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ブギーマン(BOOGEYMAN)

監督:スティーヴン・ケイ
アメリカ/2005年/90分

映画マーケティングでヒットを飛ばすプロデューサー、サム・ライミ製作のショッキングホラー。ホラーとデートムービーの組み合わせが米でヒットの秘訣。押し入れ文化と直球恋愛モノが主流の日本ではヒットは難しい。需要と供給、マーケティング、アメリカ合衆国、演出法、カメラワーク、笑いが大いに勉強になる。ぜひ「呪怨シリーズ」「輪廻」とセットで鑑賞しよう。

ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
15年前の夜。幼い子供だったティムは自室のクローゼットから出現した怪物ブギーマンに父親をさらわれる。
それ以来クローゼット恐怖症になったティムだったが、青年となった彼は編集者として仕事も順調で、結婚を考える恋人もいる。
ある感謝祭のホリディシーズンに母親が亡くなり、田舎に戻ったティムは怪物ブギーマンと対峙する。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△ティム
 20代男性。編集者。

▽ジェシカ
 ティムの恋人。

∇ブギーマン
 アメリカにおいて有名な想像上の化け物(お化け)
 『ハロウィン』シリーズの殺人鬼とは関係ナシ。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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映画マーケティングでヒットを飛ばすプロデューサー、サム・ライミ製作のショッキングホラー。ホラーとデートムービーの組み合わせが米でヒットの秘訣。押し入れ文化と直球恋愛モノが主流の日本ではヒットは難しい。需要と供給、マーケティング、アメリカ合衆国、演出法、カメラワーク、笑いが大いに勉強になる。ぜひ「呪怨シリーズ」「輪廻」とセットで鑑賞しよう。

■ 万人にウケるように作るとモンスターズインクになるネタ

クローゼットやベッド下に潜んでいるかもしれないお化けのことをアメリカ合衆国ではたいてい「ブギーマン」と呼んでいるそうです。

子供がいうことをきかないと親は「ブギーマンがやってくるゾ」と言ってよい子になるよう諭すような使い方をされるのが一般的らしく、それは日本の東北・秋田県の地方でいうところの、わるい子はいねか~、でおなじみの「なまはげ」みたいなものと思えば近いかもしれません。

「なまはげ」は年末や陽暦一月一五日あたりに出現すると決まっていますが、ブギーマンはいつ現われるかわかりません。

部屋のクローゼットの扉が少し開いていることに気づいてしまったら、いつブギーマンが現われてもおかしくないのです。

似たような話をどこかで聞いた(観た)ことはありませんか?

そう、ピクサーの『モンスターズインク』です。子供部屋のクローゼットからモンスターが現われるというあのヒットCGアニメーション作品です。子供の悲鳴をエネルギーとして採取するという会社の成績トップ社員が主人公のこの作品も、ブギーマンという下地があるからこそあんなにヒットしたのかもしれませんね。


 日本ではウケにくいショッキングホラーと思えるが、
   実は日本とは相性がいい。

子供の頃、自分の部屋にクローゼットがあったという人は手ぇあげて!

兄弟(姉妹)一緒の部屋でした。
クローゼットってなぁに?

そんな声も聞こえてきそうです。

最近でこそウォークインクローゼットなんて言葉が聞かれるようになったけど、そもそも日本の収納といえば押入れですよ!

押し入れはたいてい上下二段にわかれています。だから大人が立った状態で中に入ることはできませ~ん。上段か下段に座るようにして入り込むしかないのですから。

そういうわけで押し入れのなかにいるかもしれないと想像できるものといえば座敷わらし黒猫ドラえもんぐらいなもの。

清水崇監督作品「呪怨」で、はじめに押入れにいたのは猫でしたね。そして押し入れから天井裏に入ったところに死体があったはず。

とはいっても日本の現代一般住宅は欧米の家に比べると小さいので、ウサギ小屋と比喩される日本住宅自体をクローゼットと捉えてみましょう。すると「呪怨」に登場した日本家屋自体がブギーマンが潜んでいるクローゼットと考えることもできるわけです。

クローゼットからやってくるブギーマンによって人が消える(さらわれる)のは、四谷怪談の「仏壇返し」を連想させますね。


■ 「呪怨」でわかる、理不尽な恐怖。

「ブギーマン」では、主人公ティムに関わる人は次から次にブギーマンに襲われていきます。子供の頃からブギーマンの話は知っていても、べつに作り話でしょ、ぐらいにしか思っていなかった人たちでも、ティムの知り合いというだけで襲われていくのです。

