劇場版アニメ「時をかける少女」
監督:細田守
日本/2006年/100分
原作:筒井康隆『時をかける少女』角川文庫
いい意味で敷居が低い、物語づくりにおけるビックキーワードをしっかり練り込んだ「走れ真琴」の良質アニメーション作品。これなら評判がいいのもごもっともだ。
ストーリー(概要)
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ある放課後。紺野真琴は学校の準備室で転び、タイムリープ(時間跳躍)できるようになる。
ちなみにタイムリープとは、時間と場所を一気に跳躍して現在とは別の
時間・場所にとんでいく超能力のこと。
主な登場人物の紹介
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▽紺野真琴
女。高校生。成績は中の下あたり。得意なスポーツがあるわけでもなく、暇つぶしにキャッチボールをするぐらい。
△間宮千昭
男。高校生。紺野真琴のクラスメート。数学だけが得意。
△津田功介
男。高校生。紺野真琴のクラスメート。医学部志望の秀才。スポーツもできて、女子生徒にもモテる。
▽芳山和子
女。紺野真琴の叔母。30代後半未婚。美術館で絵画の修復を担当。真琴いわく「魔女おばさん」。
▽藤谷果穂
女。高校生。紺野真琴の後輩。ボランティア部所属。津田功介に恋心を持つ。
▽早川友梨
女。高校生。紺野真琴のクラスメート。間宮千昭に気がある。
▽紺野美雪
女。中学生。紺野真琴の妹。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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いい意味で敷居が低い、物語づくりにおけるビックキーワードをしっかり練り込んだ「走れ真琴」の良質アニメーション作品。これなら評判がいいのもごもっともだ。
■ 身近な主人公
主人公・紺野真琴は17歳の高校2年生。ごくふつうの高校生だ。そろそろ進路を決めなければならない。けれどもまだ決まらない。
女友達がまだ進路を決めていないのにちょっぴり安心しつつも、いつも一緒にいる秀才の津田功介は医学部進学を決めており、夏休みは勉強するという。けれど、もうひとりいつも一緒にいる千昭はまだ進路が決まっていないみたいだ。
多くの人がこういう時期を経験する。進学か就職か。はたまた留学か。ほかにとりあえず上京して思い描いた自分になるべく歩き出すか。
周りのクラスメートはどんどん進路を決めていく。けれども自分は特に何か得意なことがあるわけでもなく、特にやりたいことがあるわけでもない。
がんばって勉強すればどこかの大学や短大に進学できるだろう。就職を希望して探せばどこかに勤めることもできるだろう。
でも、自分がどうしたいかまだわからない。でも決めなくてはならない。
こういった時期というのは多くの人が経験してきたことである。たとえ端からみれば早々と進路を決めた者であっても、いろいろと考え、悩んだ末の進路だったはずだ。
もしも主人公が14歳からモデルとして活躍しており、高校在学中から週末は新幹線や飛行機を使って東京に飛び、モデルの仕事をバンバンこなしているとしたら?
高校卒業を機に海外でショーモデルとしてデビューすることが決まっていたら?
そんな主人公は特別であり、とても自分(観客)とは重ね合わせることはできないだろう。
主人公・紺野真琴17歳の高校2年生。ごくふつうの高校生だ。
キャラクター設定ですでに基本をしっかり抑えている。
これが観客の主人公への感情移入の第1段階である。
■ 半径3メートルの世界
タイムリープ能力を身につけた真琴がそれを何を使うか。真琴は自分の欲望と都合のためにこれを使いまくる。
もしも、能力のはじめての使い方が世界を救うだったら?
ふつはありえないことだ。なぜなら、そもそもどうやったら世界を救うことができるのか? と考えるところからはじめなければならないからだ。
たいていは、人が「世界」というときの「世界」とは「自分を取り巻く半径3メートル以内」のことである。
家族・友人・学校・職場・趣味のサークル。これがいわゆる半径3メートルだ。
住んでいる町。これが半径1キロメートル。住んでいる区・市。これが半径100メートル。住んでいる度道府県ともなるといったいどのくらいか。
では半径3メートルの中心はどこか?
