« 安定と変化 | Main | 恐竜博 »

アバウト・シュミット(ABOUT SCHMIDT)

cover
アレクサンダー・ペイン監督/2002年/アメリカ

●題材に合ったロケーションと、題材に合った俳優の2つが揃っている

〔1〕ログライン(Log line)(ストーリーを述べてある一文)
―――――――――――――――――――――
定年退職した男が、妻の死や娘の結婚を経験して人生を見つめ直すロードムー
ビー。


〔2〕ストーリー(Story)
―――――――――――――――――――――
定年退職になったシュミットが生活のリズムと自尊心を失い、チャリティー団
体の里親になる。妻が亡くなり、あってあたりまえだったことを失う悲しさや
寂しさを感じ、さらに愛娘の結婚が近づいている。。シュミットは愛娘に会う
ためにキャンピングカーで旅立つ。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ウォーレン・シュミット
 男。66歳。44年勤めた保険会社を退職する。

△ヘレン
 シュミットの妻

△ジーニー
 シュミットのひとり娘。コンピュータ会社勤務。結婚間近。

△レンドール・ハーツェル
 ジーニーの婚約者。ウォーターベッドのセールスマン。


〔4〕キャラクター・アーク(Character Arc)
―――――――――――――――――――――
(ストーリーの中でのキャラクターの経験を通して起こる、キャラクターの
性格や価値観の変化)

生活リズムを失い、だれにも頼りにされない喪失感を味わったシュミットが、
立て続けに起きる人生の契機(妻の死、娘の結婚)を通して、今まで見向きも
しなかったことについて思いを巡らせるようになる。


〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
作品の題材だけで考えると、日本でも撮れそうだなぁって。でも作品を観て思
った。アメリカ合衆国で撮るほうが断然いいんだって――。

定年退職したおっちゃんの話。そう聞いたとき、なんかつまんなそうだなぁと
思った。だけど、アメリカじゃぁけっこうヒットしたらしい。

映画を観た結論からいうと、これはおもしろい! しっかりエンターティメン
トしているのだ。
退職した次の日の朝、いつもの時間に目が覚めたシュミットは、妻が起きるま
での時間つぶしに書斎でパズルかなんかやったりする。昼間はすることがない
のでぼぉーとテレビを眺めたり、チャンネルをいろいろ替えたりする。

アメリカではハッピーリタリアと言って、みんな退職する日を心待ちにしてい
る、なぁんてきいたことがあったけど、どこの国だっておおきな違いはないみ
たいだ。

シュミットと対象的なのは妻ヘレンだ。主婦のヘレンはいつものように家事を
こなしている。家事に定年はないし、ヘレンには趣味もある。

シュミットは退職したとたん、何もすることがない。そうするといつも一緒に
いる妻ヘレンの、以前から気になっていたこと――駐車場で、車に乗るはるか
以前に鞄からキーを取り出して手にもって歩くこと等――がますます気になり、
イライラする。
 
シュミットはひさしぶりに会社に顔を出してみるが、もうそこには自分の居場
所はないことを実感しただけだった。

こんなシュミットの状況は、日本でもいくらでもありそうだ。「ある! ある! 
そういうの!」って共感を得てからが、この作品のすごいところだ。
なにがすごいって、シュミット役のジャック・ニコルソン(※)がすごいのだ!
シュミットはセリフがなくても、仕草や顔の表情で演技する。それがなんとも
チャーミングで哀愁さえ漂っている。

シュミットの内面は、チャリティー団体への寄付に添える、アフリカの6歳の
少年ムトゥルへの手紙でわかるのだ。
手紙でシュミットは自分の自己紹介と家族構成について、最近の出来事につい
て書いているうちに、自分の思いをどんどん書きつらねていく。それがナレー
ションされる。こうやって、ジャック・ニコルソンのセリフのない演技(外面)
と、ナレーション(内面)で、ストーリーが進んでいく。これがとてもわかり
やすくていいのだ。

わざとらしいナレーションが入ると「いかにもなにかを狙ってるなぁ」という
感じがするけど、ムトゥルへの手紙という形ならば、違和感がない。これで、
シュミットの自己紹介や家族のこともわかるし、うまいなぁっと思った。

この作品がアメリカ産(?笑)でよかったところ。それは風景だ。シュミット
のいる町はネブラスカ州オハマ。アメリカ合衆国の真ん中あたり。娘のジーニ
ーはコロラド州デンバーに住んでいる。どちらもアメリカ合衆国の中西部あた
り。シュミットはキャンピングカーで娘に会いに出掛ける。その道のりでは、
中西部の風景が地平線のかなた、どこまでも広がる。だれもいない道路の脇に
キャンピングカーを停めて車を降り、景色をながめるシュミットの後姿と、広
大な風景が合わさる。それがシュミットの心情風景となっているのだ。
あんな画は日本で撮れない。日本だと、たぶん海辺になると思う。北野武監督
作品でよく出てくる海辺(砂浜)みたいに。

シュミットが家でテレビばかり見ていてもストーリーが進まないので、旅に出
掛けさせる。そのためにキャンピングカーがあり、広大なアメリカ合衆国中西
部の土地があり、設備が整ったキャンピング・カー・パークがたくさんあるの
だ。

日本でも充分使えそうな題材だけど、アメリカ合衆国で撮るほうがいい。題材
に合ったロケーションと、題材に合った俳優の2つが揃っているのだ。

暗くなりがちな題材を選んでも、ちゃんとエンタテイメントしてるところがす
ごい!
 
いやはや、「アバウトシュミット」に出会えて良かったッス。
--------------------------------------------------------------------------
※ ジャック・ニコルソン(JACK NICHOLSON)
  俳優。1937年生まれ。米ニュージャージー州出身。「恋愛小説家」でアカデ
  ミー主演男優賞受賞。「愛と追憶の日々」でアカデミー助演男優賞受賞。
--------------------------------------------------------------------------
「アバウト・シュミット」 ルイス ビグレー (著), Louis Begley (原著),
                 高橋 結花 (翻訳)
--------------------------------------------------------------------------
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ネットでかりてポストでかえす「オンラインDVDレンタル」ぽすれん
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 
メールマガジン→「ストーリー・アナリシス (Story Analysis)」


« 安定と変化 | Main | 恐竜博 »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference アバウト・シュミット(ABOUT SCHMIDT):

« 安定と変化 | Main | 恐竜博 »