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04/27/2007

映画「ラブソングができるまで(MUSIC AND LYRICS)」

B001F4C6ESラブソングができるまで 特別版 [DVD]
マーク・ローレンス
ワーナー・ホーム・ビデオ 2008-10-08

by G-Tools

監督:マーク・ローレンス
アメリカ/2007年/104分

主役ふたり(アレックスとソフィー)の過去と現在が投影された歌姫コーラはキャラクター設定上ではヘルパーの役割も担っている。大仏様の内部はどうなっているかは、これを観れば鎌倉まで行かなくてもわかるかも?

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
80年代に大人気だったバンド「PoP」の元ボーカルのアレックスは、同窓会や遊園地で昔のヒット曲を歌う営業を行う日々を送る。

ある日、今をときめくカリスマ歌姫コーラから新曲の依頼がくる。コーラはアレックスの大のファンだったのだ。
しかし、新曲の依頼はほかにもいくつか出しているので、アレックスの作った曲が採用されるかどうかはわからない。しかも納期は1週間ほどしかない。

さっそく作曲にとりかかるが、アレックスは作詞をしたことがない。困っていたときに、家の植物の世話係のソフィーが口ずさむ歌詞を気に入り、ふたりで新曲をつくりはじめる。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△アレックス・フレッチャー
男性。歌手。80年代を制覇したニュー・ロマンティックバンド「PoP」のメンバーで2人いたボーカルのうちのひとり。

▽ソフィー・フィッシャー
女性。痩身グッズ会社勤務。ときどき鉢植え係のパートタイムジョブも。作家志望。

▽コーラ
女性。歌手。カリスマ歌姫。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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主役ふたり(アレックスとソフィー)の過去と現在が投影された歌姫コーラはキャラクター設定上ではヘルパーの役割も担っている。大仏様の内部はどうなっているかは、これを観れば鎌倉まで行かなくてもわかるかも?

■ 過去にすがる男と、夢をあきらめた女。

人気バンドのふたりいたボーカルのうちのひとりは、ソロで活躍してナイトの称号まで得て、香水販売も手がける、いわばビッグな人になった。

一方、もうひとりのボーカルだったアレックスは、学生時代の友人でもあり、バンド「PoP」のボーカル仲間でもあった友人(いまはビッグ)に出し抜かれ、俺もソロでガンガンに売れやる! と野心満々に作ったソロアルバムはまったく売れず、いまでは昔のヒット曲を同窓会や遊園地で歌う営業活動をこなす日々。その仕事もどんどん減っていく一方だ。そんなアレックスが本作の主人公のひとり。

もうひとりの主人公は作家志望のソフィーだ。
学生時代にあこがれの作家と付き合ったまではよかったものの、実は相手にフィアンセがいた!。しかもその元交際相手の作家は、ソフィーをモデルに実際とは違う悪い女というキャラクターを登場させた本を執筆してこれが大ヒット。ハリウッドで映画化もされるという。

そんな傷心ダブルパンチを浴びたソフィーは書くことに臆病になり、作家という夢への足をとめたままである。

アレックスもソフィーも、身近な友人や恋人だと思っていた相手に裏切られた過去を持つ。

それでもアレックスは歌うことをやめずにいるが、ソフィーは書くことをやめてしまっていた。

過去の栄光にすがる(ようにみえる)男と、夢をあきらめた(ようにみえる)女。

キャラクター設定はバッチリ。あとは二人を出会わせるだけ。そうすれば物語が動き出すのだ。


■ めずらしく邦題もいいカンジ

「なんじゃこりゃぁ~!」という邦題をつけている映画作品は多々ある。ところが本作品の邦題は悪くない。
というか、なかなかいい。

「ラブソングができるまで」

ラブソングとはつまり、アレックスとソフィーの愛が実るまでということであり、その過程がラブソングを作る共同作業によって表されている。

まさにラブソングとう名のふたりの愛が実るまでの紆余曲折の物語なのだ。

いいカンジの邦題の数少ない例のひとつだといっていいだろう。


■ コーラもブレイクの予感!?

アレックスとソフィーが出会うきっかけと、愛が実るまでのヘルパーの役割を果たしている歌姫コーラを演じているヘイリーベネットは、長編映画作品は初出演というが、でしゃばらすぎずに観客(特に若い女性)の心情を代弁するかのような役どころを絶妙に演じており、たいへん好感が持てる。

作品中では歌姫コーラも恋人と別れて傷心中であり、その心の内を歌にして人々に届けたい気持ちがある。それと同時に、セクシーダンスをとりいれてさらに過激にしなくちゃいけない、刺激的にしてファンを喜ばせなくちゃいけない、ファンをつなぎとめておかなくちゃいけない、ファンをもっと増やさなくちゃいけない、2位じゃなくて1位をとらなくちゃいけない、という思いに駆り立てられている。

音楽業界で生き残るためには「もっともっと」「2位より1位を」といった、いわば「イケイケドンドンコース」に乗ったら途中で降りることはできない。

コーラは自分が伝えたい気持ちと、観客が求めるものやヒット曲チャートランキングとの間のギャップに悩んでいる。それはインドの宗教に傾倒しているかのような衣装やダンスやステージセットにみてとれる。

日本の歌手・浜崎あゆみの曲でも、何処かの姫様を思わせる衣装やメイクで神話的な世界感をイメージさせるプロモーションビデオがあったようだ。

またエロチックなダンスをイケイケドンドン取り入れていかなくちゃいけない! というあたりは日本の歌手・倖田來未をイメージさせもする。

観客が求めるものを提供しようと媚を売る(またの名をサービス精神)コーラは、かつてのアレックスと同じ部分を持っている一方で、だれもが感じる心の痛みを歌うことでファンの声を代弁してひろく共感してもらうという「魂の叫び」を大事にしているところはソフィーと同じ部分を持っている。

