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映画「ラストキング・オブ・スコットランド」

監督:ケヴィン・マクドナルド
アメリカ・イギリス/2006年/125分

空のキャラクターと実在の人物をからめた、実在の人物像に迫る作品。アミン大統領役のフォレスト・ウィッテカーは本作で第79回アカデミー主演男優賞を受賞した。

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
スコットランドの医学校を卒業した青年・ニコラスは、ウガンダの村の診療所で働きはじめる。時は1971年。ちょうどクーデターでオボテ政権が倒れ、アミン新大統領が誕生したばかりであった。
村へ演説にやってきたアミン大統領の怪我の手当てをしことで主治医に任命されたニコラスは、相談役・側近としてウガンダの中枢と深く関わるようになる。
反抗勢力の粛清をすすめるアミン大統領の裏の顔を知り、危険を感じて逃れようとするニコラスだったが、国外脱出が困難となる。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△イディ・アミン
ウガンダ大統領。ボクサーから軍人、そして大統領になった。

△ニコラス・ギャリガン
スコットランド人の青年医師。大統領の主治医。側近。

▽ケイ・アミン
大統領夫人

△ストーン
英国高等弁務官

▽サラ・メリット
医師の妻。夫は村の診療所で働く。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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架空のキャラクターと実在の人物をからめた、実在の人物像に迫る作品。アミン大統領役のフォレスト・ウィッテカーは本作で第79回アカデミー主演男優賞を受賞した。

■ 架空のキャラクターと実在の人物

青年医師・ニコラスは、アミン大統領と交流のあった数人の欧米人をモデルにして作ったキャラクターだ。つまり、ニコラスは実在しない。

一方、アミン大統領は実在の人物だ。また、作品のラストで起きるエア・フランス機のハイジャック事件も実際の出来事である。


■ 事実は小説よりも……。

事実は小説よりも奇なり、という言い方をする人がいる。だが、ある人はこう言う。

「事実は小説よりも、つまらない」

事柄AについてA氏は「奇」だと感じたとしても、B氏も「奇」だと感じるとはかぎらない。

「奇」かどうかは、環境や心情や信念や哲学や宗教によってさまざまだからだ。

ある事柄を「奇」と感じるかどうかは「事柄との距離」に関係する。

人は自分に身近な事柄ほど大きく受け止め、たとえ他人からみえれば小さな変化でも、本人にとっては大きな変化と感じる。さらに、その変化が大きいと感じてこれを「奇」と表現することもあるだろう。

というわけで、A氏にとってどんなに「奇」または「大きな事柄」であっても、そのままでは他人に注目されにくい。

「ある人にとっての事実は小説よりもつまらない」と言う人がいるのはなぜか。それは、しょせん他人ごとだからだ。


■ あなたも持っている「能力」

どんな出来事もしょせん他人事。

しかし、私たちは他人の境遇や、他人の身に起こった出来事を見聞きして、当事者たちの心情を想像し、時には一緒に喜び、時には一緒に涙することもある。

人には能力がある。他人の気持ちを推し量り、感情移入する能力だ(以下「能力A」)。

能力Aは敏感すぎても、鈍感すぎても日常生活に支障をきたすことがある。

だから多くの人々は、能力Aをもっていても、自分を守るために敏感すぎず、鈍感すぎずの絶妙なバランスを保って生活している。

それをよく知っている小説家や映画作家は、人が持つ「能力A」をほんのちょっとだけ、己が意図する方向へ、感情という「波」を起こすべく働きかけるのだ。

感情が揺すぶられた、感動した、という作品の優れた点とはつまり、能力Aをいかに無理なくスムーズに必要なだけ発揮させるかということだ。


■ からめる手法

「ラストキング・オブ・スコットランド」は、実在の大統領の人物像をどのように描くかにかかっている。

言い換えれば、いかに人々の「能力A」を発揮させるかにかかっている。

そのための仕掛けが、架空のキャラクターと実在の人物をからめて物語ることなのだ。

実際の出来事をなぞっただけでは、他人の注目を集めつづけることは難しい。そこで、実在したこと、実際に起こったことに注目してもらうためにフィクションを使ったのだ。

そのため、より幅広い多くに人に観てもらえるようドラマ性のあるサスペンス作品となっている。

物語の力はその使い方によっていかようにもなる。

「ラストキング・オブ・スコットランド」は物語の力が存分に発揮された作品だ。どのような使い方で、どのような効果をもたらすのか。その答えはあなたが作品を観てみつけてほしい。


■ その他

「ホテル・ルワンダ」という作品がある。日本でもたいそう話題になった作品だ。

「たか」が観に行った渋谷の映画館は「ここは集会室か!」というぐらいの広さの劇場で、昼に整理券を受け取って、陽が沈みかけた頃にやっと観はじめることができた。満席で前方の席にやたら座高が高い客がいて観にくかった。

それでも連日のようにわんさかとその劇場へ「ホテル・ルワンダ」を観にくる客は絶えなかったようだ。

では「ラストキング・オブ・スコットランド」はどうだろう。わざわざ渋谷の小さな映画館まで行って整理券を受け取り、上映回まで何時間も待つ必要はない。関東地方だけでも20近い映画館で上映しているからだ。

「ホテル・ルワンダ」のときのような、ネットを中心とした口コミをはじめとするムーブメントみたいなものは「ラストキング・オブ・スコットランド」ではあまりないようだ。

ネットでもなんでも使って、多くの人に観てもらいたい作品を口コミで広げるのもいい。だが「ホテル・ルワンダ」であれだけ盛り上げた、または盛り上がった人たちは、いったいどこへいってしまったのだろう。

もちろん「ホテル・ルワンダ」は多くの人に観てもらいたい作品だ。
「ホテル・ルワンダ」とは手法は違えども「ラストキング・オブ・スコットランド」も、当事者である実在の人物像に迫るという道を選んだ作品だ。

話題になっているから観るというのもひとつの「きっかけ」だが、たとえテレビCMもたいして放映していなくても、たとえネットで盛り上がっていなくても「これは!」という作品を嗅ぎ分ける「臭覚」を持てれば、宣伝や広告やブームに必要以上に振り回されることなく、いい作品に出会うことができるだろう。

ちなみに、アミン大統領役のフォレスト・ウィッテカーは本作で第79回アカデミー主演男優賞を受賞した。

▼「ホテル・ルワンダ」作品レビュー

デート   - 
フラっと  ◎
脚本勉強 ○
演出    ○
キャラクター◎
笑い    -
役者    ◎


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