映画「NEXT -ネクスト-」
![]() | NEXT [DVD] ニコラス・ケイジ, ジュリアン・ムーア, ジェシカ・ビール, トーマス・クレッチマン, リー・タマホリ ギャガ・コミュニケーションズ 2008-10-03 by G-Tools |
監督:リー・タマホリ
アメリカ/2007年/95分
原作:フィリップ・K・ディックの『ゴールデン・マン』
運命の人だと確信した彼・彼女は、なぜ去ってしまったのか。実は深イイ作品。張りぼてで肩透かしをくらわせておいて、その実アクションシーンはスリリングで迫力があり、目が離せない。せつないラブストーリーと、人間の内面と葛藤を描いたドラマでもある。「マトリックス」のネオも真っ青の「弾丸避けアクション」も披露。
ストーリー(概要)
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2分先の未来がみえる予知能力を持つ男・クリス・ジョンソンは運命の女性とめぐり会う。
しかし、テロリスト集団によってロサンゼルスのどこかに核爆弾が仕掛けられたことにより、FBIのカリーに捜査協力を依頼される。
主な登場人物の紹介
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△クリス・ジョンソン
ラスベガスのマジシャン。
▽カリー・フェリス
FBI捜査官
▽リズ
教師。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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運命の人だと確信した彼・彼女は、なぜ去ってしまったのか。実は深イイ作品。張りぼてで肩透かしをくらわせておいて、その実アクションシーンはスリリングで迫力があり、目が離せない。せつないラブストーリーと、人間の内面と葛藤を描いたドラマでもある。「マトリックス」のネオも真っ青の「弾丸避けアクション」も披露。
■ なぜ彼・彼女は去ってしまったのか
接点が全くないように思えるふたりが運命の出会いをした。
愛し合うふたり。
しかし、運命の出会いと思えた彼はすぐにどこかへ行ってしまった……。
あなたの人生にも、これと似たような経験がないだろうか。
出会いに運命的なものを感じて、これからずっと一緒にいたいと思った矢先に、彼・彼女がスッと消えてしまった。
今いちばん傍にいてほしいのに……。
彼・彼女は、どうしても行かなくてはならないところがあるのだという。
実は既婚者?
実は子供がいる?
実は膨大な借金がある?
実は大富豪の御曹司・箱入り娘で許婚がいる?
それとも、実は……宇宙人?
いろんな憶測や妄想が広がるも、たしかなことは運命の人だと確信した彼・彼女は去っていってしまったということだ。
なぜ彼・彼女は去ってしまったのか。
その答えをどしても知りたいと願ったことがあるなら「NEXT-ネクスト-」を観るといい。
■「張りぼて」は正解!
「NEXT-ネクスト-」ではテロリスト集団によってロサンゼルスのどこかに核爆弾が仕掛けられるという危機が訪れるのだが、これは米国映画の「危機のお約束」の設定としては使い古されたものだ。
「NEXT-ネクスト-」のイケてるところは、あえて使い古された設定にするのみならず、テロリスト集団になんの理念も目的も持たせないところだ。
しかも、テロリストのメンバーの誰ひとりとして、その人間ドラマを描いていないのだ。
「ただそこにある危機」とでもいうべきか。物語に必要な「危機」を、いかにもありがちな設定として使っているにすぎない。その徹底ぶりはありちな典型的なアメリカ映画のパロディのようでさえある。
FBIにしても、ロサンゼルスのどこかに核爆弾が仕掛けられているというのに、なんだかんだいいいつつもそれを阻止するための最優先事項を、ラスベガスのB級マジシャンのクリス・ジョンソンの捜索と確保にするのだ
さらにテロリスト集団も自分たちの計画(その内容と動機は一切描かれない)を阻止するであろう最大の要因はラスベガスのB級マジシャンのクリス・ジョンソンだと考え、彼の捜索と抹殺を最優先事項とする。
これらについて「リアリティが感じられない」とか「とってつけただけペラペラの張りぼて設定」だとか言う人もいるだろう。たしかにそのとおりだ。
しかし「NEXT-ネクスト-」でFBIやテロリスト集団をペラペラの張りぼてにすることは、間違っていない。
設定がペラペラの張りぼてじゃないか! とニヒルな笑いを誘っておいて肩透かしをくらわせておいて、その実アクションシーンはスリリングで迫力があり、目が離せないのだ。
このギャップはなんだろう? と目を白黒させているうちにニコラス・ケイジの哀愁漂うチャーミングな顔芸(?)にますますのめり込んでいく……。
ニコラス・ケイジ扮するクリス・ジョンソンがFBIの戦術チームの指揮を執りながら大真面目にテロリスト集団を追い詰めていけばいくほど、まるでコントのワンシーンかのように笑えて仕方がないのだ。
ニコラス・ケイジのほかに笑いを誘う要因はFBI捜査官のカリー・フェリスだ。演じるジュリアン・ムーアは演技派女優として知られている。
