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07/30/2004

マッハ!!!!!!(ONG-BAK)

プラッチャヤー・ピンゲーオ監督/2003年/タイ

●痛さが伝わる大迫力のアクション! 
 タイでしかなしえないエンタテインメントアクション傑作

Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ティン
 青年。古式ムエタイを習得。

△ジョージ
 ノンプラドゥ村出身の男。バンコク在住。

△ムエ
 少女。ジョージと組んでいる。

△ドン
 ノンプラドゥ村出身の男。コム・タンの部下。

△コム・タン
 密輸団のボス。

▽オンバク
 仏像。ノンプラドゥ村の神聖な守り神。


Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
●痛さが伝わる大迫力のアクション! 
 タイでしかなしえないエンタテインメントアクション傑作

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一、CGを使いません
ニ、ワイヤーを使いません
三、スタンとマンを使いません
四、早回しを使いません
五、最強の格闘技ムエタイを使います
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ストーリーはシンプル。村の守護神である仏像の首が奪われた。村の青年が
都会(バンコク)へ仏像を取り戻しにいく、というもの。

∇キャラクターについて
メインキャラクターのティンの相棒役として、ジョージが登場する。ジョージ
はノンプラドゥ村の出身だが、都会暮らしで村のことには関わりたくないと思
っている。
そのため、同郷のティンが尋ねてきたときも、人違いだと言って追い帰そうと
する。

だがジョージはティンがお金を持っていることを知る。それは村のみんなが少
ないながらも出し合って旅費の足しにしてくれとティンに託したお金だった。
ジョージはティンをだしぬいて、村のお金を賭け事に使おうとする。そのため
ジョージは最初、ティンの信用を得られない。

ジョージはティンが強いムエタイ使いだと知ってなんとか金もうけに利用した
いと思い、仏像を取り戻すのを助けるフリをする。

はじめはこんな調子であったジョージだが、ストーリーが進むにつれて、ティ
ンと危険をかいくぐるうちに、だれかのために、村のためにできるかぎりのこ
とをしようという気になる。

ジョージの気持の変化のきっかけには、ムエの姉の死がある。
ムエは孤児で、姉と2人で生きてきたが、最近は姉とうまくいっていなかった。
ムエはジョージと組んでイカサマ師のようなことをして稼いでいた。ムエにと
っては唯一の家族の姉を亡くしたことで、腐れ縁のように組んでいたジョージ
のことをより一層頼りにするようになる。

こうしたいきさつは、田舎の家族と離れ、都会で孤独のなかにあったジョージ
が、ムエに頼りにされている実感を得ることで、だれかに頼られる嬉しさと責
任を感じ、だれかのためになにかをしたいと思うきっかけとなった。

そこでジョージは、ティンを助けて(村人を助けて)、仏像を取り返そうと決
心する。

こうしたティンの心境の変化と、それに伴う行動の変化が描かれている。これ
はメインキャラクターのティンと対をなして、キャラクターを人間味あるもの
としている。

というのは、ティンのキャラクターは最初と最後ではほとんど変わらない。
正義のヒーローであるティンは、常に信心深く、村人を救うために戦う。

変化しないキャラクターというのは観客に感情移入されずらい。そこで、相
棒のジョージに人間味溢れるキャラクターの役割を与えることで、観客の心
をしっかりつなぎとめておくことができるのだ。

ティン  →アクション担当
ジョージ →人間味担当

アクション作品でありながら、キャラクターの役割配分をしっかりしているの
もよい。
アクションが売りの作品でも、最初から最後までひたすらアクションシーンで
は観客も飽きてしまうからだ。
とはいっても、「マッハ!!!!!」のアクションは迫力満点だ。

∇アクションについて
格闘シーンで痛さが伝わってくる。これはすごいことだ。最近の映画はCGなど
の映像効果を用いてアクションシーンを派手に見せようとする傾向がある。
だが、アクションシーン、特に格闘シーンに関しては、機械的に手を加えれば
加えるほど、無機質で迫力のない映像になってしまうことがよくある。

