映画「テラビシアにかける橋(Bridge to Terabithia)」
監督:ガボア・クスポ
アメリカ/2007年/95分
原作:キャサリン・パターソン『テラビシアにかける橋』
ひとりの世界がふたりの世界になったとき、想像力の世界=王国は輝きを増す。試練を経て、受け入れる心を持ったとき、世界=王国はその全貌を露にする。「パンズ・ラビリンス」と「ネバーランド」とセットで観よう。
ストーリー(概要)
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姉2人と妹1人に挟まれた11歳の小学生男子のジェスは家族の中で目立たない存在であり、学校ではいじめられている。
そんなジェスの楽しみは、空想の世界をスケッチすること。
ある日ジェスは隣家に引っ越してきた同級生の女の子レスリーと知り合い、家の裏の森で一緒に想像力を働かせて遊びながら、テラビシアという名の国を建国する。
主な登場人物の紹介
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△ジェス・アーロンズ
男の子。小学生。
▽レスリー・バーク
女の子。小学生。転校生。ジェスの家のお隣さん。
▽エドマンズ
女性。音楽教師。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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ひとりの世界がふたりの世界になったとき、想像力の世界=王国は輝きを増す。試練を経て、受け入れる心を持ったとき、世界=王国はその全貌を露にする。「パンズ・ラビリンス」と「ネバーランド」とセットで観よう。
■ KYといわれないために
ジェスは11歳。日本でいうところの小学校高学年。おそらく小学校4、5年生ぐらいでしょう。
オママゴト遊びを真剣にするには歳が大きい。かといって冷めた目で現実だけをみつめるには歳が小さい。同室の小学校低学年の妹が寝たあとに懐中電灯の光をたよりにベッドの中でそっと空想の世界をスケッチするジェスは、少年から青年へのちょうど過渡期にいるといっていいでしょう。
そんなジェスが属するアーロンズ家はかなり困窮しています。ギリギリの生活を強いられています。
ジェスの父親は工具店の店員で、休日も出勤することにして収入を増やそうとがんばっています。家族が食べていくためにビニールハウスを作って野菜も栽培しています。
ジェスの妻は家計簿とにらめっこの毎日。靴がボロボロのジェスに、姉のお下がりの運動靴を履くように言うと、ジェスはピンクの運動靴なんて履けないと答えます。
父親は妻に、ジェスにあたらしい運動靴を買ってやるように言いますが、妻は夫にだけきこえるように小声で「そんな余裕ないわ」と伝えるのでした。父親はジェスにしばらくその運動靴で我慢するように言うしかありませんでした。
子どもの運動靴を買うのも難しい、ほんとうにギリギリの生活をしているアーロンズ家。姉たちはそんな厳しい家計を知ってか知らずか、テレビ番組のチャンネル争いに夢中になっている。
ジェスはもの静かにテレビ画面をみつけていますが、ダイニングキッチンで家計簿を前に小声でお金のことで相談している両親のほうへ、ときおりチラッと目線をやります。
控えめでおとなしいジェスは、周囲の状況をよく観察し、家計のやりくりに悩む両親の様子を感じ取っているのです。母親と父親が家計が厳しく辛い現状にありながらも家族のことを大事におもっていることを理解しています。
想像や空想というと、浮世離れした現実逃避と受け止められがちですが、かならずしもそうではありません。
周囲をよく観察し、感受性豊かに状況を把握・理解する。それには想像力が必要です。
最近は空気を読めない人のことを「KY」というらしいですね。
空気が読める人になるためには想像力を働かせなければなりません。
物事の一面だけを見るのではなく、他の面からも見ることができなければなりません。
視点というのは自分が思っている数だけではありません。自分が思う枠組みの外にも視点はあります。自分では気づかない枠組の存在を認識し、ときにはその枠組をはずしてみる。それが想像力を働かせるということなのです。
ジェスはふつうの子供ではとうてい取り外すことができない枠組を、想像力を使って取り払うことができました。
そしてある日、ジェスは自分と同じように想像力を持った少女レスリーに出会います。
■ 想像力で「世界」をつくる
ジェスが想像力を内に秘めた内蔵型に対し、レスリーは想像力を外へ放つ開放型です。
個性的なファッションで女の子たちに変わり者だという目でみられ、運動神経の良さと運動能力の高さによってかけっこで男の子たちを負かしたことで、男子たちには生意気な女だという目でみられます。
