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客のほうを向く―「ニューヨークの恋人」―

〈カテゴリ:映画で読み解くマーケティング〉

「あなたはどういった方ですか?」「あなたの会社は何をしていますか?」と
いう問いに対して、わたしはABC社の社員です、と答たとしよう。

これは、問いに対する充分な答えではない。ABC社が日本国内で有名な会社
である場合は、相手にある程度の推測をしてもらうことを期待できるだろう。
どのような推測かといえば、例えばABC会社が繊維分野での売上が業界2位だ
としたら、「あの人は繊維関係の会社に勤めているんだろうなぁ」といった推
測だ。

だが相手が繊維分野にさほど詳しくない人だったらどうだろう? アメリカ人
や中国人だったらどうだろう? そもそもABC会社のことを知らない可能性が
高いだろう。

わたしはABC会社の社員です。という答えは、相手に2つの負担をかける。そ
れは相手に推測させ、ABC会社についての説明をさらに求めさせる、というも
のだ。

自分はABC会社の社員なので、ABC会社のことはなんでも知っている(つもり)
。ABC会社は繊維業界第2位の売上があるので、ABC会社は有名だ。こうった
思い込みでは「外」に対しては通用しない。

ABC会社のことを全く知らない人々は世の中にはたくせんいて、その人々が将
来、ABC社の大事な顧客になるかもしれないのだ。

将来の大事な顧客を得る機会を少しでも多く持つためにどうすればよいのか。
答えはシンプルだ。

●客のほうを向く

これを映画作品で考えるとわかりやすい。映画作品を制作する際は、観客がい
かに満足できるかを考える。向いている方向は観客だ。というのは映画作品は
基本的には「コンテンツ」を売る、または「ストーリーを売る」商売であって、
特定の商品を売るものではない。特定の商品を売りたい場合は、例えばテレビ
コマーシャルを制作する(もちろん映画作品はモノやサービスの宣伝媒体とし
ても有用だ)。

テレビコマーシャルの制作者にとってみれば、あえて大雑把な言い方をすれば、
クライアントがOKを出せばそれでよいのだ。テレビコマーシャルの目的は、狙
った客層に製品を売り込むことだが、コマーシャル制作者の目的は、クライア
ントのOKをもらうことなのだ。

映画作品を例に考えてみよう↓

映画作品「ニューヨークの恋人(KATE & LEOPOLD)」(2001年 アメリカ ジ
ェームズ・マンゴールド監督)
〈ストーリー〉
125年の時を超えて現代のニューヨークに現れた英国貴族の男性が、超現実主
義者のキャリアウーマンと出会い、恋に落ちる。

この作品で、英国貴族の伯爵がダイエット・マーガリンのCM撮影に出演する
ことになる。ところが、商品のダイエット・マーガリンを一口食べた伯爵は、
その不味さに顔をしかめる。こんなものを、うまいとウソをついて大衆を騙す
ことなどできない、とその場を去るのだ。

伯爵は、ダイエット・マーガリンを実際に口にするであろう消費者を騙すこと
はできないという。伯爵は大衆(消費者)のためを思ってその場を去ったとう
のもあるだろうし、なにより人を騙したくなかったのだ。

自分が使いたくもない商品や食べたくもない食品を、すばらしいから、おいし
いからと言って親友に勧めたらどうなるだろうか。

もしかしたら親友はあなたとは違う価値観や味覚の持ち主で、勧められた商品
や食品を喜んで買ったり食べたりするかもしれない。

それとて、あなたが親友の嗜好をある程度知っているからこそ、それに合わせ
せて商品や食品を勧めることができるのだ。

そういった親友の身になって、親友のために考えた行動ならよいが、そうでは
なく、ただなんでもいいから売りつけたいという思いで行動していたら、やが
て親友を失うだろう。

ビジネスも同じだ。客のほうを向いていなければ、顧客もやがては去っていく
のだ。

重要なのは「向いている方向がどこか」だ。社長か? 親会社か? クライア
ントか? それとも客か?


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