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11/08/2004

座頭市

座頭市 ;北野武監督作品;
北野武
バンダイビジュアル
2004-03-11


by G-Tools

北野武監督/2003年/日本/115分
第60回ベネチア国際映画祭監督賞受賞作品

●パワーと技を兼ね揃え、ひろく世界へ門戸を広げたエンタテインメント作品

〔1〕プレミス(Premise)ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア
―――――――――――――――――――――
居合斬り達人の按摩が悪を成敗する。


〔2〕ストーリー(Story) 
―――――――――――――――――――――
居合い斬りの達人で按摩の座頭市が、ある宿場町にやってくる。同じ頃、親の
仇を探すきょうだいと、剣の腕がたつ浪人もやってくる。宿場町では、やくざ
一家と悪徳商人が手を組んで町を支配しようと企んでいた。
座頭市はやくざ一家たちと戦うことになる。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△座頭市
 金髪頭に朱塗りの杖をもつ按摩。

△服部源之助
 浪人。剣の腕が立つ。
 
△おきぬ・おせい
 旅芸者のきょうだい。

△新吉
 チンピラ。賭場で座頭市と知り合う。

△銀蔵一家
 宿場町を牛耳るヤクザ。

△扇屋
 商人。銀蔵一家とつるんでいる。


〔4〕・1 ストーリータイプ
―――――――――――――――――――――
ビジタータイプ(主人公がある空間に来ることでストーリーが展開する)。
ストーリーの舞台を宿場町に限定している(近郊の畑等もあり)。
 
宿場町にやってくるのは座頭市だけでなく、旅芸者のきょうだいと浪人の服部
源之助もやってくる。これらの登場人物が宿場町の支配を企むやくざ一味と出
会うことで、混乱・対立・困難・障害が生じる。
 

〔4〕・2 キャラクター・ディベロップメント
―――――――――――――――――――――
〈新吉について〉
新吉は賭場に通う町のチンピラである。賭場に現れた座頭市と知り合う。座頭
市が賭けに強いので、便乗してだいぶ勝たせてもらう。
 
新吉は根はいい人で、ひょうきんなキャラクターだ。お決まりのボケを連発し
て笑いを誘う。あまりにもベタなボケだ。だがこれがいいのだ。というのは、
登場人物の機能的な側面という視点では新吉はサポーティングキャラクターだ
からだ。

新吉は2つのサポートをしている。
ひとつは座頭市や観客に宿場町の様子(作品の舞台)を伝えるという情報のサ
ポートで、もうひとつは作品の緩急のテンポを調整するサポートだ(血生臭い
トーンに笑いのトーンを取り入れることで、観客の緊張をほぐしてストーリー
のペースを調整している)。
 
また、時代劇の観客層は40歳以上が多く、シンプルな笑いを好む傾向がある。
ほかに、北野武監督作品は海外の注目が高いので、だれでもがわかりやすい
「笑い」のほうがいい。

最近、ベタな笑いができる芸人はなかなかいない。ベタなボケを違和感なく発
揮できる高度な技術を持った芸人――それがガダルカナル・タカ(※1)氏だ。
 
 
〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
●パワーと技を兼ね揃え、ひろく世界へ門戸を広げたエンタテインメント作品

西部劇と置き換えてみよう。
とある西部の田舎町に流れのガンマン(=座頭市)が現れる。時を同じくして
旅芸人のきょうだいと、腕の立つガンマン(=服部)も町にやってくる。町は
悪党の牧場主に牛耳られており、人々はひっそりと暮らしている。

西部劇がアメリカ映画(マカロニウェスタン含)のひとつのジャンルとして確
立した理由のひとつは、そのシンプルな舞台設定とストーリーにある。
 
「正義のガンマン 対 悪党軍団」

つまり、正義のガンマンが町(村)の人々を助けるために悪党軍団と戦うとい
うシンプルさが、西部劇が広く認知されるようになった要因のひとつだ。
 
日本にも似た作品がある。というより正確には日本の作品が元で、それを脚本
翻案した有名な西部劇作品がある。その日本の作品とは黒澤明監督の「七人の
侍」で、それを脚本翻案した西部劇作品とはジョン・スタージェス監督の「荒
野の七人」である(ちなみにアリエル・ゼトゥン監督「ヤマカシ」〔レビュー
こちら〕も七人の登場人物が主人公だ)。

