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映画「ナイト ミュージアム(NIGHT AT THE MUSEUM)」

監督:ショーン・レヴィ
アメリカ/2006年/108分

歴史は夜つくられる。悪は内でつくられる。伝家の宝刀を皮肉った、家族みんなで観れる風刺的アメリカ合衆国物語。キーワードはバベルの塔とバビロン王ネブカデネザルの夢。

ストーリー(概要)
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息子ニッキーの期待と信頼を取り戻すために自然史博物館の夜警の仕事に就いたラリー。勤務初日の夜、博物館にひとりになったラリーは、展示物のティラノサウルス・レックスに追いかけられる。夜になると動き出すのは恐竜だけではなく、すべての展示物たちが生き返るのだった。


主な登場人物の紹介
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△ラリー
自然史博物館の夜警。

△ニッキー
ラリーの息子。

△セオドア・ルーズベルト
アメリカ合衆国第26代大統領。乗馬、テニスなど、スポーツ愛好家。

△アッティラ・ザ・フン
北アジア、中央アジアの遊牧民フン族の王。

△ネアンデルタール人
原生人類ホモ・サピエンスと類人猿の中間。

△ティラノサウルス・レックス
白亜紀後期の生息した肉食恐竜。

▽サカジャウィア
女性。アメリカ先住民。アメリカ主導で最初に太平洋にたどり着いたルイス・クラーク探検隊の通訳兼ガイド。夫と、生まれたばかりの男の子と共に探検隊に同行。

△ノドジロオマキザル
中央アメリカの林に生息する猿。

△ファラオ
古代エジプトの君主。

△モアイ像
チリ領イースター島の人面型石造。

△オクタヴィウス
ローマ帝国初代皇帝。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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歴史は夜つくられる。悪は内でつくられる。伝家の宝刀を皮肉った、家族みんなで観れる風刺的アメリカ合衆国物語。キーワードはバベルの塔とバビロン王ネブカデネザルの夢。

■ 予感

理科室の人体模型と骸骨は、夜になるとランバダダンスを踊る。

そんな学校の七不思議のひとつを耳にしたことなぁい?

ナイナイ。という声もチラホラありそうだけど、動かないはずのものが動くのではないかと思ってしまうのは、人間のすばらしい能力のおかげ。

人間の能力――想像力――によって、博物館の蝋の塊をはじめすとする展示物たちが夜になると動き出すのではないかと思う。

なぜなら、たとえ成分は蝋にすぎなくても、それが人間にとって意味のある形をしていると、想像力を刺激されて物語を紡ぎだそうとするから。

でも、想像力豊かな子供や一部の大人を除き、たいていの人々は物語の予感がするだけ。

物語の先を紡ぎだすのは、映画制作者。そして……アナタなのです。


■ ラリーの決心と行動

予感ぐらいならだれでもする。
映画の内容とは関係ありませんが、例えばあの人とは恋がはじまる予感がする。と言っているだけでは、恋ははじまりません。予感がしたらそれを現実のものとするために行動しなければ!

さて、ラリーは元会社経営者。発明品をヒットさせて一儲けしようとしたけど失敗。今度こそ大当たりを! という願いを持っています。

でも職を転々とすることで、息子ニッキーの信頼を得ることが難しくなってきました。発明でヒットを飛ばす夢を完全にあきらめたわけではいけれどが、それよりも今はニッキーと会う時間を大切にしたい。そのためには引っ越さなくても済む職を得ることが必要なのです。

そこでラリーが始めた仕事が、自然史博物館の夜警です。


■ 綱渡りから、大地に足をつける歩みに

アメリカ合衆国は他の国々と比較すると歴史が浅く、1783年に独立したのでまだ200年と少しという若い国です。

アメリカ合衆国はお金持ちで、なんでもかんでも持っているように思えるけれど、欲しくてもじゅうぶんに手に入らないものがあります。

それは歴史の長さ。

とはいってもこればかりはどうしようもないですね。アメリカ合衆国は建国してまだ若いほうに属するというだけの話で、比較的新しい歴史を持っているからこそ、史跡を保存する際には有利という良い点もあるのだから、それは「いいわるい」という話でないんですね。そういえばエリス島に移民博物館があるというから、ぜひ行ってみたいですね。

