ALWAYS 三丁目の夕日
監督:山崎貴
日本/2005年/133分
原作:西岸良平「三丁目の夕日 」(小学館 ビックコミックオリジナル連載中)
昭和33年ではなく「現代を知る」には良き指標となる作品。平成版浦島太郎になれる、演歌と水戸黄門のミックスジュース。荒波の浜辺からいざ出発!そういう人って「いたいた探検隊」の竜宮城ツアー。古い玉手箱を開けて精神的に一気に老け込むか、はたまた「新玉手箱」を開けて、可能性という広い海原で前向きな「挑戦」を続けて「スタイル」を確立するか。綺麗で懐かしいもので感動したい人にオススメ。
ストーリー(概要)
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昭和33年。東京の下町。夕日町三丁目の鈴木家(鈴木オート)に青森から集団就職でやってきた六子が住み込みで働くことになった。
向かいの駄菓子屋の主人は見ず知らずの他人の男の子を預かることになる。
夕日町にやってきたふたり(六子と少年)は、町の人とふれあいながら生活していく。
主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△茶川竜之介
男。駄菓子屋店主。芥川賞受賞をめざしつつ、少年誌の冒険小説を書いている。
△鈴木
男。鈴木オート社長。
△ヒロミ
女。飲み屋のおかみ。茶川に淳之介を預ける。
△淳之介
少年。茶川の家にやっかいになる
△一平
男の子。鈴木家の子供。淳之介の友人。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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昭和33年ではなく「現代を知る」には良き指標となる作品。平成版浦島太郎になれる、演歌と水戸黄門のミックスジュース。荒波の浜辺からいざ出発!そういう人って「いたいた探検隊」の竜宮城ツアー。古い玉手箱を開けて精神的に一気に老け込むか、はたまた「新玉手箱」を開けて、可能性という広い海原で前向きな「挑戦」を続けて「スタイル」を確立するか。綺麗で懐かしいもので感動したい人にオススメ。
■ だれもが主役
キャストのエンドロールでは茶川役の吉岡秀隆、鈴木オート社長役の堤真一、飲み屋のおかみ役の小雪、という順番でクレジットされていますから、いちおう主役は茶川さんなんですが、だれが主人公でもおかしくありません。
登場キャラクターすべてが主人公といってもいいんです。 なぜそんなことが可能なのでしょう?
■ 「あるある探検隊」のなつかし版「いたいた探検隊!」
吉本興業のお笑い芸人さんの「レギュラー」のネタで「あるある探検隊」というのがあります。そういうのってよくあるよね、という状況を紹介していくネタなのですが「そんなんあるワケないやん!」とツッこんで楽しむというもので、私はけっこう好きです☆
さて「ALWAYS 三丁目の夕日」のキャラクターはすべて、例えるなら「あるある探検隊員」というか「いたいた!探検隊員」です。
若者の憧れが小説家だった時代に地方のお金持ち息子が作家にあこがれてロシア文学から読み始めて云々、という茶川キャラって、いたいた!
口は悪くてすぐにカッとなるけど、人情溢れたお父ちゃんという鈴木オート社長キャラって、いたいた!
町の片隅で小さな飲み屋をはじめるワケありそうなきれいなおかみキャラって、いたいた!
希望を胸に集団就職で上京してきた地方出身の若者キャラって、いたいた!