なぜなら、アクションシーン(格闘シーン)は人間の身体が主役だからだ。コ
ンピュータを使った映像効果は、身体とは対極にある、脳がつくりだしたもの
なのだ。

そもそもアクション(格闘)を映像としてフィルムなりデジタル信号なりにお
さめて、これを劇場で上映することで、身体=アクションを表現することは難
しい。

これは、格闘技の試合を観るには、やはり試合会場に足を運んで、生で観るの
が一番だ、という格闘ファンが多いのを考えてみればわかりやすいだろう。

にもかかわらず「マッハ!!!!」のアクション、格闘シーンからは痛さが伝わっ
てくる。
本来、映像では伝わらないとされるもの――匂い、感触、感情――をいかに伝
えることができるか。どれかひとつでも伝われば、その作品は際立って「味」
のある作品となる。

タイでも、CG技術を用いた映画作品がいろいろと作られている。だがこの作品
ではそれらを一切使っていない。

タイでしかなしえない題材・場所を選んでいる。それはムエタイ、バンコク、
トゥクトゥク(タクシー)のことだ。

トゥクトゥクのカーチェイスシーンをいままで観たことがなかった。アメリカ
映画のカーチェイスシーンを見慣れた人にとっては、新鮮に映るだろう。

(もし、タイ・バンコクなのに、アメリカ映画の真似をして普通の車でカーチェ
イスをしたら……。
真似をすることは悪いことではないが、真似する場所を間違えてはせっかくの
題材と地の利が台無しになってしまう。)

主人公ティンのアクションは必見だ。車を飛び越える跳躍力。トラックの下の
僅かな隙間をすり抜ける身体の柔軟性。人の頭や肩などを踏み場にして空中を
走って行くバランス感覚。剣術、棒術の巧みさ。ヒジ、ヒザを駆使したアクシ
ョンとその破壊力。そしてなんといっても目にもとまらぬ蹴りのスピード。
早回しを使っていないというのに、あのスピードはありえない! と思えるほ
どだ。

酒場の椅子やテーブルや壁で殴られるティン。椅子やテーブルはバラバラに粉
砕される。この迫力には圧倒される。

思いもしない角度や方法で相手を蹴る。突進してくる相手を一瞬、一撃で倒す
ヒザ蹴り。

本物のアクション映画がここにある。

ちなみに主演のティン(トニー・ジャー※)は日本人タレントでいうと、TOKIO
の国分太一に似ている。両者には誠実そうなキャラクターイメージがあるので、
日本のテレビ番組に慣れ親しんだ人は、近親感を持って観れるだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
※ トニー・ジャー
  スタントマン出身。10歳より古式ムエタイとスタントを学ぶ。テコンドーや
  剣術も習得。「マッハ!!!!」はでは武術指導もつとめている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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07/27/2004

スパイダーマン2(SPIDER-MAN2)

スパイダーマン 2 デラックス・コレクターズ・エディション
トビー・マグワイア
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2004-12-03


by G-Tools

サム・ライミ監督/2004年/アメリカ
原作:スタン・リー

●青年の恋を描いた青春と成長の物語

Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ピーター・パーカー
 大学生。スパイダーマン

△メリー・ジェーン・ワトソン
 舞台女優。ピーターの同級生。

△ハリー・オズボーン
 ピーターの同級生。

△Dr.オットー・オクタヴィウス(Dr.オクトパス)
 科学者。


Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
●青年の恋を描いた青春と成長の物語

∇主人公への感情移入
前作でグリーン・ゴブリンと戦ってから2年後、ピーターは大学生となった。
だが、ピザ屋や新聞社のカメラマンのバイトで忙しく、大学の授業に出席でき
ずにいる。

すでにスパイダーマンとして生きていく決意を固めたピーターは、愛する人
――メリー・ジェーン(MJ)――を守るために自分がスパイダーマンだとはだ
れにも明かさないようにしている。

そんな状況が作品のセットアップで見事に描写されている。
ピザ屋の宅配をするピーター。29分以内に必ず届けなければクビになってしま
う。時間的制約があるなかでピザを載せたスクーターで渋滞の道路をすり抜け
て疾走する。いよいよ時間がなくなると、スパイダーマンになってビルとビル
の間を飛んでいく。途中で、車に轢かれそうになっている子供を助ける。そう
こうしているうちにピザの宅配が遅れて、クビになってしまう。

