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映画「容疑者Xの献身」

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ポニーキャニオン 2009-03-18

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▼「容疑者Xの献身」
監督:西谷弘
2008年/日本/128分
原作:東野圭吾『容疑者Xの献身』


「容疑者Xの献身」は東野圭吾の物理学者湯川シリーズ「探偵ガリレオ」「予知夢」のドラマ化で高視聴率を記録したテレビドラマ「ガリレオ」の劇場用映画作品です。


しかし映画作品のタイトルに「ガリレオ」ということばを使っていません。


実際、ドラマと映画ではちょっと違います。


もちろん映画でも天才物理学者の湯川教授役の福山雅治や、刑事役の柴咲コウといったキャストはドラマと同じですが、その内容や雰囲気は別物といってもいいかもしれません。


ドラマのほうがコミカルで明るく、映画のほうがシリアスで暗いといってしまえばそれまでですが、ドラマを見たことがない人でも十分楽しめる映画作品になっています。


ドラマから映画へ、という作品の多くはドラマのファンをメインターゲットとしていますが、映画単体でもじゅうぶんOKな「容疑者Xの献身」は、やはり原作小説がすばらしいからでしょう、ドラマの固定ファンのみならず幅広い層の人々にアピールする力を持っています。


とかいいつつ、私は原作小説を読んでいません。おそらく、原作小説を読んだ観客は、原作のほうがいいと言うでしょう。でも原作のある映画についての原作ファンの感想は、たいがいそんなものです。


文章と映像。それぞれの領域でがんばって作った結果、それ自体でおもしろいかどうかが大事なのです。その点、映画「容疑者Xの献身」はじゅうぶんに観る価値のあるスゴい作品です。


謎解きやトリックを用いるドラマや映画では、その謎の「方法」だけでなく「動機」も重要で、むしろ動機にこそ「人間」が描かれる度合いが大きく、その内容如何によって作品の評価もおおきく違ってくるもの。


「容疑者Xの献身」では、誰が犯人かは初めに明らかにされます。


観客に与えられるのは、殺害という事実の隠ぺい工作にどのようなトリックが使われているかという謎と、隠ぺい工作を行う天才数学者・石神哲哉(堤真一)の動機の謎の解明のカタルシスです。


このうち、観客をミスリードさせる隠ぺい工作の巧みさは見事です。本格推理かどうかという論争(?)もあるようですが、特別な思い入れのあるコアな推理ファンでなければ、そのあたりは気にしなくてOKです。


私は推理モノの作品はあれこれ推理せずに作者のミスリードにも素直にノッて楽しもうとすることが多いのですが、それがミスリードであるとミエミエでない程度にうまくミスリードするあたりは、さすが東野圭吾の原作ですね。


そして天才数学者・石神(堤真一)の動機の謎については、原作ファンたちにとっては物足りなさを感じるようです。どうやら原作ではそのあたりについて納得できる詳細なシーンが書かれているようなのですが、映画では時間の都合上、細部にわたって映像することは難しいとする声があるようです。


具体的には、映画作品では天才数学者・石神役の堤真一が男前であることや、高校教師である彼の職業や生活がそれほどわるい(悲惨)とは思えないところにあるようです。


原作小説では石神がどのように描写されているのかはわかりませんが、たしかに石神役の堤真一は地味なスーツ姿で終始うつむき加減で冴えない中年男を演じています。でも、なにぶん堤真一は「素材」が良くて男前なために、容姿的にイケてないのではなく、服装がイケてないだけという印象を与えやすいでしょう。


さらに映画作品中の、大学の同期生である湯川教授への石神のセリフに「君はいつまでも若々しくていいな」といった意味のものがあり、これが動機に関する重要な点となっているからも「石神の容姿」はもっとみすぼらしいものではくてはならないという声もあるようです。


そういった意味でも、石神役を堤真一にしたことをミスキャストとする意見もあるようですが、むしろリアリティがあると思います。


というのは、ある程度の容姿の良し悪しはパッと見でわかるものの、そうはいっても容姿の良し悪しは好みの問題でることがほとんどだからです。


ずっと自分がイケメンだとおもっている三枚目なんて、世の中には星の数ほどいます。


裏原あたりでオシャレのカリスマといわれている人だって、そこが原宿界隈でファッションが個性的、というか奇抜だからそう自称しているだけで、よく見たら冴えないオッサンだったということは、よくあることです。


他にも、多くの人たちは美人だと言ってくれるのに、自分の鼻の高さが足りないと思っているのでとうてい美人とは思えずに人目をさけるようにしている、なんてこともありがちです。


結局「見せ方」の問題だったり「自分の理想とのギャップ」の問題だったりというのが「美」や「容姿」のリアルなところでしょう。


天才数学者の石神は、それなりの小奇麗な見栄えのいい服を着て堂々としていればかっこいい男性です。腹も出ていませんし、身長もそこそあるし、禿げてもいません。給料や待遇だってけっこう良さそうな安定した高校教師すし、住まいだって都内の2DKぐらいのアパートです。


独身だし、お金のかかる趣味もないようですから、もうちょっと家賃の高い立派なマンションにだってその気になれば住めそうです。


容姿的にも経済的にも世間的にも、わるくありません。というか、婚活中の独身アラサー・アラフォー女性にとっては結婚相手として申し分ないんじゃないでしょうか。


ところが石神は天才数学者でありながら家庭の事情で大学に残ることができなかった。もしも大学で研究を続けていればまちがいなく教授になって数学の研究を続けていたことでしょう。


そもそも数学というジャンルは、数学者の数も少なく、大学以外で活躍できる場はほとんどないと言っていいかもしれません。


化学や物理学なら、企業の研究所で働くという道もいろいろありますが、数学というジャンルは数学者の数もほかの分野に比べると少なくて、活躍できるフィールドも少ないとどこかできいたことがあるように思います。


それに石神はただの数学者ではありません。天才物理学者の湯川教授が認める、天才数学者です。


類稀なる能力を授かったのに、それを発揮する場を得られない。


それは、絶望の中にいることを意味します。


絶望から彼を救ってくれたのは、新たな光。具体的にはアパートの隣の部屋に引っ越してきた花岡親子(母娘)です。


唯一の希望だった数学の道を閉ざされたと感じ、絶望の中にいた石神が数学以外の希望の光をみつけた。


その意義の大きさを想像するならば、石神の容姿や待遇が世間一般的にみて悪くないどころか、良いほうにおもえればおもえるほど、リアリティが増すのです。


昔は数学さえあれば、数学さえできれば良かった。しかしその唯一の数学研究の職の道が閉ざされて絶望の中にいたときに射し込んだ一筋の光。


石神の容姿や待遇が良ければ良いほど、彼の心情のリアリティが浮き彫りになるのです。


だから、原作小説で石神の容姿や待遇がどのように描かれているのかは知りませんが、映画「容疑者Xの献身」で石神役を堤真一にしたのは、それはそれでじゅうぶんに「アリ」だと思います。


花岡靖子役の松雪泰子もスゴくいい芝居をしていますヨ。


なにはともあれ「容疑者Xの献身」は、心の琴線に触れる作品です。


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