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映画「ボーン・アルティメイタム(THE BOURNE ULTIMATUM)」

監督:ポール・グリーングラス
アメリカ/2007年/115分
原作:ロバート・ラドラム『ボーン・アルティメイタム』

命がけの鬼ごっこを続けてきた超行動派漢(おとこ)の自分探しの旅がいよいよクライマックスへ。指揮官の素質と能力をも披露するボーンの男気にますます惚れこむ男女激増は間違いなし! いかにしてボーンが生まれたか。その謎がついに明らかに!

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
モスクワで生き延びたジェイソン・ボーンは、トレッドストーンの情報を集めるため、新聞記者のロスと接触する。ブラックブライヤーについて取材していたロスはすでにCIAに監視されており、ロンドンの駅でボーンと共に命を狙われる。
ブラックブライヤーの情報を得たボーンは、マドリッドやタンジールへ飛び、失った記憶を取り戻そうとする。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△デビッド・ウェブ/ジェイソン・ボーン
男性。元CIAトップエージェント。

▽パメラ・ランディ
女性。CIA局員。

▽ニッキー・パーソンズ
女性。CIAマドリッド支局員。
トレッドストーン計画では連絡・管理等のサポートを担当。

△ロス
男性。新聞記者。ブラックブライヤーについて取材する。


用語
―――――――――――――――――――――
▼トレッド・ストーン
CIAの暗殺者養成プロジェクト。
ジェイソン・ボーンはトレッド・ストーン計画が生んだ「最高傑作」とされる。
この計画に関与した人物はすでにボーンとニッキーの二人だけになっている。

▼ブラックブライヤー
CIAの暗殺者養成プロジェクト。
トレッドストーン計画が挫折した後にCIAが新たに実行してきた計画。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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命がけの鬼ごっこを続けてきた超行動派漢(おとこ)の自分探しの旅がいよいよクライマックスへ。指揮官の素質と能力をも披露するボーンの男気にますます惚れこむ男女激増は間違いなし! いかにしてボーンが生まれたか。その謎がついに明らかに!

■ 漢(おとこ)の生き方

「本気」と書いて「マジ」と読む。

「漢」と書いて「おとこ」と読む。

強烈な男気。竹を割ったような潔さ。それが「漢(おとこ)」というもの(らしい)。

ジェイソン・ボーンはまさにそんな「漢(おとこ)」だ。

最強の殺し屋をいわれながらも、ボーンは無駄な殺しはやらない。

なぜならボーンは、私利私欲のためや復讐のために行動しているわけではないからだ。

自分が何者なのか。それが知りたいだけだ。

最強の殺し屋といわれるボーンは反撃しようと思えば追手をバッタバッタとなぎたおしていくこともできる。それにもかかわらず、ひたすら追手をかわし、いたしかたないときだけ肉体と身の回りの道具を使って戦う。

雑魚(ザコ)キャラはもちろん怪我を負って動けなくなるが、死にはしない。

強い殺し屋が相手で、こちらが手を抜けば殺されてしまいそうなとき、または自分を助けてくれた誰かを守るときには全力で戦うボーン。

今作では、自分を助けれくれたニッキーの命を守るため、タンジールの街中で住居の屋根をつたって飛び、窓を突き破って(メイキング映像によるとカメラマンも役者の後を追うようにして、建物からジャンプしていた)殺し屋と壮絶な戦いを繰り広げる。