このように、昔それっぽい人っていたよね、という典型的なキャラクターが揃ったオールスター代表チームとなっています。だから登場キャラクターのだれもが主人公のように感じられるんですね。
「いたいた!オールスターチーム」を使う利点は、いちからキャラクターを作り上げなくても、登場した瞬間に観客に感情移入してもらえるということです。
■ 平成版「浦島太郎」
平成の荒波が押し寄せる浜辺でチケット料金を払い、亀という名の映画館で竜宮城にいく。浜辺に戻ってきて玉手箱を開けると……。
光陰矢のごとし。
少年老い易く学成り難し。
命短し恋せよ乙女。
とはよくいったものです。たとえ2時間程でも、それは人生の貴重な時間です。
現代はスピードの時代です。たった2時間と思えるかもしれませんが、それでも足を止めてしまえば前へは進めません。それに足を止めただけじゃなくて後ろ向きになったら、次に足を踏み出したら逆戻りしてしまいます。
浜辺に戻ってきた浦島太郎は、知っている人がだれもいないのでおかしいとおもいつつ玉手箱をあけると、出てきた煙を浴びて老人になりました。
「ALWAYA 三丁目の夕日」のちょっと怖いところは、竜宮城から浜辺に戻ってきても「おかしい」と気づきにくい点です。おかしいと思わないので、玉手箱をもらったことも忘れてしまいます。玉手箱を開ければ幸せなのかというと、かならずしもそうともいえませんから微妙ですが、もしかしたら平成版の竜宮城の乙姫様は、いままでとは違う「新玉手箱」をくれたのかもしれません。浜辺に戻って「なにかおかしい」と気づいた人にだけ玉手箱を開けさせて、煙と共に龍宮城の記憶を消し去ってくれる、そんな「新玉手箱」です。新玉手箱を開ければ、明日からまた猟師として、広い海に漕ぎ出していくことができます。
でも「新しい玉手箱」を用意してくれる乙姫様は、夕日町三丁目には住んでいないようでした。
■ ヒットの秘訣
ヒットの秘訣とは? 現代日本に限定の手法となりなすが、それはズバリこれです。
「なにかを忘れさせるもの」
平成という荒波(に思える)を見ないで済んで、日常とそこから続く未来へビジョンを見出そうとしたくないときには「なにかを忘れさせてくれるもの」がヒットします。
「なにかを忘れさせてくれるもの」――それは、ときには「いやし」と表現されることもあります。
■ 演歌と水戸黄門
いつかどこかで観たことがある。そんなエピソードのオンパレードです。だから安心して観れます。
昭和33年という、日本の高度経済成長期に貧しいけれども希望に溢れていた、今は辛いけどみんなん一丸となってがんばっていこう! というスローガンみたいなものがあったあの時代。それはまさに演歌の時代です。そしてお約束どうりに展開する内容で安心して観れる「水戸黄門」。このふたつが合わさったものが「ALWAYS 三丁目の夕日」です。
演歌と水戸黄門(+寅さんシリーズ)で長年にわたって醸成されて確立した国内向けの「ヒットのツボ」を丁寧につなぎ合わせたこの作品がヒットするのは、そういう意味でつくり手としても「想定の範囲内」だったことでしょう。しかし、おそらく作り手の予想以上の大ヒットとなったのではないでしょうか。
つい最近まで、つまり「ハリー・ポッターと災のゴブレッド」が登場するまで、国内の映画興行成績で3週連続で1位でしたね。これには驚きました。
何に驚いたかというと、こんなにも「なにかを忘れたい」演歌と水戸黄門を愛する人々が日本にはまだたくさんいたことに驚いたのです。かなりヒットするのではと思っていましたが、3週連続1位とうのは「想定の範囲外(笑)」でした。
さて、日本各地の「昭和30年代を感じさせるテーマパーク」が大人気だそうです。
昭和30年代はけっして楽しい時代ではなく、生きていくことに精一杯の人々がたくさんいて大変な時代だったことでしょう。あれから約半世紀。辛かった時代の思い出はいつしか時間という鍋でグツグツと煮込まれて灰汁をとられ、人畜無害な「なつかしさ」と「哀愁」の対象という商品価値へと姿を変えました。
昭和30年代にだって高齢者がいました。戦争で負傷した体が不自由になって方もたくさんいました。生きるために、今となっては子供にはいえないようなことをしてなんとか生き延びてきて人もいるでしょう。ちなみに竜宮城での浦島太郎については、子供にはふさわしくない内容があるので、童話ではそのあたりは改変されているそうです。そういった、けっしてきれいではない部分もいくらか描くことで作品に奥行きが出てくるものですが、そのあたりはバッサリと切り捨てられています。
つまり「ALWAYS 三丁目の夕日」は徹底して「きれいではない部分」を排除して「なつかしさ」という名のフィルターでピントをぼかしています。それはまるで、人間の脳にとって気持ちいいものだけを集めて作られた昭和30年代を題材にしたテーマパークそのままなのです。
■ VFXの後ろ向きな使い方
監督・脚本・VFXは山崎貴さん。過去の作品に、少年達と未知のロボットとの交流を描いたSFファンタジー「ジュブナイル(2000年)」と、SFアクション「リターナー(2002年)」があります。
どちらの作品もSFです。VFX(Visual Special Effect 主にコンピュータ・グラフックスの技術を使ったデジタル処理)技術を使って、想像の世界を描いています。
