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10/29/2006

青春映画のつくりかた―未来へ?過去へ?―


映画「夜のピクニック」のレビューを読み返してみると、あまり誉めていないような印象を受けた方もいらっしゃったかと思う。

だが、私の個人的な感想としては、とてもよかった。

私は青春映画が好きであるからいくらかは甘い評価になりがちかもしれないが、どんな作品のレビューでもなるべく客観的な視点も入れつつ書くので、あのようビューになったのだ。


■ 現役とOB

さて、青春映画というお題で考察するために、同じジャンルの映画「キャッチ ア ウェーブ(CATCH A WAVE)」≪監督:高橋伸之 日本/2006年/116分 原作・脚本:豊田和真「キャッチ ア ウェーブ」(角川学芸出版)≫と比べてみよう。

映画「キャッチ ア ウェーブ(CATCH A WAVE)」作品レビュー

「キャッチ ア ウェーブ」の原作は、原作者の豊田さんが高校1年の夏に書き上げた同名小説である。

ちなに豊田さんは映画『サイン』を観て将来は映画監督になろうと決めたそうだが、まずは原作かなということで小説を書いたという。

男子高校生が夢に描いた青春の1ページがぎっしりと詰まっているのが「キャッチ ア ウェーブ」である。

そこには現役高校生でしか書けないものがある。現役の力に反応した「青春」を共有する読者・観客は彼の作品を応援したくなる。それほど夢・願望をストーレートに描いている作品なのである。

つまり、男子高校生の夢を想像力と物語構築力をもって(荒削りだがそれも青春というテーマにがっちり合致〈笑〉している)作りあげたのが「キャッチ ア ウェーブ」なのである。

もちろん私もそういった男の子の溢れる空想・想像を物語という形にする気合と実行力はとても好きである。

一方映画「夜のピクニック」の原作は、恩田陸さんの同名小説である。恩田陸さんは女性で、実際に歩行祭のようなことが行われていた(いる?)と噂の茨城の高等学校の出身らしい。

とういわけで「夜のピクニック」は実際の行事を元に、そこに女性の目線での想像力を働かせて作った作品といえよう。


■ どんな「感情」が提供されるか


男性目線の「キャッチ ア ウェーブ」は、実際にはまぁ言わないだろうと思わせるセリフが多い。まるで青春ドラマのワンシーンかのような言い回しがほとんどである。

これに対し「夜のピクニック」では、実際の会話に近いかのように思わせるセリフが多い。それがよく活かされていると思ったのは映画のはじめのほうの、歩行祭の出発地点に甲田貴子がやってきたときの長回しのシーンにみてとれる。

まるで映画「スネークアイズ」の冒頭の長回しを思わせるそのワンカットでは、出発地点に到着した甲田貴子の目線を軸に、同級生達が出発前のひとときを思い思いに過ごしている様子が描かれる。そのときの生徒達の振る舞いと会話が普通っぽいのだ。

こういった冒頭の長回しによって「そうそう、学生のときにこんな会話よくしていたよね」という思いと共に、あたかも自分が映画の登場人物のひとりになったかのように歩行祭に参加するかのような気持ちにさせてくれるのである。

では、2作品の比較をまとめよう。

●「キャッチ ア ウェーブ」は想像力を最大限に発揮してより多くの人々の願望・希望という感情を提供する。

●「夜のピクニック」は現実を元に実際に近いセリフを多用して、ほろ切ないノスタルジックな気持ちという感情を提供する。


題材は同じ「青春」でも、一方は「願望」という感情を売り、もう一方は「ノスタルジック」という感情を売る。


■ 方向性―過去と未来―

「キャッチ ア ウェーブ」の豊田和真さんは1988年生まれ。豊田さんが高校1年の夏に書き上げた小説が「キャッチ ア ウェーブ」である。

高校1年の夏。いままさに高校生活がはじまったばかりの夏に書いたのだ。この意味するところはとてもつもなく大きい。いまはじまったばかりの現在進行形の「青春」のなかから生まれた青春小説の矢印は「未来という願望」に向かっているのだ。


