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08/05/2004

スチームボーイ(STEAM BOY)

スチームボーイ 通常版
バンダイビジュアル
2005-04-14


by G-Tools

大友克洋監督/2004年/日本

●監督の持ち味である緻密で凝った映像は健在。キャラクター不在でストーリ
 ーはなし。
 例えるなら、運転手のいない蒸気機関車が、乗客のいない客車を連結し、円
 周の線路を全速力で走り回っている、といったものだ。

Story(ストーリー)
―――――――――――――――――――――
19世紀、産業革命期の大英帝国。少年レイは、巨大な力が封じ込まれているス
チームボールを悪用されないように奮闘する。


Main Character (主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ジェームズ・レイ・スチム
 少年。発明一家に生まれる。

△スカーレット・オハラ・セントジョーンズ
 少女。オハラ財団創設者の孫娘。

△ジェームズ・ロイド・スチム
 博士。レイの祖父。

△エディ(ジェームズ・エドワード・スチム
 博士。レイの父。


Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
●監督の持ち味である緻密で凝った映像は健在。キャラクター不在でストーリ
 ーはなし。
 例えるなら、運転手のいない蒸気機関車が、乗客のいない客車を連結し、円
 周の線路を全速力で走り回っている、といったものだ。

19世紀、産業革命期の大英帝国(イギリス)の世界観を細部まできっちりと細
密画のように描いている。監督の美術・映像の表現技術は超一級だ。

それは前作「AKIRA」で世界に知らしめたものだ。「AKIRA」ではネオトーキョ
ーという独創的な世界観を構築して、圧倒的に緻密で斬新な映像表現で世界を
震撼させた。

なんだかわからないけれどもスゴイ! というのはマニア受けする基本である。
なんだかわからないけど、独特の世界観を細かいところまで描いている。その
映像的なスゴさと、万人には理解できそうもない孤高で奥深さを感じさせるも
の――これはマニアが好むものだ。

マニアマーケットをピンポイントで狙って作品を作っていけば、大ヒットはし
ないまでも、マニアマーケットではずっとヒットを飛ばしつづけていける。全
体でみても、マニアの圧倒的支持を受ける作品、監督というポジションを維持
していける。

確固たる地位を捨てて、こんどは多くの人に楽しんで観てもらえる作品を作ろ
うと一大決心をした……わけではないらしい。それは「スチームボーイ」を観
ればよくわかる。

おそらく、長引く制作期間(9年)と膨れ上がる制作費(24億円)によって、
マニアマーケットだけでは苦しいと思い、万人受けすることを狙って少年を主
人公にした冒険活劇にしたのだろう。

そうだとしたら、この狙いは見事にはずれた。マニア受けしずらく、かといっ
て万人受けもしずらい中途半端な作品になってしまった。

蒸気、機関車、飛行船、潜水艇というメカニックなものを描きたくて、そのた
めにキャラクターとストーリーを取って付けた、という印象を受ける。

〈∇キャラクターが確立していない〉
オハラ財団の少女スカーレットは、ことあるごとに登場するのだが、その発言
と行動に一貫性がない。次々に起こる状況変化に反射的になにかを言ったり、
行動したり、といったことが延々と続き、その言動に1本の基本線がまったく
感じられないのだ。そのため、スカーレットがただのヒステリー少女に見えて
しまう。
たとえば、そいういうキャラクターにわざと設定して、それが伏線(Pay Off)
として後に活かされる(Pay Offの解消)になればよいが、そのようなことは
なかった。

これは、キャラクター造形をまったく行っていないことによるものだろう。ス
カーレットを作品のなかでどのような役割を持たせるのか、その役割によって
他の登場人物にどのような影響を与えるのか。

「スチームボーイ」にとって、おそらくそんなことはどうでもいいのだろう。
蒸気を中心とした世界を描くことが第1目的なので、そのためのキャラクターや
ストーリーはどうでもいいと割り切っているとしか思えない。

〈∇ストーリーがない〉
ストーリーを例えるならば「運転手のいない蒸気機関車が、乗客のいない客車
を連結し、円周の線路を全速力で走り回っている」といったかんじだ。

一見すると、ストーリーが進んでいるようで、実は進んでいない。この原因は、
主人公レイに限らず、キャラクターの造形が行われていないためだ。

観客はキャラクターの行動や動機について十分にうなづけるものがなければな
らない。そうでなければ、主人公がなにをやってもその行動が薄っぺらく無意
味なものと思えてしまう。

