ねるとん告白タイム効果でわかる、海猿人気の秘密
フジテレビと東宝を中心とした伊藤英明、加藤愛主演の「海猿」シリーズは三部作なら成る。
第1作は映画「海猿」。第2作は連続テレビドラマ。そして第3作が映画「LIMIT OF LOVE 海猿」である(映画でいえば第2作)。
さて「海猿シリーズ」にする利点はなにか?
最大の利点といえるものは、ズバリ「観客の感情移入」である。
映画「海猿」では主人公仙崎が潜水士になるべく訓練する日々が描かれる。そこではセールスの仕事をしていた仙崎がなぜ海上保安官になったのか。そしてなぜ潜水士になろうと思ったのかというバックグラウンドが、女性・環菜との出会いを通して描かれる。
主人公のバックグランドを知り、潜水士になる動機を知った観客の多くは、目標をもってがんばる仙崎を応援したくなる。
そこに恋(環菜)も絡んでくるようになると、まさに「恋に仕事に」一生懸命な仙崎をますます応援したくなるというわけである。
さらに環菜にしても、潜水士になるべくばんばっている仙崎と出会うことで、自分がほんとうにやりたいことにチャレンジする勇気を持ち、一歩踏み出すきっけかを得ることができたのである。
具体的にはファッション雑誌の編集員から、アパレルメーカーでファッションデザイナーをめざすといった転職だ。
潜水士をめざす仙崎。
ファッションデザイナーをめざす環菜。
映画「海猿」での主目的は、メインキャラクターのふたりのどちらにおいても観客の感情移入を成功させることにあったとみてとれる。
そして第2作の連続テレビドラマは、横浜管区に潜水士として配属された仙崎の出発と、アパレルメーカーで新米アシスタントとしてファッションデザイナーを目指して出発した環菜の様子が描かれる。
連続ドラマの利点というのは、週1回約3ヶ月にわたってドラマ放送があることだ。定期的にドラマを観ることで、親密感が増すという仕掛けだ。
かつて1987年から1994年まで放送していた、高視聴率を誇る集団お見合いお見合いテレビ番組(フジテレビ系列)「ねるとん紅鯨団」以下ねるとん)に例えるならば、映画「海猿」はいわば自己紹介による第一印象。連続ドラマはフリータイムによるアピールとアプローチ。そして「LIMIT OF LOVE 海猿」が告白タイムによる結末である。
自己紹介でおもしろいキャラクター「A」をみつけたアナタは、フリータイムで「A」が意中の人にうまくアプローチできるかどうか気になって観つづける。
さて、あなたはこの後の告白タイムを観ずにテレビのチャンネルを変えるだろうか?
告白タイムで「A」が緊張と不安と期待が入り混じった複雑な表情のなか、上手に喋れずに噛んだりしながら、けっしてスマートとはいえないながらも一生懸命に告白する姿を固唾を飲んで見守ることだろう。
「A」がスマートに告白できなければできない程「A」を応援したくなる。それはきっと「A」の不器用さと弱さを敏感に感じ取ったアナタは彼のなかに自分とおなじ部分を少しでも感じとったからかもしれない。
こういった過程を「感情移入」という。
「LIMIT OF LOVE 海猿」を単体の映画作品として観ると、ストーリー構築や演出に限っていえば、お世辞にも上手とはいえない。
なにかありそうでなにもなかった消化不良気味の、偶然フェリーに乗り合わせていた女性テレビレポーター。
とってつけた感が拭いきれない乗客(海老原真一)とフェリー売店店員(本間恵)。
都合よく船内に取り残されるバディ・吉岡。
プロポーズ中は船内の爆発も傾きもストップする「ご都合時間ワールド」。
さらに、わざわざ偶然にフェリーに乗っていた設定にしたフィアンセ・環菜をそのまま下船させたのはなぜだろうか?
有名作「タイタニック」と同じような展開になって類似性を指摘されるのを避けたかったのか。たとえそうだとしても、せっかく船に乗っていたという設定にしたのだから、危機的状況(ストーリーにおける障害)をふたりで乗り越えるほうがストーリ展開はよっぽど楽になる。
それをあえてやらなかったのはおそらく第1作映画「海猿」と連続ドラマによって、既に仙崎と環菜の間には障害を乗り越えた信頼関係がほぼ築き上がられており、あとは最後の一押しを
するだけの状態にあるのだという自信の表れだと推測できる。
ふたたび「ねるとん」で例えれば、告白タイムでの「LIMIT OFLOVE 海猿」はけっしてスマートではないが、既に充分に感情移入したファンにとっては不器用・不恰好なことなどたいして気にならないばかりが、それがかえって告白(プロポーズ)を劇的に盛り上げてくる要素になっているといえよう。
「ねるとん」は驚くべきことに毎週土曜日23:00~23:30の30分間番組であった。30分番組のエッセンスを抽出して、三部構成にして成功した作品。――それが「海猿シリーズ」だ。
「LIMIT OF LOVE 海猿」の作りが拙いように見えるのも実は計算のうち?
そういえば「ねるとん」も「海猿シリーズ」も、どちらもフジテレビ系列である。
The comments to this entry are closed.
Comments