「座頭市」は時代劇でありながら、細かい時代背景など知らなくても西部劇を
観るのと同じ感覚で観ることができる。これがエンタテイメント作品の重要な
点だ。

歴史関係の作品(例:時代劇)を作る際、その舞台背景を複雑にしてしまいが
ちだ。より複雑な時代背景(政治背景)を取り入れることで、作品が高度・高
級になったような気がする。だが作品のおもしろさと時代背景の凝り具合の度
合いが一致することは少ない。むしろその逆だ。
 
「どうだ、あの時代の複雑な政治情勢を反映した作品なんだぞ、なに? よく
わからないだって? まぁしょうがない、もっと勉強してから観にきなさい。
これはわかる人にだけわかればいいのだ」

というのでは歌舞伎だ(最近はイヤホンを使った音声説明があるらしいが)。
「座頭市」はこの逆で、「七人の侍」(※2)や「隠し砦の三悪人」(※3)と
いった、だれにでもわかるエンタテイメント作品なのだ。

すでに勝新太郎氏の「座頭市」シリーズが有名だ。それにもかかわらず北野武
監督は「座頭市」制作を決意した。すでに定着したシリーズ作品を引き受ける
というのほんとうにすごい気合モノだろう。「HANA-BI」で第54回ベネチア国際
映画祭金獅子賞を受賞した「世界のKITANO」でありながら、新しいことに積極
的に取り組んでいる。アメリカでいえばスティーブン・スピルバーグ監督(※4)
のようなチャレンジスピリットだ。

逆をいえば、お笑い出身で独自の見識と感性をもった北野武監督だからこそお
もいきったこと(当人にとっては普通だろう)ができるのだろう。そもそもお
笑い芸人は常識を知っているしっかりした人だ。というのは、笑いは日常の常
識から少しズラしたところに生まれる。ツッコミは「常識」、ボケは「ズラし」
だ。常識がわかっていなければ笑いはとれない。いかに常識をズラすか、その
技術(組み立てや間など)は難しい。賢い人でないとお笑いはできないだろう。

また北野武監督はベネチア金獅子賞をとっている。ならはあとはなにをやって
もうるさく言われない。作家でいうと村上龍氏だ。若い頃に芥川賞をとったの
で、その後はさまざまな活動を幅広くおこなっているが、文壇(そのようなも
のがいまだにあるのかどうかわからないが)にあまりうるさく言われない。芥
川賞は作家業界の入社試験のようなものであり、たとえ選考会でさんざん反対
する幹部役員がいたとしても、賞をとってしまえば入社を認められたことにな
る。その後はなにをやっても「あの人は芥川賞作家だから」ということでうる
さく言われない。これはうまいやり方だ。おそらく村上龍氏はこれをはじめか
ら狙ったのだろう。ちなみに音楽業界でいうと泉谷しげる氏もそうだ。(村上
龍氏の小説やエッセイには「情報」が詰っている。もし、まだ読んだことがな
いならば、ぜひ読むとをお勧めする)

北野武監督作品「座頭市」に特徴的なこと(以下3つ)。
[1]殺陣のスピードとリアリティ
[2]音楽・リズム
[3]「間」

[1]殺陣のスピードとリアリティ
とにかく剣さばきが目にもとまらない速さなのだ(北野武監督は殺陣について
かなり博識で、自分流の殺陣を研究していたらしい)。座頭市は居合い斬りの
達人という設定だ。殺陣のシーンを観ると、なるほど居合い斬りとはこれほど
までに速く一瞬の剣さばきなのかと思わされる。
雨の中、斬り合いをまえに対峙する座頭市と悪党ども――。張り詰めた空気が
包んでいる。と次の瞬間、あっという間に次から次に悪党どもが斬られていく。
斬られた相手の体に剣の切り傷がざっくり表れて血が噴き出す。倒れた屍から
流れ出た血が雨で濡れた地面を赤く染め、剣に付いた血の飛沫をシュ! と払
って杖の鞘に収める座頭市――。