それで、若い国なのでアドベンチャー作品の舞台はどうしても他国が中心となります。インディ・ジョーンズシリーズやハムナプトラシリーズやトゥーム・レイダーシリーズやパイレーツ・オブ・カリビアンシリーズもそう。あとは、他国からなにかを自国へもってくるしかない。たとえばキングコングといった作品みたいに。

そんななかで特筆すべき作品が、2004年の「ナショナル・トレジャー(NATIONAL TREASURE)」です。

これは、大雑把にいえば、国内版インディがクロスワードパズルを解く宝探しゲームをするといった作品で、ニコラス・ケイジ主演で愛嬌を持たせて微妙な綱渡りをうまく最後までやり遂げた感がありますよ。

微妙な綱渡りとは、アメリカ合衆国の歴史を扱って、はたしてアドベンチャーものが成功するのか? という不安と期待が入り混じったような空気とでもいうのかな。そんな綱渡りをやってのけたという意味で特筆すべき作品といっていいよ。

▼「ナショナル・トレジャー(NATIONAL TREASURE)」作品レビュー

もっと地に足をつけて「歴史」を取り扱えないかなぁ。それも、アメリカ南北戦争やベトナム戦争をはじめとする社会派映画ではなく、家族で楽しめるエンタテインメント作品として歴史を題材にできないかなぁ。

そこで登場したのが「ナイト ミュージアム」です。


■ もっともアメリカ合衆国らしい博物館

「ナイト ミュージアム」に登場するアメリカ自然史博物館は、アメリカ合衆国だけを扱った展示内容ではありません。古代エジプトやローマ帝国やアジアの遊牧民をも含めた、さまざまな展示があります。

なんだぁ、アメリカ合衆国の歴史に限定していないじゃないか。やっぱり歴史が短いからね。と思うかもしれません。

でも、実はこの自然史博物館は、もっともアメリカ合衆国っぽいところなのです。


■ 偉人

さまざまな時代・民族・国・生き物を取りまとめる役割を担っているのが博物館の夜警。

セオドア・ルーズベルトは、夜警の新人であるラリーにこんな意味のことを言います。

この博物館のさまざまな生き物をとりまとめようとするのが博物館の夜警で、それはずいぶんと微妙な仕事(立場)だな(セリフは正確ではなく、大まかなものです)。

ふつーの人ならこんな夜警の仕事はすぐに辞めます。どうみてもふつーのお父ちゃんじゃないラリー(笑)でも、すぐに辞めようとします。なぜなら毎夜、展示物たちが好き勝手に動き回るのですから。

そのときまたセオドア・ルーズベルトは、この世の中には、生まれつきの偉人と、なりゆきの偉人がいる。いま君は偉人になるチャンスだ、みたいな意味のことを言うんですね。

偉人になるチャンスって、わかりやすくいえば君もヒーローになれるっていうこと。なんだか新兵募集のキャッチコピーみたいだね。

こんなセリフを、アメリカ合衆国第26代大統領セオドア・ルーズベルトに言わせるところが「味」のあるところかな。

どうやって偉人になるか。その方法は「力を誇示」することで、動きまわる展示物たちに言うことをきかせようとするのかな。セオドア・ルーズベルトが海軍力を背景に行った棍棒外交のように……?

いえいえ、ラリーは小道具(ラジコンカー、おもちゃの鍵束等)を使ったり、ローマ皇帝オクタヴィウスと西部開拓時代のカウボーイを話し合いで仲良くさせようと試みます。

力で言うことをきかせようとする(表向きは平和のため)方法から、話し合いの方法へ。このあたりも、表向きのアメリカ合衆国の歴史と重なっているんですね。内実はあまり変わりませんが。


■ まとめるにはやっぱり伝家の宝刀きゃない?