これら2作品がヒットしたかどうかはとりあえず別にしても、VFXを使っていろいろと「挑戦」していました。「リターナー」のレビューはずいぶん辛口のように感じられるかもしれませんが、なにをするにも「マネ」から入るというのは間違っていません。マネをして試行錯誤を続けていくうちにやがて独自のスタイルを確立することができるからです。「リターナー」は有名な外国映画の寄せ集めのごった煮みたいな作品ですが、それは「スタイル」が確立するまでの通過点に過ぎませんので、たとえヒットしなかっとしてもそれは致し方ありません。次につなげる(次作品を撮れる)ことさえできればとりえずOKです。
そして「リターナー」から3年(ここでも「3」とい数字が!)。ついに「脱皮」した山崎作品が登場か! と思ったのですが……。どうやらスタイルを確立する道を進むのをやめて、別の道を選んだようです。つまり、映画制作者よりも「VFX職人」という道を選んだようです。
茶川が芥川賞作家になって文壇デビューしたいけれども、食べていくために少年誌に冒険小説を書いているように、VFX技術チームも食べていくためにその持てる技術で稼がなくてはなりません。そのための「しのぎ」としてとりあえずVFXの技術屋に徹したわけではないようです。それは山崎さんがVFXだけじゃなく脚本と監督もされていることからもわかります。
ひょっとすると、過去を描くのは、未来(SF)へのタイムスリップと基本は同じ、と自分に言い聞かせたのかもしれませんが、昭和33年当時の様子を知っている人がたくさんいる状況では「想像力をもって新しいもの、おもしろいものを作ろうという挑戦」とは受け止められ難く、まるで遺跡修復士といった技術屋という印象を与えたことでしょう。
■ 人間をとる漁師に
かつて昭和30年代を生きた人にはなつかしく、そんな時代を知らない人もなんとなくなつかしく、それでいて知らない世界を楽しめる、親子で安心して観れる作品です。
でも、安心して観れることが子供にとってよいかどうかはまた別の話です。今の子供がこの作品を観てなにを感じ取るのか? なにかがおかしいと感じることができた子は「新玉手箱」の存在に気づきます。
浜辺に戻って「なにかがおかしい」と気づいた人にだけそれを開けさせて、煙と共に龍宮城の記憶を消し去ってくれる新玉手箱を開けた人は、明日からまた猟師として、広い海に漕ぎ出していくことができるのです。
魚をとる毎日。それまでいくら海に漕ぎ出しても獲れなかった魚。たとえ漁に出てもまったく魚がとれない日もある。それでも後片付けと明日の漁の準備をしなくてはならない――疲労と失望。
そんなとき信じられないような体験(竜宮城)をして帰ってきて「新玉手箱」をあけたら「魚をとる漁師から、人間をとる漁師」になれるかもしれません。
人間をとる漁師とはつまり、疲労と失望によって「なつかしさ」にすがって後ろ向きな漁を続けるのではなく、人の悩みや苦しみや失望を受け止めつつも前向きな「挑戦」を続けて、自らのスタイルを確立する人間になるということです。
∇「人間をとる漁師」:新約聖書 ルカによる福音書5章10節
■ ひとこと
数字の「3」にこだわっています。
太平洋戦争終戦から13年後の昭和33年。長島茂雄(背番号3)入団の昭和33年。夕日町の3丁目。東京タワー(地上333メートル、エッフェル塔を模して昭和33年に完成。エッフェル塔より9メートル高く、約3000トン軽い)。上映時間1時間33分。などなど。
この作品のいいところは俳優さんです。さすが国内マーケットを知りつくしているだけあって、登場キャラクターにぴったりなキャスティングがなされています。
会話の掛け合いとコミカルな演出は「うまいなぁ」と思わずニヤリ。「孫の手」みたいに、日本で生まれ育った人の痒いところに届くよう親切丁寧に作られています。
鈴木オートの社長が多少無理をしてでも新しい物(テレビ、冷蔵庫)を購入していくことは活力を感じるところですね(でも新しいコトという点では、作品の内容と性格は「新」の逆へ向いています)
茶川竜之介の名は、作家の芥川竜之介からでしょう。そして淳之介も、1954年に『驟雨』ほかで第31回芥川賞を受賞した作家の吉行淳之介からでしょう。
日本で生まれ育った人なら楽しめる作品でしょう。でも、精神的な意味でおじいさんやおばあさんになってしまったかのような妙な感覚も覚える方もいるでしょう。
どんな制作者も、たとえある程度のヒットが約束されていることはわかっていても、そこだけには触れないようにしておこうとだれもが手をつけようとはしなかった最後の砦を、いとも簡単に占領してしまった部隊がいたことに、ただただお口あんぐり……。その砦をとっても、その先には……。
映画作品というより、テーマパークといったほうが合っているかな。
すべてが予定調和なので、ひとつでもサプライズがあったら・・・・・・。
ナンダカンダいいつつ、けっこう楽しめました。ちょっと怖いホラーとしても。
映画作品に何を求めるかによって満足度は人それぞれです。綺麗で懐かしいもので感動したい人にはオススメです。
昭和33年ではなく「現代を知る」には良き指標となる作品です。
俳優ファン 向 絶妙な配役 鈴木オートのおかみさんが特にGOOD
ファミリー 向 ←いちおうね。人畜無害だし
デート 向 ←上記に同じ
フラっと 日本で生まれ育ってふつうに生きてきたという方ならまぁまぁ
映画通 「踊る~」「寅さん」「たそがれ」と同じですから!
