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どこまで引っ張れる?

●ストーリーでなにか伝えたい場合は、結末まで人々の興味を引き付ける(引
 っ張り続ける)しくみが必要です。

∇人の興味を引きつけていられる時間の長さで言うと、例えば映画作品の場合は、
  約2時間といったところでしょう。

映画作品の作り手は、どうしたらこの2時間「観客」の興味を引き続けること
ができるのか、と考えます。
しかしその前に、どうしたら「人々」の注意を引きつけることができるのか、
と考えます。まずは「人々」に劇場に足を運んでもらい、映画作品の「観客」
になってもらうことが必要です。

そのために、人々の興味を引くキャッチフレーズといったものが活躍します。
映画「サイン(Signs)」(2002アメリカ 1時間47分 M・ナイト・シャマラ
ン監督・脚本・製作・出演)を例にみてみましょう。
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「サイン」のストーリー
ペンシルバニア州バックス郡。妻の事故死をきっかけに牧師を引退したグラハ
ム・ヘスは農業を営んでいる。ある日かれの畑に巨大なミステリーサークルが
出現する。それを境に彼の周りで様々な怪奇現象が頻発する。やがてそれは全
世界的な広がりを見せ、ヘス家に危険が迫っていく……。
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「元牧師が経営する農場に巨大ミステリーサークルが出現」

ミステリーサークル? 宇宙人の仕業か? それとも人の手によるいたずらな
のか? 様々に説があるなかで、ミステリーサークルはどうやって現れ、いっ
たい何の意味があり、だれが何の目的で作ったのか?

といったように、ちょっと気になりますよね。この「ちょっと気になってもら
う」
がポイントです。「ちょっと気になる」と、人は答えを求めて調べものを
してみたり、他人に訊いてみたりします。

訊かれたほうの人は「どうやらミステリーサークルの謎が解けるらしいぞ。こ
れは巷で流行っているのかな」と思い、ちょっと気になります。

ちょっと気になるので、自分で調べてみたり、また他人に訊いてみたりします。

こうして「口コミ」でミステリーサークルの噂が広まります。噂を聞いた人々
の何割かは、やがて映画「サイン」の存在を知るのです。

映画「サイン」のストーリーがはじまると、主人公が飼っている犬が突然強暴
になったり、家の外からクルルルルという変な鳴き声と畑の中を何かが走る音
が聞こえたりします。

観客は、なにか異変が起こってるということはわかるのですが、それがいった
い何なのかはわかりません。何なのか知りたいという欲求によってストーリー
の先を観つづけるのです。


例えでお話しましょう。
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校長先生のなが~いお話がやっと終わりました。今度はタケシくんのお待ちか
ねの、演劇部による新入生歓迎劇です。

劇の題名は『日直探偵☆学校の七不思議を解明せよ!』。

いよいよ劇が始まりました。日直探偵、学級委員、図書室員、国語の先生、給
食室のおばさん、守衛のおじさん……登場人物がたくさん壇上に出てきました。
いちおう学校の七不思議のひとつの「シゲさんの岩」について推理を進めてい
るようなのですが、教頭先生の革靴を池に放った犯人はだれか、という在校生
にしかわからない内輪ネタを披露してばかりで、いっこうに「シゲさんの岩」
の謎が解けそうにありません。

内輪ネタにはあまり興味がないタケシくんは、在校生が爆笑するなか、新入生
と同じくすました表情で(でも目は輝いています)謎の解明を待ちわびていま
す。そうこうしているうちに劇の上映時間の終わりに近づくと、犬の着ぐるみ
を着た5年生の男子児童が舞台袖から靴をくわえて現れて、劇の幕が降りてし
まいました!

窓の外から小鳥のさえずりが聞こえます。タケシくんはつぶやきました。
――今日の学校の楽しみは、もう給食だけだなぁ……。


●映画作品「ファインディング・ニモ」(※1)を例にみてみましょう。
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マーリンは人間のダイバーにさらわれた息子のニモを探しています。サメに遭
遇したり、クラゲの森を通ったり、深海魚に襲われたりと様々な障害を乗り越
えていきます。

血の匂いを嗅いで狂暴化したサメが暴れたことで、魚雷が機雷原へ音もなく進
んでいき、ひとつめの機雷が轟音と共に爆発したところ(マーリンとドリーの
危機)で画面が切り替わり、今度はニモの様子が描かれます。

人間のダイバーにさらわれたニモはシドニーの歯医者の水槽に入られていまし
た。水槽の魚たちと知り合いになりますが、水槽の濾過装置の給水パイプに吸
い込まれてあやうく出られなくなるところでした。

機雷が爆発してマーリンとドリーはどうなったんだろう? と心配になったと
ころで、ニモに画面が切り替わるのです。観客はマーリンとドリーの安否を気
遣いつつ、ニモの境遇や行動にハラハラドキドキします。

マーリンとニモ。交互にそれぞれの様子が描かれるので、観客は「マーリンは
どうなった? ニモは無事か?」と気になってストーリーに集中します。


まとめ
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伝えたいこと(例:テーマ)を最もわかりやすく確実に伝える方法の基本は、
「大事なことを最初に示す」です。
でも、それがいかに大事であるかを伝えたい場合には、例え話などのストー
リーの形にするのがよい場合があります。

ストーリーでなにか伝えたい場合は、結末まで人々の興味を引き付ける(引っ
張り続ける)しくみが必要です。

引っ張る工夫の例としては「ファインディング・ニモ」に見られるように、
「プロット(Plot)」(※2)の結末に余韻を残しながら次のプロットにつな
げていく、という方法があります。
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※1「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」
  アンドリュー・スタントン監督/ジョン・ラセッター製作総指揮/2003年/
  アメリカ/101分。
  オーストラリア・グレートバリアリーフ。魚(カクレクマノミ)の子供
  (ニモ)が人間にさらわれる。父(マーリン)はニモを探しに冒険に旅立つ。
※2 プロット(Plot)
   外的なコンフリクト(葛藤・対立)や危機(クライシス)を引き起こす
   事件と、そうした障害(オブスタクル)の克服との連なり。
「ファインディング・ニモ」竹書房・ピクサー文庫
「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」 ←映画作品レビュー
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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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∇書籍紹介
 わかりやすい文を書くために参考になる書籍を以下に紹介します。
「理科系の作文技術」 木下 是雄 (著) 中公新書
「日本語の作文技術」 本多勝一(著) 朝日文庫 
「日本語で生きるとは」 片岡 義男 (著) 筑摩書房
「日本語の外へ」     片岡 義男 (著) 角川文庫
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