「呪怨」では、ある一軒家に足を踏み入れた人はだれでも幽霊に遭遇(襲われる)します。

両作品とも、お化けに襲われる所以(理由)が見当たらないのです。ここに、アメリカンホラーに共通する「恐怖」の根本があります。

なぜ自分が襲われければならないのか。これこそが「恐怖」の根本なわけです。

得たいの知れない理解不能なもの=恐怖なのです。

ということで、ブギーマンが何者なのか、どこから来て、どうしてクローゼットベッド下から現われて人を襲うのかは明らかになりません。それでいいのです、なぜなら「恐怖」=「理不尽」なのですから。


■ 映画マーケティングとデートムービー

デートで観るならどんな映画?

教科書的な答えをするなら、最近の日本映画では「LIMIT OFLOVE 海猿」。韓流でいうなら「連理の枝」。デートだから恋愛映画というのは定番ですが、どうやらアメリカ合衆国では他に「ワーキャー絶叫ショッキングホラー」というのがデートムービーとして堂々たる地位を得ているようです。

デートでホラーを観る目的はズバリ、盛り上がるため。

恋愛で盛り上がるのは当人たちにまかせておいて、2人の話題を活発にしたり、テンションを盛り上げたりして楽しませる映画という意味でのデートムービーというジャンルにホラーという枠がアメリカ合衆国にはあることを「ブギーマン」は教えてくれます。

よく考えてみましょう。公園にひとりで散歩に行ったアナタは、ベンチに座って抱き合ってイチャイチャしている熱々カップルが目にとまります。それを見てあなたは心の底からうれしいですか? 恋や愛情のボルテージが上がりますか?

テレビの旅番組でタレントが高級ステーキを食べているを見て、自分も食べたいとは思うかもしれませんが、他人が食べているのを見てあなたは心の底からうれしいですか?

公園の熱々カップルも、高級ステーキを食べるタレントも、あなたにとってはしょせん他人です。

ではスクリーンの中の俳優さんが恋をしてやがて結ばれる。こんな恋愛してみたいなぁと思っても、それはしょせん映画の中のお話であり、他人事です。

「恋愛はスクリーンの中でするもんじゃない。君の隣の彼・彼女とするものだ!」(なんちゃって織田クン)

そうです! 恋愛は自分達がするものです。デートするふたりが映画に求めるものは、彼・彼女との時間を盛り上げてくれるものです。

映画を観てワーキャーいって楽しむ。そして観終わった後には、まるで手をつないで一緒にお化け屋敷を体験した達成感を得られるかのような体験を提供するのがデートムービーの役割のひとつなのです。

また、デートムービーにはビックリ箱効果だけでなく、笑いの要素も必要です。笑いは「隙間」に生まれます。日常=常識をズラした隙間に生まれる脳の働き。それが笑いです。

恋愛においては、ふたりの関係に生じる隙間をすこしづつ埋めていく作業によって愛情が育まれていきます。もし、相手が完璧な人間だったら? ふたりの関係にはじめから隙間などないとしたらどうでしょう?

自分は必要とされていないし、相手を必要ともしていないと感じてしまうことでしょう。そうなれば、ふたりが一緒にいる利点・理由はなくなってしまいます。

もっと単純にいっても、映画のなかにツッコみどころがあれば、観終わったあとにふたりでシーンのボケをツッコんで盛り上がれるという効果もありますよね。

では、デートというシチュエーションにおける「需要」に対して確実・丁寧な仕事ぶりで作品を「供給」できる有能なマーケッターともいえる人物とはいったいどんな人物なのでしょう。

▼関連記事
アメリカ合衆国でなぜヒットしたか?
「みんなでワイワイ―『THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)』―」


■ サム・ライミという有能なプロデューサー(マーケッター)

「ブギーマン」の製作は、ホラー専門レーベルの「ゴーストハウス・ピクチャーズ」です。「ゴースト・ハウスピクチャーズ」は清水崇監督の『呪怨』をリメイクしたハリウッド版「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」をおくり出したところです。このレーベルの第二弾作品が「ブギーマン」なのです。

