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めぐりあう時間たち(The Hours)

めぐりあう時間たち DTSスペシャルエディション (初回限定2枚組)
ニコール・キッドマン
アスミック
2003-11-28


by G-Tools

スティーブン・ダルドリー監督/2002年/アメリカ/
原作:マイケル・カニンガム「THE HOURS」(※1)
  (「ダロウェイ夫人」を元に3人の女性を描いたベストセラー小説)

●3つの異なる場所と時間に起きる事柄が複雑に交錯しているが、観客がどの
 場所と時間なのかと迷わないように上手に編集している

〔1〕テーマ(Theme)ストーリーの奥に込められているモラルやメッセージ
―――――――――――――――――――――
人生とは?


〔2〕ストーリー(Story)
―――――――――――――――――――――
3つの時代に生きる3人の女性が人生について思い悩み、それぞれに決意して
行動する。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ヴァージニア・ウルフ (※2)
 作家。

△ローラ・ブラウン
 主婦

△クラリッサ・ヴォーン
 編集者


〔4〕・1 時間
―――――――――――――――――――――
○1923年、イギリス郊外リッチモンド
 作家、ヴァージニア・ウルフ

○1951年、ロサンジェルスの閑静な住宅街
 主婦、ローラ・ブラウン

○2001年、ニューヨーク
 編集者、クラリッサ・ヴォーン
 
人にはいくつもの時間が流れているということを、3つの時代と3人の女性で
描いている。
作家のヴァージニア・ウルフはリッチモンドの屋敷で夫レナードとともに、静
養中である。それと同時に小説の世界での時間をもっている。小説の登場人物
がどのような境遇にあり、どのような決意をして、どのような行動をするのか
に思いをめぐらす。

こうしたことは作家ヴァージニア・ウルフに限ったことではなく、普通の人々
も日常的に行っていることだ。例えばテレビをみていて、海辺の砂浜が映った
ときに、子供の頃行った海でクラゲにさされたことを思い出すこともあるだろ
う。つまり、人はなにかを見たり聞いたりしたときに、過去の意識が遡ったり、
未来に思いを馳せたりする。人はいくつもの時間を行き来しているのだ。

このように、時間を表現する方法として、つの時代と3人の女性を登場させて
いる。


〔4〕・2 成功のための3つの要因
―――――――――――――――――――――
〔1〕ストラクチャー(脚本の構成)
  3つの時代に生きる3人の女性の物語。

〔2〕独創性
 ○新鮮味があるのか 
 ○今まで作られてきた作品となにか違いがあるのか。
 ○それはユニークか
 →名作の寄生作品の手法として、3つの構造を用いたことは、「ダロウェイ
  夫人」の時間というテーマを語るうえで効果的に機能していると同時に、
  ユニークなものである。

 ○フック(観客の興味を惹くもの)はあるか
 ○説得力があり、プレミス(コンセプト)に惹きつけられるか
 →だれでも自分に興味があるので、人生について思いをめぐらす。
  
 〔3〕マーケティング
 ○観客が欲してるものはなにか 
 →愛・帰属意識、知識欲・理解欲、自己実現欲求。

 ○映画作品と観客との間にどのようなコネクションを設定するか。
 →人生について思いをめぐらし、苦悩、決意、行動する人々を自分を重ね合
  わせる。
 

〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
●3つの異なる場所と時間に起きる事柄が複雑に交錯しているが、観客がどの
 場所と時間なのかと迷わないように上手に編集している。

観客を迷わせない手法とは?
 
