« March 2004 | Main | May 2004 »

04/28/2004

どこまで引っ張れる?

●ストーリーでなにか伝えたい場合は、結末まで人々の興味を引き付ける(引
 っ張り続ける)しくみが必要です。

∇人の興味を引きつけていられる時間の長さで言うと、例えば映画作品の場合は、
  約2時間といったところでしょう。

映画作品の作り手は、どうしたらこの2時間「観客」の興味を引き続けること
ができるのか、と考えます。
しかしその前に、どうしたら「人々」の注意を引きつけることができるのか、
と考えます。まずは「人々」に劇場に足を運んでもらい、映画作品の「観客」
になってもらうことが必要です。

そのために、人々の興味を引くキャッチフレーズといったものが活躍します。
映画「サイン(Signs)」(2002アメリカ 1時間47分 M・ナイト・シャマラ
ン監督・脚本・製作・出演)を例にみてみましょう。
**********************************************************************
「サイン」のストーリー
ペンシルバニア州バックス郡。妻の事故死をきっかけに牧師を引退したグラハ
ム・ヘスは農業を営んでいる。ある日かれの畑に巨大なミステリーサークルが
出現する。それを境に彼の周りで様々な怪奇現象が頻発する。やがてそれは全
世界的な広がりを見せ、ヘス家に危険が迫っていく……。
**********************************************************************

「元牧師が経営する農場に巨大ミステリーサークルが出現」

ミステリーサークル? 宇宙人の仕業か? それとも人の手によるいたずらな
のか? 様々に説があるなかで、ミステリーサークルはどうやって現れ、いっ
たい何の意味があり、だれが何の目的で作ったのか?

といったように、ちょっと気になりますよね。この「ちょっと気になってもら
う」
がポイントです。「ちょっと気になる」と、人は答えを求めて調べものを
してみたり、他人に訊いてみたりします。

訊かれたほうの人は「どうやらミステリーサークルの謎が解けるらしいぞ。こ
れは巷で流行っているのかな」と思い、ちょっと気になります。

ちょっと気になるので、自分で調べてみたり、また他人に訊いてみたりします。

こうして「口コミ」でミステリーサークルの噂が広まります。噂を聞いた人々
の何割かは、やがて映画「サイン」の存在を知るのです。

映画「サイン」のストーリーがはじまると、主人公が飼っている犬が突然強暴
になったり、家の外からクルルルルという変な鳴き声と畑の中を何かが走る音
が聞こえたりします。

観客は、なにか異変が起こってるということはわかるのですが、それがいった
い何なのかはわかりません。何なのか知りたいという欲求によってストーリー
の先を観つづけるのです。


例えでお話しましょう。
------------------------
校長先生のなが~いお話がやっと終わりました。今度はタケシくんのお待ちか
ねの、演劇部による新入生歓迎劇です。

劇の題名は『日直探偵☆学校の七不思議を解明せよ!』。

いよいよ劇が始まりました。日直探偵、学級委員、図書室員、国語の先生、給
食室のおばさん、守衛のおじさん……登場人物がたくさん壇上に出てきました。
いちおう学校の七不思議のひとつの「シゲさんの岩」について推理を進めてい
るようなのですが、教頭先生の革靴を池に放った犯人はだれか、という在校生
にしかわからない内輪ネタを披露してばかりで、いっこうに「シゲさんの岩」
の謎が解けそうにありません。

内輪ネタにはあまり興味がないタケシくんは、在校生が爆笑するなか、新入生
と同じくすました表情で(でも目は輝いています)謎の解明を待ちわびていま
す。そうこうしているうちに劇の上映時間の終わりに近づくと、犬の着ぐるみ
を着た5年生の男子児童が舞台袖から靴をくわえて現れて、劇の幕が降りてし
まいました!

窓の外から小鳥のさえずりが聞こえます。タケシくんはつぶやきました。
――今日の学校の楽しみは、もう給食だけだなぁ……。


●映画作品「ファインディング・ニモ」(※1)を例にみてみましょう。
------------------------
マーリンは人間のダイバーにさらわれた息子のニモを探しています。サメに遭
遇したり、クラゲの森を通ったり、深海魚に襲われたりと様々な障害を乗り越
えていきます。

血の匂いを嗅いで狂暴化したサメが暴れたことで、魚雷が機雷原へ音もなく進
んでいき、ひとつめの機雷が轟音と共に爆発したところ(マーリンとドリーの
危機)で画面が切り替わり、今度はニモの様子が描かれます。

人間のダイバーにさらわれたニモはシドニーの歯医者の水槽に入られていまし
た。水槽の魚たちと知り合いになりますが、水槽の濾過装置の給水パイプに吸
い込まれてあやうく出られなくなるところでした。

機雷が爆発してマーリンとドリーはどうなったんだろう? と心配になったと
ころで、ニモに画面が切り替わるのです。観客はマーリンとドリーの安否を気
遣いつつ、ニモの境遇や行動にハラハラドキドキします。

マーリンとニモ。交互にそれぞれの様子が描かれるので、観客は「マーリンは
どうなった? ニモは無事か?」と気になってストーリーに集中します。


まとめ
------------------------
伝えたいこと(例:テーマ)を最もわかりやすく確実に伝える方法の基本は、
「大事なことを最初に示す」です。
でも、それがいかに大事であるかを伝えたい場合には、例え話などのストー
リーの形にするのがよい場合があります。