追ってきた殺し屋はかなりの強者である。CIA史上最強といわれるボーンでさえ一瞬たりとも気を抜けない相手だ。

もしもボーンが自分のことだけを考える人間だったら、ニッキーを付け狙うその殺し屋を放っておくだろう。

ところがボーンは自分が追われているにもかかわらず、危険が迫るニッキーを探して屋根から屋根へ飛びまわるのだ。

マドリッドでひさしぶりの再会したニッキーが自分を助けてくれたそれだけのために、自らの危険をかえりみずに、彼女を助けようと命をかけて戦うのだ。

なんという男気よ! ボーンこそ漢(おとこ)である。

この男気には性別関係なくますます惚れてしまうだろう。


■ ボーンは腕っぷしが強いだけではない

ロンドンの混雑した駅で、ボーンが新聞記者のロスと接触したときのことである。

駅の監視カメラやCIAの監視チームや拉致チーム、それに暗殺者から逃れるために新聞記者を誘導するボーン。

駅のどこに監視カメラがあって今どこを写していて、CIAの追手はどこにいて、今どの方向へ向かっているのか。

自分と新聞記者の両方がどの方向、どのルート、どのタイミングで、どのように動けばいいのかを瞬時に判断。プリベイトの携帯電話を使って新聞記者を誘導するボーン。

こうなるとボーンは指示を受けて任務を遂行するだけのエージェントではない。プロジェクトチームを率いて指示を出す指揮官だ。

新聞記者は恐怖のためにボーンの指示どおりに動かずに状況が悪化する。しかしボーンはあわてずに次の指示を出す。

予期せぬ状況になろうとも、次の一手を冷静かつ的確にすぐに打つボーン。

ロンドンの駅でのシーンでは、指揮官レベルの情報収集能力や状況把握能力や状況判断能力を持ち、それを元に計画、指示、実行できるオールマイティなボーンのスゴさを改めて思い知らされた。


■ 近所の兄ちゃん?

男気あふれるオールマイティな人。ふつうだったら、そんな絵に描いたような完璧人間はヒーローにはなれない。

ヒーローになるには、だれもが共感する弱さを持っていることが必要だからだ。

弱さとは、親しみやすさともいえる。

さて、ジェイソン・ボーン役のマット・デイモンは超二枚目の俳優とはいいがたい。

どちらかというと愛嬌のある、近所のお兄ちゃんといったところか。

そんな気さくなお兄ちゃんが、自分のしてきたことを振り返り、ほんとうの自分を知ろうと、ほんとうの自分を取り戻すために単身で巨大な組織に立ち向かう。その姿に多くの人は共感するにちがいない。


■ 庶民代表「ニッキーとパメラ」

観客だけでなく、劇中で敵対するキャラクターに位置づけられていたCIAエージェントや局員たちもボーンに共感するようになる。

具体的にはCIAエージェントのニッキーとCIA局員のパメラだ。

彼女たちは庶民代表である。

CIAで働く人のどこが庶民なのかという声もあろうが、ここではCIAという組織の中での位置付けという意味で考えてみよう。

まずはニッキーだ。CIAエージェントだが、トレッドストーン計画では連絡・管理等のサポートを担当していた。彼女はひとりのエージェントであるにすぎず、しかも後方支援担当者だ。

最前線で危険な任務をこなす、ジェイソン・ボーンといったエージェントとは違う。

民間企業でいえば、トップの営業さんを支援する優秀な事務員といったところか。

そしてパメラは、作戦や指示を行う指揮官だが、CIAの極秘計画などにはアクセスできないレベルの局員だ。

民間企業でいえば、幹部なのだけど、けっして最上級幹部ではない。

パメラは非常に優秀な局員なのだが、優秀すぎるからという理由なのか、強力なコネがないという理由なのか、女性だからという理由なのか、お役所なので上役に空きが出るまではどんなに優秀でも昇進を待たなければならないという理由なのか、とにもかくにも機密情報にアクセスする権限は与えられていない。

コネなしで入社してがんばり、実力で幹部になった上級管理職といったところか。

生まれながらにして次期社長(ボンボン)とか、生まれながらにして次期王様(王子)とか、そういう人たちではない。いうなれば、己の才覚と努力で実力をつけてがんばってきた庶民代表がニッキーでありパメラなのだ。

