映画「椿三十郎」
![]() | 椿三十郎 通常盤 [DVD] 織田裕二, 豊川悦司, 松山ケンイチ, 鈴木杏 エイベックス・エンタテインメント 2008-05-23 by G-Tools |
「椿三十郎」
監督:森田芳光
日本/2007年/119分
ストーリー(概要)
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――夜。社殿の中。
九人の若侍たちが上役の汚職を暴き出そうと密議の真っ最中に、ひとりの浪人が現れる。
浪人が若侍たちが頼りにする大目付の菊井こそが黒幕だと見抜いた、その矢先であった。
案の定、菊井の手の者たちによって社殿が包囲される。若侍たちは死を覚悟して刀を手に飛び出そうとするが、それを浪人が止める。
命びろいした若侍たちは浪人と共に、とらわれた城代家老睦田の救出に向かう。
主な登場人物の紹介
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△椿三十郎
浪人
△室戸半兵衛
黒藤(次席家老)の部下
△睦田
城代家老
△竹林(国許用人)、黒藤(次席家老)、菊井(大目付)
汚職の中心人物の面々
△井坂伊織
睦田(城代家老の甥)。9人の若侍のひとり。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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■ ただただおもしろい
この作品は黒澤明監督の「椿三十郎」のリメイクである。
リメイクするとなれば現代風のアレンジを加えて新ヴァージョンの作品を世に送り出したいと願うのがふつうだろう。
しかし、黒澤明という名に遠慮したのか、オリジナルの脚本そのままにしたことが結果的によかった。
そもそも黒澤明監督の「椿三十郎」の脚本は複数の脚本家たちによって書かれた共同脚本であるから、余分な部分を徹底的に削ぎ落として、だれにでもわかる、だれにでもたのしめる作品になっている。そんな脚本はいじりようがない。
もし脚本をいじろうものなら、観るも無残なリメイクの失敗作の代表になっていたかもしれない。
さて、とにかく黒澤明監督作品を褒めておけばまちがいないと思っている人がいないとも限らないが、なぜ彼が巨匠といわれ、なぜ彼の作品が世界中で愛されているかは、作品を観ればわかる。
「椿三十郎」にしても、ただただおもしろいのである。
人はなぜ映画を観るのか。
ただ単に、楽しみたいから。
そんなことはないという人もいるだろう。だが「ただ単にたのしみたい」という基本をしっかり理解していないと、たいしておもしろくもない作品を作ってる側の人間がおもろがってせっせと作り、ふたを開けてみたら大コケなんてことになってしまう。
その原因のひとつが「ただ単にたのしみたい」というもっとも基本となる観客の願いを忘れてしまうことにある。
黒澤明監督はこのもっとも基本となる観客の願いにどこまでも貪欲に応える。だから、ただただおもしろいのだ。
世界中のだれが観ても、どの時代のだれが観ても、わかりやすくておもしろい。
そんな作品はめったにあるものではない。
最近でいえば、ピクサーのアニメーション作品群がこれに近い。なぜピクサーにそのようなことができるのか。なぜなら、ピクサーも「椿三十郎」の脚本づくりと同じように、複数のストーリーづくりのスタッフたちによって脚本が作られているからであり、なによりストーリーづくりにじっくりと時間が費やされるからである。
■ つまみながら悪事を謀る
竹林(国許用人)と黒藤(次席家老)と菊井(大目付)は悪役である。
悪役の3人は茶室で悪事を図る。なかなか予定どおりに事が運ばないことにイライラを募らせつつ次の悪事の一手を考えるときの描写がいい。
茶室でなにやら「つまみ」を口に運びながら、落ち着かない様子で悪事を謀るのだ。
名探偵金田一耕助はトリックを見抜くべく考えるとき、自分の頭の髪の毛をグシャグシャにしてみせる。
人はなにかまとまらない考えを整理してどうしたらいいか思案するとき、普段よくしていることや、癖や習慣や出るもの。
ものを食べるというのは、人が普段からよくする動作のひとつである。
ものをつまみながら悪事を謀るこのシーンは、なるほどキャラクターに人間性を加味する演出なのだと感心させられた。
■ 主人公の名は
さて、主人公の名は何というであろう。
椿三十郎?
たしかに作品の題名が椿三十郎だから、主人公の名は椿三十郎にちがいない。
だがそれは名をきかれた浪人が庭に咲く椿の花と自身の年齢を合わせてその場で作った名前だ。
武家社会の時代にあって浪人の彼は、名も無きに等しい男であった。
武家社会であろうと現代であろうと、圧倒的多数の人々は名も無きに等しい人間である。
名も無き人間にもドラマがある。
名も無き人間だからこそ、みえることもある、わかることもある、できることもある。
名も無き人間が主人公だからこど、多くの観客は椿三十郎に感情移入する。
■ 架け橋となる男
さらに椿三十郎はその名と、自身がいうところの40前という言葉から、30歳代であることがわかる。
上役の汚職を暴こうとした若侍9人たちは20歳代。
そして汚職の中心人物の3人は50~60歳代といったところ。
このふたつの世代の間をとりもつ30歳代の男。この年頃の男で才覚と腕に覚えがある者は、室戸半兵衛のように悪に組することはたやすい。たやすいどころか、裏で藩政をあやつることだってできる。
実際、物語の中で室戸半兵衛はそれを画策しており、自分に匹敵する才覚と腕の持ち主の椿三十郎と手を組んでその計画を万全なものにしようとしていた。
椿三十郎はその誘いにはのらなかった。だが椿三十郎も室戸半兵衛の能力を高く買っており、自分とそっくりなことにも気づいていた。
だからこそ藩の汚職事件が一件落着したのちに、椿三十郎は室戸半兵衛と斬り合いたくないなかったのだ。
観客はふたつの世代や時代をとりもつ男が、容易に室戸半兵衛にもなれることを知っている。それにもかかわらずその男は、たいして自分の益になりそうもないのに若侍たちを命がけで助けようとする。
人は得意なことをして私腹を肥やしたくなるもの。
得意なことをして有利に楽しんで生きていったい何がわるい? と思いがちだ。
しかし、名も無き男はそれをしなかった。人として越えてはならない線をしっかり見極め、自分の信念を貫いた。自身の良心に従ったのだ。
だから、将軍様でも天下の副将軍(副将軍ていうポストあったっけ?)でもない、名も無き男の生き様に観客は心打たれるのだ。
ほんとうにおもしろい作品は、場所や時代が変わっても、そのおもしろさは色あせることはない。
まさに、そのとおりですな。
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