ストーリーでなにか伝えたい場合は、結末まで人々の興味を引き付ける(引っ
張り続ける)しくみが必要です。

引っ張る工夫の例としては「ファインディング・ニモ」に見られるように、
「プロット(Plot)」(※2)の結末に余韻を残しながら次のプロットにつな
げていく、という方法があります。
----------------------------------------------------------------------
※1「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」
  アンドリュー・スタントン監督/ジョン・ラセッター製作総指揮/2003年/
  アメリカ/101分。
  オーストラリア・グレートバリアリーフ。魚(カクレクマノミ)の子供
  (ニモ)が人間にさらわれる。父(マーリン)はニモを探しに冒険に旅立つ。
※2 プロット(Plot)
   外的なコンフリクト(葛藤・対立)や危機(クライシス)を引き起こす
   事件と、そうした障害(オブスタクル)の克服との連なり。
「ファインディング・ニモ」竹書房・ピクサー文庫
「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」 ←映画作品レビュー
---------------------------------------------------------------------- 
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
----------------------------------------------------------------------
∇書籍紹介
 わかりやすい文を書くために参考になる書籍を以下に紹介します。
「理科系の作文技術」 木下 是雄 (著) 中公新書
「日本語の作文技術」 本多勝一(著) 朝日文庫 
「日本語で生きるとは」 片岡 義男 (著) 筑摩書房
「日本語の外へ」     片岡 義男 (著) 角川文庫
----------------------------------------------------------------------

| | Comments (0) | TrackBack (0)

04/25/2004

the EYE

cover
「the EYE (THE EYE)」
オキサイド&ダニー・パン監督 2001年 香港-タイ

○物事の見方の多様性と、理解してくれる人がいることの大切さを、ホラーの
 要素を用いて物語っている。作品のメッセージと手法の組み合わせを巧みに
 計算している

〔1〕プレミス(Premise)
ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア

―――――――――――――――――――――
角膜移植を受けた女性が、普通の人には見えないものが見えるようになる。


〔2〕ストーリー(Story)簡略に
―――――――――――――――――――――
幼い頃失明したマンは20歳で角膜移植手術を受ける。視力を回復するが、普
通の人には見えないものが見えることに気づく。恐怖の日々が続き、これを宿
命として受け入れる。だが新たな事実に直面してアイドナーのもとを訪ねる。
そこでマンは「見える」ことの苦難を乗り越える。
 

〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△マン・ウォン
 角膜移植手術を受けて視力を回復する20歳の女性(2歳のときに失明する)。
 
△ワ・ロー
 心理療法士。マンの担当療法士。

△インイン
 脳腫瘍を患う少女。病室でマンと友達になる。
 

〔4〕・1 モチベーション・行動・ゴール
―――――――――――――――――――――
〈モチベーション(動機)〉
作品の冒頭でのマンの状況は、盲目の20歳の女性である。
彼女は角膜移植手術を受ける。

〈行動〉
手術後、普通の人には見えないものが見えるようになったマンは、直面するプ
レッシャーや困難に困惑し、心理療法士ワに助けを求める。精神的に不安定だ
と思われて信じてもらえずに、部屋に引きこもって「見える」ことを拒否する。
心理療法士ワが心配して会いにくる。またインインに勇気づけられて力づよく
生きていく決心をする。新たな事実に直面するも、ワと共に行動して問題解決
を図る。

〈ゴール〉
「見える」ことを受けとめ、人々を助けようとする。様々な体験をして、理解
してくれる人を得る。


〔4〕・2 バイオリン
―――――――――――――――――――――
マンは盲目の人々から成るバイオリン演奏団の一員である。
視力を回復したために、発表会でバイオリンを弾くことができなくなる。
 
バイオリンは、盲目だったマンとずっと一緒だった物である。心理療法士ワに
信じてもらえないマンが部屋にとじこもってバイオリンを弾きつづけるシーン
がある。これは「見える」ことを拒否するマンの心境を、映像と音で表現して
いる。


〔4〕・3 キャラクター・アーク(Character Arc)
      ストーリーの中でのキャラクターの経験を通して起こる、キャラ
      クターの性格や価値観の変化

―――――――――――――――――――――
角膜移植前のマンは愛情豊かな家族に囲まれた静かで落ち着いた生活をしてい
た。幼い頃失明したので、1人で外出することもできる。

角膜移植手術を受けて視力を回復したマンは、聴覚や触覚の世界から、そこに
視覚が加わった世界に生きることになった。慣れない世界での状況の変化(バ
イオリン楽団の正式メンバーを外される等)などによるプレッシャーや困難に
直面しながら、やがて普通の人にはみえないものが見えることに気づく。その
ことを人に理解してもらえない苦しみを経験する。やがてアイドナーの苦しみ
を知ったとき、マンは宿命を受け止めて力づよく行動するようになる。

 
〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
物事の見方の多様性と、理解してくれる人がいることの大切さを、ホラーの要
素を用いて物語っている。作品のメッセージと手法の組み合わせを巧みに計算
している作品である。

主人公のモチベーション(動機)は大事だ。主人公が行動を起すきっかけとな
るモチベーションを観客に納得してもらうために、説明セリフや回想シーンを
使うことがある。これらはあまり有効ではない。どちらも現在のストーリーを
進めるものではなく、出来事の流れを止めてしまうからだ。主人公のバックグ
ランドをたくさん描けば描くほど、現在のストーリーは進展しなくなる傾向が
ある。

この点、「the EYE」ではモチベーションに説明セリフや回想シーンをほとんど
使っていない。その必要がないからだ。幼い頃失明した20歳の女性が角膜移
植手術を受けることに疑問を持つ観客はまずいないだろう。見えるようになる
ことはよいことであり幸せなことである、と多くの人は思っているからである。
(夜中に目が覚めてトイレに行こうとしたとき、電球が切れていて困ったとい
う経験がある方もいるだろう)

角膜移植手術を受けて視力が回復したことは、マンが新しい世界に足を踏み出
すことを意味する。新世界での戸惑い、困難、プレッシャーを感じる主人をサ
ポートするために、心理療法士のワ・ローがヘルパーとして登場する。

