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07/18/2010

映画「告白」は正真正銘のジャパニーズホラー

「告白」
中島哲也監督 2010年 日本
原作:湊かなえ『告白』双葉社
 

Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
【これは中学生の話ではない。正真正銘のジャパニーズホラーだ。なぜ人気なのか? なぜ衝撃的なのか? 予想外の方向から押し寄せる共感の波とは?】

はじめに言っておこう。独白は極めて小説に向く。映像には不向きだ。

ナレーションやセリフで説明すればするほど、作品はどんどんチープになっていく。

そんなことは百も承知。ならば逆におもいきって独白ばかりの映画を作ってやる! と思ったかどうかはわからないが、あえて映像でやってやろうという心意気がハンパなく伝わってくる。

そんな映画『告白』の話をさっそくはじめよう。


■ 独白に聞こえる語りが人間関係を表す

終業式後のホームルーム。まるで本を淡々と朗読するかのように話し続ける女性教諭・森口悠子。

彼女が担任する1年B組の37人の生徒たち(13歳)は、ほぼだれも真剣には聞いていない。

つけっぱなしのラジオの音声にときおり生徒がバラバラに反応するかのような時間が流れていく。

これは、森口悠子はこれまで生徒たちの親身になりながら親しみを込めて話しかけてきたが、生徒たちと心が通い合うことはなかったことを表している。

少しでも心が通い合っていれば、いくら浮かれているとはいえ終業式後のホームルームである。今学期最後の担任教師の話をたとえ形だけでも聞く姿勢をみせるだろう。

だが、森口悠子の話はまるでそれが独白かのように淡々と続く。

その淡々とした様子が、頑張れば頑張るほど空回りしつつもそれでも健気にがんばってきたにもかからず数ヶ月前に学校のプールで一人娘が死亡したことで森口悠子が復讐を決意したという「告白」への前フリとなってジワジワとカウントダウンを促すかのように観客に迫るのだ。

そしてその復讐のはじまりを宣言するときは刻一刻と近づいていた……。


■ 妄信者たち

さてここで実際の話をひとつ。先日、中学校の男性教諭が自分のいじめ体験を笑われたことに腹を立て「公開処刑だ」と生徒に体罰を加えたと事件があった。

この男性教諭は「伝えたいことが伝わらなかった。感情的になった」と話しているという。

教師を目指す人や、教師と呼ばれる人のなかには、ときに幻想を抱いて現場にやってくる者がいる。

本人はそれを信じて疑わず、情熱を注げば注ぐほど、それが幻想であったと気づいたときに感情的になったり、もぬけの殻のようになったりする。

それを露骨に体現するキャラクターが、後任の熱血男性教師ウェルテルだ。

そんなウェルテルを操るのは、森口悠子にとっては造作もないことである。

なぜなら見た目やスタイルこそ違えどもウェルテルと森口悠子は「幻想」を抱いていた・いるという根本部分において同じだからだ。

ふたりとも、熱意を持って生徒に接すればきっと心を開いてくれると頑なに信じて疑わなかったからだ。

その根底には「わかりあえる」ことが前提にある。わかりあえるはずなのだから、その障害となっているものを情熱で取り除くことができると信じきっている者たちだ。

ところが世の中には「わかりあえない」ことを前提としなければならない場合や、そうしなければならないことがある。むしろ、こういうほうが大部分といってもいいだろう。

わかりあえないからこそ、お互いの価値観をできるかぎり尊重してよりよく共存できる道を共に探ろうとするのだ。

前提の部分に「わかりあえる」とする人は、たいてい自身の価値観に他人を合わせようとする。わかりあえるはずという思い込みがすでに自分の考え以外の存在を認めようとはしないからだ。

これはまさにウェルテルである。そして森口悠子もそうであるからこそウェルテルを操ることができたのだ。


■ 似たもの同士

さて復讐する側(女教師・森口悠子)と復讐される側(犯人A・犯人B)もたいへん似ている。

頑張れど頑張れど振り向いてもらいたい相手には振り向いてもらえない。虚無感に押しつぶされそうになっている者たち。

そこには、教師・生徒という垣根はない。

同じような悲しみを内に秘め、虚無感に押しつぶされそうになりながらもなんとかやってこれたのは、自分だけの「希望」があったからだ。

それは、女教師・森口悠子にとっての一人娘であり、犯人Aにとっての母親であった。

やがて些細ともいえるイタズラをきっかけに、女教師・森口悠子は一人娘を失う。

ただひとつの「希望」が消えたとき、女教師・森口悠子はわずかな良心を残しながらも憎しみの炎を抑えることはできず、復讐を決意して実行する。

一方で、やっと振り向いてくれる相手を見つけたとおもった少女Aも、それが幻想だと気づいたときにはすでに自身の命の灯火が消える寸前であった。

だれもが小さく消え入りそうな「希望」をやっとみつけて大事にしてきたのに、いとも簡単に奪われてしまう……あとに残るのは、復讐心。


■ 実は単純な物語?