でもレスリーはそんなことは気にしません。レスリーもまた周囲の状況をよく観察して想像力を働かせることができます。そのため、転校してきて間もないにもかかわらずレスリーは、ジェスが音楽教師のエドマンズに好意を寄せていることをスグに感じ取ります。
両親の様子をしっかり見ているジェス。同じようにクラスメイトの様子をしっかり見ているレスリー。
想像力豊かな者同士というのはお互いにピンとくるんですね。
特にレスリーがスクーバダイバーをテーマとした作文を教室で発表したとき、ジェスには見えました。海の中でダイバーが吐く息がいくつもの空気の泡となって浮上していく様子がみえたのです。
想像力をかきたてる作文の朗読によって、ダイバーを取り巻く海中の様子がみえてくる。想像力を持って受け取ったジェスには、ダイバーの息の空気の泡が見えたのです。
想像力によってシンクロしたふたりが、今度は森の中に想像上の王国テラビシアを建国します。
■ ひとりの世界からふたりの世界へ
空想なんて何の役にも立たないという人がいるかもしれません。
でも、空想がなくては飛行機は存在していなかったかもしれません。
なぜって、人間は空を飛べませんから。羽が生えてもいない人間が空を飛ぶなど、そんなどうしようもないことを空想などせずにすこしは稼いでみろ。
これに近い意味のことをジェスは父親に言われます。もちろん父親は心から息子を愛しています。小学生のジェスが家族を助けるお金をすぐに稼げるわけはありません。そんなことは父親だってわかっています。でも労働収入が十分ではないために家族を養っていなかなくてはならない重圧に押しつぶされそうな日々を送らざるを得ない。そんなときにちょっとした拍子に思わず息子に八つ当たりしてしまったのです。
空想・想像は、家計の足しにお金を稼ぐことはできず、学校ではいじめられていて、どうにもならないと感じる小学生のジェスが日々を生き抜く唯一の手段だったのです。
どんなに辛くたいへんな毎日でも、空想をスケッチすることで乗り切ってきたジェス。自分だけの空想・想像の世界が、他人のレスリーと共有できると知ったジェスの喜びはいかほどだったでしょう。
だからジェスは学校から帰るとレスリーと共に毎日のように家の裏の森に行きます。
■ 境界線を越える信仰
テラビシアに入るには、小川を渡らなければなりません。
川は異世界への境界を象徴するものとしてよく登場します。
仏教では死後の世界への途中に登場する三途の川。
此岸と彼岸。この世とあの世。三途の川を渡る船にのるには六文が必要とされています。
キリスト教の聖書ではエジプトを出たイスラエルの民が渡った紅海。
イスラエルの民が奴隷として苦しめられていたエジプトの地と、乳と蜜の流れる約束のカナンの地。カナンへ向かうイスラエルの民の後方からはエジプトの軍隊が迫り、前方には紅海が行く手を阻みます。窮地に陥ったイスラエルの民が紅海を渡るには神を信じる心、すなわち信仰と祈りが必要でした。
さて「テレビシアにかける橋」の原作者はアメリカの児童文学作家キャサリン・パターソン。
原作者がどのような宗教的バックグランドをもっているかはわかりませんが、仏教かキリスト教かといったら、おそらくキリスト教系でしょう。
レスリーは川という境界上にある1本のロープを手にとります。古いロープだから危ないよ、というジェスの声にもかかわらず、ロープで川の上を行ったり来たりしてみせます。
ほら、見上げながらやると空を飛んでいるみたいだよ。
そんなふうなことをレスリーに言われたジェスは、ロープを持って川の上を行ったり来たりしてみます。
いままでの見慣れた空の風景が一変して見えたジェス。日本の歌でいうなら「上を向いて歩こう」といったところですが、ここでは「上を向いてブランコに乗ろう」といったかんじかな。
そして、レスリーがロープを使って対岸の茂みにダイブします。
茂みの中がどうなっているのかわからないのに、レスリーがダイブした先を追って、ジェスもダイブします。
こうして今まで足を踏み入れなかった小川の向こうの新世界に一歩を踏み出します。
古いロープを使って、川に落ちることを恐れずに対岸に飛び込むレスリー。それを追うジェス。どちらも信じる心がなければ新世界に足を踏み入れることはできません。信じる心=信仰をもって一歩踏み出すときに活路が開けることは、モーセに率いられたイスラエルの民が紅海を渡るエピソードをなぞらえるまでもないですね。
■ 楽園に試練がおとずれる
信じる心=信仰によって新世界に足を踏み出した二人は、想像力を働かせて自分たちの楽園をつくります。名をテラビシアとします。
厳しい現実を生き抜くには、想像力を働かせる必要があります。
