映画「デジャヴ」
監督:トニー・スコット
アメリカ/2006年/127分
4日前へGO!! ●●●マシンは命がけ。パラレルワールドを交差させたカーチェイスシーンをテンポよく魅せる、グツグツ煮た料理みたいな作品。【注】このレビューを読むと勘のいい人はネタバレになる可能性アリ。作家・乙一の作品に似たアイデアがある。比べると、見えないものを何に設定するかで小説と映画という手法の違いが明らかになる。
ストーリー(概要)
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543名の犠牲者を出したフェリー爆破事件の特別捜査官ダグは、ひとりの女性の死体と遭遇する。フェリー爆破事件の手がかりだと直感したダグだったが、はじめて見たこの女性・クレアに見覚えがあるような気がしてならなかった。
クレアの周囲を捜査しているちに、事件の直前に彼女と接触している可能性がある人物が複数浮かんできた。そのうちのひとりは意外なことに自分(ダグ)だった……。
主な登場人物の紹介
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△ダグ・カーリン
ATF(アルコール・タバコ・火器取締局)捜査官。
フェリー爆破事件の特別捜査官。
▽クレア・クチヴァー
女性。フェリー爆破事件にまぎれるようにして発見された死体。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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4日前へGO!! ●●●マシンは命がけ。パラレルワールドを交差させたカーチェイスシーンをテンポよく魅せる、グツグツ煮た料理みたいな作品。【注】このレビューを読むと勘のいい人はネタバレになる可能性アリ。作家・乙一の作品に似たアイデアがある。比べると、見えないものを何に設定するかで小説と映画という手法の違いが明らかになる。
■ 即買い脚本
デジャヴ。
それが人に対するものであった場合、前世で恋人だったとか、仇同士だったとか。とにかくなにかの関係があったのではないかと思う。
そんなだれもが一度は経験したことがある感覚(デジャヴ)をきっかけに物語を作りあげていく作業は、とても興奮するものであると同時に、リスクもある。どんなリスクか。それは、どこかで見聞きしたことがあるような、使い古されたものになってしまうかもれないリスクだ。
事件。捜査。美女との出会い。カーチェイス。犯人との戦い。
これらはの要素はどこにでも転がっている。
プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーのオフィスにたどり着いた脚本は、おそらく幾人ものエージェントの目を通して厳選されたものにちがいない。そんな脚本であっても、実際に採用されるのはごく一部、年に数本あるかないかだろう。まして買い付けを即断したことはほとんどないという。
しかし「デジャヴ」の脚本を受け取って48時間後にはもう買っていたそうだ。
その脚本が誕生したきっかけは、インターネットのチャットルームでのやりとりだ。脚本家がインターネットのチャットルームで、脚本化志望者とやりとりしたことがきっかけで本作のアイデアを交換して脚本を作っていったというのだ。
では「デジャヴ」のどこが魅力的なのかを私なりにお話しよう。
■ パラレルワールドのカーチェイス
カーチェイスといえばハリウッド映画の十八番だ。とうにやりつくしたようにも思えるカーチェイスシーン。そこで海外、主にヨーロッパの歴史情緒あふれる街中を小型車で走り回るという新しさを取り入れたのが「ボーン・アイデンティティ」シリーズだ。
また最近では、タイヤの軌跡が炎となってアスファルトに一本の線を残しながら街を疾走するモーターサイクル(バイク)に乗った、燃える骸骨男が悪を成敗する作品が話題だ。
では「デジャヴ」ではカーチェイスシーンをどうするのかと思ったら、なんとパラレルワールドとリンクさせるというとんでもない仕掛けを使っている。
ダグは車で犯人を追う。でも、犯人の車は存在しない。いや、存在する。ではどこに?
