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デス・フロント(DEATH WATCH)

デス・フロント
ジェイミー・ベル マイケル・J・バセット ヒュ-ゴ・スピアー マシュ-・リス アンディ・サーキス ローレンス・フォックス
ビデオメーカー
2003-12-21


by G-Tools

マイケル・J・バセット監督/2002年/イギリス/95分

●正統派ゴシックホラーを基礎に展開する、少年の成長の物語

〔1〕ログライン(Log line)ストーリーを述べてある一文
―――――――――――――――――――――
戦場の塹壕。姿の見えない敵に襲われて兵士たちが次々に死んでいく。


〔2〕ストーリー(Story)
―――――――――――――――――――――
1917年ヨーロッパ部戦線。連合国軍Y中隊兵士10人がドイツ軍の塹壕を占拠
する。塹壕で援軍を待つことにしたY中隊の兵士がひとり、またひとりと死ん
でいく……。見えない敵に翻弄され、正気を失って行く兵士たちのなかで、新
兵シェイクスピアは仲間を救って塹壕を出ようとする。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△チャールズ・シェイクスピア
 16歳。イギリス軍兵士。

△テイト軍曹
 イギリス軍軍曹。
 
△ジェニングス大尉
 イギリス軍大尉。Y中隊の兵士10人の指揮官。

△ドイツ軍兵士
 塹壕にいたドイツ軍兵士。Y中隊の捕虜となる。


〔4〕・1 スリー・アクト・ストラクチャー(Three Act Structure)
(3幕構成)

―――――――――――――――――――――
セットアップ
------------
戦場の塹壕。大規模突撃の合図を待つ連合国軍兵士たち。やがて、突撃の号令
で兵士たちは塹壕を飛び出す。新兵シェイクスピアは恐怖のため、突撃しよう
としない。仲間の兵士に援護されながらなんとか前にすすむが、目の前で助け
を求める仲間の兵士に手を差し伸べることができない。

アクト1
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毒ガス攻撃から逃れて敵陣に迷い込んだY中隊10名は、ドイツ軍の塹壕を占
拠する。

アクト2
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塹壕で援軍を待つY中隊兵士たちが何者かに襲われる。敵の襲撃に備えて塹壕
の守りを固めるが、またひとりと命を落としていく。

アクト3
------------
シェイクスピアはひとりでも多くの仲間を救って塹壕から出ようとする。


〔4〕・2 コネクション(危険を通して観客とコネクションを持つ)
―――――――――――――――――――――
〈サバイバル〉
生き残ろうとする欲求はあらゆる生物に基本的に存在するもの。

ドイツ軍の塹壕を占拠したY中隊兵士たちは見えない敵に襲われたり、正気を失
ったりして、味方同士で戦いはじめる。
シェイクスピアは自分だけでなく、ひとりでも多くの味方や、捕虜のドイツ軍
兵士さえも救おうとする。


[4]・3 キャラクター・アーク(Character Arc)
―――――――――――――――――――――
(ストーリーの中でのキャラクターの経験を通して起こる、キャラクターの
性格や価値観の変化)

はじめ、シェイクスピアは恐怖のため戦場で仲間の兵士を助けることができな
かった。だが、ドイツ軍の塹壕で援軍を待つあいだ仲間の兵士たちが命を落と
していくなか、塹壕から生きて出て行こうと、仲間やドイツ軍の捕虜さえも助
けようとする。

 
〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
●正統派ゴシックホラーを基礎に展開する、少年の成長の物語

少年の成長を描くにはどのような状況(舞台)設定が効果的か。場所を限定す
ると人間関係がクローズップされ、主人公の内面の変化を描きやすい。その点
でいうと「デス・フロント」は戦場を舞台にして、十分に作品の場所(舞台)
を限定している。

兵士たちは戦場という極限状態に身を置いている。極限状態は人間の本性を露
にする。さらに極度の緊張状態が続くと正常な判断を誤る。やがて正気を失う
者も出てくるだろう。

年齢を偽って軍隊に志願した16歳のシェイクスピアは第1次世界大戦で連合国
(イギリス)軍Y中隊の兵士としてヨーロッパの西部戦線にいる。

Y中隊10名の兵士が霧の中を歩いていくと、やがてドイツ軍の塹壕を発見する。
ドイツ軍兵士をひとり捕虜にしたY中隊は塹壕で援軍を待つことにする。塹壕に
は味方同士で戦ったとしか思えないドイツ兵の死体が多数転がっていた。

舞台を戦場に限定した上に、さらに塹壕に限定している。二重に限定する狙い
は、見えない敵の恐怖を煽るためだろう。というのは、敵の正体がなんなのか、
という興味をつなぎとめておく必要があるからだ(謎を提起されると答えを知
りたくなる)。そのために、舞台を二重に限定して恐怖と興味を持続させてい
る。
 
これは、観客を「おいてきぼり」にしないためのひとつの技術だ。簡単な例で
は「なかなか意識が戻らない患者」というのがある。物語の重要なキーを握っ
てるのがその患者だとすると、観客はいつ患者が意識を取り戻すのかと気にな
る。意識を取り戻したらどうなるのか、なにが明らかになるのか、と興味が持
続するので物語を観(聞き)つづけるのだ。