芝居が上手過ぎるぐらい上手なので「フォーガットン」という映画では、彼女の演技のおかげで前半はものスゴく緊張感が高まった。だが後半は「ワォ!」と映画館の椅子からズリ落ちそうになるぐらいのオチを用意してくれたことは、みなさんの記憶にも比較的新しいだろう。
「フォーガットン」を観たことがある人は、クリス・ジョンソン(ニコラス・ケイジ)と一緒に真剣な表情で真面目に捜査するカリー・フェリス(ジュリアン・ムーア)の姿がなんとも滑稽に思えてくるだろう。
■ 実は深イイ作品
なんだかようわからんけど笑える作品だ、と紹介してきたが、その反面で「NEXT-ネクスト-」はとても深イイ作品である。
「運命の人だと確信した彼・彼女は、なぜ去ってしまったのか」という問いを入り口にこの作品と付き合いはじめるならば、なんともせつないラブストーリーと、人間の内面と葛藤を描いたドラマをみせてくれるのだから。
■ 七瀬とクリスはわかりあえる同じ境遇に
「手紙を隠すならレターボックス」
隠したい「何か」を隠す場所は、探す側が「まさかここには隠すまい」と思えるところが一番みつかりにくい。
だからドラマ「七瀬ふたたび」に登場する未知能力者たちの多くは、マジックバーで働いている。
「NEXT-ネクスト-」のクリス・ジョンソンもラスベガスでマジシャンをしている。
寂れたショーにマジシャンとして出演しても、儲けはたかが知れている。それでも予知能力のことが人に知られないよう、目立たずにひっそりと生活している。
未知能力のことを隠して生きることは、とてもつない「孤独」と付き合うことを意味する。
2分先のことがわかる予知能力を使ってつぎつぎに先を見通したならば、相手はまるで自分の心の内を見透かされたと感じるだろう。
あなたが次にすることをすべてわかっている男・女が傍にいたらどうだろう?
自分のことをなにもかも見透かされていると感じたら、おそろしくてそんな男・女とは一緒にいられないと感じるにちがいない。
つまり、2分先の未来がみえるクリス・ジョンソンは、ドラマ「七瀬ふたたび」の火田七瀬と同じ境遇にあるのだ。
七瀬は相手の心が読める。それが人に知られたら、気味悪がられ、恐れられて誰も近寄ってこないだろうから、クリス・ジョンソンの境遇となんら変わらないのである。
――孤独。
だからこそ七瀬は父親以外では、手段はどうあれ自分の安全を第一に考えてくれる予知能力者の青年・岩渕恒介に深い想いを寄せるのだ。
だからこそクリス・ジョンソンは唯一、自分以外の人間の未来がみえるその女性――リズ――に会いたいと願い、会ったことも話したこともない彼女に深い想いを寄せるのだ。
■ 人生とは失敗の連続
人生は失敗の連続。しかし失敗に打ちひしがれては、先に進めない。
クリス・ジョンソンはリズを救うためにさまざまな未来を幾通りも見る。その多くが失敗(ときに死も)であるが、失敗を通してみつけた「道」を選びとって進んでいく。
リズを救うためにたくさんの未来を見て失敗を繰り返しながら進んでいくクライマックスのシーンは、ひとりの人間の人生の縮図を特殊効果映像で表現しているかのようで、スリリングでスピーディでありながらたいへん深い世界を感じさせる。
もちろん、こういったシーンでもなぜか笑えてしまうのだから、なんとも不思議な映画作品だ。
■ その他
原作がフィリップ・K・ディックだからといって、シリアスなSF作品を期待すべきではありません。
そもそもニコラス・ケイジが出演する作品は、どんな種類の映画であれ、お約束ともいうべき「楽しみ方」が存在します。
それをひとことでいうなら「ニコラス・ケイジワールド」ともいうべき「味」を堪能するのがもっとも正解に近い楽しみ方です。
どこにでもある田舎のモーテルとその周辺で2分先の未来がみえる男が繰り広げるサバイバルアクションのシーンは、迫力の映像のオンパレードでハラハラドキドキの連続。
クライマックスには「マトリックス」もネオも真っ青の「弾丸避けアクション」も披露してくれます。
どっちかっていったら「マトリックス」よりもイケてるんじゃないか。そんなふうにさえ思わせるニコラス・ケイジは、やっぱりスゴい!
「NEXT-ネクスト-」を楽しむためにはちょっとした準備運動が必要です。頭の体操をして脳のコリをほぐしておくとよいでしょう。
ニコラス・ケイジと笑いが好きなら、きっと気に入ってもらえると思います。
「NEXT-ネクスト-」のおもしろさを伝えるのはたいへんむずかしいのですが、タカはじゅうぶんに楽しませてもらいました。
ちなみにこの作品でニコラス・ケイジの奥さんが韓国人の観光客役でカメオ出演していますヨ。
デート ○
フラッと ○
演出 ○
キャラクター ○
笑い ○
映像 ○
SF超大作の期待 ×
ファミリー -
▼クリスマスのほんとうの意味
<あなたは他に見たことがあるだろうか?
冒頭に人名が次々につづく系図が載っている物語の本を――。>
知っているようで知らないイエス・キリストの誕生の意味についてお話しましょう。
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