アパートの家賃は滞納しており、お金が必要だ。そこでスパイダーマンの写真
を新聞社に売るが、まだお金は足りない。

そもそも、この新聞社は部数増加のためにスパイダーマンは悪者だという記事
を書いているのだ。

ピーターはスパイダーマンとしての正義の行動を邪魔するかのような新聞社に、
お金のために写真を渡して協力してしまっているという、なんともやりきれな
い思いだ。

さらに、親友のハリーは、父(グリーン・ゴブリン)を殺したのはスパイダー
マンだと思い込んで、復讐を誓っている。

そうした理由で、ハリーは父の仇のスパイダーマンを追っかけて写真をとって
いるピーターの行動を快く思っていない。

ピーターはハリーに「親友ならスパイダーマンの居所を教えてくれ」と頼まれ
る。

そして、愛するメリー・ジェーンの舞台を観にいこうとしても、途中で事件を
を聞きつけるとスパイダーマンになって悪を退治に行ったり、人々を助けたり
するので、遅刻して舞台をみることができない。

メリー・ジェーンはすれ違うばかりの恋を諦め、よく舞台を観にきてくれる男
性と婚約する。

すべてはスパイダーマンであるがために、大事な友人や愛する人を失っていく。
そんなピーターに観客は最大限の感情移入をする。

また、ピーターが持つ蜘蛛の特殊能力は、主人公の弱さである。常人にはない
特殊能力を持っていることがかえって弱さになっている。人より優れたものを
持っていることが、主人公の弱さになっているのだ。

観客は主人公の弱さに感情移入する。そして、観客は主人公の弱さの基でもあ
る特殊能力に魅せられる。特殊能力が映像的にすごいからだけでなく、その特
殊能力を正義のために使うことに声援をおくるのだ。

スパイダーマンとして活躍すればするほど、ピーターの大事な人は遠く離れて
いく――。

観客と主人公が一体となったとき、そこに真のヒーローが生まれる。

この作品は、観客の、主人公への感情移入がいかに大事かということを示して
いるよい見本だ。

∇笑い、ユーモア
要所におもわず笑ってしまうシーンがある。笑いやユーモアを取り入れる場所
や頻度や内容など、天性のセンスともいうべきものを持っているといっていい
サム・ライミ監督(※)の手腕が発揮されている。

∇細部
大学に通うピーターのディバッグのショルダー部分が千切れそうになっている
のだろう、そこに布だかテープだがを巻いて補修していた。
画面にはほんのちょっとしか映らないのだが、こうした細部は作品の雰囲気を
しっかり作り上げるのに大いに役立つ。
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※ サム・ライミ(Sam Raimi)
  映画監督。アメリカ・ミシガン州出身。83年「死霊のはらわた」のヒット
  で人気監督に。作品に「ダークマン」「ギフト」等。
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Spider-Man 2 [Original Soundtrack] オリジナルサンウンドトラック
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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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07/25/2004

恐竜博

〈カテゴリ:マーケティング〉

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「驚異の大恐竜博 起源と進化~恐竜を科学する」
 開催期間:7月16日(金)~9月12日(日)
 開催場所:幕張メッセ
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夏休みのイベントが各地ではじまった。そのうちのひとつに、90年代から続く
恐竜ブームがある。

90年代以前も、デパートの催し物会場などで恐竜博を開催していたが、90年
代に入ってからはますます盛況だ。

恐竜を扱った映画作品では「ジュラシック・パーク」(93年)、「ロスト・ワ
ールド/ジュラシックパーク」(97年)、「ジュラシック・パークⅢ」(01年)
がある。これらはCG技術の発達の助けもあり、順調にヒットをとばしつづけて
きた。

なぜ恐竜ブームなのだろうか? 
なぜなら、恐竜が「懐かしい記憶を呼び覚ます」からだ。

懐かしい記憶とは、人類には失われたとも言われることがある「野生」のこと
だ。実際には「野生」の記憶や感覚が全く失われてしまったということはない。
例えば、格闘技観戦やスポーツ観戦にはじまり、みずから格闘技やスポーツを
することからも、人は身体を動かすことで、生き物としてのある種の「野生」
の感覚を持ちつづけていると言えよう。

