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09/02/2006

ゲド戦記考察~脚本講座の生徒でもふつうはこうする~

「ゲド戦記(TALES from EARTHSEA)」作品レビュー

さて、評判がイマイチな「ゲド戦記」だが、その原因にてついては↑のレビューで書いた。

ダメだしをするだけなら簡単なので、今回はもう一歩踏み込んで、どうすればもう少し良くなるのかを考えていきたいと思う。

題して『脚本講座の生徒でもふつうはこうする』!

と張り切ってみたものの……いかん。「ゲド戦記」を観てからもうだいぶ経っているので、細部まで思いだせないかもしれない(^_^;)

ということで、思いついたことから書いていこうと思う。


■ アレンの旅立ち。

作品の冒頭、父王を刺したアレンはすぐに旅に出ている。って早ッ!

思い出してほしい。スターウォーズシリーズエピソード4でルークは田舎の星で叔父夫婦と暮らしている。

すぐにでも冒険に出たいと思っているが、なかなかそんなチャンスがない。

ロボットを買ったことがきっかけでオビ=ワンに出会い、やっとのことでレイア姫救出のために星を出ることができる。

スターウォーズシリーズが古今東西の神話の形式を取り入れているのは有名だ。ということは、あらゆる神話・物語の基本においては、主人公はすぐには旅立たないのである。

すぐにでも旅立ちたいと思っていても、なんらかの設定上の障害(コンフリクツ)があってそうもいかない。

そこへ外部からってきたある人物がきっかけで、障害(コンフリクト)またはカセといわれるものを取りはらい、やっと主人公が旅立つ。

このように、旅立つまでをきちんと描かなくてはならないのだ。なぜなら、主人公がなぜ旅に出たいと思っているのか、旅にでてどうするのかがわからなければ観客は主人公を応援できないからだ。

主人公が旅立つ動機と目的をはっきりさせて、それがいかに大事かを伝え、旅立つ前の困難を一緒に乗り切って魅せる(魅力的にみせるの意味)ことで観客は主人公を応援したいと思うのだ。

これを観客による主人公への感情移入という。

○アレンがなぜ旅立たったのか(動機)。

○アレンはどこへなにをしにいここうとしているのか(目的)。

まずはこれをじっくり描くべきなのだ。


■ やさしさをにじませる

クライマックスで少女テルーは、魔法使いクモ(いわゆる悪役)に、闇は闇に帰れ、といった意味のことをいう。

これには驚いた!

思い出してほしい。私が大好きな「千と千尋の神隠し」で千となった千尋が油屋で働いているとき、フラッと現れたカオナシに千はなんと言ったかを。

油屋の縁側の外の庭にぼぉ~と立っていて一向に中に入る様子を見せないカオナシに向かって、あっちへ行けよ、なんてことは千は言わなかったはずだ。

ここ、開けておきますね。

といった意味のことを言って、縁側の扉を開けたままにして自分の仕事に戻ったはずだ。すなわち【受け入れた】のである。

「ハウルの動く城」で魔法をかけれておばあさんになってしまったソフィーがハウルの動く城にやってきたとき、ハウルはソフィーを追い返しただろうか。

いやそんなことはない。ソフィーはカルシファーとうまく話をつけて火を使えるようにして卵とベーコンを焼いてみせた。それがきっかけで動く城の掃除や食事づくりなどをするようになったのだ。

ハウルもカルシファーも、ハウルの動く城の住人はソフィーに出て行けなんてことはいわずに受け入れたのである。
そしてソフィー自身も、荒地の魔女を受け入れて世話をしたのだ。

闇は闇に帰れ。

このセリフを聞いたときに、これはマズいぞ、と思った。
なぜなら、たとえ悪役でもこれを受け入れることで主人公の成長が描けるのに、これをバッサリ切り捨ててしまったのでは、さてほかにどのように成長を描くとっておきのものがあるものやら、と思ったからだ。

実際には「とっておきのもの」は見当たらなかったわけだが……。

悪役はあくまで主人公を引き立たせるためにあるのであって、悪は悪として叩き潰すだけでは物語に奥行きは出せない。

ぜひ受け入れる姿勢と心意気を示してほしかった。


■ 脚本講座の生徒でもふつうはこうする

この際、原作「ゲド戦記」は棚に上げて、脚本講座の生徒でもふつうはこうするというのを提示してみることにする。


好き勝手やっているやんちゃ兄王子(長男・主人公)
弟王子がすこぶるまじめで人望も厚く次期王にとの声が多い。そのためやんちゃ兄王子は弟王子を憎んでいる。

 ↓

遊びたくて、一旗上げたくて無理を言って父王の財産を分けてもらい旅立つ兄王子。

 ↓

分けてもらった財産で傭兵団を作り、父王の名を借りずに自分の名を上げようとする。しかし腕は立つが野心が強くて部下の信頼を得られず、大事な戦で部下の裏切りにあって敗戦。やがて資金が尽き、傭兵団は消滅する。

