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映画「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」

監督:北村拓司
日本/2007年/109分
原作:滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ

NIKKATSU CORPORATION(NK)(D) 2008-06-13
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魂の叫びを聞き取れるかどうかが分かれ道の現代版青春物語。心の内に秘められた葛藤をビジュアル化。耳を澄ませばきっと聞こえるはず。キミはシンクロできるか。

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
高校生の山本陽介はある日、公園にひとりでいる女子高生雪崎絵理に出会う。すると天からチェーンソー男が降ってくる。絵理とチェーンソー男は超人的な身体能力で死闘を繰り広げる。陽介は毎夜、チェーンソー男と戦う絵理に付き添うことにする。

主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△山本陽介
男子高校生。寮生活をするふつうの高校生。

▽雪崎絵理
女子高校生。毎夜チェーンソー男と戦う。

▽渡辺
男子高校生。陽介の友人。

△能登
男子高校生。陽介の友人。バイク事故で亡くなった。

∵チェーンソー男
チェーンソーを持った大柄の男。毎夜、雪崎絵理の前に現れ、死闘を繰り広げる。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
――――――――――――――――――――――
魂の叫びを聞き取れるかどうかが分かれ道の現代版青春物語。心の内に秘められた葛藤をビジュアル化。耳を澄ませばきっと聞こえるはず。キミはシンクロできるか。 

■ ある教師のヒトリゴト

私は高校教師。(森田童子「ぼくたちの失敗」が頭の中で流れたキミはおそらくR35世代)

担任のクラスの生徒たちもそうだが、最近のワカモノはどうにもやりにくい。

昔はわかりやすかった。教師に突っかかってくるような骨のある熱~いワカモノがいたからだ。

ところが最近のワカモノは叱っても、場合によっては叱る前から空気を察して「すみません」とすぐに謝る。反抗どころか弁解しようとさえしない。そんなことをしても無駄だとわかっているから、何を言ってものらりくらりと受け流す。そんなヤツラばかりだ。

山本陽介。

この生徒もいまどきのワカモノらしく、呼び出して説教しようにも暖簾に腕押しだ。
仲のよかった友人の能登がバイク事故死したことだって、山本にショックを与えただろう。だから多少のやんちゃぶりはわからんでもない。俺だって若いときは無茶もしたさ。バイクが好きで今でも乗ってる。もちろん安全運転でな。
とはいえ山本は下宿先の学生寮にはいつもおらず、噂では毎夜のように他校の女子生徒と出歩いているらしい。

ほんまに最近のワカモノは何を考えてるんやら……。いうてもわるい輩やないんやけどな……。


■ ある男子高校生のヒトリゴト(1)

写真、絵描き、小説、バンド活動、作曲。

どれをやっても中途半場。いろいろと手を出してみても、そこそこやるとわかっちまう。自分にはたいした才能もないってことが――。

どこかに自分の居場所があると信じたい。だからいろんなものに挑戦する。挑戦すればするほど、あれもダメ、これもダメと現実を突きつけられる。それでもやりつづけるしかない。止まってしまうのがこわいから。


■ ある男子高校生のヒトリゴト(2)