また、迫り来る危険の種類については以下の映画作品(2作品)と比べるとわ
かりやすい。

「ポセイドンアドベンチャー」(※1)では沈没しかかった豪華客船でいかに
生き延びるかが焦点だった。迫り来る直接的な危険は沈没によって浸水してく
る水だ。

「エイリアンシリーズ」(※2)では宇宙船や星でいかに生き延びるかが焦点
だった。迫り来る直接的な危険はエイリアンだ。

「デス・フロント」では迫り来る危険は敵(ドイツ兵)であると同時にほかに
「邪悪なもの(evil)」が襲ってくる。「邪悪なもの」によって正気を失った兵
士たちはやがて味方同士で戦いはじめる。

○敵兵の危険
○邪悪なもの(evil)の危険
○味方同士の戦いの危険

このように、三重の危険の中で生き延びなければならない。少年の成長を描く
舞台として、かなり過酷でダークネスな状況だ。(状況が過酷であればあるほ
ど主人公の成長の度合いは大きくなる)

しかも作品の8~9割は塹壕のシーンだ。雨が降り続き、ぬかるんだ泥と多数
の死体。味方同士短剣で刺し合った死体もある。いたるところに鉄条網が張り
巡らされた塹壕を、鼠が死体を齧って走り回っている。

「デス・フロント」は主人公シェイクスピアの少年の成長を描いた作品だ。そ
れと同時にシェイクスピア役のジェイミー・ベル(※3)の成長を描いた作品
ともいえる。

「リトル・ダンサー」(※4)で一躍有名になったジェイミー・ベルは子役の
イメージが定着して役の幅が限定されるのを避けるため「デス・フロント」の
シェイクスピア役を選んだらしい。実際に少年だったジェイミー・ベルが一躍
有名になり、ひとりの役者として生き延びていくために考え抜いて選んだ作品
と役柄だろう。
 
シャイクスピアも16歳の新兵のため、Y中隊の兵士たちからは子供にみられ、
作戦行動を共にすることをいやがれていた。かつて仲間を助けることができな
かったシェイクスピアは塹壕で味方の兵士たちが正気を失っていくなかで、い
ち早く「なにかがおかしい」と察知する。やがて自分で考え、物事を判断して
皆を助けようと行動するようになる。

つまり、ジェイミー・ベルとシャイクスピアが等身大に重なっているのだ。
「少年の成長」を、物語の中(シェイクスピア)と外(ジェイミー・ベル)で
描いている。ジェイミー・ベルは当然にこれを狙って「デス・フロント」に出
演することを決めたのだろう。聡明な人物であることがうかがいしれる。

専門知識や技術を持つ人は人生を有利におくることができる。役者でも専門の
役、例えばいじわる姑役ならこの人、という得意分野がある役者には、ある程
度仕事が入るだろう。だが本来、役者はいろいろな役を演じられるほうが有利
だ。どんな役でも演じることができるのが、つまり演技の専門知識と技術があ
るということなのだ。そういうわけで当然、役者はどんな役でも演じられるよ
うになることを目指す。
 
ジェイミー・ベルは若くして有名になったが、数多いであろう出演依頼作品の
なかから「デス・フロント」を選んだ。「デス・フロント」を観ると、彼の役
者として生きていく覚悟と意気込みが充分に伝わってくる。

映画紹介では戦場ホラーとして取り挙げられており、単館系公開なので大ヒッ
トというわけにはいきそうにないが、「デス・フロント」は「ジェイミー・ベ
ルの物語」として観ることもできる。架空の物語(「デス・フロント」)と現
実の物語(ジェイミー・ベル)がリンクした作品という観方もできるとうわけ
だ。

映画作品を「商品」と考えてみよう。最近は商品が安いからというだけではモ
ノは売れなくなっている。モノの背景にある物語(ストーリー)を体験するこ
とで商品に興味や愛着がわいて商品を購入することがある。

映画作品自体のストーリー内容だけが宣伝材料ではなく、作品の背景にあるス
トーリーも宣伝材料だ。

従来は有名な俳優が出演していることが宣伝の大きな材料であったが、最近は
有名俳優はあたりまえで、作品と俳優の関係性を扱ったバックストーリーが宣
伝の有力な材料だと考えられるようになっているようだ。
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※1 「ポセイドン・アドベンチャー(The Poseidon Adventure)」
  映画作品。(ロナルド・ニーム監督/1972年/アメリカ)
  豪華客船ポセイドン号が海底地震で転覆。生存者たちは脱出を試
  みる。70年代パニック映画ブームのきっかけとなる。
  
※2 エイリアンシリーズ
  映画作品。「ALIEN(リドリー・スコット監督/1979年)」、
  「ALIENS(ジェームズ・キャメロン監督/1986年)」、
  「ALIEN3(デビット・フィンチャー監督/1992年)」
  「ALIEN:RESURRECTON(ジャン・ピエール・ジュネ監督/1997年)」。
  地球外生命体であるエイリアンと、宇宙船乗組員リプリー及び
  アンドロイドの戦いを描く。
  
※3 ジェイミー・ベル
  俳優。「リトル・ダンサー」でバレエダンサーを目指す11歳の少年
  ビリーを演じ、英国アカデミー賞主演男優賞受賞。

※4 「リトル・ダンサー(BILLY ELLIOT)」
  映画作品。(スティーヴン・ダルドリー監督/イギリス/2000年)
  炭坑町の少年がバレエ・ダンサーを目指す。
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「デス・フロント(DEATH WATCH)」DVD
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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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Comments

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