アレックスとソフィー両者の過去・現在を体現した歌姫コーラは、先にも言ったとおりふたりの愛のきっかけと、愛の過程を描き出すヘルパーとしても機能している。

こうしてみると、歌姫コーラはたいへん難しい役どころだ。それを嫌味なくでしゃばらずにサラッと演じたるヘイリーベネットは将来の大物の予感さえもする。


■ その他

アレックスの部屋に来たソフィは毎回、脱いだコートやバッグをピアノの上に無造作に置くのだが、それをアレックスが手に取って他の場所に置くという仕草がある。

一見するとちゃらんぽらんの遊び人にみられることが多いアレックスも、ピアノを大事にしていることを、こういった仕草からうかがわせるのは、ひとつのシーンで複数の情報(会話の内容、キャラクターの性格など)を観客に与えることができる好例としてみることができる。

それから、歌姫コーラのステージセットはスゴい!

あくまでコメディだから世界三大宗教のひとつであっても目くじらは立てないだろうが、あのセットは「ありえない」からこそスゴい。

一言でいうと「鎌倉の大仏の中には何がある?」といったところか。

そうなのだ、鎌倉の大仏は、たしか10円だか30円だか払うと中に入ることがきる。中とはまさに大仏様の内部、人間でいうところのお腹というか、いわゆる内臓部分に入ることができるのだ。(もちろん拝観料は別にかかる。拝観料プラス数十円で大仏様の中に入ることができるというわけだ)。

鎌倉といえば銭洗い弁天にも足をのばしてもらいたい。トンネルを抜けて、いくつも連なった鳥居を抜けていくその道もまたいい。

銭洗い弁天に以前行ったときは、ガラス箱に入った白蛇を見たような気もする。

いつのまにか鎌倉観光案内みたいになってしまったが、デートで観るなら「ラブソングができるまで」で間違いナッシングである。

コメディとしても笑いっぱなしで、私は幾度も笑い声を出しそうになったが、観客の皆さまはお上品なのか、笑い声は聞こえなかった。きっと皆はずかしがり屋なので声を抑えて笑っていたのだろう。

キャラクター設定とキャスティング(ヒュー・グラント 、ドリュー・バリモア)をちゃんとすれば、笑いは約束されたようなもの。日本映画も目先のヒットばかりをちまちまと狙わずに「ラブソングができるまで」みたいにキャラクター設定をはじめとする基本かつお約束の職人技を使えるよう、良質お気楽エンタテインメント作品を作る訓練をしよう。きっと半世紀後にはずいぶん上手になっているにちがいない。

昭和時代を懐かしむだけの演歌ともいえるかのような映像や、勧善懲悪という継ぎ接ぎマントを羽織った庶民のガス抜き用映像を手を変え品を変えてせっせと作っている場合じゃないぞ。とはいいつつ、そんな作品は日本ではヒットする可能性が高いのだけどね。

そうそう、こういった恋愛ストーリーなら男性も楽しめるゾ。「ホリディ」がイマイチ楽しめなかった男性でも「ラブソングができるまで」なら大丈夫だろう。


デート     ◎ 最適 これなら男性も楽しめる 
フラっと    ○ たまのフラッともいいと思わせてくれる
ファミリー   ○ ちょっとオマセなお子様となら
脚本勉強   ◎ 100回観よ(ちょっと大げさ)
演出      ○ 
笑い      ◎ 最強に笑える
役者      ◎ 役者あっての作品でもある 
意外性     × 
ダンス     ○ 奥様方はヒュー・グラントの腰振りにキャー☆

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04/20/2007

映画「サンシャイン 2057(SUNSHINE)」

監督:ダニー・ボイル
アメリカ/2007年/108分

例えるなら、真田広之は100メートル競走の選手だった! マラソン競技はだれを応援すればヨカですか? 太陽のありがたみを、いま一度身近なものとして実感させなきゃ! 本編よりも、予告編のほうがいい出来だ。

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
2057年。人類は、消滅しつつある太陽と運命をともにしていた。

太陽を蘇らせるため人類は8名の男女を宇宙へおくる。太陽にできるかぎり近づき、太陽消滅を止める装置を投下するため、各分野から選び抜かれた8名の男女が宇宙船イカロス2号の搭乗員となったのだ。

地球を旅立って数か月。地球との交信ができなくなるエリアに入ったイカロス2号は救難信号を受信する。それは7年前に行方不明になっていたイカロス1号からのものだった。

イカロス2号は、ミッション成功の確率を上げるため、イカロス1号とのドッキングへ向けて経路を変更する。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△カネダ
イカロス2号船長。

△キャパ
物理学者。

▽コラゾン
女性。生物学者。

△メイス
エンジニア

▽キャシー
女性。操縦士。

△ハーヴェイ
通信士。

△トレイ
航海士。

△サール
精神科医


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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例えるなら、真田広之は100メートル競走の選手だった! マラソン競技はだれを応援すればヨカですか? 太陽のありがたみを、いま一度身近なものとして実感させなきゃ! 本編よりも、予告編のほうがいい出来だ。

■ モットありがたがらせてもらってヨカですか?
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気温30度以上。灼熱の砂漠を5時間歩きつづけている。足は重く、流れ落ちる汗も枯れはてた。

――水筒からは一滴のしずくも落ちてこない。

容赦なく照りつける太陽を遮るものは帽子の鍔だけだ。

このままでは一行は倒れてしまう。そこで比較的元気な青年がラクダに乗り、先にオアシスまで行って救援隊を連れて戻ってくるようにした。

一行の命を託された青年は、ラクダに乗って砂漠を進みはじめた……。
-------------------

これは「サンシャイン 2057」の内容ではないけど、もしもこんなセットアップがあったらどぅ?