これが居合い斬りか! これがサムライの技か!(座頭市は侍ではない)とア
メリカ人でなくても感嘆することまちがいなしだ。

「座頭市」の殺陣を観ると、いままで観た時代劇のチャンバラはなんだったの
かと思わされる。どのチャンバラシーンを観てもみな同じにみえるのだ。もち
ろん「暴れん坊将軍」(※5)の松平健氏の熟練した剣さばきは見事だ。美しさ
さえ感じる。だが座頭市の北野武氏の剣さばきには「匂い」がある。映画なの
で匂いなど嗅げるはずもないのだが、殺陣から「匂い」がするのだ!

[2]音楽・リズム
農民たちが畑を耕すシーンがある。大工たちが家を建てるシーンがある。鍬を
振るリズムや金槌で釘を打つリズムが音楽を奏でる。そして祭りのシーンでは
町の人達がタップダンスを踊る。日本の昔(いわゆる時代劇)の庶民の暮らし
にはいたるところに音(音楽)が溢れていただろう。
 
祭りはケ(日常)に対してハレ(晴れ)の日と呼ばれる。ハレの日には生エネ
ルギーを補充する。これには円環的時間――世界は一定の時間が経過すると滅
び、また再生する――という考え方が根底にある。

一方、キリスト教的ヨーロッパ文明には直線的時間――世界は変化していき、
やがて終わる――という考え方が根底にある。

だが、キリスト教的ヨーロッパ文明以前には円環的時間の考え方が根底にあっ
た。

祭はハレ(晴れ)の日であり、人はそこで神と出会い、生エネルギーを補充し
て新たに再生する。祭は神の世界に近づくものであり、そこには音楽がつきも
のだ。音楽にのって踊り、恍惚状態なって神に近づく。

かつてはこうした祭りが地域の共同体によって行われてきた。現代では祭りは
集団的なものから個人的なものになった。地域の共同体が崩壊したからだ。個
々人の祭りのなかにあって同じ嗜好や興味を持った者同士は集まってハレ(晴
れ)の日を祝う(例:音楽コンサート。ネット上の祭)。
 
どんな人にも祭り(ハレ)の日はある。かつては共同体がハレ(晴れ)の日を
開催してくれたが、現代は個人でハレ(晴れ)の日を祝わなければならない。
ハレ(晴れ)の日を個人でうまく活用することが現代を生き抜く技術のひとつ
であろう
 
だれにもハレ(晴れ)の日がある。世界中で型は変われどいたる国や地域に存
在するハレ(晴れ)の日――。侍がいた時代の日本のハレ(晴れ)の日とはど
のようなものだったのかと世界中の人々は関心があるだろう。

「座頭市」では日常(畑を耕す。家を建てる)のリズムを伏線(Pay Off)に、
祭り(ハレ)をタップダンスで見事に披露した。
タップダンスシーンは迫力に溢れ、生命力(生エネルギー)がみなぎっている。
黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」の祭りのシーンに匹敵する迫力だ。(ちなみ
に黒澤明監督作品に対するオマージュになっているシーンがいくつかあるので
それを探すのも楽しみだろう)

[3]「間」
北野武氏の作品はどれもそうだが、どんな些細なシーンにも「なにかが起こり
そう」な緊迫した雰囲気がある。緊迫の連続に人は耐えられないので、どこか
でかならず息抜きのシーンを入れる。西部劇を例にいうと、、ひょんなことか
ら一緒に逃げることになった流れ者の二人が共に危機を乗り越え、夜の砂漠で
焚き火しながら一夜を明かそうとするシーンだ。ここでお互いの身の上を話し
合い、二人は固い絆で結ばれる(バディ=相棒の誕生)。こうした息き抜きの
シーンがあるからこそ、その後の悪党との決闘シーンが際立つのだ。
 