製作は『死霊のはらわた』でデビューした『スパイダーマン』の監督サム・ライミさん。彼は「呪怨」をたいそう気に入って日本人監督の清水崇さんにハリウッド版を作らせて全米NO.1ヒットさせました。

「呪怨」の演出法は「ブギーマン」にも共通しています。それはお化け屋敷的ドッキリ法ともいえるものですが、こうした演出法の集大成として「ブギーマン」はたいへん勉強になる作品です。

出るぞ出るぞ、という緊張感をあおる方法。
ビックリさせる方法。
ドキドキさせるカメラワーク法。
どれもたいへん上手です。洗練されたプロの職人技がキラリ☆と光っております。

考えもみてください。マーケティングと演出が上手でなければ、一軒家とクローゼット(とベッド下)だけで作った映画『ブギーマン』で初登場1位のヒットを記録することはできなかったでしょう。

あなたは家の押し入れだけで全米NO.1作品を撮れますか?


■ ひとこと

「呪怨」シリーズおよび「輪廻」と、「ブギーマン」とをセットで観ることで「空間と時間」の使い方がレーベルとしての作品の特色となっているのがよくわかります。

ちなみに清水崇監督のスゴさは、サム・ライミさんと共通するびっくり箱お化け屋敷の演出に加えて、そこにストーリー性を融合させているところです。それがよくわかるのが「輪廻」という作品です。

そもそもサム・ライミさんは、おそらくとても「おちゃめ」な方だと思います。マーケティングがしっかりできて、演出が巧くて、笑いもできるおちゃめな人。それは監督した『スパイダーマン』の大ヒットで証明されていますね。

恐怖と笑いは表裏一体。そこにマーケティングという視点・感覚を持ったサム・ライミさんは私のお気に入りの監督さんのひとりです。

でも、日本ではクローゼット文化に馴染みが薄いことや、デートムービーとしてのホラーの認知度・利用度がアメリカ合衆国に比べると低いことから、日本でのヒットは難しいでしょう。

サム・ライミさんの監督作品や製作作品を観ることは、アメリカ合衆国というマーケットをよりよく知るよい勉強になります

映画を通して社会を知るのは、映画を楽しむ醍醐味のひとつです。まさにそのよき例となるのがサム・ライミという人物なのです。

今回は映画作品というより、サム・ライミさんについてのレポートみたくなりましたね^_^;

そうそうサム・ライミ監督作『死霊のはらわた』は笑えますヨ!


▼サム・ライミ関連(監督もしくは製作、ほか影響を与えた)作品レビューの一覧

「ザ・ギフト(The Gift)」

「ダークマン(DARKMAN)」

「スパイダーマン2(SPIDER-MAN2)」

「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」

「輪廻」


俳優ファン   -
ファミリー   -
デート     ◎
フラっと    ○
脚本勉強    ○
笑い      ◎
リアル追求   -
謎解き     -
人間ドラマ   △
社会      ○
センス     ◎
演出      ◎
マーケティング ◎

「ブギーマン」のレーベルの前作が「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」です。

ですから「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」と「ブギーマン」には恐怖の元ネタとビックリ演出において類似点があります。

サム・ライミさんがなぜ日本映画「呪怨」を気に入ってリメイクさせてアメリカ合衆国で「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」を公開させたのか。

その秘密は「ブギーマン」を観て、このレビューを読めばだいたいわかります。

もっとくわしくはっきりと知りたいという方はこちらのレポートをお読みください。

「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」徹底解説
  ~ハリウッドがジャパンホラーを買いたがる理由~
 

これを読めば清水崇「輪廻」のスゴさを理解する助けにもなりますヨ。



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Comments

トラックバック、ありがとうございます。はい、押入れだけで映画を撮ることは私にはできません。
 サム・ライミは何を撮りたいのか・・・スパイダーマンは撮らされた感があります。サム・ライミが本当に撮りたいものは「ザ・ギフト」のような小さな世界で起こる優れたサスペンスだと私は思っています。
 読ませていただき、ありがとうございました。  冨田弘嗣

Posted by: 冨田弘嗣 | 06/10/2006 23:26

>冨田弘嗣さん
コメントありがとうございます。
「ザ・ギフト」。私もサム・ライミさんがいちばん力(りき)入っている作品のように感じました。同じような思いをもっている方がいらっしゃってうれしい限りです。またよろしくです☆

Posted by: わかスト@管理人たか | 06/11/2006 22:06

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