ここでもワ・ローがなぜマンを助けようとするのかという問(モチベーション)
についての基本的な回答をすることができる。それは、ワ・ローはマンの担当
心理療法士だからである。マンが普通の人には見えないものが見えると助けを
求めにきたときに、ワは精神的不安定と診断してマンを信じてあげることがで
きない。 だがワは、部屋に閉じこもるようになったマンを心配して会いにく
る。やがてマンのことを信じたワは、真のヘルパーとなる。

このように、作品の大事なモチベーションについて、とてもスムーズに観客が
納得するようにできている。そのため、モチベーションを説明するための説明
セリフや回想シーンを使う必要がなく、登場人物のキャラクター性は現在のス
トーリーの中での行動を通して描かれている(ワが職務を超えてマンを信じる
ようになる)

ホラー性については、怖がらせようとすればするほど、たいして怖くなくなっ
てしまうことがある。人里離れた森の中、漆黒の闇に佇む古い洋館、雨が降り
だし、風が木々の葉を揺らし……。といった演出をすると、さぁ出るぞ、もう
出るぞ、怖いぞぉ怖いぞぉというお決まりのパターンになる。怖そうな要素
(古い洋館、夜、雨、雷)だらけになると、ほかに怖い要素が出てきても、た
いして怖くない。

ある無人島に後ろ足2本だけで歩く犬が100匹いるとしよう。この島で生ま
れ育った人には、後ろ足2本だけで歩く犬のスゴさはわからない。なぜなら島
の犬はみな後ろ足2本で歩き、4本足で歩く犬はいないからだ。つまり、なに
かを強調したいときや、なにかを特別なものとしたいときは、基準となるもの
を置かなければならない。

マンは時間や場所を問わずに霊の姿を見る。日常の生活で普通に見えるものが
実は霊の姿なのかもしれない。日常という基準に、普通の人には見えないもの
が見えるという要素を組み合わせることで、恐怖が際立つのである。

たとえばエレベーターのシーンである。マンにはエレベーターの中に「なにか」
が見えるので、乗り込むまずにいると、あとからきたカップルがそのエレベー
ターに乗り込んで何事もないように扉を閉めるのだ。(ちなみにこのシーンで
はエレベーター内に設置されたカメラの映像が効果的に用いられている。どう
やら機械を通した映像を見てもマンには霊は見えないようだ。直接見ると霊が
見えるのだ)
 
ホラーの手法では、恐怖を想起させるために主観ショットを効果的に使ってい
る。手術後、包帯を取ったマンはまだ視力が弱く、強い近視の状態である。遠
くのものがぼやけて見える。だれかがいるようだけれども、それがどんな人で
なにをしているのかはよくわからない。幼い頃に失明したマンは「見える」と
いうことが初めての経験に近いので、いま見えている人が多少奇妙に思えても、
それが明らかに「奇妙」だと言い切れる自信がない。そのため、その「奇妙」
に思える相手にも声をかけたり、会話したりする。
 
近視の人はたくさんおり、眼鏡やコンタクトレンズを取ったままで生活するこ
との困難さ(視力の程にもよる)は理解できる部分はあるだろう。例えば、数
十メートル先にだれかがいるのだが、霧に包まれて、またはぼやけて、それが
どんな人だかわからないという状況を想像していただきたい。

「よく見えないもの=よくわからないもの」に対して、人間は恐怖を感じる。
わからない物や事に名前を付けるのは、対象を「みえる」「わかる」ものとし
て認識すようとすることで、恐怖感を抱かないようにするためでもある。
主観ショットで、視界がぼやけていて、どんな人なのかわからないという状況
を作りだす。こういった不安定な状況に音響効果を効かせて、不安感から沸き
起こる恐怖をさらに増幅させている。

「よくわからないもの」に直面した人間は、それを「わかるもの」にしようと
する。それでも「よくわからないもの、理解できないもの」に対しては、状況
によって、大きく分けて以下の2つの行動をとる。
 
〈1〉「よくわからないもの」が自分たちに有利に働く場合は、それを神聖な
   ものとして崇める。
〈2〉「よくわからないもの」が自分たちに不利に働く場合は、それを排除し
   ようとする。

ふつうの人には見えないものが見える人は、人々に信じてもらえず、「よくわ
からないもの、人」として避けられるようになる。
「見える」ことによる困難、苦しみを経験して、「見えない、見ない」ことに
するが、それでも人々を助けようとする。こうした自分の行動を理解してくれ
る人がいるかいないか――。
「the EYE」は人が生きていくうちで最も大切な事柄(人と人とのつながり)を
描いている。
メッセージと題材とストーリーの組み合わせが見事である。

作品を最後まで観ると、「見えない」=不幸とはかならずしもならない、とい
う考えを知ることができるだろう。「見える人」にとっては「見えない」こと
が不幸と感じることはあるだろう。だがそれは「見えない」から不幸というこ
とにはならない。

たとえば、車がない生活を想像してみるとよい。自分が生活している圏内(村、
町)に車がないという人は世界にたくさんいる。たしかに車は便利だ。たくさ
んの荷物を運べるし、遠くに早く移動することもできる。だが車がないからと
いって不幸とは限らない。車がなくても馬があるとしよう。住んでいる地域は
山岳地帯で、人々は猟で生活している。車が通れる道はない。車を持っていて
も走らせる道はない。走らせるためには山の木々を切り倒して道を舗装しなけ
ればならない。車のエンジン音で獲物が逃げてしまう。そうなると、車を持っ
ていることがはたして幸せだろうか。つまり、車を持っているから幸せという
考えはひとつの見方にすぎないのだ。
そういった意味で「the EYE」は、物事の見方の多様性というメッセージを持
っている作品である。

