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08/17/2007

映画「レミーのおいしいレストラン(RATATOUILLE)」

監督:ブラッド・バード
アメリカ/2007年/120分

「魔法の鏡」職人(作家)ブラッド・バードによる「誰でも名評論家」になる方法。おいしい料理と素晴らしいCGアニメは引き立て役。すべては観客の心の中に浮かぶ「ふたつのモノ」のためにある。

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
優れた臭覚と味覚を持つねずみのレミーは、シェフになることを夢見ている。
ある日、自分のヒーローである天才料理人グストーの店にたどり着いたレミーは、料理人見習いのリングイニが台無しにしかけたスープを見事に作り直す。
そのスープが客に好評で、店はひさしぶりに注目を集めるようになる。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△レミー
ねずみ。優れた臭覚と味覚を持つ、料理の天才。

△リングイニ
男性。料理が苦手な見習いシェフ。

▽コレット
女性シェフ。リングイニの教育係。グストー信奉者。

△スキナー
男性。グストーの料理長。儲け第一主義。
心のこもっていない高級な料理を提供するだけの店

△イーゴ
男性。料理評論家。フランス料理界で最大の権威を持つ。

△エミール
ねずみ。レミーの兄。

△グストー
男性。天才シェフ。亡き人。ベストセラー「誰でも名シェフ」の著者。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
「魔法の鏡」職人(作家)ブラッド・バードによる「誰でも名評論家」になる方法。おいしい料理と素晴らしいCGアニメは引き立て役。すべては観客の心の中に浮かぶ「ふたつのモノ」のためにある。

■ ○○もおだてりゃ木に登る?

作品を作るのはタイヘン。評論するのはラク。

あれこれ評論するならおまえが作品を作ってミロのヴィーナス。

ホントそうですね。だから、作品を作る人と評論する人とで、どっちがスゴいかといえば、もちろん作品をつくる人です。

スゴいのは作品をつくる人だけど、作品はだれかに評価されてはじめて価値が決まる。

評価のモノサシが興行収入だったり、有名人の感想だったり、観客100人アンケートの結果だったりします。

そんなことはオマケみたいなもので、大切なのは「自分の評価のモノサシ」を持っている人がもっとも作品を楽しめるということです。

とはいっても他人の評価は気になるもの。そこで登場するのが評論家という人たちです。

Aという作品の評価は、Aという作品を観た人の数だけあります。観客ひとりひとりによって、評価というのは違います。

けれども、いち早く良い評価をたくさん集めたいというのが映画製作会社や映画宣伝会社の願いです。そのため、有名人や集客力を持つ人や権威を持つ人から良い評価を得ようと、作品づくりとは違う部分でガンバッてしまうのです。

なにをガンバるかといえば、評論家受けがいい作品をつくろうとか、評論家が機嫌よくなるよう接待しようとかガンバるわけです。

そんなふうに顔色をうかがってもらえるような、業界で最大の権威を持つ評論家ともなれば、なんだか自分が偉くて何でも思いどおりにできるような気になってしまうもの。

天才料理人グストーの著書「誰でも名シェフ」を、映画作品で言い換えれば「誰でも名評論家」ともいえるのではないでしょうか。

有名で権威あるとされる評論家の評論に振り回されることなく、自分の価値観で自分にとってすばらしい作品に出会うこと。

それが大切だということを「レミーのおいしいレストラン」は教えてくれます。

さておぼえているでしょうか。私は「夕凪の街 桜の国」のレビューで以下のように書きました。

--ここから--

映画がスクリーンに映し出す「映像」は、あたかもそれ自体が主役かのように思えるかもしれない。だがそうではない。「スクリーンの映像」は「心の中の映像・感情」のための引き立て役にすぎない。

映画という形式に限らず、あらゆる物語では、観客の心の中に映し出される「映像:感情」こそが、主役なのである。


--ここまで--
▼「夕凪の街 桜の国」作品レビュー

Aという作品を観たときに、あなたの心になかに映し出される「映像:感情」こそが主役だというわけです。

フランス料理界で最大の権威を持つ料理評論家イーゴがグストーのレストランでラタトゥイユを食べた瞬間に彼はどんな風景を見たでしょうか。そして料理を作ったシェフがレミーだと知って、どうしたでしょうか。

