隠された記憶
監督:ミヒャエル・ハネケ
フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア/2005年/119分
人が人であるための過程=人生の時間と機会を提供する作品。「楽(ラク)」を「楽しい」と感じるならばツマラナく、「楽(ラク)」を「ツマラナイ」と感じるならばこの上なく堪能できる。
ストーリー(概要)
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フランスの中産階級でインテリのジョルジュの元に送り主不明のビデオテープが届く。ビデオテープにはジョルジュの家が延々と映っている。
次々と送られ来るビデオテープによってジョルジュは記憶の奥に隠した、幼い頃の記憶から逃れられなくななっていく。
主な登場人物の紹介
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△ジョルジュ
男性。テレビ局キャスター
△アン
女性。出版社に勤める。ジョルジュの妻。
△ピエロ
少年。ジョルジュの息子。
△マジッド
ジョルジュが子供の頃、同じ家にいた同年代の男。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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人が人であるための過程=人生の時間と機会を提供する作品。「楽(ラク)」を「楽しい」と感じるならばツマラナく、「楽(ラク)」を「ツマラナイ」と感じるならばこの上なく堪能できる。
■ 映画とは?
映画とはなんだろう?
映画をなぜ見るのか?
その答えは映画に限らず小説でも同じだ。つまり「それを読んだり観たりする人の数だけ答えがある」ということだ。
例えば友人と映画を観たとしよう。
映画を見終わったあとで、あのシーンで私はこう思った。でも友人は違うように感じた。そういった会話をすることで、様々な見方を楽しむ。それが映画の楽しみ方のひとつだ。
付き合い始めのカップルが映画を観るのはどうしてだろうか?
映画を観て感じた事をお互いに話し合うことで、お互いをより深く知り合うためだ。
■「AはBである」は絶対か?
AはBであるという性格の映画に慣らされた人にとって「隠された記憶」はツマラナイという言葉で片付けてしまうことだろう。
「隠された記憶」は楽ではないからだ。他の言葉でいうならば親切ではないからだ。
多くの映画では、ここでは怖がってね、ここでは笑ってね、ここでは泣いてね、と誘導してくれる。どのように誘導されるのか。それは、音楽や効果音によってだ。
作品の重要なアイテムや登場人物はなにかを、カメラが教えてくれる。つまり、カメラが動いたり、ズームしたりしてヒントとなるアイテムや登場人物を目立たせるのだ。
だから観客は音楽・効果音とカメラに頼りっきりで映画を観ることになる。ほらここで泣くんだよ、という誘導によって涙を流す。そんな映画がはびこっている。
ここは泣くところと提供されたシーンが、あまりにもベタな誘導を行っているとシラけてしまって、逆に笑えることがある。
韓流悲恋作品を家でDVDで観てゲラゲラ笑っている人もけっこういるんじゃないかと思う。もし、韓流悲恋作品をカップルで観に行って彼女が泣いているのに、彼氏が大爆笑していたらどうだろう?
感情のスイッチがお互いに別のところに付いていることがわかったので別れて、もっと気の合うベターな相手にめぐりあうことができるかもしれない。
話を戻せば、AがBであると決めている作品に慣れてしまうと、だれかの思う壺夫くんと思う壺子ちゃんになりやすいのである。
音楽も効果音もカメラも自己主張しない「隠された記憶」の監督が投げかけるテーマのひとつはこのあたりにあるのだと思う。
■ 緊張感
長回しワンカットを多様しながら、これほどの緊張感を持たせるのは天才のなしうる技といってもいい。
これができる日本人監督ですぐに思う浮かぶのは北野武監督だ。
何気ないどこにでもある日常の風景に緊張感を持たせることがでるか。これができるかできないかで監督の力量がわかってしまうものである。
■ 人生はなぞなぞ
ある人はいう。
人はどこからきてどこへいくのか。人はなぜ生まれてきたのか。
人はその答えをみつけようとする。それが人生だ――と。
たとえばこう思ったとしよう。なぜAさんは毎日蝶ネクタイをつけて会社にいくのか。そんな疑問が浮かび、あれこれ答えを考えてみる。やがて蝶ネクタイのなぞが解けたとき、アナタはAさんについてひとつ知るのである。
ある事柄や人について「なぜ?」と疑問が浮かぶ。それを解こうと調べたり、話したり、考えをめぐらしたりする。その答えはさまざまだ。だがひとつ確かなことがある。それは、答えへ至る過程を通して、人は対象の事柄や人をより深く知ることができるということだ。
なぞに出会い、それを解こうとする作業は、物事や人に関わる作業である。これをコミュニケーションという。
もし、なんの疑問も抱かずに、決まったことを決まったように作業するだけの毎日だったら?
もし、アナタが新しく車を買うとしたら、どんな車がいいだろう?