世界の中心で「世界の中心はアタイよ~」と叫ぶ、というわけじゃないが、世界の中心は自分である。
身に付けた能力を何に使うか。まずは世界の中心にいる自分のための使うのである。それが最も自然で最も頷きやすい使い方である。
紺野真琴はタイムリープ能力を、多くの人々が頷ける「自分のために使いまくる」のである。
これが観客の主人公への感情移入の第2段階である。
■ 能力を何に使うかを考える
はじめは自分の欲望と都合のために能力を使っていた真琴だが、やがてあることに気づく。
自分が能力を使うことによってだれかが損・被害を被っていることに気づくのだ。
そこで今度は自分の行いを修正するために(他人を不幸にしないために)能力を何度も使うが、なかなかうまくいかない。
これを映画「タイムマシン(THE TIME MACHINE)」(サイモン・ウェルズ監督/2002年/アメリカ)作品レビューと比べてみよう。
映画「タイムマシン」では、主人公アレクサンダーは愛するエマを取り戻したいがために、過去だけでなく未来へも旅をする。
アニメ映画「時をかける少女」では、まずは自分のために「時をかけ」て、次に自分の行いを修正するために(他人を不幸にしないために)能力を使う。
時間を旅する能力は同じでも、一方は愛する人を取り戻すために時間旅行をして、やがて大事なことに気づく。
もう一方は自分のために能力を使い続けるうちに、徐々に自分の外へ視野が広がっていき、やがて大事なことに気づく。
時間旅行のはじまりは異なっても、ゴールはほぼ同じだ。
■ いい意味で敷居が低い
注目すべきところは、時間旅行のはじまりとその過程が普通の人の行動っぽいところがアニメ映画「時をかける少女」の、いい意味で敷居が低いという点だ。
いうなれば、タイムリープ能力を身に付けた紺野真琴の目線は多くの観客と同じ目線である。だから、たとえ今は心から愛する人がいないかもしれない人でも、紺野真琴の行動には共感しやすいのだ。
いま愛する人がいる人は映画「タイムマシン」が向いている。映画「タイムマシン」の場合は、まずは主人公アレクサンダーがいかにエマを愛しているかを観客にわかってもらわければならい。だから作品の冒頭でアレクサンダーはエマにプロポーズしようとして、そこで暴漢によってエマが倒れるのだ。
アニメ映画「時をかける少女」では、主人公・紺野真琴には明確に意識している愛する人はいない。将来どうなりたいかのもわからない。将来についての漠然とした不安があるだけだ。
漠然とした不安。これこそ時代を象徴する言葉であり、青春とセットで使われる言葉でもある。
■ キャッチボールの役割・効果
真琴の状況をもっともよく表現しているのが、作品の冒頭(セットアップ)のキャッチポールのシーンだ。
キャッチボールと野球の遊び(3人しかいないためバッター、キャッチャー、センターぐらいなもの)に象徴される、コミュニケーションを図ろうとしつつも、よそ見をしたりでうまくボールをキャッチできないでいる主人公たちの様子は、真琴たちの現状をうまく表現している。
○プロポーズと死
○キャッチボール
どちらがより身近かといえば(生と死は表裏一体という意味では最も身近なのは「死」だが)ここでは一般的な意味でいうと、キャッチボールだろう。
どんな作品も冒頭、つまりセットアップを観ればだいたいわかってしまう。
キャッチボールはベタだが、それでも使う意味がきちんとある。ストーリーが進むにつれてキャッチボールの人数を変化させることで、主人公たちに気持ちの変化を表現もできるし、はじめとおわりをキャッチボールで挟む(サンドイッチにする)ことで、まとまり感も演出できるのだ。
■ 物語づくりにおけるビックキーワード
サバイバル。恋心。未来。不安。青春。
だれもが、あるある! と思わず頷いてしまう青春の1ページが、地味だが丁寧に織り込まれている。
たとえば真のクラスメートの早川友梨が間宮千昭に気があるところだ。本当は真琴も千昭のことが気になっている。けれどそれをはっきり意識したことがなかったけれど、早川友梨に千昭のことを聞かれる度に、自分も千昭のことがどんどん気になっていく。たとえ真琴がそれをはっきり意識していなくてもだ。