主演のアンジェリカ・リーさんは、目にとても力のある女優さんである。視力
を回復させていく過程の演技がとても上手である。たとえば、同じ病室で友達
となったインインと二人で写った写真がある。写真を撮ったとき、マンは包帯
が取れてすぐのため、視力がとても弱い。その様子(目の焦点が微妙に定まっ
ていない)がマンの表情にとてもよく表れている。

気になったことは、声や音響効果だ。監督は、音響と映像の関係に非常にこだ
わりを持っている、という。ホラーシーンでは音響のボリュームがとても大き
い。音だけで充分に怖い。ホラーシーンでは映像よりも音が主役になっている。

マンは角膜移植手術により普通の人にはみえいいものが見えるようになるが、
普通の人には聞こえない声も聞こえるようになる。「見える」ので聞こえる、
「見えない」ので聞こえない、となると、盲目だったマンはなにも聞こえなか
ったのだろうか。そんなことはなく、盲目だったマンはバイオリンを弾いてい
ることからもわかるようにちゃんと聞こえている。
 
失明した人が第六感が鋭くなり、霊と話せるようになった、という設定の物語
もある。
目を瞑る、つまり、見なければ聞こえない。目を開ける、つまり、見えるから
聞こえる。というのは宿命を見る(直視する。受け入れる)ことはすべての事
柄(聴覚、触覚等)や行動や生き方に関係することだ、ということを表現して
いるのかもしれない。

音響効果が特徴的で、心臓の弱い人はある程度覚悟して観る必要がある。ホラ
ー性が大きく宣伝されているが、それは観客をひきつける要素のひとつである
と同時に、メッセージを伝えるための効果的な要素である。ホラーでありつつ、
作品のメッセージやドラマがしっかりしているのだ。

CG技術は必要なところにだけ使われている。抑制のきいた効果的な使い方だ。
 
作品のラストシーンで、マンは街でワに会う。そこでふたりは触れ合うことな
く、向き合ってお互いを意識する。
親しい人が亡くなってさびしく感じるのは、その人が醸し出す「空気」をもう
感じることができないからだともいう。
信じる人や理解してくれる人が傍にいる幸せが最もよく伝わるラストシーンだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 
メルマガ配信しています。このブログの映画レビューの情報も受信できるよ。
「基本3分!映画レビュー わかりやすい映画案内」ってどんなの?
チラっとみてもよいという方だけにしてね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
人気ブログランキングに参加しています。ちょっとは面白かった☆という方は
クリックお願いします。ここまで読んでくれてありがとう☆
Click,thank you ⇒ 人気blogランキング(映画)へ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

| | Comments (0) | TrackBack (0)

04/24/2004

アップルシード(APPLESEED)

APPLESEED
士郎正宗 荒牧伸志 小林愛 小杉十郎太
ジェネオン エンタテインメント 2004-11-25


by G-Tools
荒牧伸志監督/2004年/日本/103分 原作:士郎正宗『アップルシード』

○独自の世界観を構築し、斬新な映像をみせ、さらに人間の感情を描いている。
  CG・アニメーションというハードと、テーマ・感情というソフトを融合させ、
  日本でしかできないことを大胆かつ戦略的に実行した作品

〔1〕テーマ(Theme)
―――――――――――――――――――――
ヒトの未来。愛。


〔2〕ストーリー(Story)簡略に
―――――――――――――――――――――
西暦2131年、世界を壊滅させて非核大戦が終結。伝説の女戦士デュナンは麻酔
弾を受け、理想郷オリュンポスに連れてこられる。オリュンポスの人口の半分
はクローン人間・バイオロイドであった。政治を司るバイオロイド。軍部を牛
耳るヒト。軍部がバイオロイドを敵視するなか、ヒトの未来を揺るがす計画が
進行していた。
デュナンはかつての戦友であり恋人であったブリアレオスと再会する。だがサ
イボーグとなった彼は感情を露にすることなく、いまの自分の任務はデュナン
を守ることだと言うのみであった。
やがてデュナンは、ヒトとバイオロイドの未来の鍵となる「アップルシード」
の存在を知る。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△デュナン(ヒト)
 女戦士

△ブリアレオス(ヒト/サイボーグ)
 非核対戦でデュナンと離れる。のち、負傷してサイボーグとなる。

△ヒトミ(バイオロイド)
 オリュンポスに優秀なヒトを入植させる任務を受けている。

△アテナ(バイオロイド)
 オリュンポスの行政総監(大統領)

△クラノス将軍(ヒト)
 オリュンポス正規軍(軍)の司令官。バイオロイドを敵対視する。

△七賢老(ヒト)
 七人の老人。ガイアと共にオリュンポスの最終意思決定機関を構成する。

△ニケ(バイオロイド)
 アテナの部下。ES.W.A.Tを統括する。

△ハデス(ヒト)
 ラウノス将軍の部下。

△義経(バイオロイド)
 メカニック。ヒトミの友人。
-------------------------------
▽オリュンポス
 非核大戦後、地球全土を統合した、巨大人工都市

▽ガイア
 オリュンポスの都市機能を司る巨大コンピュータ。ヒト社会の安定を目的と
 として、七賢老との対話によってオリュンポスの最終意思決定を行う。

▽ランドメイト(LAND MATE)
 搭乗者の動きを正確にトレースする武装機器。ロボットスーツのようなもの。


〔4〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
独自の世界観を構築し、斬新な映像をみせ、さらに人間の感情を描いている。
CG・アニメーションというハードと、テーマ・感情というソフトを融合させ、
日本でしかできないことを大胆かつ戦略的に実行した作品。

