タッチ
犬童一心監督/日本/2005年/116分
原作:あだち充(『タッチ』小学館/少年サンデーコミックス刊)
主演女優の魅力に尽きる1作。実寸大のプラモデルカーにF1エンジンを積んだ? 長澤まさみという「肝」をしっかり持ちつつも、ストーリー・演出による「心」が伴っていない。それにもかかわらず俳優の魅力はアクセル全開だ。もしエンジンにあわせて設計した実車だったら? という期待をさせるほどエンジンはずばらしい。
ストーリー(概要)
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上杉達也(兄)と上杉和也(弟)は双子の兄弟。お隣さんの朝倉家のひとり娘の南といつもいっしょに遊んで育ってきた。両家の共同出資で子供部屋を立てるほど仲がいい。
秀才でスポーツマンの和也は野球部のエースピッチャーとして活躍して幼い頃の約束――南を甲子園に連れていく――を果たそうと日々練習を欠かさない。
一方兄の達也は勉強もあまりせず、いろいろなスポーツや趣味に手をだすがすぐにやめてしまい、とりあえずボクシング部に在籍している。
甲子園行きを決める大事な決勝戦の朝、試合に向かう克也は子供を救って亡くなる。
和也のあとを継ぐように野球部入りした達也だったが、豪速球のわりにコントロールがきかなくて苦心する。
練習を重ねて宿敵(ライバル)須見高の新田を打ち破り、南を甲子園に連れていくという約束を果たす。
主な登場人物の紹介
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△朝倉南
高校生。明青学園野球部マネージャ。
△上杉達也
高校生。名青学園ボクシング部員。
△上杉和也
高校生。名青学園野球部員。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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主演女優の魅力に尽きる1作。実寸大のプラモデルカーにF1エンジンを積んだ? 長澤まさみという「肝」をしっかり持ちつつも、ストーリー・演出による「心」が伴っていない。それにもかかわらず俳優の魅力はアクセル全開だ。もしエンジンにあわせて設計した実車だったら? という期待をさせるほどエンジンはずばらしい。
■ 風景カット
原作は『タッチ』。81念~86年に少年サンデーに連載され、コミックの総売上は6500万部以上という超有名漫画である。
あたち充氏の作品の特徴は風景カットだ。まるで映画のカット割りのように町の風景や空模様や風に揺れる木々の葉が描かれる。
こうした風景カットは、一見すると映像と相性がいいように思えるだろう。しかしそれは漫画原作と同じように風景カットを入れて作れば「それらしくなる」だろうという安易な思い込みに過ぎない。
原作における風景カットは、作品に独特の「間」を作り出しているのだ。
■ 登場人物の心象風景としての風景カット
登場人物の心の内をセリフや効果音や音楽で表現すれば簡単だが、それでは味気がない。というわけで作家や脚本家はいかにセリフに頼らずに登場人物の心の内を表現しようかと知恵を絞るのである。
そうして形作られていく独特の「心象風景」が、作家の「味」や「色」になっていく。
あだち充氏は言葉少なげな登場人物たちの心象風景を「日常の風景」という装置で描き出し、さらに作品のテンポをコントロールする「間」としても機能させているのだ。
原作漫画の風景カットには、実はとんでもない技術とセンスの経験が凝縮されているのだ。
■ ドラマと相性がいい野球
スポーツとしての魅力はさておき、ドラマと相性がいいスポーツといえば野球だ。なぜならピッチャーは自分のペースで投げられるからだ。バッターも幾度か素振りをしてからおもむろのバッターボックスに立つことができる。
もしサッカーだったらどうだろう。自分のペースでセンタリングを上げて味方選手にボールが渡るだろうか。シュート練習を幾度かしてからおもむろにシュートを打って敵チームのゴールネットを揺らすことができるだろうか。
試合中にそんな悠長なことをやっていては敵チームにあっという間にボールを奪われてしまう。
つまり野球はある程度自分の「間」でプレーできるのである。ピッチャーが一球投げるまでマウンドでしばらく時間を費やすことができる。たとえその時間にほかのカットを挿入しても観客に「野球の進行」と現実の時間経過の差異を感じさせる心配は少ない。
おそらくあだち充氏は野球が好きなのだろうが、野球を描きたくて漫画を描いているわけではなく、野球という題材を用いて人間を描きたいのだろう。
そのための装置として、高校野球がまだ「夢」でありえたギリギリの時代に、ドラマと相性がいい野球を題材にしたということだ。
こうのように野球はドラマの題材としては魅力的で扱いやすい。
しかし、なぜいま野球なのか?
