LIMIT OF LOVE 海猿
監督:羽住英一郎
日本/2005年/117分
原作:佐藤秀峰「海猿」(小学館)
ファン育成の肥沃な土壌を持った海洋版「走れメロス!」の信頼物語。脇役の活かし方が少し物足りないものの「海猿シリーズ」を通してブランド化に成功した、良質エンタテインメント海洋大作。海猿に協力の稀有なフェリー会社とは?
ストーリー(概要)
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鹿児島・第十管区機動救難隊員の海上保安官(潜水士)である仙崎大輔は、鹿児島沖3キロでの大型フェリー・くろーばー号の座礁事故のため、乗客救助へ向かう。
フェリーに乗っていたフィアンセの伊沢環菜を船から退避させた仙崎が船内を捜索中、男性乗客1名と女性船内売店店員1名を誘導中にバディ.吉岡と合流。その直後、車の爆発による衝撃で4名は2階の一室に閉じ込められる。仙崎たちは船内からの脱出を試みる。
主な登場人物の紹介
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△仙崎大輔
海上保安官。潜水士。
▽伊沢環菜
ファッション雑誌編集員。ファッションデザイナー。
△吉岡哲也
海上保安官。潜水士。仙崎のバディ(相棒)。
△海老原真一
中古車販売業者。
▽本間恵
カーフェリー売店店員。妊婦。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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ファン育成の肥沃な土壌を持った海洋版「走れメロス!」の信頼物語。脇役の活かし方が少し物足りないものの「海猿シリーズ」を通してブランド化に成功した、良質エンタテインメント海洋大作。海猿に協力の稀有なフェリー会社とは?
■ 着眼点がいい
「海猿」シリーズはまず、着眼点がいい。
主人公は海上保安官の潜水士である。日本列島はその名のとおり多くの島々から成り、海に囲まれている。
海は日本で生まれ育った人にとって身近なものである。そんな海での安全を守るために日々働いているのが海上保安官だ。
海は海上だけでなく海中もある。海中は一般の人々にとってはあまり馴染みがないために、かえって好奇心が刺激される。
そんな海の世界で働く若者の恋と仕事と友情の青春物語。いままでありそうであまりなかった隙間を見つけただけでもすばらしい。
■ ファン育成の肥沃な土壌がしっかり育成されている
「海猿」シリーズというぐらいなので、ご存知の方も多いだろうが「海猿」は三部作なら成る。第1作は映画「海猿」。第2作は連続テレビドラマ。そして第3作が映画「LIMIT OF LOVE 海猿」。
フジテレビと東宝を中心とした伊藤英明、加藤愛主演の「海猿」は、映画2本によって真中のドラマを挟む、いわばサンドイッチ型だ。
原作は佐藤秀峰氏の「海猿」(小学館)であり、役者とも観客も充分に「海猿ワールド」に親しんでいるおかげで「LIMIT OF LOVE 海猿」では大型フェリー事故を題材とした仙崎と環菜の恋愛にスポットを集中することができた。
つまり、登場人物の紹介と感情移入のための役割を持ったシーンをほとんど作らないままフェリー事故へと進めることができたのだ。それは「海猿」シリーズを既に読んだり観たりしている観客が多いであろうことがあらかじめ推測できていたからこそできた技である。
■ 脇役に深みを!
今作は「海猿」シリーズの完結編ということで主人公2人に焦点を当てているが、もう少し脇役に活躍の場やプロットを用意してもよかったと思う。
具体定期には鹿児島・第十管区機動救難隊隊長(石黒賢)の活躍シーンがあってもよかっただろう。また、地元テレビ局の女性レポーターがなにか重要な役割を担いそうでなんにもなかった! というのは、本作はミステリーではないのだからミスリーディングのための登場人物ともいえず「?」といったところだ。
仙崎たちと共に船に取り残される妊婦の本間恵にしても、お腹の子供の父親像の片鱗さえもみせないため、ストーリー上におけるサバイバルを盛り上げる為の障害(オブスタクル)にするためにとってつけたようなキャラクターに思えてしまう。
限定された空間におけるサバイバルというのは、一種の圧力釜効果を生む。これによって普段は隠れたている内面が露になり、数々の衝突を繰り返していくことでキャラクターの内面の変化が行動となって表れる過程というのがパニックムービーの醍醐味だ。
そのためにはキャラクターの味付けが重要となる。ところが本間恵の内面を推測しようにも、手がかりとなるのは「妊婦」と「恋愛研究会」だけだ。
一方、海老原真一についてはの手がかりは「離婚」「子供に会いたい」「会社設立」と3つまり、本間恵に比べればフェリー事故に遭遇したことでキャラクターがあるひとつの決心をするきっかけにはなっている。――が、この決心についても意外性はなく、海老原真一でなくてはならないと観客を十分に納得させるだけの味付けはなされていない。わかりやすくいえば、あぁありそうだな、といった、とってつけたようなキャラクター設定なのだ。
こうしてみると脇役がその本来の役割をほとんど発揮していないにもかからず、そんなことなど気にならないのは、先にも言及したとおり、本作は第3作でのため主人公2人の恋愛にどのような決着が着くのかに多くの観客の関心が集まっているからに他ならない。
とはいっても、もう少し脇役に活躍と深みがほしかった……。
■ 海洋映画では稀のフェリー会社
