下妻物語
中島哲也監督/2004年/日本
原作:『下妻物語』嶽本野ばら
●コメディ調に友情というテーマ。個性的なキャラクターたちにぴったりのキ
ャスト、ハマリ役。背伸びせず、真似せず、至極まっとうで笑えて泣けて楽
しめるエンタティメント傑作
〔1〕プレミス(Premise)
ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア
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ヒラヒラメルヘン少女とスケ番ヤンキー少女の友情物語
〔2〕ストーリー(Story)簡略に
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茨城県下妻。ヒラヒラロリータファッションの桃子は、愛するブランドの服を
買うために、投稿雑誌で某有名ブランドのバッタもんの個人販売をはじめる。
ある日、投稿をみたという買い手があらわれる。それがヤンキー娘のイチゴだ。
それから度々イチゴは桃子の家にやってくるようになる。
やがてイチゴは族の先輩の引退式のために、特攻服に刺繍を入れたいと、桃子
とともに伝説の刺繍屋を探しに東京の代官山へいく。
桃子は刺繍の才能に気づき、やがてイチゴをかけがえないのない友人と思うよ
うになる。
〔3〕Main Character(主な登場人物)
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△竜ヶ崎桃子
高校生。ほんとうはロココ時代(※1)のおフランスに生まれたかった、ひ
らひらロリータ娘。超個人主義少女。
△白百合イチゴ
高校生。アツいヤンキー娘。下妻最強「舗爾威帝劉(ポニーテール)」所属。
△一角獣の龍二
△BABY, THE STARS SHINE BRIGHT の社長
桃子が大好きな服の、ブランドの社長
△亜樹美
イチゴが慕う、レディースの先輩
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▽妃魅姑(ヒミコ)
不良界の超カリスマ
〔4〕ロケーション・その他
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下妻って?
茨城県下妻という地名です。
代官山って?
東京にある東急東横線の駅の代官山という地名のことです。
東急東横線とは、東京と横浜を結んでおり、自由が丘、田園調布など比較的お
金持ちが多く住む、おしゃれな沿線といわれることが多い線です。
代官山は渋谷駅に近く、東京のファッションの発祥地とされているとか。
▽下妻から代官山までの電車での行き方(所要時間約3時間)
桃子の家→(歩いて30分)→下妻駅→(常総線・関東鉄道で1時間)→取手駅
→(常磐線で40分)→上野駅→(山の手線で30分)→渋谷駅→(東横線で3分)
→代官山
〔5〕Comments(論評、批評、意見)
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●コメディ調に友情というテーマ。個性的なキャラクターたちにぴったりのキ
ャスト、ハマリ役。背伸びせず、真似せず、至極まっとうで笑えて泣けて楽
しめるエンタティメント傑作。
作品の冒頭、桃子の生い立ちが語られる。ナレーションの主は桃子本人だが、
フランス・ロココ時代の説明にはじまり、桃子が産まれた関西(住民のほとん
どがヤンキーか元ヤンキー。皆ジャージ姿の‘ジャージ天国’)の街の紹介に、
父と母の出会い、父の仕事、そして関東地方の茨城県下妻へ引っ越してきた経
緯が語られる。
映画作品の基本のひとつでは、こうした主人公のバッググランドはストーリー
の進行と共に徐々に観客に知らせていくという手法がとられる。
だからといって「下妻物語」がその冒頭の説明に頼っているからダメだという
ことにはならない。
それどころか、作品の色調・雰囲気という点からいうと、冒頭で駆け足でダイ
ジェストのように桃子の生い立ちが語られることで個性的なキャラクターであ
る桃子と観客の距離を近づけることができる。
それは別に「不幸な生い立ち」を宣伝することで、個性的なファッションと考
え方になってしまった桃子に同情と涙を誘うというわけではない。淡々と(お
もしろおかしく)語られる桃子の生い立ちは「物語る(ストーリーテラー)」
ことが原作の小説家や映画の脚本家や監督だけでなく「下妻物語」の登場人物
もまた「物語る(ストーリーテラー)」のだということを冒頭で暗示している
とも言える。
それはどういうことか。(ネタばれになるので詳しくは説明しないが)桃子
とイチゴが「貴族の森(喫茶店)」でお茶をしているときのことだ。イチゴ
が桃子に、先輩の亜樹美さんについてその出会いから話してきかせ、彼女の
引退式のために自分の特攻服に刺繍を入れたいという。こういった話を映像
(実写とアニメーション)でテンポよく表現してしている。
こういった「物語る」ことは、言い代えば「世間話」や「噂話」で、だれで
もしていることで、特に桃子ぐらいの年齢の高校生たちにとっては日常の一
部だろう。
「物語る」ことで桃子とイチゴは伝説の刺繍屋を探しに代官山へ出かける。
またイチゴは刺繍の代金を稼ぐためにパチンコ屋へ行き、ある男に恋をする。
そして桃子はイチゴの特攻服に刺繍をする。
このように「物語る」ことで、新たな物語りが作られていくのだ。
○キャラクター・アーク(Character Arc)(ストーリーの中でのキャラクターの
経験を通して起こる、キャラクターの性格や価値観の変化)について。
↓ ↓ ↓
桃子は親も兄弟も友達もそんなものいらないと言う。人間は所詮ひとりで生きて
いかなきゃならないんだし、自分にとってきもちいいものだけをまわりに集めて
ひとりで楽しくきもちよく生きていければいい、そのためだったらウソでもなん
でもつきまーす、わたし根性ねじまがってまーす、そしてフリフリのかわいいお
洋服を着たおばあちゃんになってある日アパートの部屋で亡くなっているのをロ
ボットの大家さんに発見されるの☆
そんな桃子が自分の世界を充実させるために(好きなブランドの服を買うため
に)バッタもんを売ろうとする。
一方、イチゴは親戚の結婚式に着ていくジャケットを求めて桃子のバッタもん
を買い求めに来る。やがて、イチゴは先輩の引退式の餞(はなむけ)に特攻服
に刺繍を入れるために、桃子に協力を求める。
(「餞」についての桃子とイチゴのコントちっくな言葉のやりとりもある☆)
桃子 →自分の世界
イチゴ →他人と関わる世界(親戚の結婚式、先輩への餞、桃子の根性に惹か
れる)
桃子はイチゴと出会う。はじめはイチゴがつきまとってくるのがめんどうで、
自分のことは放っておいてほしいと願うのだが、イチゴに感謝されたり、人
に「君じゃなきゃだめなんだ」と言われたりすると、そのプレッシャーでだ
れかに頼りたくなる。こんな気持はじめてだ! マセた子供の頃は言葉では
わかっていたことが、実際に経験すると不安になってだれかに会いくなる。
だれに? そうだ!――イチゴに会いたいんだ!