ちょ~う水がほしぃ~! 水がなけりゃぁマジやばいっしょ! と思うでしょ。

日本で生まれ育った人の多くにとって、水は「湯水のように使うもの」という感覚じゃないかな。

蛇口はひねれば水がでる。最近じゃぁ水道水は飲まないって人が多いけれど、洗面や風呂や洗濯には水道水をじゃんじゃん使っているのがほとんどでしょ。

キミが心の底から水が飲みたいと思ったのはいつだったろう? 中学校のマラソン大会? とにもかくにも、水のありがたみは頭ではわかっているけど普段はたいして気にもとめない。

では、太陽は?

陽のあたらない部屋に住んでいる人にっては、洗濯物や布団を持って屋上へ行かなくちゃならないので太陽は貴重かもしれないけど、一般的には太陽は、在って当たり前のもの。

でも今や太陽は消滅の危機に瀕していて、地球は雪や氷に覆われている。というのが「サンシャイン 2057」における2057年の地球の状況なんよ。

そうならそうと、セットアップで地球のちょ~寒い凍えまくりの状況を映像で見せてくれなきゃ!

できれば、主要登場人物の知り合いが太陽消滅の影響で危険な状態にあるといったような「身近」に実感しやすい設定がほしい。

さらには「人類の運命を託された人々がはやく宇宙へ旅立ってほしいなぁ」と観客が思う「間」も用意してほしい。

たとえ話を織り交ぜてすすめよう。

ヨン様はまだ現れないのかな。はよぅ会いたいわぁ。わッ、ヨン様や☆ って違うやん。あれはヨン様の真似をした明石家さんまの「さん様」やんか。

(さん様のほうが見てみたい気がするけど)本物のヨン様はそう簡単には姿を現さないよね。ほよぉ会いたいわぁ、と思わせる「間」もきちんと用意してあげる。それがショウビジネスのお約束ってもの。

つまり、太陽のありがたみを、いま一度身近なものとして実感できて、はよぉ宇宙船が飛びたさへんかなぁ、と思う「間」を用意してほしいのよ。


■ エキスパートちゃうの~?

各分野のエキスパートに人類の運命が託された。にもかからず、航海士が針路変更に必要な計算と設定をするのを忘れてしまう。

「お菓子(300円まで)持ってくるのを忘れたぁ。ピクニックなのにぃ、もぉぉ~(>_<)」というノリのじゃないんだからさ。

もぉ~、2007年現在の定番パソコンソフトだって入力ミスがあったらプログラムが問題の箇所を指摘してくれるのにぃ(←某金融期間のCM風)2057年の宇宙船のコンピューターはよぉしゃべるのに、計算ミスのときだけダンマリだなんて!(>_<))

まぁまぁSFですから。という人もいるかもしれないけど、SFだからこそ、そういう点はだれもが納得するようにしっかり作りこなければならないよ。そうでなければSFの世界観が成立しなくなってしまうからね。

計算ミスをして他の乗組員を危険に晒したことで、精神不安定になって医務室みたいなところに収容される航海士役がアジア系なのも、欧米映画にありがちな役回りで、こういうお約束だけは守るのね、とちょっと残念。


■ だれを応援すればヨカですか?

日本で生まれ育った人々の多くは、例えるならマラソン選手カネダ船長(真田広之)の応援にやる気満々でやってきて、よ~いドン! で走りはじめたと思ったら、すぐにゴールテープが見えた!

アレレ? と思っている間にカネダ船長はゴ~ぉ~ル! なんや100メートル走やったんかぃ! そうならそうとはじめに言っといてんかぁ。

なぬ? マラソン競技はこれからだって? ほな気を取り直してカネダ船長の応援をしようかのぉ。え? カネダ船長はさっきの100メートル走で足を痛めてマラソンは棄権やて? なんやねん!(>_<)

そうなると……マラソンはだれを応援すればヨカですか……?

せめて、地球の状況を知らしめるシーンがあって、そこで乗組員のだれかの事情が少しでも描かれていれば、そのだれかをカネダ船長の代わりに応援できそうなものなのにのぉ。


■ タイヨウの魅力

テレビ東京だったと思う。深夜にマニアの方々を呼んでお話を聞くという番組がある。

ダムマニアやマンホールマニアをはじめ、様々なマニアな方々が登場する。新たな発見を提供してくれるので何気に見てしまう。

たとえばダムマニア。

ダムは見たことあるし、いろいろな形があることも知っている。ダムの建設の是非は脇に置いても、建造物としての魅力はわからないでもない。

でも、ダムマニアでははない人が、ダムマニアの方々が集まるダム座談会に参加したらどうだろう。知的好奇心が刺激されるだろうけれど、ダム話の広さと深さにどっぷり浸かって皆とその魅力を堪能することはむずかしいだろう。

太陽については、比較的多くの人が魅力を感じているだろう。しかし、毎日太陽を見ていればほかは何もなくても満足だという人はどのくらいいるだろうか。

朝日も夕日も好き。陽のあたらない場所よりも、陽のあたる場所が好き。というぐらいの魅せられ度合いでは、ちょっとついていけない。それが「サンシャイン 2057」だ。

「サンシャイン 2057」には、太陽に魅せられた人々が登場する。その魅せられ度合いを理解できる人にはおススメだ。

だから、宇宙船が出てくればOKという人でも、ちょっと方向性に違和感をおぼえるかもしれない。


■ その他

ダニー・ボイル監督は当たり外れがあるとの噂もある。「28日後... 」はなかなか良かったのだが……。

上映時間108分とけっして長いほうではないのだが、作品鑑賞中に、まだ終わらないのかな、と思ってしまった。

本編よりも、予告編のほうがいい出来だ。

宇宙船は密室だ。圧力釜効果が期待できる。

しかし、強みである圧力釜効果をほとんど活かしていない。

ならば、思いきって宇宙を題材に笑って楽しみたい。そんなアナタに超おススメなのはこちら。

▼「ギャラクシー・クエスト(Galaxy Quest)」作品レビュー

▼「ザスーラ(ZATHURA)」作品レビュー


デート     × 映画館を出たあとイマイチ盛り上がりにくい。
フラっと    × 普通ならフラッと万馬券当たるワケない……か。
ファミリー   × パパぁ、金色のお化けみたいなのはなぁに?
脚本勉強   × レビュー参照のこと
演出      × レビュー参照のこと
笑い      - 
役者      △ 飲み会。真田広之殿は一次会で帰宅しました。
宇宙      ○ 宇宙が舞台ならそれでOKなら。
太陽      ○ 
       

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04/13/2007

ポール・ヴァーホーヴェン監督の力作!


