« タイムマシン(THE TIME MACHINE) | Main | あずみ »

05/23/2004

愛してる、愛してない...(A la folie…pas du tout…)

cover
レティシア・コロンバニ監督/2002年/フランス/

●空想と現実のサスペンスホラー

〔1〕プレミス(Premise)
ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア

―――――――――――――――――――――
行動的な夢想家が、幸せに暮らす医者の家庭を崩壊させる。


〔2〕ストーリー(Story)簡略に
―――――――――――――――――――――
美学生アンジェリクは心臓外科医のロイックに夢中だ。しかしロイックには妊
娠している妻がいる。アンジェリクは離婚間近と気にしない。デートやフィレ
ンチェ行きをすっぽかされるが、めげない。そのうち、ロイックが患者に暴行
したとして告訴される。
その後、暴行された患者が賊に襲われて亡くなる。アンジェリクがロイックの
もとへ駆けつけると、彼は妻のラシェルと抱き合っていた。
 

〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△アンジェリク
 美学生

△ロイック
 心臓外科医

△ラシェル
 ロイックの妻。妊娠中。弁護士。

△ダヴィッド
 医学生。アンジェリクに想いを寄せる。

△エロイーズ
 アンジェリクの親友。


〔4〕・1 行動/意志決定
―――――――――――――――――――――
主人公は何を欲っしているのか。
……アンジェリクは心臓外科医ロイックと結ばれることを欲っしている。

いかにしてゴール(ロイックと一緒に幸せに暮らす)を達成しようとするか。
……贈り物と手紙で、自分がいかにロイックを愛しているかをアピールする。
……障害を排除する。

アンジェリクが行動へ至る意志決定はどのようなものか。
……彼(ロイック)は私(アンジェリク)一筋だから。


[4]・2 リバーサル(逆転)(180度の方向変換)
―――――――――――――――――――――
アンジェリクの視点のストーリーから、心臓外科医ロイックの視点のストーリ
ーへ。
アンジェリクの恋模様を色鮮やかに描くトーンから、ロイックが正体不明の贈
り物と仕事のことで悩む様子を描くトーンへ。

〈感情の逆転〉
……アンジェリクはロイックが自分のことを好きだと信じ込み、デートをすっ
  ぽかされても、彼を愛しつづける。だが、ロイックが妻のラシェルと抱き
  合っているところを目撃し、悲しみに暮れる。後にロイックが自分(アン
  ジェリカ)を救ってくれたことから、ロイックは私の命の恩人であり、や
  っぱり私のことだけを愛していると、有頂天になる。

……ロイックは送り主不明の贈り物や手紙で悩んでいた。作品の中盤を過ぎた
  あたりで、悩みの種はなくなったと安心する。だが、恐怖をもたらすほん
  とうの者は、近くて遠いところにいることに気がつく。
 

〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
空想と現実のサスペンスホラー。

あまりに恐ろしいストーリーのため、ラブストーリー風のトーンと音楽で、観
客の間口を広げた作品だ。

○作品は三部構成である。
第1部 :アンジェリカの視点(第3者の視点を含)
第2部 :ロイックの視点(第3者の視点を含)
第3部 :すべての伏線(pay off)に決着がつく。

仮に、心臓外科医ロイックの視点だけで語る作品にしたとしよう。作品の紹介
として考えられる紹介文は
「それは1本のバラからはじまった。送り主不明のバラと愛のメッセージが臓
外科医の幸せな家庭を壊してゆく。姿のみえないストーカーの恐怖。心臓外科
医は徐々に冷静さを失っていく……」
といったかんじになるだろう。

人々の関心を集めるたには、この紹介文(宣伝文)はあまり効果的ではない。
そこで、積極的な行動派の夢想家(アンジェリカ)の視点の物語を作品の最初
に置き、ラブストーリーっぽい雰囲気(小道具、色調)を強調している。

「アメリ」 に主演した女優オドレイ・トトゥ(※)の起用が決まったのはフラ
ンスで「アメリ」が公開された1週間後だという。監督は、それ以前からオド
レイのことは頭にあったというが、当然「アメリ」の概要は調べて知っていた
だろうし、「アメリ」も観ただろう。

「愛してる、愛してない。。。」(以下「愛してる~」)の主人公アンジェリ
カのキャラクターは、アメリのキャラクターをパワーアップして盲目的な面と
行動力を追加したものであることから、アンジェリカ役に最もふさわしい女優
としてオドレイ・トトゥを起用したのだろう。
 
この狙いは見事に的中した。「アメリ」は大ヒットした作品であり、2度、3
度と映画館に足を運んだ女性も多かったという。それは、アメリの、「恋に不
器用でちょっと不思議な、自分の世界を持っている女の子」というキャラクタ
ーに共感した女性がたくさんいたからだ。