だが、すべての人が日常的にスポーツができるわけではない。また、たとえさ
まざまなスポーツをしていたとしても、現代社会、とくに日本ではめったに出
会う(触れる)機会がないことがある。

それは「身体」だ。

現代社会は、テクノロジーの発達によって、あらゆるところで人間にとって都
合のよいように構築されてきた。人間にとって都合がいいとはつまり、人間が
考えうる限りに、人間にとって都合のよい社会をめざしてきたということだ。
それはつまり、人間の「脳」が考えた社会である。

街中を歩いてみると、道にはゴミはたくさんおちているが、ヒトの指ひとつ落
ちていない。小鳥の死骸や猫の死骸すら、すぐに片付けられる。

「死」は「身体」を意識させる。「脳」に対するものは「身体」だ。そういう
わけで、街中で「死」を意識させるものが目につく場所にあるのを「脳」は嫌
うのだ。

現代社会で「身体」を意識させる(できる)場所は限られている。わかりやす
いところでいえば、軍隊や病院だ。

こういった社会で、直接に「死」を意識しないで「身体」に出会えるもの、
それが「恐竜」だ。

ちなみに「死」を意識せせるものでも、人々の興味や注目を集めることができ
る。例えば「人体の不思議展」というのがある。「死」を想うことはつまり
「生」を想うことであるからだ。「生」と「死」は表裏一体なのだ。

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「人体の不思議展」
開催期間:7月17~8月31日
開催場所:浜松科学館
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話を恐竜に戻そう。
恐竜の原寸大の模型を見たら、みなさんはどう感じるだろう。模型には、恐竜
がの骨格だけのものもあるだろうし、肉が付いて大きな角が生えたものもある
だろう。

きっとあなたは、大きく力強い圧倒的な「なにか」を感じるだろう。

その「なにか」とは「身体」の奥底にある記憶――DNAに刻まれた記憶とでも
いえるかもしれない――が蘇るときの感覚なのかもしれない。

脳にとって気持ちよく都合がよい社会に生きる人々にとって、疎外され、滅多
に出会うことがなくなった「身体」を意識することができる、そんなきっかけ
を与えてくれるのが恐竜なのだ。

「恐竜」という言葉と実際の展示物は、子供と大人の区別なく、ヒトに生物と
しての記憶を蘇らせる期待感と高揚感を抱かせることができる。

脳のニーズだけでなく、身体のニーズにも注目してみるといいだろう。

【まとめ】-----------------------------------------------------------

●ヒトの欲求を研究する。このとき、脳のニーズだけでなく、身体のニーズ
 にも注目する

★子供と大人の区別なく興味を惹き、楽しめるものを提供する
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※ 参考・用語引用図書
 「唯脳論」養老 孟司 (著)
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メールマガジン「ディズニー&ピクサーでみつけようゲスト感動のヒント 」

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07/12/2004

アバウト・シュミット(ABOUT SCHMIDT)

cover
アレクサンダー・ペイン監督/2002年/アメリカ

●題材に合ったロケーションと、題材に合った俳優の2つが揃っている

〔1〕ログライン(Log line)(ストーリーを述べてある一文)
―――――――――――――――――――――
定年退職した男が、妻の死や娘の結婚を経験して人生を見つめ直すロードムー
ビー。


〔2〕ストーリー(Story)
―――――――――――――――――――――
定年退職になったシュミットが生活のリズムと自尊心を失い、チャリティー団
体の里親になる。妻が亡くなり、あってあたりまえだったことを失う悲しさや
寂しさを感じ、さらに愛娘の結婚が近づいている。。シュミットは愛娘に会う
ためにキャンピングカーで旅立つ。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ウォーレン・シュミット
 男。66歳。44年勤めた保険会社を退職する。

△ヘレン
 シュミットの妻

△ジーニー
 シュミットのひとり娘。コンピュータ会社勤務。結婚間近。

△レンドール・ハーツェル
 ジーニーの婚約者。ウォーターベッドのセールスマン。


〔4〕キャラクター・アーク(Character Arc)
―――――――――――――――――――――
(ストーリーの中でのキャラクターの経験を通して起こる、キャラクターの
性格や価値観の変化)

