« 映画「プラネット・テラー in グラインドハウス」 | Main | 伝説になった沢尻エリカ様  »

映画「HERO」

監督:鈴木雅之
日本/2007年/130分

もしもクムタクが黄門様だったら? 「LIMIT OF LOVE 海猿」と同じく「ヒットの鉄板方程式」を実践した作品。劇場版をイキナリ観て鮮明になった事とは?

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
検事・久利生公平が傷害致死事件の裁判を任される。
事件の背後には、大物政治家の花岡練三郎が関連していた。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△久利生公平
検事

▽雨宮舞子
久利生公平の事務官。

△蒲生一臣
弁護士

△花岡錬三郎
大物代議士


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
――――――――――――――――――――――
もしもクムタクが黄門様だったら? 「LIMIT OF LOVE 海猿」と同じく「ヒットの鉄板方程式」を実践した作品。劇場版をイキナリ観て鮮明になった事とは?

■ 連続ドラマ未見で挑む劇場版「HERO」

2001年にフジテレビ系列で放映された連続ドラマ「HERO」。2006年7月にはテレビスペシャルも放映されました。

けっこうヒットしたドラマだというのは小耳に挟んでいたけれど、知っていることは主人公の検事が普段着(スーツを着ない)ってことだけ。

そんな折り、ドラマのファンの知り合いから「HERO」の基本情報を仕入れることができました。

(1)主人公・久利生公平は中卒

(2)主人公・久利生公平は通信販売で物を買うのが好き

(3)主人公・久利生公平の行きつけのオシャレ飲食店のマスターは無口で通販好きで料理はなんでも作れる

これだけの予備知識だけでイキナリ劇場版「HERO」を観てしまおうというわけです。

さてさて、どうなることやら……。


■ 離れてみないとわからないことがある

村上龍の小説「半島を出よ」の登場キャラクターに、内閣官房副長官の山際清孝がいます。

北朝鮮の特殊戦部隊員9名が福岡に侵入して福岡ドームを制圧。日本政府に対し福岡上空の航空警戒を解除するよう要求したことに対して、日本政府は安全保障会議を招集します。

閣僚のほとんどは選挙のために地方に行っていたため、内閣官房副長官・山際清孝が主となって対応を検討することになりましたが、有効策はみつからないままでした。

やがて到着した首相に、山際は対応の遅れや有効策を講じなかったことを理由に罷免されます。それでも他へ行くわけにもいかないのでその場に居残っていると、山際にはあることがよくわかるようになりました。

事件に対処するための最優先事項が決まらないまま場当たり的な思考と対応を繰り返していくだけの様子が、罷免されて外から眺めていることで、よくわかるようになったのです。

テレビドラマ「野ブタ。をプロデュース」で転校生の小谷信子がいじめにあい、ペンキで制服に落書きされます。

そこで、同級生で人気者の桐谷修二とその友人・ 草野彰は、自分の制服に自らペンキで落書きをして登校します。
ペンキで落書きした制服がオシャレでカッコイイという風潮を広めて、小谷信子の落書きされた制服を目立たなくする、いやむしろカッコイイものにしてしまおうという作戦です。

こうして学校では「落書き制服」が流行ります。

ペンキで落書きされた制服を着た高校生を見たら、アナタはどう思いますか?

ほかにも「野ブタ。をプロデュース」とは関係ありませんが、もしも、ベルトが切れちゃったの? と聞きたくなるような、ズリ下がって今にも落ちそうで、足が短く見える学生服のズボンを履いた男子高校生を見たら、アナタはどう思いますか?