人は弱いものだから、だれでも復讐に走りやすい。ただ「告白」以外の物語の多くは、単純な物語を除き、復讐を題材にしながらも復讐以外の道を示して登場キャラクターの成長を描く。

単純な物語とは「ギャングに家族を殺された父親が、たったひとりで復讐を果たす」といった、どこにであるハリウッドのアクション映画の典型である。

そんな復讐劇が痛快になるのは、それが娯楽アクション映画だからだ。

ところが映画「告白」はアクション映画ではない。だから観客は復讐を成し遂げるためにどんどん鬼と化す登場キャラクターに新鮮さを感じ、衝撃を受けるのだ。


■ 救いなき物語

実は映画「告白」は陳腐に思えるほど見飽きてきたお約束の「復讐系娯楽アクション映画」の別バージョンである。

もちろん、ポピュラーな基本型を使っても新鮮に思えるのは、原作者と監督の力量によってである。

そして物語の基本型(復讐劇)を用い、物語の途中で復讐心ををさらに燃やすあたりは、なまじ娯楽としてのアクションを使っていないがためにかえってモロに観客の心に突き刺さる。

例えばヒーローがギャング団のアジトを攻撃して壊滅させるシーンがあれば、その娯楽アクションによって観客はカタルシスを得る。観客の欲求(悪を倒す)が満たされるわけだ。

アクションシーンによって、映画の目的=観客の満足を提供しているのである。

その点でいうと映画「告白」は観客の欲求(悪を倒す)を巧みにズラす。

当事者それぞれに観客は感情移入する部分があるのに加えて、誰の目にも明らかな絶対に倒すべき悪人というキャラクターが決まっていないためにそのようなズレが生じる。

絶対的な「悪」云々ではなく、同じような境遇や悩みや思いをもつキャラクター同士が、些細なきっかけで崩壊していく様子をそれぞれの告白という手法によって神の視点でみるとき、観客はそこに救いを見い出すことができない。

「復讐系娯楽アクション映画」でさえ、カタルシスという救いがある。

だが映画『告白』には、救いがない。

救いがない映画はこれまでにもたくさんあるが、それらはたいがい、救いのなさのなかに少しばかりの救いへの「希望」をいくつか挟み込むことで「救いのなさ」を盛り立てた。中島哲也監督作品の例でいえば映画『嫌われ松子の一生』がそれだ。

どう見ても不幸な松子の一生だが、本人はウキウキバラ色の心の風景がたくさん描かれていたのが印象的な作品だ。

だが映画『告白』には、たとえ悲惨な状況でも気持ちひとつで世界が変わる、といったような救いもない。

希望を挟み込む余地がない。なぜなら、希望が完全に消えた後の物語だからだ。

かろうじて少しだけ残されていた良心でさえ完全に捨て去り、まさに復讐の鬼と化す過程を淡々と描く物語はたいへん珍しい。だから衝撃的なのだ。


■ これは中学生の話ではない

教師、少年A、少年Bといった役割の違いはあれど、彼らは同じである。

森口悠子がクラスでのいじめを狙いどおりにさせることができたのも、彼女が生徒たちと同じ土壌にどっぷり浸かっているからこそできたのだ。

高見広春の小説で映画にもなった『バトル・ロワイアル』は中学生同士が殺し合うという内容で衝撃作といわれたが、映画『告白』でやっていることもほとんど同じである。

生徒、教師という記号には意味がない。「中学生ほどの者たち」がお互いに泥沼の殺し合いをエスカレートさせていく。

『バトル・ロワイアル』にはそれでも生き抜こうとする男女がおり、絶望の中に一筋の希望があった。

だが映画『告白』には、救いがない。

どこまでも救いがない映画がこれほど注目を集めてヒットするのは、これが中学生の話ではないからだ。――日本の話だからだ。

だからこそ日本で生まれ育った多くの人々に衝撃を与える。

少年法が盾になり、なにも怖くないこども同士がどこまでも徹底的にやりあう。

そんな恐怖はおそらく日本にしかないだろう。それを皆なんとなくわかっている。わかっているからこそ、そのモデルが提示されたことに衝撃を受け、共感したのである。

共感という波がとんでもない方向から押し寄せてくる意外性にハッ!とする人が多いのだろう。だから人気なのだ。


■ 正真正銘のジャパニーズホラー

これはジャパニーズホラーである。ホラーはその国や地域や時代を映す鏡ともなる。

映画『告白」という鏡に映し出された日本の姿に共感した人はかなり多いようだ。

おわりに、中島哲也監督作品の最大の旨味を伝えておこう。それはキャスティングである。

松たか子。木村佳乃。岡田将生。

その俳優に最も適した役をやらせるのに中島哲也監督の右に出る者はそうはいない。

それぞれの役者にとってこれ以上ないという適役がみられる、またとないチャンスだ。

そういう意味で作品を観るのもいいだろう。

さぁ、正真正銘のジャパニーズホラーをご堪能あれ。


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