« 東京タワー | Main | タイフーン(TYPHOON) »

04/12/2006

劇団ひとり「陰日向に咲く」

劇団ひとりのネタには「世界」がある。

これがお笑い芸人のなかで、劇団ひとりがズバ抜けている理由だ。

劇団ひとりはその名が示すとおり、ひとりで何役ものキャラクターを演じて舞台を作り上げてしまうという意味もあるのだろう。

ひとたび話しはじめれば、ネタの「世界」へ観客をスゥと引き込めるのは、彼がネタという作品世界をしっかり構築しているからに他ならない。

他のお笑い芸人たちと決定的に違うのは、想像力の深さと大きさと、それをかたち作る物語構築・構成力だ。


想像力――。

「想像」を「空想や妄想」として、それがまるで幼い子供に特有なものとして未熟の代名詞のように扱う人もいるかもしれない。

いつまでもくだらない妄想なんてしてないで現実を見据えたらどうなんだい? といったように……。

しかし、人間の世界は想像とフィクションによって成り立っている。

きみはなぜ赤信号で止まるのか?

純粋な自然界においては青色(緑色にもみえる?)だろうが黄色だろうが赤色だろうが知ったこっちゃない。

冬眠から覚めてしまった野生のクマが人里に現れ、横断歩道で信号が赤だからといって、青色にかわるまで待つだろうか?

この例でわかるように、人間同士がいかに円滑に生きていけるかを考え(想像し)て、信号という約束事(フィクション)を作り上げたものが人間社会なのである。

そして現代は、人間同士だけでなく、他の生態や地球環境とも共存していけるよう考え(想像)ていくべきことにやっと気がついたといったところだ。

きみが地球で、人間社会で生きていくための必須の能力とはなにか?

それは――想像力だ。

想像力をいかに豊かに持ち続け、それを「かたちづくる」か。

こうした能力・技術を持った人は残念ながら少数になってしまった。

劇団ひとり以外ですぐに思いつくのは北野武だ。

ポスト北野武は劇団ひとりに間違いないだろう。それどこか北野武を超えることも十分ありえる。


劇団ひとりの父親は国際線のパイロットで、母親はフライトアテンダント(旧・シチュワーデス)だ。

小学生の頃にはアラスカで生活していた彼は、外部に視点を持って冷静かつ的確に物事の本質を見極めて想像し、自らの「世界」を作り上げる技術と力量をもった稀有なタレントとなった。

そんな劇団ひとり初の小説「陰日向に咲く」は短編5作から成る。
ホームレスに憧れるサラリーマン。
小心なギャンブラー。
アイドル応援ヲタク青年……等。

それぞれのエピソードが互いに時間と場所とで巧妙にリンクする緻密で計算された作りは、これが処女作とは思えない「巧さ」だ。

それもそのはず、劇団ひとりの物語る力は折り紙付きで、その舞台が「小説」へ移っただけのことだとわかれば、十分に納得できるはずだ。

短編がリンクするという仕掛けは、インターネットの出現によるハイパーリンクの特性を意識した、村上龍の小説「ライン」(幻冬舎)にある。

その流れをしっかりと受け継いだ劇団ひとりの「時代の感覚」に、未来の大作家の予感さえもする。

劇団ひとり。

小説・映画、芝居――。どんな場所でも彼の才能は花開くだろう。

4344011023陰日向に咲く
劇団ひとり
幻冬舎 2006-01

by G-Tools
4877282513ライン
村上 龍
幻冬舎 1998-08

by G-Tools

|

« 東京タワー | Main | タイフーン(TYPHOON) »

Comments

トラックバック、ありがとうございます
この小説、とってもいいですよね
もっともっといろんな人に読んでもらいたいです

Posted by: ボンジー | 04/13/2006 at 20:11

>ボンジーさん
コメントありがとうございます。
ほんとうにこの作品は評判がいいですよね。私が小説本を買ったときは2,3軒本屋を探して歩きましたが、最近は一番目立つ場所に平済みしてます。売れているのでしょう☆

Posted by: わかスト@管理人たか | 04/13/2006 at 21:13

初めまして!トラックバックありがとうございました。
この本、最近雑誌や新聞でもよく取り上げられてますよね。
芸人さんがネタ本でなく、本当の小説で勝負したところがすごいと思います。(しかも面白いですし・・)


Posted by: しのこ | 04/13/2006 at 22:13

こんばんは!
トラックバックありがとうございました。
本当にじわ~んと来る、一冊でした。
文章のリズムといい、表現といい・・・
お笑い芸人さんとは思えない作品でした。
私も劇団ひとりさんの作家としての活躍を応援したいと思っております。

Posted by: ころまま | 04/14/2006 at 23:05

>しのこさん
コメントありがとうございます。
そんじょそこらの小説なんか目じゃないくらい面白いですよね。読者を楽しませる方法を知ってて、自分も楽しみながら書いているような雰囲気が伝わってきました☆

>ころままさん
コメントありがとうございます。
リズムがいいですネ。お笑いの舞台では間やリズムがとても大事だときいたことがあります。そういえば大人気のオリエンタルラジオもとてもテンポがいいですもんネ。

Posted by: わかスト@管理人たか | 04/17/2006 at 14:22

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/21326/9554031

Listed below are links to weblogs that reference 劇団ひとり「陰日向に咲く」:

» 劇団ひとり処女小説「陰日向に咲く」予想外の売れ行き [局の独り言。]
劇団ひとり処女小説 争奪戦激化  バラエティー番組などで活躍中の劇団ひとり(29)の処女小説「陰日向に咲く」の映像化権をめぐって争奪戦が行われていることが分かった。版元の幻冬舎には既に大手映画会社を含む7社から申し入れが殺到。本人も「もしコケても僕のせいにしな... [Read More]

Tracked on 04/12/2006 at 20:22

» 陰日向に咲く、を読んだ。 [ヤサシイケド、ツライヨ。]
劇団ひとり著、「陰日向に咲く」を読みました。 陰日向に咲くこの話題に関するクチコ [Read More]

Tracked on 04/13/2006 at 00:31

» 「陰日向に咲く」/ 劇団ひとり [音楽と日々の日記 by edge-242]
あらすじ お笑い芸人・劇団ひとり、衝撃の小説デビュー! 「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」ほか全5篇を収録。落ちこぼれたちの哀しいまでの純真を、愛と笑いで包み込んだ珠玉の連作小説集。(「MARC」データベースより) なんとあの芸人の劇団ひとりが..... [Read More]

Tracked on 04/13/2006 at 08:43

» 劇団ひとり 処女小説「陰日向に咲く」映像化権 争奪戦 [話題のナレッジベース]
バラエティー番組などで活躍中の劇団ひとり(29)の処女小説「陰日向に咲く」の映像化権をめぐって争奪戦が行われている。   ... [Read More]

Tracked on 04/13/2006 at 18:56

» 陰日向に咲く [ボンジーの部屋]
劇団ひとりの「陰日向に咲く」を読み終えた 前々からテレビで取り上げられていたりして気になっていた本だった しかも、インターネットで検索してみると、けっこう評判がいい 劇団ひとりさんが書いたものとは思えない 感動した! などなど… しばらく本屋に行っていなかった..... [Read More]

Tracked on 04/13/2006 at 20:09

» 陰日向に咲く [みーよろぐ]
陰日向に咲く 劇団ひとり なんとなく面白そうだったので、 衝動買いして読んでしまいました[:嬉しい:] 内容は短編集なのですが、 その話の登場人物が、全部微妙につながってる・・ という構成です。 感想は・・面白かったです(笑) 笑わせる部分と、ほろりとくる部分があるのですが、 私は笑わせる部分をお勧めします。 さすがは芸人さん! 「拝啓、僕のアイドル様」では 仕事の昼休みに読んでて、爆笑しそうになるのを 必死で抑えてました。。... [Read More]

Tracked on 04/13/2006 at 22:14

» 劇団ひとり「陰日向に咲く」 [ころころ日記]
活字嫌いの私が、何年かぶりにハードカバーの小説を読みました! 自称「格闘小説家 [Read More]

Tracked on 04/14/2006 at 21:55

» 【本】陰日向に咲く [ぴら@リアル]
劇団ひとりが執筆した小説 決して勝ち組ではない、というか負け組の人たちの こだわり、生き様、人間模様を書いた作品。 彼の芸同様すごく人物描写が上手です。 そこかしこで「ホントに処女作?」といわれてますが、本当にそんな感じです。 彼のマニアックさがそこかしこで顔をだし、ジグゾーパズルをはめるがごとく ストーリーがつながっていくんです。 というか、彼の芸を字で見てる感じか? 全部の行に彼が投影されてるわ、そういや。 で、彼らしい最後の一行。 ホロッとは来ず、ちょっ... [Read More]

Tracked on 04/15/2006 at 02:58

» 陰日向に咲く [SMILEY^^☆日和]
 外はぽかぽかしています。  読み終わりました。 昨日買って、さきほど読み終わっ [Read More]

Tracked on 04/15/2006 at 13:26

» 劇団ひとり 『陰日向に咲く』 …世間の裏街道に生きる人々 [: : FLMAX Cafe : :]
「劇団ひとり」って名前、ほんとうにうまく命名したな、と改めて感心する。この人、「お笑い」というよりは、やはり「劇団ひとり」なのだ。「コメディアン」というよりは「役者」なのだ。彼のひとり芝居で私も幾度となく笑かせてもらってきたが、常にその芝居における表現力の鋭さにも独特の感性が光っているのが見える。本書はその劇団ひとりの処女作にして傑作。この全ての登場人物に劇団ひとりがなりきって、演じきっている。彼の芸にも通じるところが大いにあった。彼はほんとうに役者だと思った。文章力についても今回申し分なかったから... [Read More]

Tracked on 04/15/2006 at 21:43

» 小説『陰日向に咲く』(劇団ひとり 著)を読みました [Father's Garage ブログ]
 劇団ひとりの小説『陰日向に咲く』を読みました。。。  好き嫌いがはっきりしそうな内容でしたが、ちばりおパパにとっては大変面白い内容でした。  映像化権をめぐって争奪戦が行われていることが納得できます。映像化するともっとよくなりそうな気がします。(監督によりますが)  劇団ひとりの意外な才能にちょっと驚きです。。。 <劇団ひとり処女小説 争奪戦激化>  バラエティー番組などで活躍中の劇団ひとり(29)の処女小説「陰日向に咲く」の映像化権をめぐって争奪戦が行われていることが分... [Read More]

Tracked on 05/23/2006 at 08:30

« 東京タワー | Main | タイフーン(TYPHOON) »