いままで観たことない不思議な映像体験ができる。この作品は「モーションキ
ャプチャー」という技術で、実際の人の動きをCG化して、その映像をもとに
「トゥーンシェイダー」と呼ばれる技術を用いて、キャラクターをアニメのセ
ル画のような雰囲気で表現している。

キャラクターの動きは人間の動きのようになめらかで、表情などはアニメのセ
ル画で描かれる。この組み合わせは大胆で戦略的だ。このため、いままで観た
ことない独特の映像となっている。

全編フルCGアニメーションで、ヒットしている作品に特徴的なことは以下↓だ。

◇CGでしか描けない、またはCGで描いたほうが利点があるものをCGで描いている
 (例:ピクサー作品における「モンスター」「おもちゃ」「魚」)

つまり、CGで描くことに意味がある対象だけをCGで描いているのだ。。
かつて、全編フルCGで制作した、ある作品があった。その作品は人物をすべて
CGで描くというとてつもなく壮大なチャレンジに莫大な資金と投入した――が、
その作品はヒットしなかった。

はたして、CGを用いて実際の人間と見間違うほどにそっくりに描く必要がある
のか。本物の人間を起用したほうが早いのでは? と一瞬でも思わなかったは
ずがない……。
CGで人間そっくりに描いたんだぞ、といわれても、「すごいね!」の一言で終
わってしまう。もしかしたら「それで?」と言われてしまうかもしれない。

CGという技術はお金と時間をかければ本物と見間違うリアルな表現ができるの
で、新しい技術ができたばかりのころは、つい「リアル」の表面的な意味だけ
に注目してしまいがちだ。「リアル」の表面的な意味とは、実物にできるだけ
そっくりに描くことを目標・目的にするということだ。

絵画を例えにしてみよう。
歴史上での絵画の役割のひとつは、対象を具体象として示すことだった。王侯
貴族の肖像画などがそうだ(凛々しく描くなど多少の脚色はあっただろう)。
だが、19世紀中頃の写真技術の広まりは、絵画にとっての脅威となった。

そこで近代絵画は、写真技術のリアリティに対抗する表現を模索・実験するよ
うになる。

なぜなら、写真技術が広まったにもかかわらず、絵画が写真よりも客観的で正
確に対象を描写しようとしても、時間と労力を使うだけで、とうてい写真には
かなわない。ならば、絵画の特性を活かした手法を編み出していくために時間
と労力と資金をかけたほうがよいと考えたからだ。
こうした試みが近代絵画の発展の歴史だと言える。

「アップルシード」は、比較的新しい技術である「CG」と日本で独自の発展を
とげてきた「アニメーション」を融合させることで、実写作品にもアニメーショ
ン作品にもなかった「新しい表現」を実現させた。

まさに日本でしかできなかった偉業といっていいだろう。さらにである。さら
に「アップルシード」には今日的な深いテーマを持ち、人間の感情を描いてい
るのだ。

今日的な深いテーマとは「ヒトの未来」である。ヒトという種は妬みや怒りの
感情を強く持つと互いに傷つけ合って争いをはじめる。様々な人種がお互いに
傷つけ合うことなく生きていくにはどうしたらよいか。

かつては国家対国家の対立であったが、現代は民族・人種対民族・人種の対立
の時代だと言われる。国家、民族、人種、これらの根本である「ヒト」の未来
はどうなるのか、どうすればよいのか。

ユートピアといわれるオリュンポスでは、都市機能を司る巨大コンピュータで
あるガイアと、七人の老人から成る七賢老とが対話を続けている。たとえ結論
が出ているように思えても、対話を続けることが必要であり、重要だという。

現実の国際社会においても、国連という対話の場がある。しかし、国連の維持
費負担金が多い国の発言力が強かったり、一部の力ある国は自国の都合のいい
ように行動したりする。

こうした今日的な現実の縮図のようなものがしっかりと作品に組み込まれてい
るのだ。

また、SF作品でよく扱われる題材に「ロボットの反乱」がある。人間を助ける
目的で開発・製造されたロボットが、やがて意思を持ち、人間に反旗を翻えす、
といったものだ。そこには、人間にきわめて近い「感情」を持つようになった
ロボット(アンドロイド)の苦悩と哀愁が漂っていたりもする。

ヒトの未来、生きる意味、愛――。こうした題材を語るのに、ヒトでないもの
(アンドロイド)の視点で描く。すると、題材との距離を保つことができる。
距離ができたことで、対象を客観的に見ることができるのだ。こういった意味
で、ヒトとは? 生きるとは? 我々は、自分はどこへ向かっているのか?
といった哲学的なテーマにとってSFは格好の「場」なのだ。

SFの世界観を描くのに有利な国はどこか。それは日本だ。SF作品として有名な
「ブレードランナー」を観たSFファンの欧米人が日本の秋葉原にやってきて写
真を撮りまくり、「まさにブレードランナーの世界だ!」と目を輝かせたとい
う話も聞く。

「アップルシード」はSFの世界観を構築しただけでなく、そこにわかりやすさ
の工夫と、今日的テーマを加えている。
「アップルシード」は、
〈1〉独自の世界観を持つという「強み」を活かし
〈2〉あまり哲学的になりすぎずに、
〈3〉今日的テーマをもっている。

キャラクターについては、デュナンとブリアレオスの関係について簡潔に説明
しているのがよい(二人はかつて恋人であった。ブリアリオスは北アフリカ戦
線で身体を失い、サイボーグになった)。たとえ簡潔な説明であっても、かつ
て恋人同士であり、戦友であった二人の関係を想像することはできるからだ。