 ↓

傭兵団でやんちゃしたツケで首に懸賞金をかけられてひとり逃げる日々。
やがて食べるものにも困り、奴隷になる。

 ↓

奴隷の漕ぎ手として商船に乗り込まされた主人公は、それまで偏見を持っていた異国の青年奴隷に助けられ、危険が伴ったいくつもの航海を乗り切る。

 ↓

ある航海で嵐にあい、船もろとも置き去りにされそうになったところで異国の青年奴隷と力を合わせて奴隷見張員から鍵を奪い自由の身になる。このとき他の奴隷も解放する。船は沈没。嵐の海を生き延びて島へ漂着。

 ↓

生き残った元奴隷たちと共に島で暮らす。共同作業を通して異国人への偏見をなくし、友人を得る。島の娘と恋に落ち、愛情を育む。
友情と愛情を得た主人公は、遠い噂で弟王子が戦地で窮地に陥っていることを知る。

 ↓

元奴隷で友人になった者のなかには元軍人や没落貴族がいた。そこで船を調達して没落貴族の隠し財産がある島へいき、資金を手に入れ、元軍人たちが声をかけて集めた猛者たちと共に義勇軍を結成する。

 ↓

義勇軍を率いた兄王子は、弟王子を救うべく救援に向かう。

 ↓

弟王子の軍を助け、大勝利を収める義勇軍。
助けてくれた義勇軍の長が兄王子だと知った弟王子は、たいそう喜んで駆け寄る。
するとかつてのやんちゃ兄王子(主人公)は弟王子の足元にひざまづいてこう言う。
「自分は勝手に国を出た身。あなたの家来にしてください」
すると弟王はこう答えた。「父は1年前に亡くなりました」
そして主人公を立たせてその手を高く掲げる。「わが兄、わが国王に祝福を!万歳!」


タイトルは「王の帰還」。

っておもいっきりパクリではないか!(笑)

そもそも「ゲド戦記」と関係ない話になっているではないか。

タイトルだけではない。この展開は主に3つの有名な物語の要素をふんだんに取り入れている。

ひとつは「ベン・ハー」。さらに「グラディエーター」

「グラディエーター」は「ベン・ハー」を研究して、ほかに旧約聖書のヨセフの物語なども取り入れた作品であることはピンとくる作品だ。

そして3つめは「放蕩息子の話」である。

「いなくなった息子」ともいわれるこの物語は、新約聖書のルカによる福音書第15章にある。
こちらは弟息子が主人公だ。彼は財産を分けてもらって町に行き、さんざん遊んでいたらお金がなくなり、友達もいなくなり、飢饉になって豚の世話人になった。
お腹が空いて豚の餌を食べたいと思ったときにようやく我にかえり、父の家に帰って使用人として使ってもらおうと出発する。
父は、息子がまだずっと遠くにいるのにその姿をみとめ、走って迎えにいって、帰ってきた息子のために祝宴を開いた。

こういった有名な物語をつなぎ合わせてサッと思いつくまでに書き出してみたのだが、いかがだっただろうか?

ほかにも奴隷となった主人公が、それまで偏見を持っていた異国の青年に助けられて友人になるというのはエドワード・ノートン、エドワード・ファーロング出演の映画「アメリカンヒストリーX」に似たようなプロットがあるのを思い出したので取り入れてみた次第である。


■「ゲド戦記」でわかること

思いつきでサッと書いてみた「脚本講座の生徒でもふつうはこうする」は、ちょっとでも脚本を読んだことがる人なら、いやちょっとした映画好きならだれでも思いつくことだ。

まして、ヒット作をいくつも制作しているスタジオがこうした物語構築上のお約束(基本形)を全くといっていいほど無視するとは、普通ならば考えられないことだ。

あるとすれば、とんでもないドンデン返しのためにあえて基本をすっ飛ばしたと考えるしかないのだが……どうもそうでもないらしい。これはスタジオジブリの悲劇といってもいいのではないか。

スタジオジブリに必要なこと。
それは、優秀なアニメーターという腕のいい職人さんたちが存分に力を発揮できる環境を未来にわたって構築していくことを、いますぐにでもはじめることだ。

「ゲド戦記」を観て切にそう思った次第である。

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