想像力を働かせることができなければ、他人が作ったものにすがるしかありません。他人が提供するモデルにすがる人はそれが機能しなくなると、どうすることもできないと感じてしまいます。たとえ一時期はよくても、借り物ではイザというときに脆く、補強もできません。
もしも、テラビシア国が借り物だったら、その後訪れる試練にジェスは打ちのめされて二度と立ち上がることはできないでしょう。
試練の内容についてはネタバレになりますので伏せておきますが、信じる心=信仰と想像力によって築き上げた楽園にも試練が訪れます。
何が起こるかわからないのが人生だ。だから楽しい。生きがいがある、という人もいます。
けれど、人生にはどうしてか理由がわからない事が起きることがあります。とてもじゃないけれど乗り切れそうにない事が起きることがあります。たとえどうすることもできなかったことでも、自分のせいだとしか思えずに罪の意識に苦しむことがあります。
試練に直面した直後のジェスは現実を受け入れようとしません。いえ、受け入れられないのです。あまりにもショックが大きいためです。
けれど、想像の世界を他人と共有してテラビシア国を建国したジェスは、他人を疎外することでなく、他人を受け入れることで共に想像力をはたらかせて生きていくすばらしさを思い出します。
試練に打ちひしがれたジェスが作品のラストにどうしたか。それは観てのおたのしみに。
聖書には試練について次にような句があります。
「あなたがたの会った試練で、世の常でないものはない。神は真実である。あなたがたを耐えられないような試練に会わせることはないばかりか、試練と同時に、それに耐えられるように、のがれる道も備えて下さるのである。」 (コリント人への第一の手紙10章13節)
■ その他
これまたいい作品です☆
いじめっ子の変化。父親と息子の和解。兄妹の和解。友情。才能の開花へのきっかけ。ほかにもたくさんの要素をよくぞこれだけ作品に込められたものだとため息が出ます。
さて、想像力が生き延びる力というのは、以下の作品と共通するメッセージです。
ぜひセットで「テラビシアにかける橋」を鑑賞することをおすすめします。
▼「パンズ・ラビリンス(PAN'S LABYRINTH)」作品レビュー
▼「ネバーランド(FINDING NEVERLAND)」作品レビュー
▼「硫黄島からの手紙(Letters From Iwo Jima)」作品レビュー
ジェシーとレスリーが共にテラビシア王国を築く過程は、出会ったふたりが共に人生という国をつくっていく様子をイメージさせますね。それは人生のパートナーをみつけて結婚生活という名の王国を築き、そこに知人や友人を招き入れる。そんな人生でだれもが夢見るであろう身近な願望を扱っているから感動しやすいのですね。
タイトルは「テラビシアにかける橋」です。「テラビシアにかかる橋」ではありません。
橋をかけるかどうかはアナタ次第であり、大事なのはテレビシアに橋をかけることだというメッセージがタイトルに表れています。
レスリー役のアナ・ソフィア・ロブはどこかで観たことがあるなぁと思ったらキリスト教の知識が必須ともいえる「リーピング」でイナゴ少女(インパクト大の呼び名だ!)を演じていた少女ですね。「チャーリーとチョコレート工場」でわがままな娘役をしていたといったほうがわかりやすいかな。
▼「リーピング(THE REAPING)」作品レビュー↑「出エジプト記十の災い」「過ぎ越しの祭り」の知識がほしい「信仰の物語」。
ちなみに「テラビシア」は『ナルニア国物語』シリーズに登場する島の名からとったらしいですよ。
すでにおなじみの「ナルニア国レポート」。もう読みましたか?
ふつうに「ナルニア国物語」を観ただけでは気づかない、キリスト教の背景をがわかりやすく解説しています。
「アイ・アム・レジェンド」もそうですが、キリスト教文化をちょっとでも知って作品を観るのと、何の知識もなしに観るのとでは、作品の奥行きを楽しむことにおいて大きな差が出ます。
欧米系の作品にはたいていキリスト教文化の要素が入っていますが、それが色濃く出ている作品を観るときには、やはり基礎的なキリスト教の知識がなければ意味不明な部分というのはどうしてもできてしまいます。
もし、表面だけでなく作品の奥深いところまで作品を楽しみたいなら、知識を求めることに遠慮してはもったいないですよ。
暗闇の森をともに歩くだけのシーンで涙が溢れるワケとは?
ライオンはだれをあらわしている?
キリスト教における女性とは?
▼「ナルニア国物語」に秘められたキリスト教文化を大解説~これを知れば7倍楽しめる~
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アクション -
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