「ブラックブック(ZWARTBOEK/BLACK BOOK)」


第二次世界大戦ナチス・ドイツ占領下のオランダを舞台として、家族をナチスに殺されたユダヤ人女性歌手の復讐を描く作品。


「インビジブル(2000)」「スターシップ・トゥルーパーズ(1997)」のポール・ヴァーホーヴェン監督作品だ。


オランダ/ドイツ/イギリス/ベルギーが制作とのことで、かなりの制作費がかかったとおもわれる気合の入った作品となっている。


戦時下の過酷な状況を舞台とした作品では、主人公のサバイバルが焦点となっている場合が多い。生き延びるだけでも奇跡であった当時の状況下を描いた作品に「戦場のピアニスト」や「シンドラーのリスト」や「トンネル」などがある。

▼「戦場のピアニスト(THE PIANIST)」作品レビュー


「ブラックブック」はもちろんサバイバルが基本だが、さらに家族ナチスに殺されたユダヤ人女性歌手が復讐のためにナチスの将校に近づくのだ。


オランダのレジスタンスを中心にユダヤ人女性を描いた本作品は、息をつかせぬ展開とペースで上映時間144分という長さをまったく感じさせない。


たとえば「これは観なければならないものだ」といわれると、作品のつくりはどうあれ、姿勢を正してちゃんと観なければならないもの、という捉え方をしてしまいがちだ。


だから作り手のほうも、観てもらうために必要なことがじゅうぶんでないまま作品を完成させてしまうことがある。ほんとうに多くの人々に観てもらいたい、伝えたいメッセージを持っていればいるものほど、観てもらうための方策・方法がじゅうぶんに練られることがないままに作品づくりが進行してまうことがあるのだ。


「これはたとえ長くつまらなく思えてもちゃんと観なければならない」と言われたら、観る前から身構えてしまう。そうなっては作品のメッセージを受け止めることは難しくなる。


これを「伝えたいことが重要であればあるほど相手に伝わりづらくなるデフレスパイラル」とでも名づけようか。


こうしたデフレスパイラルに陥っている作品はけっこう多い。


しかし「ブラックブック」にその心配は無用だ。


「ブラックブック」は戦時下を扱った作品でありながら、観客をひきつけて物語を観せつづける工夫と意欲にみなぎっているからだ。

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04/12/2007

映画「ブラッド・ダイヤモンド(BLOOD DIAMOND)」

監督:エドワード・ズウィック
アメリカ/2006年/143分

知恵者ソロモン王。元漁師の弟子たち。憎まれ収税人マタイ。求道者と帰るべき場所。イエスとその弟子で読み解く「人間をとる漁師」の意味とは?「金とタブー」に斬り込んだきわめて稀なアメリカ映画。

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
1999年。アフリカのシエラレオネは内戦が続いていた。
村が反政府軍RUFに襲撃され、家族と引き離されたメンデ族の漁師ソロモンは、ダイヤモンド採掘場で働かされているときに大粒のピンク・ダイヤモンドをみつけて地中に隠す。
それを聞きつけたダイヤの密売人アーチャーは、ソロモンに近づいてダイヤモンドを手に入れようとする。ソロモンからダイヤモンドの隠し場所を聞き出すため、アーチャーはジャーナリストのマディーの助けを必要とする。


主な登場人物の紹介
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△ダニー・アーチャー
ダイヤ密売人

▽マディー・ボウエン
ジャーナリスト

△ソロモン・バンディー
漁師


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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知恵者ソロモン王。元漁師の弟子たち。憎まれ収税人マタイ。求道者と帰るべき場所。イエスとその弟子で読み解く「人間をとる漁師」の意味とは?「金とタブー」に斬り込んだきわめて稀なアメリカ映画。

■ ダイヤモンドは永遠の……紛争の種!?

宝石業界はエンタテイメント業界にとってかなりのスポンサーだという。スポンサーのご機嫌をそこなう内容の作品など、ふつうだったらだれも作りたがらない。

たいていのハリウッド映画でダイヤモンドが登場するとき、その役割は「マグフィン(Maguffin)」に限定する。マグフィンとは、悪者が欲しがっていてヒーローが持っているものを指す。

マグフィンはあくまで登場キャラクターたちが行動を起こす動機の役割というわけだ。

しかしながら「ブラッド・ダイヤモンド」では、マグフィンであることのほかにも意味がある。それは宝石業界の内幕(黒幕)に斬り込んでいるということだ。

ニコラス・ケイジ主演の映画に「ロード・オブ・ウォー(LORD OF WAR)―史上最強の武器商人と呼ばれた男―」という作品がある。これは武器ビジネスで、まさにアメリカ合衆国ならではの題材である。しかしその内容から、アメリカ国内での製作資金調達は困難だったという。なぜならアメリカ合衆国は世界最大級の武器ビジネスの当事国であるからだという。