イーゴは一見すると悪役のようですが、そうではありません。料理を愛する気持ちはだれにも負けない。たまたまそこにフランス料理界最大の権威を得てしまったために、大好きな料理を食べて楽しむことを忘れてしまっていた、ちょっとかわいそうなふつうの人だったのです。

ちょっと忘れていただけ。だからイーゴはラタトゥイユを食べてそれを作ったのがレミーと知っても、あのような深くすばらしい評論を書けたのです。

「ブタもおだてりゃ木に登る」(←サルでは?)ともいいますが、木に登っているブタは自分がブタだとは思っていません。(ブタはかわいいですけど)。

木に登ればどこまでも続く水田を見渡すことができて気持ちがいいかもしれません。でも、水田は農家の人が作ったものです。種まきも日々の稲の世話も収穫もぜずに、木の上でごはんがうまいのまずいのと言えば、ブタのくせに、と言われてしまうでしょう。そもそもその木だって農家の人が植えたものかもしれません。

じゃぁ、おまえは何なのだといわれると、多少耳が痛いのでありますが「コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)」という欄に文字を綴ってはいても、私は評論家ではありません(まぁ好きなように呼んでもらって結構ですが……)。私はライターです。映画の記事を書けば映画ライターというわけ。

皆さんだって、たとえばブログに記事を書けばライターです。私は、多くの皆さんと同じひとりの観客であり、同じひとりのライターなのです。

ただちょっとだけ、自分の評価のモノサシらしきものを持っている、ひとりの観客でありライターというわけです。

ウェブログ(以下ブログ)が人気の時代。だれもが自分の感想・意見・評論を気軽にネットに発表できるようになって、文字通りAという作品を観た人の数だけ評価があることが「ブログに映画感想を載せる」という具体的行動によって、いっそう明確になりました。

何者にも、何事にもとらわれることなく、自分の感想や意見をあらわすことができる時代になったのです。

多くの人々は、自分と近い目線の人の「生の声」を聞きたいのです。だれかに遠慮したり、だれかをよいしょした「作られた声」は、これまで掃いて捨てるほどあったのですから、いまさらそれが増えたところでありがたみはほとんどないでしょう。

人はタダでなにかを貰えば気持ちが動くもの。ましてなにかを貰ってはなおさらのこと。

だから私は積極的には試写会にいきません(たまには行きますけどね。一般より早く観れるのはやはりうれしいもの。でも試写会で観た場合はその旨を明記している……ハズ。「かもめ食堂」は試写会で観たなぁ)。

▼「かもめ食堂」完成披露試写会の記事

たとえAという作品を観るために1円でも支払えば、あとはそれをどう評価しようとその人だけの感想・意見となります。

しかし、タダ(無料)だったり、なにかを貰ったりしたら、もうそれはその人だけの感想・意見ではありません。作品自体の内容よりも、それに付随するもの(タダで観せてくれた、金銭や物をくれた)のほうに「力点」が移ってしまうからです。

――おだてられて木に登るブタにならないよう、自戒を込めて。


■ 「魔法の鏡」職人(作家)ブラッド・バード

ブラッド・バード監督は社会派です。「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」でアメリカ社会を映し出す魔法の鏡として機能する作品を発表。