∇ある時代の登場人物にこれから先に起こる事柄を、ほかの時代の登場人物が
 予感させることを言う(予告する)。
 
∇ある時代の登場人物に起こった出来事についての説明が、ほかの時代の登場
 人物たちの会話でなされる。

∇似たようなカットによる場面転換で、時代と登場人物が入れ代わる。

人生という難しいテーマは、多くの観客を得る可能性を持つ。と同時にその難
解さで一般受けしない可能性も持つ。しかし、「めぐりあう時間たち」は、観
客にわかりやすいように丁寧な編集をしているために、難解そうでありながら
意外とすんなり観ることができるという作品になっている。

作品の基本はヴァージニア・ウルフの小説「ダロウェイ夫人」と「ダロウェイ
夫人」を元にした小説「めぐりあう時間たち」である。古典作品を元にしてい
るので、観客の知識欲・理解欲を刺激する。

ヴァージニア・ウルフはイギリスでは上流階級に属するので、エリートっぽい
ところが好きになれないという人もいるらしい。だが、ヴァージニア・ウルフ
は時代や社会と、自分との間の距離やズレを書いている。これは「ほんとうの
自分探し」に通じるものがある。なにもかもふつうにうまくいっているようで
ありながら、ほんとうの自分を探している……。

有閑階級の人はそういったことに深く思いをめぐらす時間がある。こういった、
人生に深く思いをめぐらすことにステイタスを見い出し、悦びを感じることが
できる作品だ。特に、イギリス階級社会の背景を細かく気にしないアメリカ人
や、階級社会に馴染み薄い日本人には、上流階級のエリート的な雰囲気をいや
らしく感じることはなく、逆に憧れの対象としてみることができる。

小説は登場人物の内面を言葉で描くことが得意だ。ヴァージニア・ウルフの作
品は内面の意識を書きつらねることに特徴があるという。
映画は登場人物の内面を動きで描くことが得意だ。「めぐりあう時間たち」は、
異なる時代と人物を交錯させるという「動き」で登場人物の内面の意識を描い
ている。巧みな編集技術で、原作「めぐりあう時間たち」の形式を損なうこと
なく、逆に映像としてわかりやすい作品に仕上げている。

ヴァージニア・ウルフは日常を描いている。日常では「ほんとうの自分探し」
が行われ、ウルフは小説の登場人物たちの人生に思いを馳せる。それは、異な
る時代と場所でのもうひとりの自分の姿を描いている。こうして、ひとりの人
間のなかに流れるいくつもの時間を旅する。
 
「ほんとうの自分とは? と思いをめぐらす」のが自分だとわかっていながら、
ほんとうの自分探しの旅は終わりがない。思いをめぐらしつづけることができ
るからだ。

映画作品「めぐりあう時間たち」がおもしろくなかった、という人がいるとし
よう。その人に、ある人がこう言った。
「アナタにはまだ早すぎる。もう10年、20年したらこのよさがわかるよ」
 
「おもしろくなかった」「あまりピンとこなかった」という人に、アナタはま
だわからないでしょうけど、もっとオトナになれば、もっと人生について深く
考えるようになればわかるようになるのよ、と言って、知的にも年齢的にも優
越感に浸れる作品だ。
そういった層を狙って作った作品だ。また、テーマのわりにわかりやすい編集
をしているため、狙いは見事に的中したといえる。

東京銀座の映画館で「めぐりあう時間たち」を観る。新宿中村屋でカリーを食
べる。――似た匂いがするかもしれない。
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※1 「THE HOURS」マイケル・カニンガム
  「ダロウェイ夫人」を元に3つの違う時代を生きる3人の女性の一日
  を描いた作品。文学古典作品を元にするという手法はイギリス小説
  に多い。マイケル・カニンガムはアメリカの作家であり、従来のこうし
  た手法を用いながらも、3つの時代と人物が重なり合うという形式を
  とった(たいていは古典作品の後日談など)。

※2 ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)(1882-1941)
  小説家、評論家。1915年「船出(The Voyage Out)」でデビュー。
  代表作に「ダロウェイ夫人(Mrs. Dalloway)」「波(The Waves」)
  「灯台へ(To The Lighthouse)」など。1941年3月28日、ウーズ川
  で入水自殺。
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めぐりあう時間たち―三人のダロウェイ夫人
 マイケル カニンガム (著), Michael Cunningham (原著), 高橋 和久 (翻訳)
ダロウェイ夫人 ヴァージニア・ウルフ (著), 丹治 愛
めぐりあう時間たち オリジナルサウンドトラック フィリップ・グラス
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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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