映画「クワイエットルームにようこそ」
監督:松尾スズキ
日本/2007年/118分
内田有紀なしには成立しない、ミステリー仕立ての「女性の自分さがし物語」。
ストーリー(概要)
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フリーライターの明日香が目覚めると、知らない部屋で体を拘束されていた。
そこは女子だけの閉鎖病棟内にある保護室「クワイエットルーム」だった。
どうしてそこへ運び込まれたのか記憶がない明日香だったが、しばらく閉鎖病棟に入院することになる。
主な登場人物の紹介
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▽佐倉明日香
女性。28歳。フリーライター。
△焼畑鉄雄
男性。放送作家。明日香の同棲相手。
▽ミキ
女性。入院患者。
▽江口
女性。看護士。
▽西野
女性。入院患者。
△コモノ
男性。鉄雄の子分。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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内田有紀なしには成立しない、ミステリー仕立ての「女性の自分さがし物語」。
■ シフトする雰囲気
前半はかなり笑えます。笑えるように作ろうとしているのが伝わってきます。
もちろん、その笑いの質が合うかどうかは人それぞれだと思いますが、作り手の狙いとしては観客を笑わせようとしています。
その狙いは、観客の間口を広げることにあります。
閉鎖病棟内にある保護室「クワイエットルーム」に収容された女性ライターが主人公と聞いて、明るく楽しいイメージを持つ人はそう多くないでしょう。
どうしても暗い話になりがちな設定の物語に、どうやったら客が呼べるか――。
そこでコメディっぽい匂いを嗅がせて、気軽に楽しめるかのような印象を持ってもらおうとしたのでしょう。
作品の予告編を観るかぎりでは、仕事がいそがしくてたまたま深酒と睡眠薬が重なって意識不明になって、たまたま病院のベッドが空いていなかったから精神科の閉鎖病棟内にある保護室「クワイエットルーム」に収容されてしまったかのようにみえるでしょう。
主人公・明日香もそのように話すので、観客もたまたまクワイエットルームに収容されてしまったお気楽ドタバタおバカコメディだろうとリラックスして前半は観ていられます。
ところが後半。
実は明日香の身に何が起こったのかが徐々に明らかになってくにしたがって、監督がお気楽やドタバタおバカやコメディを目指しているわけじゃないんだな、と感づいていくことになるのです。
こうして作品の雰囲気が「軽」→「重」へシフトします。
■ 失われたウン年?
内田有紀。
ボーイッシュな髪型で人気となり、90年代に大ブレイクしたタレントさんです。94年のテレビドラマ「時をかける少女」では河相我聞と競演。ふたりは似ていて、兄妹かと思うほどでした。
歌手、映画出演、劇団入団と活躍していましたが、2002年に「北の国から」で共演した吉岡秀隆と結婚。芸能活動を休業。
夫の吉岡秀隆は「Dr.コトー診療所」にドラマ出演、そして『ALWAYS 三丁目の夕日』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。俳優としてのキャリアを積みます。
――で、内田有紀は?
内田有紀は2005年に離婚していたことが明らかになり、2006年に芸能活動を再開。
芸能活動を休止していた期間、内田有紀の姿を見ることはできませんでした。これを「失われた年月」といわずしてなんといいましょう。
結婚していた期間にどこに住んでいたのかはわかりませんが、挙式は富良野市でした。まるで北海道で冬眠させられてしまったかのようで内田有紀ファンは残念でならなかったといいます。
内田有紀・吉岡秀隆の夫婦生活がどのようなものだったのかもわかりませんが、それをイメージさせるかのような、明日香の身の上のエピソードの数々が「クワイエットルームにようこそ」に登場します。
こういった映画の内容をOKした内田有紀の根性というか心意気に、俳優としての覚悟と気合を感じます。
実際「クワイエットルームにようこそ」は内田有紀なしには成立しえない、内田有紀あっての作品です。
芸能活動を休止していた期間は「失われた年月」ではなく、俳優として内田有紀が空高く羽ばたいていくための準備・充電期間であったと捉えずにはいられません。
それにしても、内田有紀さんのオーラは衰えるどころか、ますます強くなってますネ。
■ その他
閉鎖病棟内という場所を限定しています。空間的な広がりを、主人公の回想を中心として展開させているので、ある程度作品としてのまとまり感を出すことができています。
監督は芝居系出身ということで、場所を限定したのは不得意な部分の粗を目立たせないためでしょう。
作品のラストで主人公・明日香が閉鎖病院を退院して車で走り去っていくシーンがあるのは、監督自身が映画というフィールドへさらなる一歩を踏み出す心意気を込めたのかもしれないですね。
旅館の女将役に「サラダ記念日」の俵万智。松原医師役に「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明が出演しています。りょうさんの看護士役もハマッてますヨ。
「クワイエットルームにようこそ」は内田有紀なしには成立しない、ミステリー仕立ての「女性の自分探し物語」です。
「自分さがし」はヒットする確率が高いのです。「ほんとうの自分は?」と考えたり思いふけったりするのはだれにでもあるでしょう。そういうのが高尚だったりお洒落だったり格好良かったりする風潮というのも少ながらずありますから。
「ほんとうの自分は?」と考えているのは誰? まさにそれがアナタだよ、と言ってしまえばそれまでですが……。
自分さがしをするには旅に出なくちゃならない。インドへ行くのもありがちですが、閉鎖病棟に入院というのも一種の旅です。
監督としてはおそらく空間を限定したほうがやりやすいでしょうから、インドよりも閉鎖病棟にしたといったところでしょう。
そもそもみんな自分探しがすきですから、その願望に合わせたモノを提供すればヒットするというワケです。つまり、需要がある。だからヒットする確率が高いのですね。特に女性向けでは。
デート × 無難に初デートなら●丁目の夕日でじゅうぶん
フラっと ○ 意外と「!」かもよ
脚本勉強 ○ 劇場型監督が映画でうまくやる例
演出 △
キャラクター △ キャラが分散気味
映像 △
笑い ○ 前半はコメディ調
ファミリー -
ミステリー ○ ミステリー作品です
アクション -
人間 ○
ノーテンキ × けっこう真面目。とくに後半が。
女性 ○
男性 △ クローズゼロにしときぃ
内田有紀 ◎ オーラ出まくり