彼女たちは自分の国を、国民を守るためにCIAで働いている。ジェイソン・ボーンと関わるうちに、トレッドストーンやブラックブライヤーのことを知るにつれて、国や国民を守る人間として、そしてひとりの人間として越えてはならない境界線をしっかりと見定めて「人として」の道を歩きはじめる。

それが結果的にボーンをサポートすることになるのだ。

人が歩むべき道。それにCIA内部の人間も共感する。当然のように観客も共感する。

だからボーンはヒーローなのだ。


■ 凹むのは車体だけ

ニューヨークのシーンでは、ボーンシリーズではお約束のカーチェイスがある。

ボーンの運転技術はピカ一なのはいうまでもないが、だからといってスマートに格好よく運転しないところがイイ。

自分が何者なのかを知るという目的を持ち、降りかかる危機を切り抜けるために運転するボーン。

だから普通の運転をしない。車が衝突することを前提に運転するのだ。というよりも、相手の車に自分が乗る車を当てて活路を見い出すのだ。

これがスゴい!

高度なドライビングテクニックを持っていると、いかにリスクを少なく運転するかに尽力するのが普通だ。つまり、事故を起こさないように運転するのだ。

もちろん、通常の運転では無事故をめざすのでそれでいい。

しかしボーンを取り巻く状況は緊迫している。死と隣り合わせだ。一刻を争う事態が続いている。

活路をつくるために、必要ならば自らおもいっきり車をぶつけにいく。衝突することがわかっていれば、ある程度は心構えができる。体への衝撃を和らげるための方策(体勢)をとることもできる。

また、車をぶつけられるこを前提として運転していれば、それを意識することによって、実際にぶつけられたときの精神的なショックを緩和することもできる。

車をぶつけられて凹む車体。でもボーンはヘコたれない。それどころか自分から相手の車にぶつけて活路を見い出す。

何度ぶつけられてもボーンはギアを操り、アクセルを踏み、ハンドルを捌く。

そんなボーンの姿に、日々の生活でさまざまなダメージを負っていると感じる観客は、打たれ強くなろうと思うのを通り越して、必要なら自分から打たれてやろう、まだまだ自分はボーンに比べればほんのチョット蚊に刺されたぐらいなものだ、落ち込んでいる場合じゃないぞ。と勇気をもうらう。

tough-mindedには、現実的な、意志の固い、めそめそしないという意味がある。

自分が何者かを知るためという固い意志で、何度も追い詰められ、幾度も命を狙われてもめそめそなどせずに、現実的な方法を考え、それを実行するタフなボーン。

だからボーンはヒーローなのだ(2回目)。


■ その他

作品全体の色調というか印象がモノクロです(カラー作品ですけど)。

アメリカ映画にありがちな、お約束キャラやお約束ギャクはありません。

人気シリーズだからチョイとだけよ~んとばかりに制作者たちが自己満足で遊ぶこともなく、とこまでもストイックなシブい作りの作品となっています。

それと、ボーン以外のキャラクターもいい。

パメラは凛々しくてカッコ良いし、ニッキーはけっして美人とはいえないのだけどパメラ同様に自分で考えて判断して行動する人間として描かれています。

また、悪玉はやっぱりアイツなのだね、という王道の設定をしているのは、わかりやすくてたいへん良い。

完結編は下手に凝らずに、簡潔に悪玉を懲らしめる。

ってシメは駄洒落かいッっ!(完結と簡潔、凝らずと懲らしめる←説明したら余計寒いっス)


▼第1作「ボーン・アイデンティティー(THE BOURNE IDENTITY)」作品レビュー

▼第2作「ボーン・スプレマシー(THE BOURNE SUPREMACY)」作品レビュー


デート      ○ でも彼氏のことがショボくおもえちゃうかも
フラっと     △ 第1作、第2作を観てからにしよう 
脚本勉強    ○ 
演出       ◎ 
キャラクター   ◎ ボーンにシビれまくり
映像       ◎ 
笑い       - 
ファミリー    △ 
アクション    ◎ 


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