そして「レミーのおいしいレストラン」では、映画作品によって映画作品をとりまく状況を映し出す魔法の鏡を登場させるというスゴ技を披露してくれました。

▼「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」作品レビュー


■ サラッとあんなことやこんなことも入ってます

ざっと目についただけでも、人間の欲求のうち「帰属意識」「友情」「恋」「自己実現」「サバイバル」が織り込まれています。

ねずみのレミーは毎日がサバイバルです。人に姿を見られただけで追いかけまわされて死の危険に直面します。

さて、レミーの父親はねずみグループのリーダーです。レミーは優れた臭覚によって、食べ物が安全かどうかをかぎ分ける重要な役割を共同体内で与えられています。

レミーのねずみ社会での地位は悪くありません。というより、かなり良いほうでしょう。親が群れのリーダーであり、自分もみんなに必要とされているのですから(帰属意識)。

でも、レミーはシェフになりたいという願いを持っている(自己実現)。

ねずみがシェフになれるわけがないと言われるのが普通。けれどレミーはリングイニと出会うことでそのチャンスを得ます。

リングイニとの共同作戦を通して、信頼する友を得ることができます(友情)。

一方、人間のリングイニは、先輩シェフのコレットと恋に落ちます(恋)。

これだけの基本欲求をバランスよく、それでいてさりげなく的確なタイミングで織り込む技術は超一級ですね。

それがスゴいとあまり気づかれずにサラッと物語が展開していくというのが、ほんとうにスゴいんですね。

だから、作品を見終わってから「レミーのおいしいレストラン」のスゴさが後からどんどん沸いてきます。

たとえどこがどうスゴいのかをうまく説明することができないばかりでなく、スゴいとはっきり気づかなかったとしても、他の作品を観たときに、無意識のうちにも「レミーのおいしいレストラン」と比べてしまうことがあることでしょう。

そのときにハッとするわけです。レミーってスゴ! ってかんじに。

サラッとストーリーが展開しているように思えるけれど、後からジワッとくる。これもひとつの「余韻」といっていいでしょう。


■ これぞ映像革命!

ピクサーは作品ごとに大きな挑戦をしてきました。毛のある生き物を主人公とする「モンスターズ・インク」。水中の生物(魚)を主人公とする「ファインディング・ニモ」。そして、料理を題材とする「レミーのおいしいレストラン」です。

どの作品も、制作当時はCGアニメで表現することがたいへん難しいとされたキャラクターや世界観や題材を、あえて主軸にして作品を作ってきたのです。

また「Mr,インクレディブル」で垣間見せたCGとスピードの相性の良さは「カーズ」で大きく花開きました。

それが「レミーのおいしいレストラン」では料理という難しい題材で、すばしっこく動き回るねずみのスピードを見事に映像化してみせているところに繋がっているのですね。

▼「モンスターズ・インク(MONSTERS,INC.)」作品レビュー

▼「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」作品れビュー


■ その他

タカはピクサー作品が好きで、よくピクサー作品をおすすめしています。

ピクサー作品は多くのことを教えてくれます。

その一部を、こんな↓レポートのカタチで紹介もしているぐらい、ピクサー作品はおすすめです。

▼『ファインディング・ニモ』が教えてくれる、わかりやすくする7つの方法』

どんなに良い作品だよといっても、アニメ作品は絶対に観ない、実写しか観ないという人もいます。

何を観て何を観ないかは人の勝手ですが、実写作品だって、最近はCGがたくさん使われていて、ほとんどCG作品みたいになっているものがあります。

そうすると、実写だからとか、アニメだからとか、そういったことに果たしてどのくれらいの意味があるのでしょうか。

高級フランス料理だからうまい。高級懐石料理だからうまい。それもあるでしょう。けれど学園祭の屋台のヤキソバだって、うまいものはうまい。

ねずみが作った料理だって、うまいものはうまい。

実写だろうとアニメだろうと、自分が観たり、自分が体験したりしなければ「自分の評価のモノサシ」を持つことはできません。「自分の評価のモノサシを持つ」とは、言い換えれば「自分の価値観を持つ」ということ。

人生を有意義に送る方法のひとつは、自分の価値観を持つことです。

そうそう「レミーのおいしいレストラン」観ていると、お腹が空きますヨ。

▼関連記事「レミー、実はしゃべる」

▼関連記事「レミーのおいしい作品づくりの秘密」

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フラっと      △ ピクサー作品だと認識して観にいこう 
脚本勉強     ◎ とうに堂々の王者の風格
演出       ○ 
キャラクター   ◎ 
映像       ◎ これがホントの映像革命
笑い       ○ 
ファミリー     ◎ 
友情       ◎
謎解き      ‐
評論家      × 耳が痛い! とはいえ評論家向けともいえる。


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