どちらも「その高等学校とその周辺地域の同世代」いう世界にどっぷり浸かっている生徒にとっては、とってもカッコイイ(COOL!)わけです。

でも、他の地域の高校に通う生徒や、高校生以外の人が見れば、きっと違うように感じることでしょう。


■ 俯瞰図を見るように映画を見てみよう

連続ドラマを未見にもかかわらず劇場版作品を観た理由は「離れれば見えることがある」からです。俯瞰図でしか見えてこないことがあるからです。

いったい何が見えたのでしょうか。

――「鉄板」が見えました。

鉄板とは、主にお笑いなどで間違いないことの意味で使われます。

見えたのは、連続ドラマを元にした映画は「ねるとん告白タイム効果」を使って「鉄板」になる様子です。

形式に少し違いはありますが「LIMIT OF LOVE 海猿」も連続ドラマから映画へという流れで作られた作品です。
違いとは、海猿シリーズは「海猿(1)は映画」→「海猿(2)は連続ドラマ」→「海猿3は映画」という連続ドラマを映画ではさんだサンドイッチ型であるということです。(「HERO」は連続ドラマ→テレビスペシャル→映画)

▼「LIMIT OF LOVE 海猿」作品レビュー

さて「HERO」も「海猿シリーズ」も「ねるとん告白タイム効果」という構造が同じです。

「ねるとん告白タイム効果」とはなんぞや? はこちら↓

▼ねるとん告白タイム効果でわかる、海猿人気の秘密

キャラクターへの感情移入はドラマで完了済み。残すは久利生公平と雨宮舞子の関係がどうなるか(告白タイム)。

これが最大にして唯一の関心事といってもいいでしょう。

この関心事だけに焦点を合わせればいいのです。

久利生公平と雨宮舞子の関係にどんな決着をつけるか。それだけでいいのです。

ということは、これは恋愛物語ですね。


■ ワカモノ向け黄門様

そもそも主人公の職業が検事ですが、それは主人公の職業が水戸黄門でも大きな違いはありません。もちろん、小さな違いはあります。

それは出身・学歴が殿様ではなく中卒であることや、服装やアイテムが印籠ではなくノーネクタイ(スーツを着ない)であることなどです。

特に劇場版では大物代議士の花岡錬三郎が登場することから、巨悪は裁かれ罰せられてほしいという庶民の願望を、お上(水戸黄門)が裁くのはでなく、より身近に感じることができる普段着ノーネクタイ中卒の久利生公平が裁くという設定にしているだけで、内容に大きな違いはありません(ほら、黄門さまだって普段はちりめん問屋のご隠居ってことで庶民を装っているでしょ)。

もしも連続ドラマの企画の段階に作られた企画書にプレミス(ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア)のようなものを書く欄があるなら、そこには「ワカモノ向け黄門様。もちキムタクで!」と書いてあるかもしれませんね。

水戸黄門が長くテレビで放映されているのは、それが人間の欲望の深いところとつながっているからです。

それを利用しない手はない。だけど、水戸黄門そのままでは10代~30代に観てもらうことは期待できない。だから少しだけ設定を変えよう。

ワカモノ向けのドラマには多かれ少なかれ男女の恋愛という要素を入れるのだから、それで連続ドラマがヒットしたら、あとは「ねるとん告白タイム効果」を使って映画をつくれば鉄板だ!

そんな思惑があったのかもしれません。

ちなみに映画「LIMIT OF LOVE 海猿」も映画「HERO」もフジテレビと東宝が制作です。ヒットの鉄板方程式をきっちり使っているというワケですね☆


■ 人間を描いてほしかった

主人公が検事なので、事件に潜んだ人間の心の内が描かれることを期待してしまいがちですが、そのあたりは期待しないほうがいいでしょう。

例えば、久利生公平が担当することになった傷害致死事件の被告となった青年。

ビルの警備員の仕事中に自分の車で職場を抜け出した金髪の青年が、夜の自動販売機前で会社員の男性とぶつかります。

その拍子に地面に落ちたタバコを踏んだ会社員に対し、青年は殴る蹴るの暴行を加えて死に至らしめます。

この事件が代議士・花岡錬三郎の事件とつながるのですが、巨悪を裁くために用意したものにしては、深みがありません。

少年の心の内を描いていないからです。

たまたま見ず知らずの男性とぶつかって、自分のタバコを踏まれたから殴る蹴るの暴行を加えた。これでは短絡的すぎます。実際にはそういった事件はいくつもあることでしょう。