早い話が武器ビジネスの話も宝石業界の話も、アメリカではタブーなのだ。タブーというのは、言い換えれば最も顕著にその姿の本質を表す可能性が高い題材だということだ。

題材としてはおいしい。けれどリスクはとりたくない。だから、ふつうならお気楽極楽恋愛物語(例「ホリディ」を作って無難に儲けようと考えるもの。ところが「ブラッド・ダイヤモンド」はオブラートに包んでいるとはいえ、宝石業界を題材にとりあげている。

これがどのくらいリスクがあるのか。はたまたリスクとみせかけて、実はそのほうが「おいしい」のか。そのへんのことはよくわからない。

たしかなことは、アメリカ映画では稀な題材――宝石業界を題材としているということだ。

▼「ロード・オブ・ウォー(LORD OF WAR)」作品レビュー


■ ソロモン王の知恵「赤ん坊のほんとうの母親」

主要登場キャラクターのひとりであるソロモン・バンディーについて考えてみよう。

ソロモンといえば、古代イスラエルの王で「ソロモンの栄華」として名高い。
イスラエルの王ソロモンは、神から望むものはなにかといわれ、知恵を求めた。さて、その知恵の深さを知るのにちょうどよい話がある。

ある日、ソロモン王のもとに二人の女とひとりの赤ん坊が案内されてきた。二人の女はどちらも自分こそが赤ん坊の母親だと言って争った。

そこでソロモン王は家来に刀をもってこさせ、赤ん坊を半分に切って二人に半分づつ渡しなさい、と命じた。

するとひとりの女は、赤ん坊を殺さないでその女にあげてください、と言った。

ソロモン王はそれを聞いて「切るな」と命じ、赤ん坊を生かしてくれと頼んだ女が本当の母親であることがわかったのでその女に返すように、と言った。

ソロモン王の知恵の噂は広まり、シバ(イエメン)の女王も訪ねてきてソロモン王の知恵の深さを褒めたたえたという。

「ブラッド・ダイヤモンド」のソロモンは、古代イスラエルの王ソロモンをイメージさせる名前であることから、物語構築上のキャラクターの役割では善人である。


■ いなくなった羊・なくした銀貨

聖書には「いなくなった羊」のたとえ話がある。
百匹の羊の飼い主がある夜、羊が一匹いなくなっているのに気づいた。険しい岩のひつつひとつをランプを照らして探し、迷った羊をみつけると肩にのせ、家に帰って村人と一緒に喜んでもらった。

ほかに「なくした銀貨」のたとえ話がある。
十枚の銀貨を持っている主婦が、ある日一枚なくしたことに気づいた。家の中の隅々までランプを照らして注意深く探し、なくした銀貨をみつけると友人を招いて一緒に喜んでもらった。

また本誌でも幾度となく紹介した「いなくなった息子」いわゆる「放蕩息子」のたとえ話もある。これらのたとえ話は、神は離れていった罪人を探してそれが戻ってくると、天国は喜びでいっぱいになることを教えてくれている。

ソロモン・バンディーは引き離された家族を探しだそうとする。特に、医者を目指して勉強中の息子を取り戻すべく、危険をかえりみずにどこまでも探しつづけるのである。


■ ソロモンが漁師である理由

ソロモン・バンディーは村の漁師だ。実はこの設定にも意味がある。

ある日ガラリヤ湖の岸辺を歩いていたイエスは漁師に、これからは人間をとる漁師にしてあげよう、と自分についてくるよう言った。

こうして漁師ペテロ、アンデレ、ヨハネ、ヤコブはイエスの弟子になった。

初期キリスト教会の重要な人物とされるイエスの12弟子。そのうちの数人は元漁師なのだ。

「いなくなった羊・なくした銀貨」そして文字どおり「いなくなった息子」を探す漁師ソロモンというキャラクター設定には、このようにキリスト教の背景を読み取ることができるのだ。

ちなみにイエスの12弟子のひとりマタイは収税人だった。ヘロデ王のために税金を集めていたので、ユダヤ人からは特に憎まれていた。

収税人はただでさえ皆から嫌われるのに、ユダヤ人からは特に憎まれているマタイ。彼は「ブラッド・ダイヤモンド」でいうと、ダイヤの密売人アーチャーだ。

収税人と漁師。ともにイエスの12弟子となった。

ダイヤの密売人と漁師。目的は違えど、共にいなくなった者をみつけるために旅をする。


■ 求道者アーチャーと人間をとる漁師

そのふたりの出会いは最悪だった。ジャーナリストのマディは記事の裏付けが必要でアーチャーに近づいた。アーチャーはそれを疎ましくおもい、距離をとろうとする。

しかし、ピンク・ダイヤモンドを手にいれるためにはジャーナリストであるマディの力が必要だ。

アーチャー、ソロモン、マディは行動を共にして徐々に信頼関係を築いていく。

そもそもアーチャーの願いは自由を得ること。それをかなえてくれるのがピンク・ダイヤモンドだ。

ピンク・ダイヤモンドを手に入れて金が手に入ったらどうするのか? 家族を持つのか? というソロモンの問いにアーチャーは、たぶんそれはない、といった意味の返事をする。

それをきいたソロモンは、理解できない、と言う。

アーチャーは自由を欲している。まずは自由を得て、その先はどうするのかわからない。たとえ話でいえば、迷える子羊だ。行くべき道を探している。求道者だ。(archer:(弓の)射手。弓術家の「弓道」とかけているわけでない)。言い換えれば、帰るべき場所を求めている。

求道者アーチャーはソロモンとマディと出会い、共に行動するうちに信頼関係を築くようになる。特にマディと心を通わせたことで、アフリカを出たあとに行くべき場所・帰るべき場所をみつけることができるようになる。

漁師ペテロ、アンデレ、ヨハネ、ヤコブたちは、イエスと出会い、いくべき場所・帰るべき場所を得た。そして、自分たちの他にも帰るべき道をさがしている者を探し出す方法を教えようと言われてイエスの弟子になった。

