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映画「28週後...(28 WEEKS LATER)」


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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2008-06-06

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「28週後...(28 WEEKS LATER)」
監督: フアン・カルロス・フレスナディージョ
2007年/104分


ダニー・ボイル監督作「28日後...」の続編となる本作は、べらぼうに評判がいい。


あまりにヤバすぎて(いい意味で)「どのように記事にすればいいのかと思っているうちに結局書きませんでしたパターン」になってしまってはいけないと、あえて軽~いノリで紹介しますね。


真面目に(いつも真面目ですが)論じると、とてつもない分量になりそうなので……。


ご存知のようにゾンビ映画というのは多かれ少なかれ社会風刺の要素を持っています。


ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画なんかは特にその傾向が強いのは有名です。そのあたりの具体的な話は、以下のE-BOOKで解説しています。(未読の方はタカまでお便りくださいね)


●「深夜の課外授業 ゾンビでわかるアメリカ合衆国
  ~けっして日没前には読まないでください~」


「28週後...」もその例にもれず社会風刺が効いています。しかしそれは米国産ゾンビ映画とはちょっと違います。


米国産ゾンビ映画は、自国の歴史と社会を自虐的に皮肉るみたいな部分が味のひとつにもなっていますが、英国産の「28週後...」は本家(?)米国ゾンビから距離を置き、ゾンビファンだけでなく広く一般客の心を震わせつつ、軍隊や戦争、そして国家というものを風刺しています。


「28週後...」は、ある一家のおとんがおかんを救えずにひとり生き残るシーンからはじまります。


この冒頭のシーンに観客はガツーンとやられます。なぜってスペインに旅行に行ったままの子供たちを心配しながら田舎の老夫婦の家に隠れていた夫婦がゾンビたちの襲撃を受けるのですが、このときの逃亡劇がすさまじいからです。


ご存知のように最近のゾンビは猛ダッシュします。ウィルスに感染したゾンビは生者をみつけると自身の身体能力の限界などおかまいなしにフルスロットルの猛スピードで追いかけてきます。


しかもその数はどんどん増えていきます。正気のおとんはゾンビ以上のフルスロットルの猛ダッシュで逃げなければなりません。


息をもつかせぬ展開と逃亡において、このセットアップのシーン以上のものを観たことがありません(たぶん)。


なんとか生き残ったおとんは、おかんを助けることができなかった自分を赦せないまま、旅行中のために助かった子供たちと、安全宣言が出されたロンドンで再会します。


おとんは、子供たちにおかんを救えなかったと説明します。悲しみにくれる子供たちは、おかんを身近に感じられる物を手に入れようと、安全区域をそっと抜け出して自宅に戻ってしまいます。


そこで子供たちはおかんを発見するのです!


実は、おかんはウィルスに感染してもゾンビにならない抗体を持つ特別な人間(感染しても発症しない「保菌者」)だったのですが、恐怖のためかウィルス感染の副作用のためか、日常会話や日常生活はできない状態で入院(隔離)されています。


そこにおとんがやってきて、助けられなかったことをあやまって妻にキスします。


そしておとんがウィルスに感染。安全宣言が出されたロンドンにふたたびウィルスが蔓延していくのです。


やがて民間人を守るための米軍主導のNATO軍に「コード・レッド」と呼ばれる緊急事態令が発令されます。


これは、感染者も感染者から逃げる民間人も区別がつかないからみんな射殺しろ、という命令です。


このシーンは、軍隊・戦争・国家というものが本来どういうものかを風刺しています。


以上が前半部分のおおまかなあらすじです。このように、人間の心の葛藤や家族への愛、そしてウィルスへの抗体という希望の光を消えぬようにすればするほどふたたび感染が広まる様子は、観る者にいたたまれない感情を起こさせます。


あらゆる物語は、観客や読者にこの「いたたまれない」感情を起こさせせることができれば成功です。


いたたまれない感情が起こる前提条件には、登場人物への感情移入が不可欠。


このとき、観客が自然と主要な登場人物それぞれと同じ目線に合わせることができるようになっていれば大成功です。


「28週後...」では、おとんやおかんや子供たちや、また子供たちを守ろうとする大人たちのそれぞれの思いや願いが、まるで自分のことのように感じられます。


「コード・レッド」が発令されても、自身の心に正直に向かい合うNATO軍の兵士だっています。仲間(戦友)を助けたい兵士や、ウィルスの抗体が作れる可能性を秘めた子供たちを守ろうとする兵士です。


それぞれに大事なものを守ろうとする気持ちと行動が、ウィルス蔓延の可能性を秘めており、ちょっとしたきっかけで事態がどんどん悪いほうへ転がっていく「いたたまらなさ」がひしひしと伝わってきます。


「いたたまらなさ」だけではありません。


ゾンビから逃れるため、暗闇に覆われた地下鉄線路を銃の赤外線スコープを覗きながら子供を誘導して進む女性の目線の映像は、あたかも自分がその場にいるかのようであり、暗視スコープに映し出される子供が真っ暗闇の中を声の指示だけを頼りに進もうとする様子に、ただただ圧倒されます。


「いたたまらなさ」と「迫力の映像」。そして「社会風刺」。


前作「28日後...」とセット観るといいですが「28週後...」だけでも十分すごい作品なので、ぜひ観てみてください。


評判がいい理由がきっとわかりますから。


もちろん、ゾンビが出てきますからかぁなぁり血飛沫が飛び散りますし、コードレッド発令による射殺シーンもありますので、そのあたりは覚悟のほどを。


▼「28日後(28 DAYS LATER)」作品レビュー
http://plain-story.cocolog-nifty.com/ps/2004/05/2828_days_later.html


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