イチゴに相談する桃子。そんなとき、イチゴが族との関係でなにやらヤバい
とになっているらしいとわかる。桃子はイチゴがかけがえのない大事な友人
だと気づき、助けにいこうとする。
自分だけの世界だった桃子が、イチゴと会うことで、真の友情を得る。友情
をテーマにした物語では、お互い全く違うキャラクターが登場するほうがよ
い。田舎町のひらひらロリータ娘とスケ番ヤンキー娘。これほど魅力的なキ
ャラクター設定ができるセンスとは、ものスゴイの一言だ。
キャストについては、みなハマり役ばかりだ。
桃子の父親役に宮迫博之。ダメ親父ぶりがまさにハマり役で、雰囲気のある
独特の役者でもある(本業はコメディアン)。
桃子に深田恭子。イチゴに土屋アンナ。どちらもきれいでかわいい役者さん
だ。やはり映画なので主人公はキュートでなくてはならない。いくらひらひ
らロリータ娘とスケ番ヤンキー娘だからといって、普通にリアルな配役をし
ては、華がなくなってしまう。
深田恭子も土屋アンナもきれいでかわいいタレントであることが前提で、そ
してなおかつ、どちらもたまに「地」で演技しているとか思えない「リアル」
な雰囲気を醸し出している。こんなハマり役はそうはいない。
桃子とイチゴのバディ(相棒)ものとしても、2人のやり取りはコメディとし
てもきちんと笑える。
桃子がぼそっとイチゴの痛いところツッコンで、イチゴがそれに過剰反応する。
それで桃子が殴られ、頭突かれる。また自動車に轢かれ、バイクから飛ばされ
る。けっこうハードに体を張っているのだ。もちろんコメディなのでそんなた
いへんなめにあっても桃子は死なない。ばんそうこうを顔に貼るぐらいなもの
だ。
ピクサーの映画作品を観るとわかりやすいが、まずは友情をテーマに作品をし
っかり作れるかが、良質なエンタテイメント作品を作っていけるかのポイント
になるといえそうだ。
ピクサーは友情というテーマを「トイ・ストーリー」でおもちゃの人形を使っ
て表現した。古いカウボーイ人形と新しい宇宙防衛隊員の友情だ。
「下妻物語」は友情というテーマを、ひらひらロリータ娘とスケ番ヤンキー娘
で表現した。
「トイ・ストーリー」も「下妻物語」も、ほかではだれも思い付かない独特な
キャラクター設定をしている。独自の発想とセンスがおおいに発揮されている
のだ。
物語ることであらたな物語が作られる。物語の力と相性のいい作風・状況(若
者の噂話、族伝説等)を舞台に桃子とイチゴの物語が綴れていく。
「下妻物語」はキャラクターと物語りの力を存分に活かしたエンタティメント
傑作だ。
(細部もよく描かれている。例えば下妻駅の待合室のベンチには座布団が置か
れている。撮影のために置かれたものではなく、普段からベンチに置いてある
という。田舎の駅舎の待合室にはたしかに座布団が置かれているのをよく見か
ける。こうした細部のリアルさはロケでしか出せないものであろう)
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※1 ロココ時代(rococo)
18世紀にフランスを中心にヨーロッパで盛行した美術様式。優美軽快で洗
練された、自由で繊細、左右不均衡で曲線を好む、貴族の室内装飾のよう
な作風の装飾を特徴とする。
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Comments
TBさせていただきました。
たまには邦画を観るんですが、結構はずします。これは映画館で観れば良かった~
Posted by: ももママ | 07/10/2005 20:27
>ももママさん
最近の邦画は両極端が多い気がします。けっこういいネ! もしくは、なんじゃこりゃぁ~!(笑)ってかんじで。
下妻物語はすごくいいですネ☆
Posted by: わかスト@管理人たか | 07/11/2005 12:26
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