だから、人間をとる漁師にしてあげようとイエスは言われたのだ。


■ その他

武器、宝石、石油、ガス……。大金が生まれるところには紛争がおきる。古今東西どこでも例はある。

「ガリヴァー旅行記」でも馬の国では人間はおろかな生き物とされており、その理由のひとつが、泥だらけになって光る石をあさり、石がみつかるとお互いに殴り合って争いつづけるからだというのがある(記憶があいまいなため正確ではないかもしれない)。

物語構築上も「金」は強力な動機だ。なぜなら、日常のだれもが多かれ少なかれ「金」に関わっているからだ。

そもそも人間の欲求の数は大別すると、たいした数にはならない。

そのなかには「金」以外であるかのように装って欲望を扱ったほうが「金」になりやすい欲求がある。それが「恋愛」だ。

実際には「恋」にも「愛」にも「金」は関係するが、エンタテイメント作品をつくる上では「金」というキーワードを見えないようにするのもひとつの方法だ。

だから「恋愛適齢期」や「ホリディ」の登場人物たちは、売れっ子脚本家だったり、レコード会社の社長だったり、映画予告編制作会社の社長だったり、イギリスの有閑階級だったりする(中流階級も登場するが)。つまり、だれもお金には困っていない。

「金」というと下品に聞こえるかもしれないので経済と言い換えよう。

あなたが恋人に求めるものはなんだろう?
包んでくれるやさしさ、というかもしれない。しかし、乗り心地のいい高級車を持っていたほうがいいし、海外旅行にもたくさん連れて行ってほしいし、クリスマスにはブランド品のバッグもほしいし、婚約することになったらダイヤモンドの指輪がほしいと思うかもしれない。

恋人や結婚相手を選ぶ条件のひとつにはもちろん「経済力」がある。それを象徴するものが高級時計だったり高級車だったり大企業の社員だったり世田谷の一戸建てだったりする。

そういう「経済」を言いはじめたらキリがないので、登場人物たちを皆お金持ちに設定する。「経済」という要素を抜きに恋愛をはじめられる人などめったにいないのだから、これこそ「夢の恋愛物語」というわけである。だから「恋愛適齢期」や「ホリディ」はヒットする。

っていつの間にか違う作品の話になっていた。「ブラッド・ダイヤモンド」のレビューのはずだったと思ったが……。

まぁ、つまりはこういうことだ。

「金」と「タブー」。

これほど人間の欲求を表現しやすい題材はめったになく、だれもが避けてきた道を突っ走った「ブラッド・ダイヤモンド」はたいしたものである。

「ロード・オブ・ウォー(LORD OF WAR)」と併せて、きわめて稀なアメリカ映画である。

デート      ‐
フラっと     ○
脚本勉強    ○
演出       ○
笑い       -
役者       ○
おもいっきり度 ◎
貴重       ◎  

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04/06/2007

燃える骸骨に萌える

「ゴーストライダー」


ニコラス・ケイジ主演とくれば観ないわけにはいかない。


ノリノリで観にいったのは公開してすぐだった。レビューを書こうとお思っていたが、自分が楽しみすぎてクールにレビューできそうもないのでしばらく頭の中に寝かせておいた。


だが、いくらたってもゴーストライダー熱は炎のように燃えあがる一方なので、サラッと気軽にコメントしておこうと思う。


燃える骸骨がハーレーに乗って悪を成敗!


そう聞いただけでもぉ最高ぉー☆と思った方は最高に楽しめる作品だ。


コミックが原作ということで、深読みすればいろいろ深いのだろうけれど、またアメリカ映画史観とかそのあたりを掘り下げる要素は随所にいろいろありそうだが、そんなことはカッと飛ばして、ニコラス・ケイジが脚色したと思われるキャラクターの色付けを大口あけて笑って楽しめば吉幾三である。


色付けしたのはおそらく、主人公が「猿大好き」なところ。


なぜかニコラス・ケイジ演じる主人公はテレビに猿が映っていると、ほんとうに楽しそうな顔をして画面に夢中になる。


そんな、なんだか意味はよぅわからんが思わずニヤリとしてしまう味付けをさせたらニコラス・ケイジは天下一武道会優勝だ(なんじゃそりゃ)。


作品の見どころは、高層ビルの外壁を垂直に上方向にバイクで登ってい
き、屋上でヘリコプターと綱引き。それが終わったら屋上からバイクで飛び出してポーズ! ――と、ふたたびビルの外壁を真下に下りていくシーンだ。


もちろんこのとき、バイクの運転者の頭は炎に包まれた骸骨だ。


そのシーンを観てみたいとちょっぴりでも思ったなら、アナタはこの作品と相性がいいにちがいない。


こんな作品を観ると、アメリカ人はほんとうに一匹狼のアウトローが活躍するヒーローものが好きなんだなぁと思う。


細かい仕草にまで配慮して笑いを取ろうと、ニコラス・ケイジがめっちゃ楽しんで演じているんだなぁと思わずにはいられない「ゴーストライダー」。


敵キャラが意外とあっさり倒れていくのもお約束のご愛嬌。


カウボーイとバイカーの併走シーンは、映画ファンには嬉涙ものだろう。

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04/04/2007

映画「ナイト ミュージアム(NIGHT AT THE MUSEUM)」

監督:ショーン・レヴィ
アメリカ/2006年/108分

歴史は夜つくられる。悪は内でつくられる。伝家の宝刀を皮肉った、家族みんなで観れる風刺的アメリカ合衆国物語。キーワードはバベルの塔とバビロン王ネブカデネザルの夢。

ストーリー(概要)
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息子ニッキーの期待と信頼を取り戻すために自然史博物館の夜警の仕事に就いたラリー。勤務初日の夜、博物館にひとりになったラリーは、展示物のティラノサウルス・レックスに追いかけられる。夜になると動き出すのは恐竜だけではなく、すべての展示物たちが生き返るのだった。