なんだかわからねぇけど、俺は焦ってる。

高級肉をいくら万引きしたところで、能登との距離は縮まらねぇ。

そんなことはわかってる。けれど、なにかをしてなくちゃ気がおかしくなりそうだ。

能登の野郎。俺より先に逝っちまいやがって。完全に先を越された。死んじまったら追いつけねぇじゃねぇか。

それにしてもあの絵理ってコ。カワいかったな。

絵理ちゃんはひとりで必死に戦っていた。毎晩ひとりで。1ヶ月前からずっとだ。

俺はやっとみつけたんだ。能登に追いつく方法を。能登を追い越す方法を。

ひとりで戦う女の子を助ける。最高に格好よく意味のあることをして死ねたら、能登を越えられる。

だから俺は今晩も絵理ちゃんと共にいる。どこまでも一緒に戦うぞ。


■ ある女子高校生のヒトリゴト

毎夜、ひとりで戦ってきた。

彼が現れたときには、邪魔しないでって思った。

けれど、いつの間にか彼……山本陽介がいてくれるだけで、夜を乗り切れるようになった。

陽介がいなかったら、きっと私はずっと前に朝日を見ることはできなくなっていたかもしれない。

けれど、陽介が離れて行ってしまう。

陽介にはひとりで戦って勝つと強がってみせたけど、きっと今夜でわたしの戦いは終わる……。


■ シンクロ

毎夜、ふたりは思い出の地をめぐります。公園。プール。水族館。遊園地。時代劇テーマパーク……。

楽しい思い出が蘇ると同時に、それが二度と手に入らないという現実を突きつけられるたびに絵理は、生きる希望を見出せないまま迫りくる衝動との戦いを余儀なくされます。

あの日から毎夜、孤独な戦いを続けてきた絵理。ひとりで戦いつづけなくてはならないと思っていた。そこへ陽介が現れます。

陽介もまた、ひとりで戦いつづけていました。

絵理の戦いは生死を賭けたものです。陽介の戦いも生死を賭けたものです。

今夜死ぬかもしれない。明日をどう迎えたらいいのか。そんな思いでひとりで毎日を過ごしてきたふたり。

だからふたりはシンクロします。

もし、ある教師がふたりを見かけたら「こんな夜更けにふたりでおる。青春やなぁ。ってあの若い男のほうはウチの生徒やないか。なんや毎夜他校の女子生徒と逢引してるって噂はホンマやったんか」と思うかもしれません。

端から見れば夜の公園でなにをするわけでもなくふたりでいるワカモノ。そんな景色はありがち。そんな景色の数だけ戦いが行われています。

将来の不安。自分の居場所。愛する者を失った悲しみ。生きる意味……迫りくる苦悩という敵に押しつぶされそうになりながら日々戦いつづけています。

今夜で終わりにしよう。

そう思いながら毎日をなんとか生き抜いている若者たち。

彼らは特別ではありません。どこにでもいる普通の若者なのです。


■ ベースがあるのでぶっ飛べる

若者だったころの気持ちを忘れてしまった人には、当然ながらシンクロしません。

なんでチェーンソー男が空から降ってくんねん。なんでチェーンソー男と絵理は超人的な身体能力発揮して戦ってんねん。わけわからん。そう思ってはシンクロできません。

でも、若者や若者だった頃を思い出せる人は、チェーンソー男との死闘が何を表しているのかすぐにわかります。

若者の心の葛藤や心の叫びをチェーンソー男との戦いを通して描き出す発想は、あっぱれなぶっ飛び具合でGOODです。

題名に「ネガティブ」とありますね。人間の頭の中って若者にかぎらずたいていネガティブ思考になりがちです。みんなネガティブ。だからといってネガティブな内容をそのまま作品化してもますます暗く内(INにIN)に入っていきがち。

そういう作品が持てはやされた時代もありました。私小説が人気だったときみたいに。いえむしろ現代のほうが私小説は人気かもしれません。

若者の心境を綴ったとされるケータイ小説が次々にヒットする時代ですから。

「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」の原作は小説です。現代の私小説でもありますが、心境を表現するためにチェーンソー男を登場させるところに妙味があります。

チェーンソー男といえばジェイソン。毎夜現るというと、夢に出てくるフレディが思い起こされます。また、雪が降ると時間と空間が止まった異次元世界になるかのようなところは漫画「ウィングマン」(桂正和)で登場人物がディメンジョンパワーで異次元空間を作るところを彷彿とさせます。