生活リズムを失い、だれにも頼りにされない喪失感を味わったシュミットが、
立て続けに起きる人生の契機(妻の死、娘の結婚)を通して、今まで見向きも
しなかったことについて思いを巡らせるようになる。


〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
作品の題材だけで考えると、日本でも撮れそうだなぁって。でも作品を観て思
った。アメリカ合衆国で撮るほうが断然いいんだって――。

定年退職したおっちゃんの話。そう聞いたとき、なんかつまんなそうだなぁと
思った。だけど、アメリカじゃぁけっこうヒットしたらしい。

映画を観た結論からいうと、これはおもしろい! しっかりエンターティメン
トしているのだ。
退職した次の日の朝、いつもの時間に目が覚めたシュミットは、妻が起きるま
での時間つぶしに書斎でパズルかなんかやったりする。昼間はすることがない
のでぼぉーとテレビを眺めたり、チャンネルをいろいろ替えたりする。

アメリカではハッピーリタリアと言って、みんな退職する日を心待ちにしてい
る、なぁんてきいたことがあったけど、どこの国だっておおきな違いはないみ
たいだ。

シュミットと対象的なのは妻ヘレンだ。主婦のヘレンはいつものように家事を
こなしている。家事に定年はないし、ヘレンには趣味もある。

シュミットは退職したとたん、何もすることがない。そうするといつも一緒に
いる妻ヘレンの、以前から気になっていたこと――駐車場で、車に乗るはるか
以前に鞄からキーを取り出して手にもって歩くこと等――がますます気になり、
イライラする。
 
シュミットはひさしぶりに会社に顔を出してみるが、もうそこには自分の居場
所はないことを実感しただけだった。

こんなシュミットの状況は、日本でもいくらでもありそうだ。「ある! ある! 
そういうの!」って共感を得てからが、この作品のすごいところだ。
なにがすごいって、シュミット役のジャック・ニコルソン(※)がすごいのだ!
シュミットはセリフがなくても、仕草や顔の表情で演技する。それがなんとも
チャーミングで哀愁さえ漂っている。

シュミットの内面は、チャリティー団体への寄付に添える、アフリカの6歳の
少年ムトゥルへの手紙でわかるのだ。
手紙でシュミットは自分の自己紹介と家族構成について、最近の出来事につい
て書いているうちに、自分の思いをどんどん書きつらねていく。それがナレー
ションされる。こうやって、ジャック・ニコルソンのセリフのない演技(外面)
と、ナレーション(内面)で、ストーリーが進んでいく。これがとてもわかり
やすくていいのだ。

わざとらしいナレーションが入ると「いかにもなにかを狙ってるなぁ」という
感じがするけど、ムトゥルへの手紙という形ならば、違和感がない。これで、
シュミットの自己紹介や家族のこともわかるし、うまいなぁっと思った。

この作品がアメリカ産(?笑)でよかったところ。それは風景だ。シュミット
のいる町はネブラスカ州オハマ。アメリカ合衆国の真ん中あたり。娘のジーニ
ーはコロラド州デンバーに住んでいる。どちらもアメリカ合衆国の中西部あた
り。シュミットはキャンピングカーで娘に会いに出掛ける。その道のりでは、
中西部の風景が地平線のかなた、どこまでも広がる。だれもいない道路の脇に
キャンピングカーを停めて車を降り、景色をながめるシュミットの後姿と、広
大な風景が合わさる。それがシュミットの心情風景となっているのだ。
あんな画は日本で撮れない。日本だと、たぶん海辺になると思う。北野武監督
作品でよく出てくる海辺(砂浜)みたいに。

シュミットが家でテレビばかり見ていてもストーリーが進まないので、旅に出
掛けさせる。そのためにキャンピングカーがあり、広大なアメリカ合衆国中西
部の土地があり、設備が整ったキャンピング・カー・パークがたくさんあるの
だ。

日本でも充分使えそうな題材だけど、アメリカ合衆国で撮るほうがいい。題材
に合ったロケーションと、題材に合った俳優の2つが揃っているのだ。

暗くなりがちな題材を選んでも、ちゃんとエンタテイメントしてるところがす
ごい!
 
