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08/13/2004

ハルク(HULK)

ハルク
エリック・バナ
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
2004-07-07


by G-Tools
  アン・リー監督/2003年/アメリカ 原作:ジャック・カービー/スタン・リー マーヴェル・コミック(※1)の映画化作品

●ハルクが大暴れするシーンは一見の価値有り。親子の確執、トラウマ、自分
 との戦い、葛藤というドラマは観客の共感を得るには至っていない。

1〕プレミス(Premise)
   ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア

―――――――――――――――――――――
科学者の子として生まれた男が、致死量のガンマ線を浴びる。それがきっかけ
で、怒ると緑色の超人に変身するようになる。


〔2〕ストーリー(Story) 
―――――――――――――――――――――
断片的に残る、幼い頃の過酷な記憶に苦悩している青年科学者が、ある日の実
験中の事故で致死量のガンマ線を浴びる。青年は奇跡的に無傷で生還するが、
このときを境に、怒ると緑色の超人に変身するようになる。兵器として利用し
ようと企む軍に捕らえられるが、ハルクは軍事基地を抜け出し、大暴れする。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ブルース・バナー(ハルク)
 科学者。

△ベティ・ロス
 女性科学者。ブルースの元恋人。

△デヴィッド・バナー
 ブルースの父親。元科学者。

△ロス将軍
 軍人。ベティの父親。
 

〔4〕・1 ダイアニサイアック(Dionysiac)
―――――――――――――――――――――
(夢中になる、主人公に共感を得る)

ブルースがハルクに変身する謎を解くカギを父親のデヴィッドが握っている。
デヴィッドは父親であると同時に科学者であり、その狭間で揺れる。そうした
過去が明かになるのだが、父と子の確執というのは暗くなりがちだ。また、天
才科学者の心の内というのは、一般の人には理解しづらい。

カギを握るデヴィッドの心境に共感を得ることが難しいため、主人公ブルース
に共感しづらいだろう。
 
また、ベティがブルースを助けようと親身になるのだが、二人が元恋人同士だ
ということが一枚の写真で説明されるだけなので、なぜベティがそこまでブル
ースを助けようとするのかと疑問だ。

ベティと父親(軍人)の関係がうまくいっていない設定だが、ベティはブルー
スのことを父親に知らせて、軍に引き渡す。ベティの行動に、納得できない部
分があると感じる人もいるだろう。


〔4〕・2 アクト・ブレイクス(Act Breaks)次のアクトが始まる時点 
―――――――――――――――――――――
ブルースは研究室の事故で致死量のガンマ線を浴びる。


〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
●ハルクが大暴れするシーンは一見の価値有り。親子の確執、トラウマ、自分
 との戦い、葛藤というドラマは観客の共感を得るには至っていない。

「ハルク」には敵が存在しない。ここでいう意味は、無敵の強さを持っている
ということではなく、敵となる悪(「バットマン」でいうところのジョーカ
 ー)が存在しないということだ。(ある意味、ハルクは無敵の強さ、パワー
を持っている)

たとえ敵ではあっても、それが単純に善悪で区別できないキャラクターであれ
ばストーリーに深みを与える。しかし「ハルク」には明確な敵が存在しない。

敵が存在しないというのは、作品の軸が明確な善悪の対立構造にはなっていな
いということだ。もっと複雑で深刻な、自分と戦っているブルースの葛藤や苦
悩を、親子という対比によって描こうとしている。

親子の関係(とくに父と子)というのは「オイディプス王」(※2)にみられ
るように、古くからドラマの重要なテーマだ。
 
アン・リー監督(※3)はドラマ性を持った作品を作ることで有名だ。マーヴ
ェルコミックの映画化でも、監督は登場人物の関係性(父と息子、父と娘)を
軸にドラマ性を強調したのだろう。しかし、こうしたドラマ性が感動を呼ぶめ
には、登場人物への感情移入が前提条件だ。幼年期のトラウマ、親子の確執、
内面の葛藤、自分との戦い、という深刻なトーンのため、より多くの人の共感
を得ることはむずかしい。

ハルクの暴れぶりは一見の価値有りだ。攻撃を受けるほどに体が大きくなって
強大なパワーを発揮するハルクを、ILM(※4)が映像化している。

夜、狂暴化した犬3匹とハルクが戦うシーンがある。暗闇の中、ハルクはベテ
ィを守りながら、何度も襲いかかってくる犬(強暴な獣と化している)と戦う
のだ。ヘリや戦車と戦うシーンもすごいのだが、これらは昼間のシーンのため、
どことなくマンガチックな画にみえるところもある(もっとも、原作は漫画で
ある)。つまり、犬と戦うシーンは、暗闇で多少見ずらく、相手が生き物であ
るからこそ、かえって迫力があるものになっているのだ。

編集では、スプリットスクリーン(画面割)を多用している。これは、スクリ
ーンを分割して映像を写す技法だ。漫画のコマ割りに似ている。意識して取り
入れたのだろう。映像をコマ割りで観ることに慣れていないせいだろう、これ
には不思議な雰囲気があった。
普段、漫画を読まない人は、漫画をどのコマから順にみていけばいいのか迷う
という。最近では各コマに番号がついている漫画があるらしい。慣れれば順番
を間違えることなく自然とコマ順がわかるものだ。
スプリットスクリーンを用いた映像作品が増えれば、それが普通になるかもし
れない。そして、スプリットスクリーンに最もマッチしたおもしろい映像作品
ができそうな予感もする。
 
「ハルク」には、なにか目的があるともっとよかった。記憶が曖昧だが、昔観
た実写TVシリーズのある回では、主人公が乗った旅客機のパイロットがなん
らかの事情で操縦できなくなった。代わりに操縦桿を握った主人公がなんとか
旅客機を着陸させようとする。着陸したはいいが旅客機のスピードが落ちない。
なぜかブレーペダルのようなものが硬くて常人の力では踏み込めないのだ。
(飛行機にブレーキペダルがあるのかどうかは不明だが・・・)。このままで
は大事故になる! そこで主人公はハルクに変身してペダルを踏み込み、見事、
無事に旅客機を停止させることができた。するとハルクは操縦席を飛び出し、
滑走路脇のフェンスを破壊していた……。
 
このように、旅客機を無事に着陸させる、という目的がはっきりしていると、
観客はハラハラドキドキして観ることができる。旅客機は無事に着陸すること
ができるのか?(セントラルクエスチョン) ハルクはどこで、どのような状
況がきっかけで変身するのか?(お約束事)

ハルクのVFX映像は目立っている。「パイレーツ・オブ・カリビアン」の控
えめなVFX映像の使い方とは正反対である。どちらもILMが視覚効果を担
当している。
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※1 マーヴェル・コミック
  米人気コミック誌。「スパイダーマン」「X-MEN」で有名。

※2 オイディプス王
  ソフォクレス著。ギリシャ悲劇。先王殺害犯人の捜索をするうちに、オイ
  ディプスは真相に直面する。

※3 アン・リー(Ang Lee 李安)
  映画監督。1954年、台湾生まれ。「いつか晴れた日に」('95)、「楽園
  をください」('99)、「グリーン・ディスティニー」('00)で、第73回
  アカデミー外国語映画賞など4部門を受賞。

※4 ILM
  Industrial Light and Magic 社。映画用視覚効果プロダクション。映画
  監督ジョージ・ルーカスが創設。「スター・ウォーズ」「ジュラシッック
  ・パーク」「T2」等を手がける。
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ハルク DVD
ハルク 角川文庫
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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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