いろいろな作品からヒント得て、戦いをどんなビジュアルで表現するか考えた。その結果、かなりぶっ飛んだ設定にしています。

これは若者の心の葛藤を、陽介の男性担任教師の視点を挟んで、ありがちな日常の風景と対比させるためにぶっ飛んでみせているのですね。

どこにでもある日常がしっかりとベースにある。だからチェーンソー男が空から降ってくるビジュアルでも、シンクロできる人にはかえってピンとくる、という仕掛けなのです。


■ 耳を澄ませば

若者の心の叫び。魂の叫び。

昔はバンドしたり、ツッパリしたり、大学に集まって機動隊とおしくらまんじゅうしたりと、たいへんわかりやすかった。

でも現代は特に若者の声を聞きとりづらいと感じる人たちが増えてきたのは間違いなさそうです。

……耳を澄ましてみてください。

ちょっと耳を傾けてみるだけで、若者や若者だった頃の心を持っている人の心の叫びは聞こえてくるはずです。

空からチェーンソー男が降ってきて女子高校生と戦う? 意味不明だな……と処理してしまっては時代の声は聞きとれません。

最近のワカモノはのらりくらりと覇気がなく何を考えているのかさっぱりわからんと感じるのもいたしかたないかもしれません。

現代は多種多様の分野に枝分かれして、昔ほどストレートでわかりやすくはありませんから。

現代の若者は、群れて暴走をしたり、みんなでおしくらまんじゅうをしたりといった「集団ごっこ」をほとんどしません。

個々で戦っているのです。それにシンクロするのはひとりやふたりぐらいかもしれません。集団といえるものまで大きくなれる時代ではないのです。

個々で戦うのは、昔の集団よりもたいへんかもしれません。集団であれば、それに容易に気づいた大人たちがそれとなく不安や葛藤を解消する助け船を出してくれます。

ところが現代は個々で戦わなければなりません。だから、ひとりひとりの心の叫びにそっと耳を傾けてください。

そうやってたとえひとりでもシンクロすればふたりになります。たとえふたりだけでも、乗り越えられる強さを最近のワカモノは持っていますから。


■ 実は真っ直ぐわかりやすい

あらゆる物語の主人公は葛藤を通して成長します。

葛藤こそがキャラクターに深みを与え、立体的にします。

まさに、葛藤と戦う主人公たち。

「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」はシンクロできない人に与えてしまいかねない「わかりにくさ」と反比例しているかのように物語の大通りをわかりやすく真っ直ぐに突き進んでいます。


■ その他

特殊映像効果もけっこうありますよ。

プールでの戦いのシーンの水の描写がみどころかな。

それと、セットアップがいいですね。

アレレ劇場間違えちゃったかな、と一瞬思っちゃいましたヨ。そんなちょっとしたハズし具合もわるくないですよ。むしろ惹きつける小技としてオモシロイ。

戦う女子高校生役の関めぐみさんは、どうしても「モー娘。」初期の頃の飯田佳織さんに見えてしまいます。関さんも飯田さんもただの美人さんではなく、得たいの知れないインパクトがあります。そうでなければ飯田佳織さんはとんねるずのタカさんに「ジェイソン」なんておいしい呼び名を付けてもらえなかったでしょう。

そうそう、飯田佳織さんは男児を出産されたそうですね。おめでとうございます☆

映画作品としてはもうひとつふたつ物語を煮詰めてグツグツさせてほしいですが、わるくないですよ。原作がいいからでしょうか「気持ち」が伝わってきます。

アクションだけを期待して観にいくと(アクションシーンもがんばってますが)ちょっと違うなぁと感じるでしょう。

これは青春物語です。

だれもが苦悩するあの頃のお話です。

青春作品は、多少無理をしてでもシンクロしなければ楽しめません。

たとえば、少年・少女の心を持って素直な気持ちで「現役」の空想に共振できればその波にノレる青春物語といえばこれです。
▼「キャッチ ア ウェーブ(CATCH A WAVE)」作品レビュー

そうそう、タイトルが長いカタカナで一度見ただけでは正確に言えないので何度も音読したくなるのがまたいいですネ。
ほら、チェーンソーの、えっとネガティブなんだけどハッピーみたいな作品あったやん。

なーんやそれ! と気になるでしょ☆


デート      ○ 若者(と若者の心を忘れない人)向き
フラっと     △ 
脚本勉強    ○ 
脚本       △ 主人公と能登との関係が描ききれてない
演出       ○ セットアップは意外性アリ
キャラクター   △ 130R板尾さんに味アリ
映像       ○ 
お涙       ○ 感受性による
笑い       △ 
ファミリー    -
アクション    △ アクション作品じゃないけどイイ線いってる
シンクロ     ○ きみはシンクロできるか
青春       ◎


▼原作 

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滝本 竜彦

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