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サロゲート(SURROGATES)

▼「サロゲート(SURROGATES)」
ジョナサン・モストウ監督 2009年 89分 


<ストーリー>

近未来。人類の98パーセントは自身の代わりに外出や出社をする代行ロボットのサロゲートを使用している。

人々は自宅のリクライニングソファのような装置(スティムチェアー)に横たわり、自分が希望する身体と容姿をしたサロゲートをリモートコントロールすることで、外出の必要がほぼなくり、事件・事故・感染病・差別の危険が格段に少なくなった。

たとえサロゲートが破壊されても、使用者の安全は保障されているはずだった。

しかしある晩、何者かに襲われて破壊されたサロゲートの使用者も死亡する事件起こる。

FBI捜査官のトム・グリアーは、サロゲートを開発したVSI社をその周辺を捜査する。

Comments(論評、批評、意見)
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■SFっぽくないSF作品

ロボットSF作品ときけば、どこか遠くの異世界を想像するだろう。

しかし日本で生まれ育った人たちにとって「サロゲート」は異世界でもなんでもない。

さすがに街中を歩き回る人型ロボットは無くても、自宅に居ながら自分の好きな容姿のキャラクターを作って、兵士による戦闘ミッションだのモンスター狩りだのゾンビ殲滅だのを行っているのはもはや日常である。

例えば通称FFシリーズは、もうかれこれ20年以上も前からイケメンやイケギャル(?)を自身の代理キャラクターとして操作してモンスターと戦うゲームとして遊ばれている。

なにもゲームに限ったことではない。SNSも基本は同じだ。気に入ったアバターを用いて、会ったこともない人と会話したりゲームをしたり、はたまた新年会だって誕生会だってしたりする。

あなたも、現実に会ったことがある友人知人の数と、会ったことはない友人知人の数を比べてみるといい。

どちらが多い少ないは別にしても、会ったことはない知人のひとりやふたりはいてあたりまえだということにあらためて気がつくだろう。

そんな日常を生きる人々にとって「サロゲート」の世界はけっしてSFの世界ではなく、自身が生きるまさに現実そのものだともいえよう。

だから「サロゲート」は一見するとSFとしての衝撃度は低いようにもおもえる。

実際に「サロゲート」を観はじめてもSF設定の新鮮さや衝撃といったものはあまり感じられないから、気楽に作品を楽しもうという気にもなる。

するとその予想のとおりに、あの無精ひげのダメダメ系いつも傷だらけのタフおやじでお馴染みのブルース・ウィルスが、なんと金髪サラサラヘアーにツルンツルンのお肌で登場するではないか!

これはもう大爆笑せずにはいれらないし、そうしなければ制作者に対して失礼である。

やはりこの作品はお気楽にキャラを楽しむのがベストかと思い、ユルユルモードで観ていると、次第に「おや?」と思いはじめる。

なぜなら、この作品は意外に複雑なのだ。


■ 「サロゲート」のニクイところ

物語の筋はシンプルなのだが、作品の内容と性格上、複雑に感じてしまうのである。

まず、日本で生まれ育った人にとっては特に、欧米人の顔は識別しにくい。これは欧米人にしてみれば東洋人の顔は皆同じにみえるというのと大差なく、どの国の人にとっても外国人というのはそんなものである。

そんな前提に立っても「サロゲート」に登場するサロゲートのほとんどはファッション雑誌のモデルのような容姿ばかりでどれも同じように見えるので、だれがだれだか分かりづらくなることに拍車をかけている。

そして「サロゲート」ではサロゲートとそれを使用する本人とで容姿が違う。つまり、ひとつのキャラクターにふたつの容姿が存在するのだ。

さらにサロゲートの開発者であるライオネル・キャンター博士の周囲に関しては、複数体のサロゲートを使用することもできる。

こうなると、スクリーンに登場するキャラクターが人間なのかサロゲートなのか、さらにはそのサロゲートは誰が操作しているのか、といったことが頭をよぎり、殺人事件の黒幕をつきとめる課程で観客は少々混乱気味になるかもしれない。