主な登場人物の紹介
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△ラリー
自然史博物館の夜警。

△ニッキー
ラリーの息子。

△セオドア・ルーズベルト
アメリカ合衆国第26代大統領。乗馬、テニスなど、スポーツ愛好家。

△アッティラ・ザ・フン
北アジア、中央アジアの遊牧民フン族の王。

△ネアンデルタール人
原生人類ホモ・サピエンスと類人猿の中間。

△ティラノサウルス・レックス
白亜紀後期の生息した肉食恐竜。

▽サカジャウィア
女性。アメリカ先住民。アメリカ主導で最初に太平洋にたどり着いたルイス・クラーク探検隊の通訳兼ガイド。夫と、生まれたばかりの男の子と共に探検隊に同行。

△ノドジロオマキザル
中央アメリカの林に生息する猿。

△ファラオ
古代エジプトの君主。

△モアイ像
チリ領イースター島の人面型石造。

△オクタヴィウス
ローマ帝国初代皇帝。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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歴史は夜つくられる。悪は内でつくられる。伝家の宝刀を皮肉った、家族みんなで観れる風刺的アメリカ合衆国物語。キーワードはバベルの塔とバビロン王ネブカデネザルの夢。

■ 予感

理科室の人体模型と骸骨は、夜になるとランバダダンスを踊る。

そんな学校の七不思議のひとつを耳にしたことなぁい?

ナイナイ。という声もチラホラありそうだけど、動かないはずのものが動くのではないかと思ってしまうのは、人間のすばらしい能力のおかげ。

人間の能力――想像力――によって、博物館の蝋の塊をはじめすとする展示物たちが夜になると動き出すのではないかと思う。

なぜなら、たとえ成分は蝋にすぎなくても、それが人間にとって意味のある形をしていると、想像力を刺激されて物語を紡ぎだそうとするから。

でも、想像力豊かな子供や一部の大人を除き、たいていの人々は物語の予感がするだけ。

物語の先を紡ぎだすのは、映画制作者。そして……アナタなのです。


■ ラリーの決心と行動

予感ぐらいならだれでもする。
映画の内容とは関係ありませんが、例えばあの人とは恋がはじまる予感がする。と言っているだけでは、恋ははじまりません。予感がしたらそれを現実のものとするために行動しなければ!

さて、ラリーは元会社経営者。発明品をヒットさせて一儲けしようとしたけど失敗。今度こそ大当たりを! という願いを持っています。

でも職を転々とすることで、息子ニッキーの信頼を得ることが難しくなってきました。発明でヒットを飛ばす夢を完全にあきらめたわけではいけれどが、それよりも今はニッキーと会う時間を大切にしたい。そのためには引っ越さなくても済む職を得ることが必要なのです。

そこでラリーが始めた仕事が、自然史博物館の夜警です。


■ 綱渡りから、大地に足をつける歩みに

アメリカ合衆国は他の国々と比較すると歴史が浅く、1783年に独立したのでまだ200年と少しという若い国です。

アメリカ合衆国はお金持ちで、なんでもかんでも持っているように思えるけれど、欲しくてもじゅうぶんに手に入らないものがあります。

それは歴史の長さ。

とはいってもこればかりはどうしようもないですね。アメリカ合衆国は建国してまだ若いほうに属するというだけの話で、比較的新しい歴史を持っているからこそ、史跡を保存する際には有利という良い点もあるのだから、それは「いいわるい」という話でないんですね。そういえばエリス島に移民博物館があるというから、ぜひ行ってみたいですね。

それで、若い国なのでアドベンチャー作品の舞台はどうしても他国が中心となります。インディ・ジョーンズシリーズやハムナプトラシリーズやトゥーム・レイダーシリーズやパイレーツ・オブ・カリビアンシリーズもそう。あとは、他国からなにかを自国へもってくるしかない。たとえばキングコングといった作品みたいに。

そんななかで特筆すべき作品が、2004年の「ナショナル・トレジャー(NATIONAL TREASURE)」です。

これは、大雑把にいえば、国内版インディがクロスワードパズルを解く宝探しゲームをするといった作品で、ニコラス・ケイジ主演で愛嬌を持たせて微妙な綱渡りをうまく最後までやり遂げた感がありますよ。

微妙な綱渡りとは、アメリカ合衆国の歴史を扱って、はたしてアドベンチャーものが成功するのか? という不安と期待が入り混じったような空気とでもいうのかな。そんな綱渡りをやってのけたという意味で特筆すべき作品といっていいよ。

▼「ナショナル・トレジャー(NATIONAL TREASURE)」作品レビュー

もっと地に足をつけて「歴史」を取り扱えないかなぁ。それも、アメリカ南北戦争やベトナム戦争をはじめとする社会派映画ではなく、家族で楽しめるエンタテインメント作品として歴史を題材にできないかなぁ。

そこで登場したのが「ナイト ミュージアム」です。


■ もっともアメリカ合衆国らしい博物館

「ナイト ミュージアム」に登場するアメリカ自然史博物館は、アメリカ合衆国だけを扱った展示内容ではありません。古代エジプトやローマ帝国やアジアの遊牧民をも含めた、さまざまな展示があります。

なんだぁ、アメリカ合衆国の歴史に限定していないじゃないか。やっぱり歴史が短いからね。と思うかもしれません。

でも、実はこの自然史博物館は、もっともアメリカ合衆国っぽいところなのです。


■ 偉人

さまざまな時代・民族・国・生き物を取りまとめる役割を担っているのが博物館の夜警。

セオドア・ルーズベルトは、夜警の新人であるラリーにこんな意味のことを言います。

この博物館のさまざまな生き物をとりまとめようとするのが博物館の夜警で、それはずいぶんと微妙な仕事(立場)だな(セリフは正確ではなく、大まかなものです)。

ふつーの人ならこんな夜警の仕事はすぐに辞めます。どうみてもふつーのお父ちゃんじゃないラリー(笑)でも、すぐに辞めようとします。なぜなら毎夜、展示物たちが好き勝手に動き回るのですから。

