映画「ロビン・フッド(ROBIN HOOD)」
▼「ロビン・フッド(ROBIN HOOD)」
リドリー・スコット監督 2010年 140分
Comments(論評、批評、意見)
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そもそもロビン・フッドってなんだ?
「あたりまえのように有名人ぶってるけど、そもそもお前が誰かよく知らねーし」
これと同じようにおもっている人って実はけっこういるんじゃないかと思う。私もそのひとりだった。
まぁだいたい知ってるけど、そもそもなんで彼はシャーウッドの森に住んでいるの? 森ガールならぬ森ボーイ、いや森のオッさん?
それで、森に住めばアウトロー(無法者)?
もしそうなら、黒姫高原の森に自宅をかまえるウェールズ系日本人(←本人によれば)作家のC・W・ニコル氏はアウトロー?
そんなことはない。森に住んだからといってアウトローとはいわれない。
ではなぜロビン・フッドだけそう呼ばれるのか?
いわば、ロビン・フッド誕生の物語。それがリドリー・スコット監督とラッセル・クロウ版の「ロビン・フッド」だ。
ロビン・フッドときくと、なんとなくおとぎ話ちっくなイメージを持つかもしれない。だが本作の世界観はリアルちっくである。
冒頭の城攻めにしても、匂いがかげるのではないかというほど戦場の雰囲気が伝わってくる。そういえばリドリー・スコット監督は城攻めが好きいわれ『キングダム・オブ・へヴン』の終盤でも壮大な城攻めを披露した。
そんなお家芸(?)の城攻めで、ロビンは名もなきひとりの傭兵として十字軍に参加する。
数人の射手仲間はいるものの、その生き方は一匹狼のようだ。その他大勢の兵士と違うのは、十字軍の戦いに自分なりの考えや意見をしっかりもっていること。
また、城攻めで自軍の敗北が決定的とみるといち早くその場を去るなど、状況を瞬時に見極める目と俊敏さと行動力もある。
そんなロビンは旅の途上でイングランドの騎士ロバートの暗殺現場に居合わせる。これがきっかけで騎士になりすましてノッティンガムの地に向かう。
このようにロビンは品行方正な正義のヒーローとはいえないが、己の考えを持ち「義」の心を持っていることが早い段階で観客に知らされる。
ロビン・フッドという男についての予備知識がゼロでもまったく問題ない。それどころか、むしろ何も知らないほうが物語に入り込みやすいだろう。
ロビン・ロングストライドという男は、技術(射手)もあって、人望もあり、人の心を掴む声と話し方ができて、女性のハートも射止める。
よく見れば出来過ぎだが、そもそも一介の傭兵という出発だから、そんなオールマイティぶりにも嫌味が感じられない。
だれでもスッとロビンという男の存在を認めてしまうようにと、実にうまくできている。こういった物語の進め具合はさすがといったところだ。
それだけではない。本作は140分あるが、そんなに長い作品とは感じられない。それどころか「え?意外とあっさりと終わっちゃったね」と思えるほどだ。
城攻めでも、終盤の英仏両軍の海岸での戦闘でも、かなりの迫力がある。海岸のシーンでは130頭の馬と1,500名の兵隊すべてが本物だというし、豪快なアクションをみせてくれる。
それでも、戦闘シーンを延々と見せすぎない・やりすぎないのは、作品全体を貫くスタイルと同調している。
スタイルとは「わかりやすさ」である。
この作品はわかりやすい。ロビン・フッドの「ロ」の字を知らなくても、十字軍の「十」の字を知らなくてもまったく問題ない。
王様と傭兵と諸侯と未亡人。それらがどんな思いと狙いをもってどうしたいと願っているのか。それらの関係がこれ以上ないくらいにわかりやすく展開する。
それもこれも、物語がただ一点に集中しているからだ。
ロビン・フッドがなぜアウトローと呼ばれるようになったのか?
ロビン・フッド誕生の物語にフォーカスしているからこそ、ブレがまっくないシンプルでわかりやすい良作となっている。
また、若者がほとんど登場しないためにうわべだけの華やかさとは無縁なのもいい。ヒロインだってケイト・ブランシェットだ。けっしてピチピチとはいえない。だからいいのだ。
彼女の魅力がとてもよく発揮されている。もちろんラッセル・クロウも。ちなみにふたりともオーストラリア人だ。
偉人や有名人を題材にして、主人公の行動の動機に的を絞った作品は、ありそうであまりない。
観客が物語に感情移入できるかどうかは、主人公の行動の動機にかかっていることからも、そのものズバリをシンプルにズバッと描く本作は誰が観てもロビンを応援したくなるだろう。
あまりに壮大な物語を期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、肩の力を抜いて観るのがちょうどいい。その割にはいろいろ豪勢だけどね。
(おまけ)
リドリー・スコット監督とラッセル・クロウのコンビといえば、ほかに『グラディエーター』がある。
迫力の戦闘シーンをみせてくれるこの作品でマキシマスが嫉妬や妬みによって将軍の座を追われて奴隷になるというのは、旧約聖書のヨセフの物語がベースだとみてとれる。
聖書の有名なエピソードをちりばめている『グラディエーター』の詳細解説はこちら
<リドリー・スコットやラッセル・クロウの関連作>
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