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10/25/2006

映画「夜のピクニック」

監督:長澤雅彦
日本/2006年/117分
原作:恩田陸『夜のピクニック』

それでいいのか宣伝。「種明かし→手品」の順序では手品師の苦労が水の泡。ちょっと毛色の違う映画を楽しみたい、純な気持ちを味わいたい、純な気持ちを持っていることを思い出したい、そんな需要に見事に応えた作品。

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
24時間かけて80キロを歩く、学校の伝統行事「歩行祭」。
甲田貴子は歩行祭で賭けをしようとしていた。それは、一度も話したことがないクラスメイトの西脇融に話しかけるというものだ。
そんな空気を感じ取った友人たちは、ふたりが好き合っていると思い、なにかとふたりを近づけようとする。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
▽甲田貴子
女性。高校生。

△西脇融
男性。高校生。

△戸田忍
男性。高校生。西脇融の親友。

▽遊佐美和子
女性。高校生。甲田貴子の親友。

▽榊杏奈
女性。高校生。貴子と美和子の親友。NYに転校した。

▽内堀亮子
女性。高校生。西脇融に好意を寄せる。

△高見光一郎
男性。高校生。貴子と融のクラスメイト。
ロック好き。昼が苦手。夜が得意。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
それでいいのか宣伝。「種明かし→手品」の順序では手品師の苦労が水の泡。ちょっと毛色の違う映画を楽しみたい、純な気持ちを味わいたい、純な気持ちを持っていることを思い出したい、そんな需要に見事に応えた作品。

■ 基本情報

80キロの行程のうち、60キロまではクラスごとに列を作って一緒に歩く団体歩行。残り20キロは自由に歩く(走る)自由歩行。

歩行祭は24時間かけて歩く。つまり、昼も夕方も夜も朝も歩くのである。


■ え? それでいいの?

このブログのレビューでは基本的にネタバレはしない方向だ。しかし、そんな気を使わなくてもいいらしい。というのは映画「夜のピクニック」は、鑑賞前の基本情報として肝心な点がネタバレされているからだ。

え? バラしちゃってるけど、いいの? というかんじである。

さては、これは表面的なネタバレで、実はもっとスゴい本質的なネタが仕込まれているのかも。と思ったが、そんなことはなかった。

作品の唯一の謎で観客の興味を繋ぎとめておくべき「秘密」を観る前の人々にバラしちゃっていいのだろうか?

いやいいわけがない。人気小説の映画化とはいえ、原作を読んでいない人もたくさんいるのだから、作品の肝となる「秘密」のタネ明しは、作品中で行わなければならない。

どんなに原作者や脚本家が頭をひねって物語を作っても、その宣伝方法によって作品のおいしいところが味わえなくなってしまう。――こんなに悲しいことはない。

例えるなら「手品をみてから→種明かし」と「種明かしをみてから→手品」のどちらがいいだろう?

う~む。宣伝担当者はいったいなにを狙ったのか? 


■ 秘密

甲田貴子が歩行祭で賭けをする。その元になる「秘密」がどれだけ大きなことか。

まずはこれを観客と主人公が共有しなくてはならない。

実のところ、この「秘密」というのは突拍子のないこと、というわけでもない。

「実は私、宇宙人なの」とか「実は私、高校生じゃなくて先生なのよ~!」などというものでなく、まぁそういうことってめずらしけどあるかもね、という程度のものである。

とはいっても甲田貴子にとってはとてつもなく大きなことであり、これまでの人生、とくに高校生活におけるその秘密が占める割合は大きい。なにせ「秘密」の重要な鍵を握る西脇融は同じ学校の同級生であるばかりでなく、クラスメイトであるからだ。

甲田貴子にとって大きな「秘密」が、観客にとってもおおきな「秘密」になったとき、それは登場人物と観客の間に「共有される秘密」となる。

おそらく原作小説では「秘密が共有」されるまでの描写に、かなりのページを割いているのだろう。だからこそ甲田貴子と「秘密を共有」した読者が彼女と共に80キロを歩きつづける(ページをめくりつづける)ことで感動が生まれたのだ。


■ 原作が小説である場合の苦心点とは?

小説は時間旅行が得意だ。

「時間軸A」を過去から未来へ移動している最中でも、主人公はなにかのきっかけでスゥッと違和感なく過去の記憶・場面へ移動できる。

ところが映像作品の場合はそうもいかない。
主人公が過去へ思いを馳せる場合、過去シーンが長いと「時間軸B」におけるメインのストーリー進行を妨げてしまうからだ。

というわけで、映像作品の場合はいかに回想シーンを使わずに、観客に必要な情報を提供するかに苦心するのだ。


■ 賭けをしていることを観客にどう伝えるか

まずは甲田貴子が歩行祭で賭けをしており、それがどんな意味を持つのかを観客に知らせる必要がある。いったいどう知らせるのか。

賭けは親友にも秘密のため、歩きながらの親友との会話を使うわけにはいかない。そもそも親友たちとの会話は、甲田貴子と西脇融が好きあっている同士なのではいかというミスリードを誘う仕掛けの役割を担っているのであるから、そこに作品の肝となる「秘密」を臭わすわけにはいかないのである。

そこで甲田貴子の「想像世界」で伝えることにした。つまり、観客席に自分とクラスメイトたちがいる場所を用意し、舞台上のキャラクターが甲田貴子の賭けを読み取り、それとなく示唆する、といったものにしたのだ。