そのときまたセオドア・ルーズベルトは、この世の中には、生まれつきの偉人と、なりゆきの偉人がいる。いま君は偉人になるチャンスだ、みたいな意味のことを言うんですね。

偉人になるチャンスって、わかりやすくいえば君もヒーローになれるっていうこと。なんだか新兵募集のキャッチコピーみたいだね。

こんなセリフを、アメリカ合衆国第26代大統領セオドア・ルーズベルトに言わせるところが「味」のあるところかな。

どうやって偉人になるか。その方法は「力を誇示」することで、動きまわる展示物たちに言うことをきかせようとするのかな。セオドア・ルーズベルトが海軍力を背景に行った棍棒外交のように……?

いえいえ、ラリーは小道具(ラジコンカー、おもちゃの鍵束等)を使ったり、ローマ皇帝オクタヴィウスと西部開拓時代のカウボーイを話し合いで仲良くさせようと試みます。

力で言うことをきかせようとする(表向きは平和のため)方法から、話し合いの方法へ。このあたりも、表向きのアメリカ合衆国の歴史と重なっているんですね。内実はあまり変わりませんが。


■ まとめるにはやっぱり伝家の宝刀きゃない?

ラリーの方法はうまくいきそうで、うまくいかない。ではみんなをまとめるにはどうしよう。やっぱりアレしかないでしょ。というわけで用いるのが「共通の敵」です。

しかも、敵は「外」にいるのではなく「内」にいるのです(ネタばれになるので詳細省く)。

さらに、悪役が悪に手を染める動機(原因)が、博物館とその利用者にあるというのですから、なんとも風刺が効いています。

敵は内にあり、というか内でつくる。そうでないと、じぇんじぇんまとまりませんから~。ってまるで「Mr.インクレディブル」みたいですネ。

▼「Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)」作品レビュー

というわけで、自然史博物館で起こる出来事は、そっくりそのままアメリカ合衆国をあらわしているんですね。


■ バベルの末裔は……

神の意思に叛いたバベルの末裔は、再びひとつになることはできないのでしょうか。

いきなり映画「バベル」の話かと思われるかもしれませんが、これも「ナイト ミュージアム」に関連する話なんです。

ラリーが勤める自然史博物館の展示物たちは、それぞれ勝手に動き回って争っています。博物館はハチャメチャ状態です。それをひとつにまとめようと必死に、そしてコミカルに動き回るのがラリーです。

バベルの塔の話、またバビロンの王ネブカデネザルの夢の話によれば、人類が再びひとつにまとまることはないでしょう。


■ ネブカデネザル王の夢

バビロンのネブカデネザル王はあるとき、光り輝く巨人像の夢を見ました。
その像の頭は純金で、胸と両腕はで、腹とももは青銅。すねは。足の一部は鉄、一部は粘土です。そしてひとつの石が落ちてきて像の足に当たり、足が粉々に割れてしまいます。像はすべてこわれて塵となり、風に吹かれて跡形もなくなりました。落ちてきた石は大きくなって世界中にひろがりました。

巨人像の、金の頭はバビロンを、銀の胸と青銅の腹はメド・ペルシャとギリシャ、鉄と粘土の足はローマ帝国をあらわします。

鉄と粘土は混ざりません。つまり、強大なローマ帝国でさえも、全世界を統一することはできないということですね。

最後のローマ帝国の次に全世界に満ちる山(石)はメシアの王国を指します。イエス・キリストが登場したのはローマ時代ですね。

ローマ帝国さえ統一できなかった世界を、他のどのような国がひとつにできるのでしょうか。まして人間が作った国のうち、ローマ帝国以後の国はひとつでもネブカドネザル王の夢の巨人像にさえ登場していません。


■ 伝家の宝刀と風刺

「ナイト ミュージアム」では、伝家の宝刀「作られる悪」によって博物館がひとつにまとまり、ハッピーエンドを迎えます。

それはエンタテイメント作品であり、製作国の理念を代弁する役割もいくらか持っているからでしょう。

とはいえ、そんなお約束の展開を笑いで包み込んでエンタテイメント作品にするところが、なんとも「風刺ちっく」で洒落ているという人もいるでしょうね。

セオドア・ルーズベルトは、大統領就任式で聖書を用いずに宣誓した唯一の大統領だとか。そんな彼(といっても蝋人形ですが)が重要なキャラクターとして登場する本作は、キリスト教の文化背景が強いとされるアメリカ合衆国の近代から現代の歩みが、バベルの塔やネブカデネザル王の夢の話とは相反するかのようであると皮肉っているのかもしれませんね。

皮肉といえば先輩が新人ラリーに、夜警の仕事をうまくこなしたかったら歴史を勉強しろ、みたいなことを言ってたけど、ラリー=アメリカ合衆国ってとらえると、なかなかの皮肉ってかんじですよね。

ちなみに、ネブカドネザル王の夢の話は、旧約聖書のダニエル書2章にあります。


■ その他

歴史は夜つくられる。という格言(?)にピッタリな作品です。

そして、アメリカ合衆国の姿をコメディで学ぶよい機会ですから、子供がいる家族全員で観にいってもいいですね。

ゾンビで学びたい人はこちら。
「【深夜の課外授業】ゾンビでわかるアメリカ合衆国」

デート      ○
ファミリー    ◎
フラっと     ○
脚本勉強   ○
演出      ○
キャラクター  ○
笑い       ◎
マーケティング ○
教育       ◎

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