またデュナンが新しく出会うヒトミについても、クローン人間(バイオロイド)
であるが故の興味や感情(恋や愛について情報ではわかっているが、どんなも
のか実感したい)といったものが描かれている。これは妬みや怒りの感情が小
さく抑えられている優良種バイオロイドのプラスな面と対比して、ヒト=人類
の妬みや怒りの感情が大きいマイナスな面を強調しつつも、だれかに恋をした
り愛したりするいった「感情」のすばらしさを強調しているのだ。

独自の世界観を構築することや、斬新な映像をみせることだけでなく、人間の
感情を描いているというのが、それまでの日本のCGやアニメーション作品との
大きな違いだろう。
(因みに「千と千尋の神隠し」も世界観を持ち、感情を描いている傑作だ)

「アップルシード」はCG・アニメーションというハードと、テーマ・感情とい
うソフトの融合させ、日本でしかできないことを大胆に、戦略的に実行して完
成した作品だ。

日本公開前から世界配給が決定しているが、世界で公開されたら、センセーシ
ョナルを巻き起こすことは間違いない。
「アップルシード」を早く観るために日本に来日している世界各国の方々も少
なくないだろう。

作品の最後がまた良い。(詳しいことは書かないが)七賢老たちが「無理心中」
のようなことをしようとするが、最後の最後に思い直して「希望」を残すのだ。

不良債権問題等、バブル後の失われた10年と言われ、そのときからいまに至る
まで、そしていまも、根本的な問題解決に着手することなく後回しにして、な
んとか逃げ切ろうとしてきた人たちは、はたして次の世代に「希望」を残すつ
もりはあるのだろうか。

オリュンポスの七賢老はヒト社会の安定を目的としてガイアと対話を続けてき
たのだ。その七賢老さえも「無理心中」を図ろうとするのだから、対話するこ
とさえ避けて逃げ切りにやっきになってきた人たちは……。

今日的な深いテーマ・問題を、圧倒的な映像で描く。とにかく映像だけでも観
る価値は充分だ。とにかくスゴイ! という「オーラ」のようなものが確実に
存在する。なにがそんなにスゴイのか、是非とも作品を観てあなたが感じても
らいたい。

もしここに、年に1、2本しか映画を観ない方がいたら――「アップルシード」
をおススメする。 
――――――――――――――――――――――――――――――――――
∇ 「ブレードランナー(サントラ)」バンゲリス
――――――――――――――――――――――――――――――――――
メルマガ配信しています。このブログの映画レビューの情報も受信できるよ。
「基本3分!映画レビュー わかりやすい映画案内」ってどんなの?
チラっとみてもよいという方だけにしてね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
人気ブログランキングに参加しています。ちょっとは面白かった☆という方は
クリックお願いします。ここまで読んでくれてありがとう☆
Click,thank you ⇒ 人気blogランキング(映画)へ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――


APPLESEED
士郎正宗 荒牧伸志 小林愛 小杉十郎太

関連商品
イノセンス スタンダード版
攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG 09
攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG 10
攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG 08
攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG 11
by G-Tools

| | Comments (0) | TrackBack (1)

04/22/2004

美穂の旅

「美穂の旅」 ********************************************************* 
▼株式会社テグレット技術開発が運営する、
 インターネット・Eメールを利用した仮想旅行サービス。
 (登録料、情報料共に無料)

 「美穂の旅とはあなたの分身が、世界中を旅行して、旅行先からあなたに
 メッセージを送ってくる仮想旅行システムです。ユーザ登録を行うと、あなた
 の分身を旅行に出発させる事が出来ます。 」
 (引用元:「美穂の旅」
***********************************************************************

〔1〕プレミス(Premise)
   ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア

―――――――――――――――――――――
ユーザーの分身が世界各国を旅する仮想旅行サービス。旅の様子をEメールで伝
えてくれる。


〔2〕ストーリー(Story)簡略に
―――――――――――――――――――――
ユーザーの分身それぞれの旅のストーリーが展開する。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ユーザーの分身
 ユーザーが自由に名前をつけることができる。また、分身の大まかな性格を
 指定することもできる。

△旅先で出会う人々

△旅先で出会う旅行者たち
 美穂の旅会員の分身たち。


〔4〕・1 ダイアニサイアック(Dionysiac)
      夢中になる、主人公に共感を得る。

―――――――――――――――――――――
旅行(ストーリー)の主人公はユーザーの分身である。


4〕・2 成功のための3つの要因
―――――――――――――――――――――
〈1〉ストラクチャー
〈2〉独創性
〈3〉マーケティング

ここでは〈2〉と〈3〉を取り上げる。
〈2〉独創性
○新鮮味があるか 
⇒今までなかった世界(インターネットの世界)を利用した仮想旅行システム
 です。

○オリジナリティーに溢れているか
○それはユニークか
⇒ユーザーが他のことををしていても、ユーザーの分身が旅行を続けていく
 (ソフトに係りっきりでいなくても進行するストーリー)。

○フック(観客の興味を惹くものは)はあるか
⇒世界各国各地についての興味。どんな人々がいて、どんな暮らしをしている
 のか。どんな気候風土か。どんな食べ物があるのか。どんな文化や風習があ
 るのか……等。

だれでも自分に興味がある。自分(分身)が旅先でどんな経験をするのかと興
味がわく。

〈3〉マーケティング
○ユーザーが欲していることはなにか?
⇒未知への興味(旅行)
⇒サバイバル(冒険)
⇒知識欲・理解欲(世界各地の歴史、文化を知りたい)
 
○旅行(ストーリー、作品)とユーザー(観客)との間にどのようなコネク
 ションを設定するか。

⇒旅行(ストーリー)を作品と考えると、観客が作品との間にコネクション
(つながり)を見出せるようにするが大切だ。
「美穂の旅」では、作品=旅行をするのは自分の分身だ。作品と観客の間には、
 旅のはじまりの時点で、すでにコネクションが成立している。
   

〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
人生の旅人――だれもが物語の世界の住人といえるでしょう。
 
物語の基本形の1つに、ロードムービー型というのがあります。主人公には動
機があり、目的を持って旅をします。旅の途中でさまざまな出来事に遭遇した
り、さまざまな人々に出会ったりします。最終的には目的地に着いて旅は終わ
りです。

「美穂の旅」で自分の分身を旅に出発させる動機は人それぞれでしょう。忙し
くて実際には旅行にいけないから。自分は子供で、思いたったらすぐに旅立つ
なんてことはできないから。ほんとうに世界各国を旅するのはめんどうだけど、
なにか新しい知識を得たり、冒険気分を味わったりしたい……等。

旅の目的もまた人それぞれです。そのため、「美穂の旅」では分身が「どこで
なにをするのか」をユーザーが指定することはできません。ユーザーは分身を
旅に出発させるだけです。分身は勝手に行き先と旅行期間を決めて出発します。

目的を定めないというのがポイントです。これが、より多くのユーザー(観客)
に受け入れられる理由でしょう(「美穂の旅」の会員数は約100万人)。

これについて映画作品と比較してみます。映画作品の主人公は目的を持ってい
ることがほとんどです。例えばヨットレースに挑戦する青年が主人公だとしま
しょう。青年の目的は恋敵(サブプロットの要素)でもあるライバルにヨット
レースで勝ち、優勝することです。観客が主人公の青年に感情移入できなけれ
ば、青年がヨットレースで優勝しようが予選落ちしようがどうでもいいことに
なります。
 
映画作品では観客が主人公との間にコネクションを見出すことが重要です。
ネクションが確立すれば、主人公と一緒に目的達成への旅に出ることができる
からです。
 
逆の言い方をすれば、主人公の目的とは、観客が主人公との間にコネクション
を見出させるための「仕掛け」ともいえます。
目的があると、観客が主人公に
コネクションを見出しやすくなります。目的にむかって行動する主人公の動機
や、主人公を取り巻く状況を知ることで、主人公に感情移入できるかどうか決
まるからです。

「美穂の旅」が目的を定めないのは、それが「旅」だからです。実際の旅には、
目的がある場合があります。(例:ピサの斜塔に登って記念写真を撮る)。し
かし、特にこれといった目的はないが、気分転換に旅行したい、ということも
あるでしょう。旅することが目的ともいえます。
こうした「旅」の性質をふまえ、さらに人それぞれの「旅」のスタイルを考慮
すると、分身の旅に目的を設定しないほうが、より「旅」らしいといえるでし
ょう。目的を定めないことで、より多くのユーザーを獲得することができるの
です。

ここで、「美穂の旅」が現代にマッチしている要素を2つ挙げます。ひとつは、
分身が勝手に旅行する、というものです。ユーザーは分身を旅に出発させると、
ほかにすることはありません。あとは分身からの報告(Eメール)を待つだけで
す。Eメールが着たら、旅の様子を写真などで知ることができます。旅先で出会
った分身のお友達(ほんとうの人間)とメールをやりとりすることもあるかも
しれません。分身が教えてくれたお店(WEBサイト)などを見たりすることもで
きます。ですが、旅は基本的に分身任せです。
 
なにかおもしろそうな事をしたい、おもしろそうな事を知りたい、という意欲
はあっても、いそがしくてどこかに行くためのまとまった時間はとれない、そ
れどころか家でTVゲームをする時間さえない、といういそがしい人でもだいじ
ょうぶです。分身を旅に出せば、あとは自分がどこでなにをしていても、分身
が勝手に旅行してくれます。そして、1日に1~3通ほどのEメールで旅の様子
を伝えてくれるのです。

家族や恋人や友人からのEメールはうれしいものです。自分がよく知っている人
からのメールだからです。ならば自分の分身からのEメールだったら? 自分の
ことを一番よく知ってるのは自分ともいいます。自分が旅に出発させた分身から
のメールに違和感や嫌悪感は抱かないでしょう。

このように、忙しい人でも旅行ができて、一番の知り合いからEメールが届くの
です。

もうひとつは、マーケティングです。「美穂の旅」は広告収入で運営されていま
す。旅に出た分身が訪れた世界各地に関係するイベントや物の広告などが、「分
身からのお知らせ」という形のEメールによってユーザーのもとに届きます。

分身がストーリーという名の旅をしながら、その状況に合わせて広告が入るので
す。
これはコンテクストマーケティングのひとつです。コンテクストマーケティ
ングとは、人それぞれの状況(時間・場所・行動)に合わせてサービス(情報・
商品)を提供するマーケティング手法です。

商品が安いからというだけではモノは売れなくなっています。モノの背景にある
物語を体験することで商品に興味や愛着がわいて商品を購入することがあります。

(例:ディズニー関連グッズ。クレヨン社の婦人服[※1])

人それぞれの状況(時間・場所・行動)をリサーチするには、たいへんな時間と
労力が必要です。そこで、用意したストーリーというフィールドで旅をしてもら
い、旅の過程に合わせてユーザーにサービスを提供するという、コンテクストマ
ーケティングにストーリーを組み合わせた手法を用いています。細かく言うと、
コンテクストマーケティングのひとつの手法としてのストーリーマーケティング、
もしくは物語マーケティングというものです。

こうした手法のわかりやすい例はディズニーや機動戦士ガンダム(※2)に見る
ことができます。どちらの作品も世界観がしっかり確立していて、数々の有名な
シーンやセリフがあり、個性的で有名な登場人物がいます。
長く愛される作品にコネクションを見出した(感情移入した)観客は、作品のコ
ンテクスト(文脈)に沿ったタイミングや状況で提供されたサービスに大きな関
心を向けやすいようです。