原作小説ではこのあたりがどうなっているのか(映画と同じようなかんじなのか)わからないが、映画を観る限りでは、かなり苦心している様子が窺い知れる。

とはいってもこうしたシーンで使われるVFX効果の使い方には意味があるのでOKだ。


■ いい仕事をしてるキャラクター

ただ歩くだけ。しかも80キロ中60キロは列を作って一緒に歩く団体歩行だ。そこにイベントを仕込むとなるとかなり苦心する。

ここで助けとなるキャラクターが、高見光一郎と内堀亮子である。

高見光一郎はロック好きで、いわば夜行性。昼は足元がフラフラでいつ歩行祭をリタイアしてもおかしくないぐらいにヘナチョコだ。しかし夜になると一転して元気一杯。今流行り(?)のエアギターテクバリバリ! というかんじで歌い踊りながらのハイテンション。将来は自分のような人たちを勇気づけたりみんなを元気づけたりする仕事をしたい! と夢まで語ってみせるのだ。

内堀亮子はいわゆる学校のマドンナ的存在で、そのかわいらしさによって男子生徒をメロメロにしてしまう。そんな自分の魅力を十分に知っている彼女は、気になった異性に次から次にアプローチしていく。まるで恋という名のゲームを楽しむかのように。

そして内堀亮子の今回のターゲットは西脇融だ。貴子の友人たちからすれば、内堀亮子は恋のライバルというか
邪魔者である。

そのため、高見光一郎を含む甲田貴子の友人たちは連携して西脇融から内堀亮子を引き離そうとする。

この連携プレーによって甲田貴子は賭けに勝つことができるのだ。

逆をいえば、高見光一郎と内堀亮子がいなければ、歩くだけの中に「きっかけ」を作ることはなかなかできない。
高見光一郎と内堀亮子。キャラクターとしてちゃんと役割を果たしている。いい仕事してますな。


■ 絵に描いた餅

10代の若い男女が登場となれば題材は「恋」。そんな期待をやんわりとしなやかにかわしてみせる「秘密」の設定は、原作者の腕のみせどころなのだろう。読者(観客)の期待をスッと外してみせるあたりは「純愛ブーム」と違う己が道をしっかり持っているようで原作者に興味がわいた。

ところが登場人物たちにパンチがない。

多くの宮崎駿関連アニメに登場するキャラクターを思わせるかのような「無菌培養された純粋無垢な少年・少女」ばかりだ。

例えば宮崎駿関連作「千と千尋の神隠し」は、けっして優等生ではないどこにでもいそうな無気力系少女・千尋を主人公としたことで、それまでの優等生キャラクターが多かった作品群とは違ったものとなった。そういう意味で「千と千尋の神隠し」は宮崎駿関連作では節目となった作品だ。

さて「夜のピクニック」ではどうだろう?
登場人物たちにはみな基本的にいい子たちばかりである。

皆さんも自分が10代の頃を思い出してみてほしい。今思えば、おどろおどろしい、とても人にはいえないような闇の面を持っていたと当時を振り返る方もいらっしゃるだろう。それが普通である。

「夜のピクニック」にはそういった生身の生徒は登場しない。どのキャラクターも物語構築上の表面的な役割は持っているが、作品に深みを与える裏面的な深みは感じない。きれいなところだけを掬い取ったかのようである。

もともと、深みのあるキャラクター設定・構築は苦手なのか?

人間の、とくに若者の心の闇をも描けばとてつもなく大化けしそうな予感はあるのだが……。
いや、逆をいえば裏(闇)の部分をばっさり切り捨てたからこそ第2回本屋大賞を受賞することができた、といういい方もできるだろう。


■ ひとこと

おそらく原作者は需要をよぉ~く知っているのだ。懐かしくも胸がキュンとなるような切なく心地よい物語世界を構築することにあえて徹したのだと思う。それも小説という格好の舞台で。

だから、これを映像化するにはいくらか難しいところがある。こうした映像化に多少無理がありことを承知で、さらにアナタが純粋無垢な気持ちをまだ少しでも持っているなら、きっと心がジーンがくるに違いない。

甲田貴子役の多部未華子さんは、ほぼ出ずっぱりである。あまり笑わない役どころだが、それゆえに作品の終盤にみせる笑顔によって一瞬で雰囲気を作り出す力にはハっとさせられた。将来が大いに期待できる女優である。

旬の女優・加藤ローサも出演しているが、NYに引っ越してしまった親友という役どころなので、思ったよりも出演シーンは少なかった。

10代の登場人物たちのセリフやリアクションがリアルちっくで、若者をかなり観察・分析して丁寧に作っているように感じた。

それにしても「秘密」のための「恋」のミスリーディングや仕掛けが、宣伝のネタバレによって台無しになっているのは観ていてツライ(>_<)

たとえどんなにいい作品でも宣伝とうまくリンクさせなければヒットするものもヒットしない。逆をいえば宣伝さえうまくすれば、普通はヒットしないような作品でもそこそこヒットさせることができるのだ。

ちなみに作品と宣伝まで含めた手法でたいへん参考になるのはM・ナイト・シャマラン監督である。

ファミリー  - 
デート    ○
フラっと    △
脚本勉強  -
演出     ×
笑い     -
リアル    △
人間ドラマ △
社会     -
青春    ○

4103971053夜のピクニック
恩田 陸
新潮社 2004-07-31

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