脚本勉強 お約束の小ネタは参考になる
こだわり 昭和レトロファンなら
昭和がきらい 大正ならどうよ?
携帯電話命 お夕飯までには戻ってくるのよ、でOKな時代です!
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Comments
TBありがとうございました!
この映画の「テーマパーク」感、僕も感じました。実際は決してこんなにドリーミーな世界では無かったと思うんですけどね・・・。
今の時代を50年後に映画にしたら、どうなんでしょうね?やっぱり「あの時代は良かった」なんてことになるのではないか、と思ったりします。
Posted by: Ken | 12/02/2005 23:20
>kenさん
コメントありがとうございます。
kenさんのいう「現実の記録なのではなく、この時代の理想化」「箱庭の中の美しい昭和33年」っていう表現、まさにそうそう!って思いました!50年後からみれば、今の時代も良かったということになる…時代は繰り返すってことなのかもしれないですネ。
Posted by: わかスト@管理人たか | 12/02/2005 23:39
TBありがとうございます。
ひとことでいうと「昔はよかった」という映画なのですが、そう思う自分を許してくれるようなところがあるのが、この映画のいいところでもあり、ズルイところでもあるのでしょうね。
Posted by: 沢木耕三郎(仮名) | 12/03/2005 12:34
初めまして。TBありがとうございます。
「いたいた探検…」に喜びました。ナイスな感覚ですね。
当時を知る者ではありますが、それほど「良かった」という記憶はありません。「人情話」は、「寅さん」がなくなっただけに、こういう形で出現すると受け入れやすいのかもしれませんね。「辛かった思い出」は、忘れようとするし、「良かった思い出」だけが残っていくものなのでしょうか。ひとまず、観て良かったとは思っています。
Posted by: あかん隊 | 12/03/2005 16:34
>沢木耕三郎(仮名) さん
コメントありがとうございます。
そうですね、とても「うまい」作品んですよね。これが東宝というのがまた興味深いかもしれないですね。
>あかん隊さん
コメントありがとうございます。
「寅さん」シリーズなきいまは、寅さん的なものへの需要がかなりあるってことなんでしょうね。吉岡くんはこういう役に向いていそうですね☆コミカル系のほうがいけるかもです。
Posted by: わかスト@管理人たか | 12/03/2005 22:33
TBありがとうございました。
テーマパークですよね。
数字の考察にはなるほどと思いました。
Posted by: ノラネコ | 12/04/2005 01:24
その玉手箱にはまさか「バブル」って書かれてないでしょうね(笑)。
てなわけで、TBばかりか「おすすめ」まで頂き、ありがとうございました。
Posted by: にら | 12/06/2005 13:47
>ノラネコさん
コメントありがとうございます。
3つながりはなかなかおもしろいですね。もっとも成功したテーマパークという表現もできますネ。
>にらさん
コメントありがとうございます。
「バブル」って書いてあるかもしれませんネ(^^)
Posted by: わかスト@管理人たか | 12/07/2005 16:22
はじめまして、TBさせて頂きます。
確かに、そういう人達がいたと思うような感じでした。
数字も本当に、3という数字を見かけますね。
Posted by: 出田(nao) | 01/08/2006 09:14
>出田(nao)さん
TBとコメントありがとうございます。
3という数字が多いあたりは、こだわりをかんじますね。時代劇とまで遠くない昔というほどよい昔具合がツボなのでしょう。今後ともよろしくです☆
Posted by: わかスト@管理人たか | 01/08/2006 22:07