でも、物語ではそこに「深み」が必要です。

物語には構造上「絶対的な悪」が必要な場合があります。映画「HERO」における悪は代議士・花岡錬三郎というキャラクターが担っています。それだけで十分です。

一見すると「絶対的な悪」でありそうな金髪少年にも実は……というふうに、新たな側面を描き出しつつ、よくよく調べていくと短絡的な「悪い意味でキレて凶暴化するワカモノ」というステレオタイプではなく、その裏には巨悪が聳え立っていたのだ。

こうすれば、久利生公平が「悪い意味でキレて凶暴化するワカモノ」というステレオタイプを打破しつつ真の巨悪を懲らしめるという、ほんとうの意味でのワカモノ向けの黄門様になれたことでしょう。

そうではなく「悪い意味でキレて凶暴化するワカモノ」のままにしたところに「ワカモノ向け黄門様」なのに表題と内実がズレている「ねじれ現象」が生じてしまっているのです。

とはいえ、人間の内面をじっくり描こうという性格・種類の作品でもありませんし、おそらくそんなことはほとんど期待されていないでしょう。

なぜなら劇場版「HERO」は久利生公平と雨宮舞子の関係にどんな決着をつけるかが焦点の恋愛物語だからです。

もしかしたら、人間の深い部分についてはドラマのほうでじっくり描かれているのかもしれません。

だから映画ではあえてそれをしなかったのかもしれません……。


■ その他

木村拓哉さんは、どんな役柄でもすべて「キムタク」になるのは、これはもぉ特技といってもいいでしょう(^^)

ちなみに、ジーンズによれよれのシャッツでカッコがつくのはキムタクだから。素材がキッチリしているから着る物を崩しても様になるんですね。まちがっても普通の兄ちゃんは真似しないように。ただのだらしない兄ちゃん、またはオヤジになってしまいますから(それって私のこと?(T_T))

「LIMIT OF LOVE 海猿」を観たときは、私は第1作の映画も連続ドラマも観ていたので、海猿ワールドにどっぷり浸かっていました。

だから「LIMIT OF LOVE 海猿」の、コントでもあるかどうかというメチャクチャな設定も「そんなの関係ねぇ!」(小島よしお)と思えてしまう部分がありました。

そういう映画の観方も楽しいですが、もしも連続ドラマを未見で劇場版だけを見たらどう感じていただろうと、ふと思いもしました。

今回、イキナリ劇場版を観るという機会に恵まれて、またひとつおもしろい映画の観方ができました。

基本として、キムタクのカッコイイところを見たいという気持ちだけを持って劇場にいけば、きっと劇場版「HERO」楽しめることでしょう。


デート      △ ふたりがドラマファンなら
フラっと     × ドラマファン向け
脚本勉強    - 
演出       △ 
キャラクター   ○  
映像       △
笑い       ×
意外性      ×
内輪       ◎
ファミリー    -
アクション    -
お約束      ○
キムタクファン  ◎
人間       ×


« 映画「プラネット・テラー in グラインドハウス」 | Main | 伝説になった沢尻エリカ様  »

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 映画「HERO」:

» 「HERO」反論すらさせない100%の証拠を提示した先にみた1つの真実 [オールマイティにコメンテート]
「HERO」は2001年に放送されたドラマHEROの続編となる作品で破天荒な検事久利生公平が難事件を解決していくストーリーである。ストーリーとしてその前の事件がわからないと筋書きが見えないという話もあったが、最終的には1つの事件の真実を100%立証しようとする何が本...... [Read More]

Tracked on 10/14/2007 00:47

« 映画「プラネット・テラー in グラインドハウス」 | Main | 伝説になった沢尻エリカ様  »