動けばいいだけなら、どの車でもいい。でもアナタはきっと、運転することが楽しくなるような車を買うだろう。人や物の移動という目的だけでなく、その車に乗っていることに満足するような意味を求めるのが人間だからだ。
聖句に「人はパンだけで生きるものではなく(マタイ伝4章4節)」「人はパンだけでは生きず(申命記8章3節)」とある。
謎はそれ自体を解くこと以外に、その謎の背景に思いをめぐらすことによって深い洞察力を養い、自分が生きる世界やコミュニティや他人に対する理解を深めていくのである。こうしたコミュニケーションによって己をも知っていく、それが人生のひとつの形である。
「隠された記憶」は観客が謎を解くという作品だ。人が人であるための過程=人生の時間と機会を提供する作品なのだ。
■ ひとこと
衝撃のラストカットという宣伝がされているので、ウォーリーを探せ! じゃないが注意深く観てみよう。
しかし、ラストカットでなにかに気がついたとしても、それがすべての謎を解いてくれる万能の魔法のカギではない。
ラストですべての謎解きは行われない。観客に解釈を委ねているのである。これこそ映画の本来の姿でもある。
もしあなたが「隠された記憶」を観てツマラナイと感じるようなら「決められていることによって楽」をしている部分があるのかもしれない。
「楽(ラク)」を「楽しい」と感じるなら「隠された記憶」はツマラナイだろう。
「楽(ラク)」を「ツマラナイ」と感じるならば「隠された記憶」はこの上なく堪能できるだろう。
「ALWAYS三丁目の夕日」「水戸黄門」「インディペンデンス・ディ」といった類の作品が大好きでたまらないという方は観ないほうがいい。わけがわからないからと映画を記憶から消して、まったく無駄な119分間を過ごしたと感じるだろうから。
俳優ファン ◎
ファミリー -
デート -
フラっと -
脚本勉強 ◎
笑い -
リアル追求 ◎
謎解き ◎
人間ドラマ ◎
社会 ◎
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Comments
こんばんは。初めまして。
弊ブログへのトラックバック、ありがとうございました。
こちらからもコメントとトラックバックのお返しを失礼致します。
この作品は、描かれた内容自体にそれぞれ好みはあるとは思いますが、自由な解釈が出来る仕上がりであり、本作品が持つ観る人に集中力を要求する物語展開は、映画から何かを意欲的に感じ取ろうとする強い意欲を持っている人には、刺激的な印象を受けるであろうと考えています。
また遊びに来させて頂きます。
今後共、よろしくお願い致します。
ではまた。
Posted by: たろ | 05/03/2006 21:13
こんにちは。TBサンクスです。
とても興味深い記事で、楽しませていただきました。
>「楽(ラク)」を「楽しい」と感じるならばツマラナ>く、「楽(ラク)」を「ツマラナイ」と感じるならば>この上なく堪能できる。
なるほど、おっしゃるとおりかと思います。私もそういう意味では興味深い映画だと思いました。観客に解釈を委ねられてるので、色々考えるんですが、私の想像が貧相なのか、どのパターンも釈然としないんですよね・・。
Posted by: goma | 05/04/2006 13:53
>たろさん
コメント・TBありがとうございます。
まさにたろさんがおっしゃられるとおりですね!それがいいたくてレビューを長々と書いたようなものです☆今後ともよろしくです☆
>gomaさん
コメントありがとうございます。
わたしもいろいろ推測してみるのですが、絶対にこれにちがいないというものは浮かびません。それこそが監督の伝えたいことのひとつなのかなぁと思ったりなんかもしてます。映画館では前から2列目の席でスクリーンに近すぎたので今度は後ろのほうの席からもう一度観たいです☆
Posted by: わかスト@管理人たか | 05/04/2006 23:39
はじめまして。
TBありがとうございます。
立ち上げたばかりなので、TBってなんのことかわからなかったのですが。
それにしても、考える映画でした。しかも静かながらにもちょっとしたスリリングさがありました。いろいろHPを見てなんとか、ラストシーンのことはわかりました。ああ~きずかなかった僕はとても悔しい~。もう一度見に行かないと。
続いて昨日「城」も見てしまいました。
これもなかなかでした。
Posted by: こんにちわ | 05/05/2006 13:12
こんにちは。
私も不親切な映画が大好きです。
最近は、海猿なんちゃらの予告を観て苦笑い・・
Posted by: かえる | 05/05/2006 22:56
TBありがとうございます。
なんか深いですね~。
「映画とは何か・・・」
そのときの状況、人それぞれ・・・こういう映画があっていいと思います。
Posted by: fuyukai | 05/06/2006 14:52
>こんにちはさん
コメントありがとうございます。
音楽や効果音を使わなくてもスリリングにできるよい見本でもありますよね。TB大歓迎ですので、関連する記事をお書きになったらよろしくお願いしますネ。
>かえるさん
コメントありがとうございます。
不親切な映画もいいものですよね☆海猿もわかりやすくてあれはあれでなかなか☆
またよろしくです☆
>fuyukaiさん
コメントありがとうございます。
そうですね、こういう映画もあっていいですよね。もう少しこういうかんじの作品が増えてもうれしいです☆
Posted by: わかスト@管理人たか | 05/07/2006 14:09
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