「タイタニック」にしても実際の船会社からの協力は得られていない。なぜなら沈むことがわかっている船の映画に協力するのは船会社にとってはよい宣伝にはならないと判断するためだ。
しかし日本には沈没することがわかっている海洋映画に自社の船を撮影で使うことにOKを出して協力したフェリー会社がある。
それは宮崎カーフェリー株式会社だ。
そしてもちろん「海猿」シリーズで協力関係を築いてきた海上保安庁。今作でも多数の巡視船やヘリコプターを撮影に使われている。
海洋映画と船会社についてはこちらの記事に詳細をまとめたのでどうぞ。
■ 信頼の物語
仙崎大輔と伊沢環菜の恋愛物語と受け止められがちだが、実はこれは「信頼の物語」である。
仙崎は過去2度にわたってバディ(相棒)を失った(ちなみに実際に海上保安庁の潜水士が勤務中に亡くなったことはないという)。
今度のバディ.吉岡とは横浜時代からの同僚だ。仙崎たち潜水士に活躍をみて、自らも訓練を受けて潜水士になった経緯がある。
3人目となるバディ吉岡が船内にひとり取り残されると仙崎は、乗客たちを避難させるために一旦バディのもとを離れることにするが、信じて待っていろ、必ず戻ってくるとバディと固い握手をする。
また仙崎は地上へ避難させたフィアンセの環菜にも必ず帰ると約束する。
なにがあっても約束を守るために行動する者。それを待つ者。どちらも相手を信じる心がなくてはならない。
信頼のふたつのかたち。すなわちバディを見捨てずに迎えにいき、婚約者のもとへ帰る。このふたつを通して描くのは「信頼の物語」なのである。例えるなら「海洋版『走れメロス』」といったところだ。
■ ひとこと
私が観たのは平日の昼の回にもかかあらず、その映画館は全席指定制になっていた。いつもは人気作でも平日にも指定席というのは、海猿人気を映画館側もしっかりと認識していることの現れだろう。
実際、おそらくその映画館でいちばんおおきなスクリーンの中央の席はほぼ埋まっていた。平日昼間の回としては大盛況である。
脇役の用い方についてあれこれ書いたが、何を観ようかと考えるまでもなく本作を選んでOKだとオススメできるのは間違いない。
脇役については、好きな作品でよく出来ているからこそ細かいところにもあえてちゃんと触れておいたということで、本作をおススメする障害には当然にならない。
幅広い人におススメできる理由のひとつは、エンタテイメントに徹していやらしさなく提供できているところによる。シリーズとしてしっかりした基盤がある海猿だけに、無理に気負う必要がないのが功を奏している。
さらにスクリーンに「海猿」の文字が出ただけで、なんとなくジーンとくるというのは、すでに「海猿ブランド」が確立されているからだ。
ブランド化に成功した日本海洋大作映画。それが『LIMIT OFLOVE 海猿』である。
原作から映画へ。そして連続ドラマから最終章は再び映画という試みは成功したのである。
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Comments
TBありがとうございますm(_ _)m
どーやら予想以上の大ヒットしている
感じですね。シリーズとゆーことで固定
ファンもいそーだし、何より女性層には
かなりウケがいいかと。
楽しめたのですが、やはりそこに「愛
着」がない分、のめり込めない部分もあ
り、予習ぐらいしておけば良かったかと
思いました。
Posted by: たましょく | 05/09/2006 19:49
>たましょくさん
毎度どうも☆です。
シリーズを見てきた観客(特に女性)はすでに熱心なファンというのが高評価の要因のひとつみたいですね。
フツーに観るとやはり沈没シーンがあっさりしすぎてるとか、フィアンセ(環菜)と共に船を脱出するとかにしたほうがストーリーのセオリーどおりといったところでしょう。なにはともあれ海猿シリーズを見てきたので今回は甘めのレビューになりました☆
Posted by: わかスト@管理人たか | 05/12/2006 20:05
とてもすごいレビューで研究がされてますね。
びっくりしました。
海猿はすべて見ていたので、普通に楽しめました。なんといっても仙崎の成長が著しくて
すごくよかったですね。
手に汗握る感じもよかったです。でも疲れました。
Posted by: みのむし | 05/15/2006 11:47
For you? Chloraform and strapping tape. Or a magazine. Go with the one without the federal charges.
Posted by: aleve | 05/17/2006 04:23
はじめまして^^
ロケ地が鹿児島という事もあり
はじめて海猿みたのですが、久しぶりに
感動した映画を見た感じです☆
ここ鹿児島でも異常な盛り上がりで
映画館も満席状態が続いています(@_@)
私のブログで
ロケ地紹介などもやっていますので
宜しければ遊びに来て下さいね♪
Posted by: karankoron | 06/10/2006 17:50
I enjoy what you guys are up too. This type of clever work and reporting! Keep up the fantastic works guys I've included you guys to my personal blogroll.
Posted by: 368id.com | 03/16/2015 05:40