実は、いわゆるパラレルワールドに存在するのだ。約4日前の同じ場所に、たしかに犯人の車が存在した。
ダグはその車を追うのだ。
なんだかよくわからない話に聞こえるかもしれない。早い話が約4日前を見ることができる装置を使って、過去の犯人の足跡をたどり、現在の潜伏先を突き止めようというわけだ。
約4日前をみることができる装置。なんと便利なんだ! と思ったが、これにはいくつか制約がある。決まった範囲しか見れなかったり、巻き戻しはできなかったり。
そんなわけで、犯人の車を追うには、カバーエリアを越えた場合には、装置の一部を乗せた車で追ってデータをメインマシンに送りつづけなければならない。
そこで犯人を追う車に乗るダグは、ヘルメット型の特殊な機械を装着する。すると目の前の小型モニタには4日前の映像が映るのだ。
4日前の雨の夜。道は暗く、見通しも悪い。
しかし、実際にダグが車を走らせているのは朝の交通ラッシュ時の道路だ。
運転しながら4日前の車を追うダグは、4日前の映像だけを見ていては運転できない。そこで、目の前の小型モニタの片方を壊して、片方の眼で現在を見て運転するのだ。
目的は4日前を走る犯人の車。だから、現在の朝の交通ラッシュでゆっくり安全運転なぞできようもない。しかも道路を逆走するので、当然のようにクラッシュの連続だ。
でもダグの乗った車は軍用車かなにかで、たいへん丈夫で、乗用車と衝突したぐらいではまだまだ走りつづけることができる。
タイム・ウィンドウ研究所の巨大モニターで映像を見ながらダグをバックアップするメンバーと無線のやりとりをしながら犯人の車を追うダグ。
こんなカーチェイスシーンをよくもまぁ思いついたものである。
しかし、日本にもこれと似たようなアイデアを持ち、それを作品にした者がいる。
■ 見えないものを表面的なものに設定すると「デジャヴ」になる。
突然の事故で記憶と左眼を失った女学生が、臓器移植手術で死者の眼球提供を受けた。しばらくして女学生は、その左眼が過去に見てきた映像の数々を断続的に見るようになる。
女学生は左眼の映像の場所を訪れる。すると、左眼が過去の映像の再生をはじめる。同じ場所だが、右眼は現在を映しだし、左眼は過去の映像を映し出す。
これは、乙一というホラー作家の作品「暗黒童話」の話である。
乙一さんは今最も才能溢れ、期待されている作家のひとりであり、映画「暗いところで待ち合わせ」の原作者でもある。
乙一さんの作品は多種多様なのだが、共通していることは、情景描写が巧みということ。小説を読んでいてその物語世界を見ているかのような感覚になったり、主人公が見る左眼の映像が実際に眼に浮かんでくるかのように感じたりもする。
あらゆる物語はそうだが、特にホラーでは、普段見えないものが浮かび上がってくるところに恐怖が生まれる効果を上手に使っている。
普段は見ない人の心の闇。そこをえぐりだす作業を通して、一筋の光を射し込むこともできる(例「暗いところで待ち合わせ」)。
見ないものを見えるようにするには、小説とう手法でじっくりと描きだすのが向いているのを乙一さんの小説は教えてくる。
では映像ではどうだろう。
見えないものを心の内面・闇に設定するよりも、表面的なもの、たとえば未解決の事件を設定したほうが効果的だ。
「デジャヴ」では犯人の動機や心の闇はそんなに重要ではない。事件を解決するために、フェリーの爆破を阻止するために、明らかになっていない犯人像とその潜伏場所を特定するために映像をいかに魅力的かつ迫力のあるものとして使うかが重要だ。
その答えが、過去と現在を同時に映しながら、過去の犯人の車を、現在の車で追うダグのカーチェイスシーンなのである。
■ 4日前へGO!! ●●●マシンは命がけ
どこかで聞いたようなタイトルだ(笑)
「デジャヴ」をひとことであらわすとこんな感じだが、だれでも経験があるデジャヴで惹きつけ、テンポよいアクションシーンでグイグイ魅せるハリウッドらしい派手さが見どころである。
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■ その他
おもしろいアイデアはないか。そのアイデアが一番「おいしく」活きるストーリーはなにか。ストーリーに興味を持ってもらえる魅力的な要素はなにか。
そんなことを寝ても覚めても考えて、数人でアイデアを交換し、脚本を作り上げていく。
たとえるならば、よい食材をみつけて、食材に合った料理を選び、最適な調理法で、何時間もグツグツ煮て作る。とても手間のかかった料理かのようだ。
アイデアを、テンポと映像でガツンと料理した作品なので、じっくりと人間の内面を描くヒューマンドラマは期待しないように。
頭の柔軟体操のつもりで観ると、素直に楽しめるだろう。
デート ○ 程よいデートムービー
フラっと ◎ 意外にいいやん!
脚本勉強 ○
演出 ○
キャラクター○
笑い -
役者 ○ クレア役に大抜擢されたポーラ・パットンがいいかんじ
発想 ◎