こうした観客たちが、アメリと似たキャラクター設定でアメリと同じ女優が出
演する作品でちょっと変わったラブストーリーらしい、と聞けば、観に行きた
いと思うだろう。
 
こうして「アメリ」の観客層を取り込んで、「愛してる~」の出だしは好調の
ようである。しかし「アメリ」と同じものを期待した観客は、「愛してる~」
を観るために2度、3度と映画館に足を運ぶだろうか。このあたりが、「アメ
リ」との違いがはっきり現れるところだ。もちろん、「愛してる~」の綿密な
脚本と構成をもっとじっくり観たくて映画館に2度、3度と足を運ぶことも考
えられる。

「愛してる~」の監督は学生時代に映画を研究していたときに、『映画の中の
狂気』について論文を書き、それが今作品のアイデアの元になっているという。
最初からサスペンスを撮ろうとしたことは明かだ。オドレイ・トトゥを起用し
たのは、あくまで作品の役柄にもっとも合った女優であり、かなりの宣伝効果
も期待してのことだろう。映画のタイミングもよかったのだろうが、しっかり
と考えた戦略である。

何気ないひとつのシーンが、観方を変えればまったく違ったものとなる。どう
違うのか、その違いとは何なのかと知りたくなるように謎を提供する。謎とは
以下のようなものだ。、

・心臓外科医ロイックはなぜ患者に暴行したとして訴えられたのか?
・フィレンチェ行きのため空港で待つアンジェリカのもとに、なぜロイックに
 やってこなかったのか?
・スクーターの事故の真相はどうなのか、バラやロイックのスカーフはどのよ
 うに手に入れたのか?
 
謎が明かになるにつれて、何気ない普通のシーン(ロイックの行動やりアクシ
ョン)のひとつひとつが、アンジェリカの視点の物語とは全く違って見えるの
だ。

観方を変えることで明かになる恐怖――。バラを1本あげる、カギでドアを開
ける、といった普通のシーンがこれほど恐ろしいシーンになることを、計算し
つくされた綿密な脚本で表現している。なにが「怖い」か、どう見せれば「怖
い」か、の二つをじっくり考え、実践している。

「アメリ」を観て、アメリみたいな子が実際に身近にいたらちょっと痛怖いか
も、と思った方もいるという。「愛してる~」は、その「ちょっと痛怖いかも」
というあまり考えたくない方向の予感が的中し、「ちょっとイタいどころじゃ
なく、洒落にならない、めっちゃ怖い!」作品になった、ということもできる
だろう。
 
「アメリ」の、恋に不器用な内気で不思議な女の子が夢想しておちゃめな行動
をするぐらいならいいだろう。だれでも密かに思いを寄せる人と幸せな日々を
送るという想像をしたことはあるだろうから。

だが、その想像がエスカレートして空想の世界から現実の世界へ飛び出し、手
がつけられなくなったら……。

題名等は忘れてしまったが、アメリカの短編作品で、ある男の子が考えたこと
や思ったことが実際に起こるという家に、ひとりの女性がやってくる、という
のがある。
その家の家族は怖がって、男の子のいいなりになっている(男の子の姉はしゃ
べることができないように口を閉じられてしまっていた)。男の子はわがまま
放題で、食事はハンバーガーやお菓子ばかりで、ちょっとでも思いどうりにな
らないことがあると、テレビアニメのキャラクターを登場させたり、気に入ら
ない相手を変身させたりする。
これは、主人公が奇妙な世界にまぎれこんでしまうというホラー系の作品だっ
たと思う。
 
この男の子から魔法等の特殊能力を取り除き、盲目的で行動的な夢想家の女性
に変更して、ストーカー、殺人といった出来事を描いたのが「愛してる~」だ。

「恐怖は身近な日常に潜む」
「恐怖は日常との対比で強調される」

作品の構成に必然性がある、綿密に練られた脚本だ。
 
心臓外科医ロイックに異常な状況や事件などが降りかかり、なんとか脱出や解
決をしようとする、サスペンス、スリラー、ホラー作品だ。
-------------------------------------------------------------------------- 
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ネットでかりてポストでかえす「オンラインDVDレンタル」ぽすれん
――――――――――――――――――――――――――――――――――
メールマガジン→「ストーリー・アナリシス (Story Analysis)」

|

« タイムマシン(THE TIME MACHINE) | Main | あずみ »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/21326/642824

Listed below are links to weblogs that reference 愛してる、愛してない...(A la folie…pas du tout…):

« タイムマシン(THE TIME MACHINE) | Main | あずみ »