もっと整理してわかりやすくすることもできただろうが、おそらく制作者サイドとしては、あえてそれをしなかったのではないか。

これが「サロゲート」のニクイところである。

「サロゲート」を観終わってから、少々複雑に思える内容を頭の中で思い返して整理しようとすると、アラ不思議。

ユートピアを描きながらそこに皮肉と風刺を効かせていたその奥深さがジワジワと滲み出てくるのだから。

そもそもSFは皮肉と風刺のためにあるといってもいいほどだから、それをどう効かせるかがSF作品の良し悪しの判断材料になる。

この点で「サロゲート」はあえて複雑そうにみせることで風刺のスパイスをピリリと利かせているのだ。

そしてサロゲートを使用することによる混乱を、物語の謎解きにおける混乱と「かける」ことで、生身で痛みを感じる現実を生きることの意味と大切さをも伝えている。

もちろんそこにはグリアー捜査官のプライベートな事柄(子どもの死。妻マギーとの関係)も描かれ、人間ドラマとしての物語もしっかり組み込まれている。

だから観終ってしばらくすると、けっこうスゴい作品だったなと思えてくるのだ。


■ おもう壺夫くん・壺子ちゃんになって「してやられる」作品

さらにこの作品のおもしろいところはブルース・ウィルスの使い方にある。

ブルース・ウィルスといえば「ダイ・ハード」シリーズをはじめ、数々の出演作品を通して「タフで不死身な男」のイメージが強い。

無精ひげで傷だらけの超人。それがブルース・ウィルスという俳優のステレオタイプ化されたイメージである。

ところが「サロゲート」で彼は金髪サラサラヘアーにツルンツルンのお肌のお姿で、片腕を失ってもライフル片手に文字通り超人的跳躍力と頑丈さで飛び回るのだ。

もちろんこのときのグリアー捜査官(ブルース・ウィルス)はサロゲートである。おそらく捜査官用のため、一般人用よりも格段に身体的能力や耐久性がアップしているであろうサロゲートを使用している。

これはまさにブルース・ウィルスという俳優の、映画を通して作られた「超人」というキャラクターそのままである。

しかしサロゲートを失って生身となったグリアー捜査官は、負傷しているとはいえ、足元がフラフラ状態である。

街中を歩くのさえ危険を感じるほどだ。なにせ周囲は皆サロゲートである。

軽くぶつかっただけでも生身は怪我をかもしれないし、車だってときおりぶつかるかぶつからないかのスレスレを猛スピードですり抜けたりする。万が一サロゲートに当たっても人を死なすことはないと運転手もわかっているからだ。

生身で出歩く危うさや脆さをヒシヒシと感じたグリアー捜査官だったがそれでも一歩一歩あるき続け、さらなる負傷を重ねていくうちにどんどんタフになっていく。これは身体的にというより精神的にという意味が強い。

このように、映画によって作られたイメージとしてのブルース・ウィルスと生身のブルース・ウィルスとの対比が、作品のなかでのサロゲートと使用者との対比を際立たせている。

そんなことに気がつく頃には、お気楽にユルユルモードで観はじめていた自分がまんまと制作者のおもう壺夫くん・壺子ちゃんになっていたことに「してやられたな」と後頭部を意味もなく掻くことになるのである。


■ 観終わってからジワジワとおもしろくなる

この作品、観はじめると「なんかヘン」な感じがおもしい。

その原因のひとつは登場キャラクターの多くがファッション雑誌から飛び出てきた美男美女のサロゲートだらけで妙に滑稽にみえるためだ。

それはまるでFFシリーズのキャラクターが街中を歩き回っているかのような滑稽さでもあるが、どう観てもやっぱりヘンなのだ。

もちろん意図してヘンにしているところがFFシリーズと「サロゲート」の大きな違いだが、このヘンな感じはちょっとハマりそうでおもしろい。

そして、見終わってしばらくすると「なんか深いな」とジワジワと湧き出るようなおもしろさもある。

なによりブルース・ウィルスの金髪サラサラヘアーにツルンツルンのお肌だけでも一見の価値アリである。

ちなにSURROGATEという単語には代理人や代用(物)のほかに、遺言検証判事の意味もある。

作品のラストでグリアー捜査官が似たような立場に置かれるのも、うまくタイトルとかかっているようでおもしろい。

こうしてレビューを書いているうちにも「サロゲート」のおもしろみがまた増してきたように思う。

意外と、いや、かなりいいぞ!「サロゲート」。

アクションシーンもかなり派手だ。迷っているなら観たらいい。

もうひとつちなみに、国防省かどこかの広いフロアにスティムチェアーがズラリと並べられ、兵士たちがGIサロゲートを操作して地上戦闘訓練かなにかを行っているシーンがある。

現実にも米軍はアフガニスタンの3000m上空を飛ぶ無人機を戦闘で使っているという。

この無人機を操縦するのは米国本土の基地で操縦桿を握る兵士だ。

仮になにも知らされていない状態で基地の操縦席に座らされ、そこに移る映像だけを見せられたら、それがゲームなのか現実なのかの区別をつけることは難しいだろう。

GIサロゲートと無人機を取りかえれば、「サロゲート」の作品中の国防省のシーンはSFではなく、現実の光景となる。

こんなシーンをわざわざ撮り入れる「サロゲート」。これはお気楽ユルユル作品のふりをしているが、実は骨太作品である。

ほかにもいろんなところに風刺が効いているから、探してみるのもいいだろう。


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