映画「ラッキーナンバー7(Lucky Number Slevin)」
監督:ポール・マクギガン
アメリカ/2006年/111分
のほほん系シットコム風な雰囲気が持ち味の、丁寧な謎解きがあるクライムサスペンス。ルーシー・リューが人懐っこくキュートに見える異色作でもある。そもそも、ユダヤ教のラビとは?
ストーリー(概要)
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友人を頼ってニューヨークにやってきた青年スレヴンは強盗にあい、ギャングのボスのもとに連れて行かれ、敵対するギャングのボスの息子を殺害する「仕事」を引き受けるはめになる。
主な登場人物の紹介
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△スレヴン
△グッドキャット
殺し屋
▽リンジー
女性。
△ボス
ギャングのボス
△ラビ
ギャングのボス
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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のほほん系シットコム風な雰囲気が持ち味の、丁寧な謎解きがあるクライムサスペンス。ルーシー・リューが人懐っこくキュートに見える異色作でもある。そもそも、ユダヤ教のラビとは?
■ わかりやすく丁寧な謎解き
セットアップがいったい何をなにを表しているシーンで、それがどこにどう繋がるかを、軽く頭の体操というふうにストーリーを楽しむ。そんな作品だ。
10年近く脚本をリライトして完成したらしく、作品の冒頭からどんなシーンのどんな些細な部分にもヒントがちりばめられているということで、宝探しゲームかのように注意しながら観るのが「ラッキーナンバー7」の鑑賞法だ。
とはいっても、なにがどうなっているのかを明かす、いわゆる謎解きの部分は実に丁寧である。
もちろん、こういったクライムサスペンスという類の作品を見慣れていない方にとっては丁寧とは感じにくいかもしれないが……いや、やはり丁寧である。
この手の作品のいくつかは、過去のシーンと現在のシーンとが一見すると見分けがつかないようになっていたり、突拍子もないシーン(A)からはじめ、そのあとしばらくしてから(A)につながるシーン(B)をひょいと持ってきたりといった、観る側の物語構築・整理能力を試すかにようなものも存在する。
しかし「ラッキーナンバー7」は、そこそこクライムサスペンスを観たことがある人にとっては、ずいぶんわかりやすく親切に解説してくれるなぁと感じるだろう。
そういうわけで、よく練られた脚本ではあるけれども、クライムサスペンスとして度肝を抜かれる、というような作品ではない。
ではどこが魅力か?
■ のほほん・お気楽系?
主人公の青年スレヴンは、ニューヨークにやってきてすぐに強盗にあったのをはじめ、ギャングに連れていかれて、命の危険にさらされることにさえなる。
友人ニックだって見つからないままにもかかわらず、そのニックのアパートの隣人の女性リンジーと仲良くなって、探偵ごっこをはじめるかのようにイチャイチャする様子からは、緊張感や緊迫感はあまり伝わってこない。
それがこの作品の魅力である。
スレヴンの緊迫感の無さはストーリーを読み解く鍵(キー)でもあるのだが、ギャング、殺しといった題材を扱っていながら、どこか「ほのぼの・のほほん」とした、はじめてのデートみたいな恋愛モードさえ感じることができる。
■ シットコムかのような
のほほん系の理由は、キリリとした強い女性のイメージが強いルーシー・リューが、人懐っこいキュートな女性・リンジーを演じていることにもある。
アパートでのスレヴンとリンジーのやりとりは、どこかアメリカンドラマによくあるシットコムを彷彿とさせる。
シットコムとは、コメディのジャンルのひとつで、シチュエーション・コメディ(situation comedy)のことだ。たいていは固定の登場キャラクターたちが登場して、様々なシチュエーションに遭遇しながら、そこに笑いを取り入れたる手法を用いたもの。
ほら、スタジオ撮りがほとんどで、劇中に観客の笑い声が挿入される「フルハウス」や、「たか」がDVDのプロモーションに関わった「となりのサインフェルド」などが典型的なシットコムといわれている。
そんな雰囲気を感じながら観ていると、なぜか(笑)あのルーシー・リューがすっごくキュートにみえてくる。もちろん彼女はとても魅力的な女優さんであるが、こうした、のほほん系の初々しくも愛らしいキャラクターを演じられると、そのギャップが強調されて、これがクライムサスペンスだということを忘れてしまいそうになる。
おそらく、これは狙ってそうしているであり、この「空気」こそが作品の魅力となっている。
■「よくできたクライムサスペンス」で終わらせないために
クライムサスペンス。冷酷(そうな)殺し屋グッドキャット。
クライムサスペンスにありがちなこうした登場人物と、主人公たち(スレヴンとリンジー)の雰囲気に差があればあるほど、どこか不可思議な独特な印象を観客に与えることができる。
つまり、際立たせるにはどうするか、ということだ。
数あるクライムサスペンスのなかで目立つにはどうしたらいいか。約10年近く脚本のリライトをした目的のひとつは「よくできたクライムサスペンス」で終わらせないことだったのではないかと思う。
クライムサスペンスなんだけれども、まるでシットコムかのような空気もある。でもやはりクライムサスペンスといったところで、際立たせているのだ。
■ ラビ
ラビとはユダヤ教の指導者で、旧約聖書の研究をする知識者であり、律法学者ともいわれる。
新約聖書の4福音書では、イエス・キリストを快く思わない人々として、パリサイ派や律法学者が登場する。
これらの人々はイエス・キリストを陥れようと画策したとされている。
律法を重視するあまり、その本質をみないところを指摘されることがある、聖書に登場するパリサイ派や律法学者たち。作品中のラビも研究熱心のためか、読書台(書見台)で書物を読んでいるところで、ある人物が現われるシーンもある。
このあたりのことをふまえ、なんでギャングのボスがラビなの? というあたりを考えながら意識して観ると、より一層作品を堪能できるだろう。
■ ひとこと
ギャングや殺しといった題材がどうしてもダメな人には向かないが、脚本もよく出来ているし、かといって凝りすぎずにわかりやすく丁寧だし、のほほんとした雰囲気さえもあるので、ちょっと! ちょっと! ちょっと!(ザ・たっち)変わった雰囲気のクライムサスペンスを、という方にはおすすめだ。
デート △
フラっと ○
脚本勉強 ◎
演出 ○
リアル ×
キャラクター ◎
笑い ○
ファミリー ×
雰囲気 ◎