いやはや、「アバウトシュミット」に出会えて良かったッス。
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※ ジャック・ニコルソン(JACK NICHOLSON)
  俳優。1937年生まれ。米ニュージャージー州出身。「恋愛小説家」でアカデ
  ミー主演男優賞受賞。「愛と追憶の日々」でアカデミー助演男優賞受賞。
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「アバウト・シュミット」 ルイス ビグレー (著), Louis Begley (原著),
                 高橋 結花 (翻訳)
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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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07/07/2004

安定と変化

〈カテゴリ:マーケティング〉

20代後半独身男性のサラリーマンのBさんがいつも行くスーパーマーケット
(K店・仮名)がある。もう何年も前からその店に通っている。
だが、ある日、その店が突然閉店してしまった!

なんということだ!

K店なら店のどの棚にどのような商品があるのかすべてわかっている。品揃え
に特に不満があるわけでもなかったし、値段が高いと感じたこともなかったし、
店員の態度だって、いつも笑顔というわけではなかったが、特に悪い印象はな
かった。

よかったことと言えば、仕事帰りの夕方だけでなく、土日に行ってもいつも
店内は空いていて、レジで並んで長く待たされるといったことなんかなかった。

それなのに、閉店してしまうだなんて! なんでだぁぁ!

Bさんの話を聞いてみると、閉店した理由がなんとなくわかるような気もしま
すね(^_^;)

でも、BさんにとってはK店は利用しやすい良い店だったのです。たとえ他の人
がK店のことを、品揃えは平凡だし、値段はそこそだけどお徳なセールはめった
にやらないし、店員は無愛想だし、いつ行っても客がいなくて空いているし、
品物が売れなくて古い商品ばっかりなんじゃないかと思ってしまうし、、それ
にいくら買ってもポイントがつかないし損した気分になる、と思っても、Bさん
にとってはよい店だったのです。
なぜなら、K店ならいつもと変わらずに買い物ができたからです。

Bさんは他のスーパーマーケットを見つけなければなりません。
他の店ではまたはじめから商品の場所を覚えなければならないし、最近のスー
パーマーケットはスタンプ張だかポイントカードだか会員だかと、いろころあ
るらしい。そういうのは面倒だとBさんは思っています。

一度馴染んだ店や商品を、ほかの店や商品に変えるのはとても難しいのです。
たとえ、どんなにお徳なクーポン券をつけたりして特典があると宣伝しても、
よっぽどのことがないかがり、馴染みの店に通い、馴染みの商品を買いつづ
けるのです。

馴染みのものを変えるには、相当な労力を必要とします。人は安定を求める欲
求があるので、一度信用してずっと使いつづけてきたものを継続して使いつづ
けることを望みます。

人は思った以上に変化を嫌います。これを心に留めておきましょう。
そうすれば、いまの顧客がなぜ自分の店を選びつづけてくれているのかが見え
てくるでしょう。

顧客が信用を寄せてくれている中核となる要素を的確に掴み、それを大切にし
つつ、より良い店にすることや、より良い商品を提供することに励めば、顧客
との絆はより深く強くなるでしょう。

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メールマガジン「ディズニー&ピクサーでみつけようゲスト感動のヒント 」

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07/06/2004

「期待」と「安心」

【マーケティング・ディズニー&ピクサー魔法のヒント 】

なぜディズニーリゾートは人気があるのでしょう。
ほかにも遊園地はいろいろあるのに、なぜディズニーリゾートにはリピーター
(何度も行く人)が多いのでしょう。

答えはいろいろと考えることができます。そのうちの「期待」と「安心」と
いうキーワードを「遠足」を例にとりあげてみましょう。

<期待>
遠足の日の前の晩、小学生のケイタくんはワクワクしてなかなか眠れません。
ワクワクするのは、明日の遠足への興味からです。知らない場所へ行けば、
きっと今まで見たことないおっきな昆虫を発見できるかもしれない!