「座頭市」ではこの息抜きの役割を新吉が担っているが、実は息抜きのシーン
は難しいのだ。

たとえば新吉が近所の若者に剣術の稽古をつけるシーンがある。新吉は三人の
若者を前に順番にこういう角度でこうやって打って来いと決める。いち、にぃ、
さん、とテンポよく打ち込ませて新吉はうまいこと木刀で受けていくのだが、
そのうちテンポが速くなり、いつのまにかズレて新吉はポコポコと三人にテン
ポよく打たれつづけて……「って痛いよおい!」。
いつのまにかズレているあたりなど、相当高度な技だ。こうした「息抜き」こ
そ難しい。だがしっかり作っているので、ほかのシーンが全くダレないのだ。

北野武監督はお笑いの舞台で「間」の技術を習得したという。お笑いの舞台と
いう、これ以上ない過酷な場所で長年技を磨いてきたのだから、作品の「間」
について彼の右に出る者はいないだろう。

スポーツや格闘技の世界でいうなら、パワーか技か、といったところだ。パワ
ーはある程度まではだれでも身につけることができるだろう。だがパワーだけ
では勝ちつづけることはできない。技が必要だ。

観客が何を望んでいるか。世界の観客は日本独自のことに興味がある。富士山、
サムライ、ゲイシャ、ジャパニメーション、マンガ……。
東洋人がカウボーイの格好をしてガンファイト、という真似事には興味ないだ
ろう。
東洋のソードアクション、文化(祭り)という東洋の神秘的な要素と、わかり
やすい舞台設定とストーリーの組み合わせは、バランスのとれた高度なエンタ
テインメント性を発揮するするのに最も適している。
 
北村龍平監督「あずみ」(レビューはこちら)はパワー(撮り方が独特。カメ
ラを回す等)がある。だが技(ストーリーの流れを調整する「間」)が弱い。
「たそがれ清兵衛」(レビューはこちら)は内輪向けのエンタテイメント作品だ。

北野武監督「座頭市」はパワーと技を兼ね揃え、ひろく門戸を広げたエンタテ
インメント作品だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
※1 ガダルカナル・タカ (芸名)
  お笑い芸人。昭和31年静岡県生まれ。青木隆彦とカージナルスを結
  成。お笑いスター誕生に出場して人気に。たけし軍団のメンバーに
  なり、ビートたけしに「ガダルカナル・タカ」という芸名をつけて
  もらう。テレビのバラエティ番組、ビデオシネマ、映画等で活躍。
  奥様は福岡放送の元女子アナウンサーで現在はタレントの橋本志穂
  さん。

※2 「七人の侍」
  映画作品。黒澤明監督/1954年/日本
  農民に雇われた七人の侍と野武士の戦いを描く。

※3 「隠し砦の三悪人」
  映画作品。黒澤明監督/1958年/日本
  戦国時代。敗軍の将が姫と黄金を守って敵中突破する。二人の農民
  をヒントにジョージ・ルーカスが作ったキャラクターが「スター・
  ウォーズ」シリーズのR2D2とC3POだという。

※4 スティーブン・スピルバーグ(Steven Allan Spielberg)
  映画監督。映画制作者。1947年生まれ。アメリカ合衆国オハイオ州
  出身。「激突!」('72)で高い評価を得る。SF、アドベンチャー、
  人間ドラマ等幅広く活躍。最近は「AI」('01)、「マイノリティ・
  リポート」('02)(レビューはこちら)とアメリカ合衆国では興行的
  に大ヒットとは言えないながらも、常に意欲的に様々な作品制作に
  取り組んでいる。最近ではアメリカ合衆国よりも日本でヒットする
  ことが多い。

※5 暴れん坊将軍(テレビ朝日)
  テレビ時代劇。江戸時代、八代将軍吉宗は貧乏旗本の三男坊と名乗
  って城下町の町火消し「め組」の居候になって悪を暴き、将軍とし
  て成敗する。
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チラっとみてもよいという方だけにしてね。
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北野武主演、監督作品。 「座頭市」といえば真っ先に勝新太郎を思い浮かべるが、そこはそれ、北野武が解釈するところの座頭市は実にポップで斬新だ。 座頭市が金髪なんて... [Read More]

Tracked on 12/02/2004 at 12:33

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