現代日本においてはすでに、世界のマイナースポーツとしての野球よりも、世界のメジャースポーツであるサッカー(英:フットボール)のほうが現代的で、魅力あるものとなっている。
いまさら野球を題材にするには「原作の題材が野球だから」だけでは弱い。
「あえていま野球」であるためには、それなりの仕掛けが必要だ。その仕掛をサスペンスとして使ってもいい(もちろん謎は解消されなければならないが・・・)。
■ ちゃんと原作読んだ?
野球が題材。風景カットの意味。このふたつをしっかりと受け止めた者は、とてもじゃないが半端な真似はできないだろう。
ただでさえ原作がある作品の映画化は難しい。それにもかかわらず、かつての大人気作品でストーリーもシンプルで映像化しやすそうだから、といった安易なノリで作ってしまったのではないか。――とそんなふうに感じてしまう作品となっている。
たとえば映画「NANA」は制作スタッフすべてが原作を読み込んでその世界観と雰囲気を損なうことなしによいものを作ろうという意気込みがビシビシと伝わってくる作品だ。意気込みだけで空回りするすることも多々あるあるなかで「NANA」のスタッフはかなりがんばったことが想像できる。それらは完成した作品から滲み出てくるものであり、原作を知っている観客はそれを敏感に感じ取ることができるものだ。
残念ながら「タッチ」はその逆だ。有名作品であり、昔からのファンも多い。高校生が主役ということで若者にも受けが良さそうだし、映像向きに見える原作をサッ目を通してなんとなくこんなかんじで――。そもそもうちの若手イチオシ看板女優のための作品なのだから・・・・・・とそんな声がスクリーンから聞こえてきそうなのである。
■ バナナの皮じゃ滑りようもない
ガード下の公園のようなところでコンクリートの柱に寄りかかって座り込み、落ち込んでいる達也。そこへ友人の原田がやってきて「活」を入れるようとするシーンがある。
座り込んでいる達也の脇にとってつけたような水溜りがある。茶色く濁った水が溜まったその水溜りはまるで、お笑いの舞台の上におかれたバナナの皮のようだ。
お約束どおり達也はその泥の水溜りに仰向けに倒れ、原田はズボンが濡れるのも気にせずに座り込む。泥だらけの青春といいたいのだろうが、あからさまにバナナの皮を見せつけられては観ているほうがモジモジしてしまう。
つまり、ひねりがないのだ。観客はあっと驚いたり、いつの間にか心を動かされていたりといった「意外性」に拍手を送る。意外性をつくりだす「ひねり」がないのだ。
滑るシーンがあるから「バナナの皮」と。それでは安易すぎる。あえてバナナの皮にするにはそれなりの仕掛けやオチがなくてはならない(あえていま野球にするには~と同じ)。
■ 俳優の魅力
映画「タッチ」は第5回「東宝シンデレラ」グランプリの長澤まさみのために作られた作品だ。彼女のプロモーション映像としてはいい作品だ。
まるでやっつけ仕事かのようなつくりの本作にもかかわらず「タッチ」を観て得られる満足感の理由はただひとつ――俳優の魅力だ。
スクリーンに登場しただけで一瞬で空気が変化するような俳優。それをオーラを持った俳優だとか、雰囲気のある俳優だとか呼ぶことがある。または「あの人には華がある」といういい方もできるだろう。
映画「ロボコン」でキラリと光っていた長澤まさみはまさにスターとしての資質を持った女優だ。
《「ロボコン ROBOT CONTEST」作品レビュー》
そして上杉兄弟を演じた斉藤兄弟のふたりはほんとうにお互いに似ている。達也と和也を区別する方法は服装やセリフ回しで判断するしかないと思えるほどだ。
上杉兄弟のキャスティングとして斉藤兄弟というのはなかなかいい。というのは原作でもそうだが上杉兄弟は、いうなればどこにでもいる男子高校生の代表だからだ。和也は勉強もできて野球部のエースピッチャーで女子生徒の人気の的だが、広い意味でいえば、普通の高校生だ。
南も普通の高校生だが、上杉兄弟との関係という構図のなかでヒロインとなる。つまり「タッチ」は南が主人公であり、南による南のための、南によって進行するドラマなのだ。
南が魅力的かどうかが映画「タッチ」の「肝」だといってもいい。そこにストーリーや演出によって「心」が吹き込まれたならば「肝心」と揃った傑作になっていたかもしれない。
映画「タッチ」は長澤まさみの魅力を満喫する作品だ。
(原作が漫画だけに漫画喫茶とかけているわけではない)
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