ラリーの方法はうまくいきそうで、うまくいかない。ではみんなをまとめるにはどうしよう。やっぱりアレしかないでしょ。というわけで用いるのが「共通の敵」です。

しかも、敵は「外」にいるのではなく「内」にいるのです(ネタばれになるので詳細省く)。

さらに、悪役が悪に手を染める動機(原因)が、博物館とその利用者にあるというのですから、なんとも風刺が効いています。

敵は内にあり、というか内でつくる。そうでないと、じぇんじぇんまとまりませんから~。ってまるで「Mr.インクレディブル」みたいですネ。

▼「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」作品レビュー

というわけで、自然史博物館で起こる出来事は、そっくりそのままアメリカ合衆国をあらわしているんですね。


■ バベルの末裔は……

神の意思に叛いたバベルの末裔は、再びひとつになることはできないのでしょうか。

いきなり映画「バベル」の話かと思われるかもしれませんが、これも「ナイト ミュージアム」に関連する話なんです。

ラリーが勤める自然史博物館の展示物たちは、それぞれ勝手に動き回って争っています。博物館はハチャメチャ状態です。それをひとつにまとめようと必死に、そしてコミカルに動き回るのがラリーです。

バベルの塔の話、またバビロンの王ネブカデネザルの夢の話によれば、人類が再びひとつにまとまることはないでしょう。


■ ネブカデネザル王の夢

バビロンのネブカデネザル王はあるとき、光り輝く巨人像の夢を見ました。
その像の頭は純金で、胸と両腕はで、腹とももは青銅。すねは。足の一部は鉄、一部は粘土です。そしてひとつの石が落ちてきて像の足に当たり、足が粉々に割れてしまいます。像はすべてこわれて塵となり、風に吹かれて跡形もなくなりました。落ちてきた石は大きくなって世界中にひろがりました。

巨人像の、金の頭はバビロンを、銀の胸と青銅の腹はメド・ペルシャとギリシャ、鉄と粘土の足はローマ帝国をあらわします。

鉄と粘土は混ざりません。つまり、強大なローマ帝国でさえも、全世界を統一することはできないということですね。

最後のローマ帝国の次に全世界に満ちる山(石)はメシアの王国を指します。イエス・キリストが登場したのはローマ時代ですね。

ローマ帝国さえ統一できなかった世界を、他のどのような国がひとつにできるのでしょうか。まして人間が作った国のうち、ローマ帝国以後の国はひとつでもネブカドネザル王の夢の巨人像にさえ登場していません。


■ 伝家の宝刀と風刺

「ナイト ミュージアム」では、伝家の宝刀「作られる悪」によって博物館がひとつにまとまり、ハッピーエンドを迎えます。

それはエンタテイメント作品であり、製作国の理念を代弁する役割もいくらか持っているからでしょう。

とはいえ、そんなお約束の展開を笑いで包み込んでエンタテイメント作品にするところが、なんとも「風刺ちっく」で洒落ているという人もいるでしょうね。

セオドア・ルーズベルトは、大統領就任式で聖書を用いずに宣誓した唯一の大統領だとか。そんな彼(といっても蝋人形ですが)が重要なキャラクターとして登場する本作は、キリスト教の文化背景が強いとされるアメリカ合衆国の近代から現代の歩みが、バベルの塔やネブカデネザル王の夢の話とは相反するかのようであると皮肉っているのかもしれませんね。

皮肉といえば先輩が新人ラリーに、夜警の仕事をうまくこなしたかったら歴史を勉強しろ、みたいなことを言ってたけど、ラリー=アメリカ合衆国ってとらえると、なかなかの皮肉ってかんじですよね。

ちなみに、ネブカドネザル王の夢の話は、旧約聖書のダニエル書2章にあります。


■ その他

歴史は夜つくられる。という格言(?)にピッタリな作品です。

そして、アメリカ合衆国の姿をコメディで学ぶよい機会ですから、子供がいる家族全員で観にいってもいいですね。

ゾンビで学びたい人はこちら。
「【深夜の課外授業】ゾンビでわかるアメリカ合衆国」

デート      ○
ファミリー    ◎
フラっと     ○
脚本勉強   ○
演出      ○
キャラクター  ○
笑い       ◎
マーケティング ○
教育       ◎


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