また、千昭は進路が決まっていない。真琴と功介と3人で毎日キャッチボールする毎日が居心地が良くて、ずぅっとそんな毎日がつづけばいいと思ってしまうあたりは、気の合う仲間と朝まで語り明かした若かりし日々を目を細めてなつかしむ者にとっては大いに共感できるところである。
このように、未来への不安・恋心→青春がきっちり織り込まれているのである。
さて、この青春の1ページにはサバイバルも加わる。
「サバイバル」は強力な欲求だ。
真琴は作品の早い段階で、己のサバイバルでタイムリープ能力を覚醒した。そして、作品の後半では大事な人のサバイバルのために奔走する。
「青春」というビックキーワードで感情移入をしっかりさせてから「サバイバル」というビックキーワードで一気に緊張感を高めているのである。
■ 走れ真琴
真琴はイマドキの高校生っぽいが、映像作品に合うようになっている点をあげるとすれば、よく動くことだ。
そもそも、語るより見せろ、が基本の映像作品はアクションと相性がいい。
真琴は毎朝のように遅刻ギリギリで家を飛び出す。坂を自転車で下り、踏み切りの手前ギリギリと止まったり、チャイムが鳴るギリギリに教室に着いたりと、作品のはじめからよく動く。
また、作品の後半で友人を助けたいために一生懸命に走るシーンがある。ここではとにかく走る。走る。走る。
サブ監督の「弾丸ランナー」を思い出させるほど走るのだ。しかも走っている真琴のカメラ位置がおもしろい。
走っている真琴の顔のアップを真横から撮る位置にカメラがあり、走り続ける真琴の顔がカメラのフレームよりも遅れて外れてしまいそうになるが、もっとがんばって加速して再びカメラのフレーム内に入ってくる、といった撮り方をしている。
走っているキャラクター(真琴)の横顔のアップを長回し(30秒以上はあったと思う)しているだけなのだが、カメラのフレームのちょっとした使い方で必死に走る様子がよく伝わってくるのだ。
物語の舞台は、都内とその近郊を中心としたいくつかの場所を元に設定された町。住宅地のロケハン先は中井、谷中、上野、荒川、千葉、幕張、荻窪といったところだ。
ということは、実際は30秒以上おもいっきり走り続けられるような町ではないはずだ。なぜなら、信号機がたくさんあるからだ。
もし、町中の風景が入った走るシーンを作ろうとすると、どうしても他の通行人や信号機の問題が出てくる。
信号機で止まってばかりでは「走る」というアクションが途切れて台無しになってしまう。
この点、キャラクターの横顔アップのカメラフレームを使った撮り方はなかなかおもしろいなぁと思う。
■ ひとこと
なるほど。これなら評判がいいのがわかる。
原作や過去に作られた映画とは、タイムリープ能力は同じでも、内容は違う。
大林宣彦監督、原田知世主演の「時をかける少女」を観た人でも、新鮮味を持って観られるようになっている。
今回ご紹介した劇場版アニメーションでは、原作の芳山和子が叔母として登場しているぞ。
最後に、アニメとして、劇場版アニメ「時をかける少女」とジブリ映画「ゲド戦記」のドライバーの腕(脚本)を比べると、例えるならF3000ドライバーとゴーカートドライバーぐらいの差がある、と付け加えておこう。
ファミリー ○
デート ◎
フラっと ◎
脚本勉強 ◎
演出 ○
笑い △
リアル ○(キャラクター設定)
人間ドラマ ○
社会 ○
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Comments
TBありがとうございました。
コチラからも送ったのですが送信失敗になってしまい
残念です。
少年テレビドラマシリーズのころは
SF色が強くておっかなびっくりだったはずのタイムトラベルも
平成版アニメになるとこうも変わるのかと
はじめはびっくりしましたが、
夏のピーカンな青空みたく爽やかで好印象でした。
Posted by: Ageha | 10/20/2006 16:50
>Agehaさん
コメントありがとうございます。
そういえば、青空の下でキャッチボールって、青春っぽくてさわやかですよね。SFっぽくないところが平成版なのかもしれませんね☆
Posted by: わかスト管理人たか | 10/21/2006 21:06
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