「夜のピクニック」の恩田陸さんは1964年生まれ。恩田陸さんが「夜のピクニック」をいつ書いたのかはわからないが、おそらく高校を卒業していくらか経ってからのことだろう。そうでなければ、あのようなほろ
切ないノスタルジックな感情を、狙いすましたかのように呼び起こさせせることはなかなか難しい。なぜなら「青春」と「ノスタルジー」は同居しにくいからだ。

まぁ青春作品といわれているものの大半はおじさんやおばさんが書いているのだから、過去を振り返って自分の青春時代に思いを馳せつつ、資料を集め、想像力を働かせて書くというのがほとんだ。

過ぎ去りし「青春」を振り返って生まれた青春小説の矢印は「過去という記憶」に向かっている。


■ マーケティングの甲斐も宣伝で……。

小説「キャッチ ア ウェーブ」と、第2回本屋大賞を受賞した小説「夜のピクニック」とでは発行部数はどちらがどのくらい多いのだろうか?

おそらく「夜のピクニック」のほうが多いのではいか。

なぜなら「キャッチ ア ウェーブ」にド真ん中の読者層は若者たち(特に男)であり、彼らは小説を読むよりも自分たちの青春を謳歌している最中だからだ。それでも小説が注目されたのは、そういった男の若者の願望がよくわかるおじさんたちの心をも掴んだからである。

「夜のピクニック」にド真中の読者層は20代後半から30代後半といったあたりであろう。彼ら(彼女ら)は、小説を読むことで過ぎ去りし「青春」を追体験して、なつかしくも切ないあの「感情」をほしいと願ったのだ。

本のヒットという点では、そのターゲット絞込みと需要の点において「夜のピクニック」は心憎いほどに上手だ。

本一冊読む時間はなんとか見つけることができて、本一冊買うぐらいの余裕はもちろんあって、かつては10代だった人たちの数というは、現役高校生よりもずっと多いのだから……。

このようにちゃんと研究して上手に書いた「夜のピクニック」も、映画化による宣伝段階でネタバレされてしまうというのは、ほんとうにもったいないなぁと思う。

宣伝担当は恩田陸さんにどんな顔をして会うことができるのだろう。もちろん、宣伝段階でのネタバレを恩田陸さんが了承していのかどうか、そのあたりのことはまったく不明なのだが……。


■ 実はしたたか?

この点においては映画「サイン」を観て映画監督になろうと決めた「キャッチ ア ウェーブ」豊田和真さんのほうが、作品の内容と題材と宣伝については長けていると想像することができる。

「キャッチ ア ウェーブ」の登場人物のひとりである、サーフボードショップの店長役はあらかじめ竹中直人をイメージして書いたというし、一見すると荒削りなところも「青春」というテーマに合致させるためにあえてそうしたかのようにも受け取れる部分がある。

なにせ豊田和真さんは、宣伝のほうが面白いのではいかと思わせるあのM・ナイト・シャマラン監督作品を観て映画監督になろうと決めたのだ。それも「サイン」である。

「サイン」については賛否両論で、これについて語り始めると長くなるのでここではやめておくが、とにもかくにも、作品のプロデュースまで含めた点では豊田和真さんのほうが気を使っている様子がうかがえる。


■ ひとこと

どちらの作品も(たかは映画しか観ていない)青春作品としておすすめできるので、ぜひ両作品を見比べてほしい。

青春系作品における「現役」の力と重要性は、いわゆる少女漫画の作者が10代に近い年齢層であることが多いことからもわかるだろう。

現役だから、現役(とそれに近い層)にしかウケないわけではない。
現役+工夫をすれば、OBのノスタルジィ狙いの作品よりも大きくヒットする可能性はじゅうぶんすぎる程ある。

がんばれ現役生!

ってどこかの予備校の宣伝フレーズみたいになってしまった(笑)

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