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04/21/2009

映画「ICHI」

B001Q2HO46ICHI スタンダード・エディション [DVD]
綾瀬はるか, 大沢たかお, 中村獅童, 窪塚洋介, 曽利文彦
ジェネオン エンタテインメント 2009-04-03

by G-Tools

監督:曽利文彦
日本/2008年/120分

コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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かつて「ジャックナイフ芸人」「2丁目劇場の黒いナイフ/黒いバラ」と呼ばれた男がいたことをご存知だろうか。

「ジャックナイフ」と呼ばれ、近づく者を怪我させそうな危険な香りを漂わせた男が、今では「バターナイフやないか」と言われて笑いをとっている。

それは千原兄弟の千原ジュニアというお笑い芸人である。

いまや売れっ子お笑い芸人となった千原ジュニア。ジャックナイフ芸人と呼ばれたのは、切れ味の鋭い芸風のみならず、どこかしら近づく者を片っ端から傷つけかねないような危険な香りを放っていたからかもしれない。

さて、女座頭市こと市のセリフに「なに斬るかわかんないよ、見えないんだからさ」というのがある。

それはまさに市の生き方を表している。育った境遇やさまざまな出来事の重なりによって、市は生きていく指針がわからなくなっているのだ。

「見えない」は市の目が見えないことだけでなく、生きていく道が見えなくなっていることを表している。

だから市は居合い斬りの技を持っていても、それをだれかを助けることに使おうとはしない。あくまで自分に関わってくるよくないと判断したものを、まるでゴミ掃除でもするかのように淡々と斬り捨てるのだ。

そんな市はあるとき、刀を抜くことができない侍の藤平十馬の命を助ける。

近づく者を斬り捨ててきた市が、人を助けるために剣を振るったことで出会いが生まれる。

近づく者を斬り捨ててきた市と、刀が抜けないのにおせっかいに人を助けようとする藤平十馬。

相反するようなキャラクターのふたりが出会うことで物語が動き出す。

そんなわけで、これはただのチャンバラ(斬り合い)映画ではない。

もしも女座頭市の居合い斬りシーンだけを期待して観るなら、作品を堪能することはできないだろう。

そもそも市の居合い斬りは迫力があるが、そうはいっても超達人技で完璧というわけではないない。木刀を持った。藤平十馬にはけっこうあっさり負かされてしまう。

それでも市の居合い斬りはスゴいのだが、悪人雑魚キャラを斬れば斬るほど市の生きることへの不器用さと孤独がどんどん積み重なっていくかのようなのだ。

それはまるで「ジャックナイフ芸人」と呼ばれて周囲を凍りつかせていた千原ジュニアの、さびしさを感じさせる背中のようでもある。

急性肝炎とオートバイ事故で2度生死の境をさまよった千原ジュニアが周囲の芸人仲間たちに支えられ、東京進出後は特に丸くなって「バターナイフ」とまで言われて笑いを取って売れっ子芸人になったように、市も藤平十馬と出会ったことで何を斬るべきか、つまりどう生きていくかの指針を得ることができるようになるのだ。

このように人生のドラマをしっかり描くことができたのは、やはり市を演じた綾瀬はるかによるところが大きい。

市のような影(立体的なキャラクター)を演じることができるかどうかは、役者としての力量と、持って生まれた容姿を含めた才能がものをいう。

その点で綾瀬はるかは、コメディからシリアスまで幅広い役をこなすことができるし、さらに「影(立体的なキャラクター)」も付けられる女優だ。

そんな綾瀬はるかを盛り立てるかのように藤平十馬役の大沢たかおもいい味を出しているし、宿場町を取り仕切る組の若頭役の窪塚洋介や、年老いた組頭の柄本明なんかもスパイスがピリリと効いている。

ところが、そんな程よい按排も強盗団の頭の中村獅童が映るたびにチープぽっくなってしまう。

ゴディバのチョコ類にチロルチョコがひとつ混じっているようなかんじだ。

もちろんチロルチョコだっておいしいが、レダラッハやヴァローナにもチロルチョコが混じっていたら、それはちょっと違うだろう、といいたくもなる。

悪役というのはたいへん難しいことは皆わかっているが、日本映画だけでなく海外の映画でも日本人の悪役の親分クラスといえば中村獅童というキャスティングは、ちょっと考えたほうがいいだろう。

悪役の親分クラスよりも、愛嬌のある下っ端チンピラ役のほうがよっぽど役者として輝けるのではないか。

悪役の親分クラスなら中村獅童にしなければならないようなシステムや慣習や圧力みたいなのがあるのか、それとも悪役は中村獅童でいいんじゃねぇ~的な安易なキャスティングなのか……。

悪役は主役以上にその作品の雰囲気に大きな影響を与えることにもうちょっと配慮してほしかった。

中村獅童は役者としてはいいが、どうも彼に合わない役どころが多すぎるようだ。宮崎あおいほどまでとはいわないが、そこそこ名のある俳優なら、役(仕事)をそこそこ選ぶことも必要だろう。

「ICHI」は人間ドラマである。チャンバラだけを期待しないように。

デート      △
フラッと     ○
演出       ○
アクション    ○
キャラクター   ○
笑い       -
映像       ○
ファミリー    -
世界観      ○
奥深さ      ◎

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