅうぶんだ。


初の長編監督デビュー作であり、自身の青春時代を元にしたことからも思い入れが強くなのはしょうがない。だからこそ他人も「思い入れて」もらえるよう「余計な思い」をそぎ落とせたなら、90分ほどになっていただろう。


たいがいの青春映画はオジさんやオバさんが作っている。だからこそ、青春時代との距離がとれる。それが最大の利点だ。距離とは「我」の抑え具合であり、客観であり、観客目線への想像力である。


品川ヒロシ(品川祐)は1972年生まれの39歳。青春作品を作る一般的な例にもれず立派なオジさんである。最大の利点が活かされるはずが、まるで学生映画研究会での初監督作品のようだ。


ほんとうの学生作品ならば、それが荒削りであっても「青春」に間違いはない。


ちなみに青春の現役がつくった作品を元にした映画はちら↓

▼「キャッチ ア ウェーブ(CATCH A WAVE)」作品レビュー


ずいぶん辛口になってしまったようだが、才能があるといわれるような人がその用い方をうまくできないためにもったいないことになっている例はいたるところに転がっている。そうならないよう願う次第である。


品川ヒロシはかつて「お笑いをやったことがない人にお笑いのことをとやかく言われたくない」といったようなことをテレビで言っていた。(注:発言内容は正確とは限らない)


結論からいうと、それを言ってはおしまいである。


お笑いでも映画でも、呼び名は何でもいいが、そこに観客(や評論家)がいるから評価してもらえる。


例えるならば、サッカーをやったことがないからと日本代表選手たちが活躍するW杯の試合にコメントしてはいけないだろうか?


そんなことはないはずだ。たとえサッカーをやったことがなくたって、そのスポーツを愛する人や、何かに一生懸命にがんばる者を応援したい人は観戦しておおいに語らう。そうすることで盛り上がり、選手もチームも強くなっていく。


この点においては、お笑いも映画も同じである。


自分にとっていいこともわることも、話題にしてもらえることで宣伝にもなるし、それによって支えられるのである。


先の品川ヒロシの発言が本気なのか、現在はどうなのかはわからないが、もしも当時のまま本気でそう思っているなら、もったいないどころじゃない。


多才。器用。頭がいい。そこにスマートさが加わったとき、とんでもないことになる…と期待したい。


ちなみに上記すべてが揃っているお笑い芸人には、劇団ひとりがいる。

▼小説「陰日向に咲く」記事


さらにちなみに、不良モノでもおもいっきり学芸会に徹すると宣言することで、かえってエンタメを加速させている作品に「マジすか学園」シリーズがある。ここまで出来るのはさすがは秋元康。ホンモノの玄人技とはこういうことをいう。

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そのほか不良青春作品のおすすめを紹介しておこう。女性目線の「不良モノ」の金字塔だ。もちろん男性もおさえておくべき作品である。その世界観と読者の心の琴線に触れる手法は一読の価値がありすぎる。

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