新しい発見や驚きがあるかもしれない。そんな期待でケイタくんの頭はいっぱ
いです。

<安心>
遠足は学校行事です。いつもクラスメイトたちと担任の先生と一緒です。これ
なら安心です。

ディズニーリゾートも多くの人々に、「期待」と「安心」の両方が満たされる
場所だと思われています。

●期待は主に2点(再現と想像)から成ります。
∇再現
ディズニー作品で観たあのシーンが実際に目の前に現れる! それは「もしも
~だったら」という願望が目の前に現実(たとえ作り物の世界だとわかってい
ても)に現れるということです。

もしぼくに(わたしに)翼があったら、すぐにでもあの人のもとの飛んでいく
のに……(これを英訳せよ。なんていう英語の問題がありそうですね)。

実際にはぼくに(わたしに)翼はありません。でも、もし翼があったら? 
いえ、あなたは明日、翼を得ることができるのです! と言われたら?

いままでは想像の中での出来事が(翼を広げて大空を舞い、あの人のもとへ飛
んでいく)明日には現実になると言われたら?

現実には飛んでいけなくても、遠く離れた場所にいるあの人(あの人っていっ
ったい誰なんでしょうね?(^_^))と電話でおしゃべりしたらい、Eメールを
やりとりすることで、相手を身近に感じることができるかもしれませんね。

想像したもの(イメージ)が実際の形に(再現)なって現れることにワクワク
する人なら、ディズニー作品の世界に行けると聞けば、とてつもない期待感を
抱くのです。

∇想像
想像したもの(イメージ)が実際の形に(再現)すると、人は好奇心や探求心
を刺激されて、さらにイメージが膨らみます。

これは、小さな子供が同じ絵本を何度も読んで聞かせてくれとせがむのに似て
います。
子供は同じ物語を何度も読み返すことで、物語を自分の内にとり込んで新たな
物語をいくつも創り出していくことができるのです。

こうした想像する能力は歳を重ねるごとに忘れ去っていきやすいものですが、
すべて失われてしまうわけではありません。物語を自分の中にとり込んで新た
な物語を作っていく能力はだれでも持っています。ただ、それを使うのを忘れ
ているだけです。

ディズニーリゾートは、忘れかけていた物語を作る能力を思い出させてくれる
場所
なのでしょう。だからこそ、大人も子供も楽しめるテーマパークとして多
くの入場者を集めているのでしょう。


●安心は主に3点(キャスト、ゲスト、世界観)から成ります。
∇安心――キャスト
ディズニーリゾートに行けば、いつも笑顔で迎えてくれるキャストたちがいる。
なにか困ったことがあっても、キャストに相談すれば、すぐに丁寧に話を聞い
てくれる。問題解決に向けて適切な便宜を図ってくれる。そんな「安心感」が
あるのです。
 
∇安心――ゲスト
また、ディズニーリゾートにやってくるゲスト同士も、お互いに他人でありな
がら、ある程度の親近感を持つことができます。なぜなら、どのゲストもディ
ズニーという共通の認識を持っているからです。それは「山道」での登山者同
士の挨拶に似たものがあります。お互いに他人でも、山ですれ違えば「こんに
ちは」と声をかけあう。これも「山という場にいる共通の人」という認識があ
るからです。
ディズニーや山という「共通の場」があれば、人はお互いに他人でありながら
も、少なくとも「特別に警戒が必要な見知らぬ人」とは認識しないのです。

∇安心――世界観
ディズニーの作品は広く人々に知られています。大人から子供までだれもがも
が楽しめるように作られており、安心して観ることができます。
テレビや映画には、子供に有害だと言われるシーンがたくさんあります。でも
ディズニー作品にはそのように一般的に子供に有害だと言われるシーンはあり
ません。
ディズニー作品の世界を現実の「場」として作ったディズニーリゾートは、だ
れもが安心して過ごせる場所と人々は感じるのです。

【まとめ】-----------------------------------------------------------

●期待と安心をバランス良く提供する

★期待とはワクワク感。作られた世界観であっても、想像力を刺激して、人
 それぞれが自らの物語を作り出しやすい環境を提供する。

★安心はキャスト(店員)、ゲスト(客)、世界観(企業理念、メッセージ、
 店の内装等)の3つから成る
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メールマガジン「ディズニー&ピクサーでみつけようゲスト感動のヒント 」

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