キャラクターについて一番大事なことは「観客によるキャラクターへの感情移
入」だ。

ストーリーは、感情移入されたキャラクターの行動を通して動き出す。
そういった意味で「スチームボーイ」ではストーリーが進んでいかないのだ。

〈∇ストーリーの緩急がない〉
また、作品の中盤~後半~ラストまで、まったく息をつく間がない。これはマ
イナスな意味で「息をつく間」がないのだ。

後半はひたすらパイプの配管がめぐらされた機械室に蒸気が噴き出すシーンと
いったものが延々と続く。フルコースの料理だと思ったのに、メインディッシ
ュの肉(こってり系)しかでてこないレストランみたいだ。

ストーリーには緩急が必要だ。観客は緊張の連続に絶えられない。谷があるか
ら山がある。ずっと山ではどこが山かわからくなり、山も谷もなくなってしま
うのだ。

「スチームボーイ」は、まるで若いインディーズ監督が、溢れ出る才能とセン
スを、体力のつづくかぎぎり注ぎ込んだかのようだ。

〈∇テーマは悪くないが、新しさがない〉
テーマ(「科学の進歩は人類に幸せをもたらすのか」)は普遍的で使い古され
たものだけに、そこに斬新さが求めれる。

19世紀の大英帝国という時代と、テーマは合致しているが、なぜ「今」そのテ
ーマなのか。日本のアニメーション作品が描くテーマと場所としてなぜ19世紀
の大英帝国なのか。

逆に考えてみよう。イギリスの巨匠といわれる映画監督が、なぜ日本の幕末明
治維新期を描くのか――と。

日本にも蒸気機関がよく使われた時代もあった。その時代設定にしても良かっ
たのではないか。

だが、テーマにしても、どうでもいいのかもしれない。ただメカニカルな映像
が作れればよいのかもしれない……。

〈∇月が太陽になろうとした〉
たとえるならばこうだ。

月 ⇒大友克洋
太陽⇒宮崎駿

山に例えると、それぞれが山の頂上にいる。「月の山」を降りて「太陽の山」
に登ろうとしても、決して「太陽の山」の頂上に辿りつけない。頂上には太陽
がいるのだから。

宮崎駿監督の作品は大ヒットしている。
海外でも公開され「Miyazaki'sSPIRITED AWAY(千と千尋の神隠し)」はアカデ
ミー賞(2003年)第75回長編アニメ賞 と、ベルリン映画祭(2002年)第52回作
品賞(金熊賞)を受賞した。

月も太陽になりたいと思ったのか、それとも、太陽のおいしいところだけ利用
しようと思い付いたのか、どちらにしても、「天空の城ラピュタ」や「ハウル
の動く城」に似た個所が「スチームボーイ」にはある。

「ハウルの動く城」公式サイト 

宮崎駿監督は飛行機が好きだという。飛行機が飛び交うシーンをたくさん描き
たくて、豚の飛行機乗りを主人公とした「紅の豚」という作品がある。豚が主
人公というなんともニヒルでユーモアがあってCoolでなおかつ温かみのある作
品だ。そもそも題名が「紅の豚」。題名だけでつかみはOKだ。
ほかにも「ダーク・ブルー」という作品をスタジオジブリが洋画配給している。

自分が好きで好きでたまらないモノやコトがあるというのはとても良いことだ。
好きなことをやって飯が食えるのもいい。さらに多くの人にも楽しんでもらえ
たら最高だ。

これらすべてが揃うことは稀だ。時代というタイミングが合うかどうかという
のもあるし、自分が楽しいことを、はたして他人も楽しいと感じるかというの
もある。

こうした複雑な要因や状況が絡み合ってもなおかつ大ヒットするというのは、
ほんとうに稀なことだ。奇跡に近い。

好きでたまらないモノやコトを万人受けするように提供するには、自分の他に、
もうひとつの視点が必要だ。

宮崎駿監督は「もうひとつの視点」を大事に持って、最大限発揮できるよう心
掛けているのが作品から伝わってくる。

月が太陽になる必要はない。月には月の魅力がある。月を必要としている人が
いる。

〈∇よい仕事をする究極の職人〉
「スチームボーイ」の監督は、映像・美術監督というポジションでは最高の手
腕を発揮する。ストーリーテラーではなく、最高の技術屋・職人なのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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・・・そろそろ書いても良いだろ。随分前にスチームボーイを試写会で観て来ました。フライングで感想を書き始めたらつまらなそうだから、ずっとガマンしてました。 ... [Read More]

Tracked on 08/06/2004 at 10:23

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