ディズニーや機動戦士ガンダムの例で見るように、コンテクストマーケティング
に、しっかりと構築したストーリーを組み合わせる手法は、現代に最も適応した
効果的なマーケティング手法のひとつといえるでしょう。

以上2つが時代にマッチした要素です。

また、分身は訪れた先で、ほかのユーザーの分身と出会うこもあります。そして、
分身のお友達(という設定)のほかのユーザー(本物の人間)にEメールを出す
こともできます。訪れた先でまれにおみやげを手に入れることもあります。これ
は広告主が提供する賞品であったりします(「美穂の旅」は広告収入で運営され
ています」)。
 
このように、仮想旅行でありながら現実世界とも接点があります。「美穂の旅」
は男性会員に比べて女性会員の比率が高いそうです。男性は自分の趣味の世界に
どっぷり浸かる傾向が強いとも言われます。サラリーマンの夫が趣味で古いおも
ちゃを集めはじめ、借金までして集めているという話もあるみたいです。その点、
女性はもちろん趣味を楽しみますが、それはあくまで現実の範囲内であることが
ほとんどのようです(なかには家計費をブランド物を買うために使ってしまう主
婦もいるとか……)。
 
仮想世界に深く入り込んで旅するのではなく、現実世界とも繋がっているという
のが、女性に受け入れられやすい点なのかもしれません。(そもそも分身は勝手
に旅するので、ユーザーが仮想旅行にどっぷり浸かりっきりになりようがありま
せんネ)

ストーリーは小説や演劇や映画作品にだけあるのではなく、あらゆるところに存
在します。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「美穂の旅」は株式会社テグレット技術開発が運営する仮想旅行サービスです。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
--------------------------------------------------------------------------
※1 クレヨン社の婦人服
   株式会社クレヨン。婦人服専門店。架空の女性音楽家「ロイス・クレヨ
   ン」を中心としてストーリーを構築。

※2 機動戦士ガンダム
   TVアニメ作品。劇場アニメ作品。1979年にTV放送開始。1981~1982年
   に劇場公開。モビルスーツという人型(ヒトガタ)ロボットのパイロット
   になった少年の物語。その後、ガンダムシリーズが多数放映される。
   (創通エージェンシー・サンライズ BANDAI)
-------------------------------------------------------------------------- 
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
-------------------------------------------------------------------------- 
メールマガジン→「ストーリー・アナリシス (Story Analysis)」

| | Comments (0) | TrackBack (1)

だれがあなたの話をきいてくれる?

●だれかになにかを伝えたいのならば、伝えるための方法を考えなけれ
  ばいけません。聞き手の興味を引く仕掛けを用意しましょう。

∇だれもがあなたの話をきいてくれるし、だれもあなたの話をきいてくれない。

だれもがあなたの話をきいてくれる場合とは?
例えば、あなたがサバイバルに関する重要な情報を持っている場合です。二手
に分かれた道のどちらを行けば、危険から逃れて生き残ることができるのか。
右の道か? 左の道か?あなたが、生き残る可能性が最も高い情報を持ってい
るならば、だれもがあなたの話を真剣に聞くでしょう。

だれもあなたの話をきいてくれない場合とは?
例えば、あなたが形だけのお話をしている場合です。話す内容はあたり障りの
ないものであって、ある場所と時間にだれかがなにかを話した、という「形」
だけを必要としてる状況がこれです。
(一見すると「形だけのお話」にも、すばらしくためになる内容を含んでいる
 こともあります。)


例えでお話しましょう。
------------------------
2人並んで座っているタケシ君とコウイチ君があくびをしました。あくびのタ
イミングが偶然合ってしまったので、2人はなんだかおかしくなってクスクス
声をひそめて笑いました。すると担任のキリコ先生がしかめ顔で「シィー」と
自分の口の前に人差し指を立てました。

今日は入学式。タケシ君とコウイチ君の後輩になる新入生が前列に座っていま
す。
さて、校長先生のあいさつがはじまってもうどのくらい時間が経ったでしょう。
タケシ君が今日の給食の献立に思いを馳せたり、午後にコウイチ君と秘密基地
に遊びに行くときに懐中電灯を持って行こうかどうしようかと考えているうち
に、窓の外から小鳥のさえずりが聞こえてきて、やわらかな日差しに背中がポ
カポカ暖まり、いつしかあくびが出るようになっていたのです。

「はやく終わらないかなぁ」心の中でタケシ君はつぶやくように言いました。
校長先生のお話が終わったら、次は演劇部による新入生歓迎劇がはじまる予定
なのです。

『日直探偵☆学校の七不思議を解明せよ!』

学校新聞に載っていた劇の題名を思い出すと、タケシ君は自分が知っている学
校の七不思議をひとつずつ思い出してみることにしました。
「シゲさんの岩」「忘れられた赤白帽子」「たて笛お京」「理科室の鮮血チョ
ーク」それと……。だめだ……4つしか思い出せない。

校長先生のお話はまだつづいています。
あと3つをじっくり思い出す時間はまだまだありそうだ、とタケシ君は思いま
した。
------------------------
校長先生のお話の最中に給食や劇に思いを馳せたりあくびをしたりとは……。
きっとタケシ君のためになるお話をしてくださっているのかもしれません。で
もタケシ君はぜんぜん聞いていないようですね。

たとえどんなにすばらしいためになる内容が詰まったお話でも、聞き手がその
重要性と必要性をわかっていなければ伝わりません。

ほんとうにだれかになにかを伝えたいのならば、伝えるための方法を考えなけ
ればいけません。聞き手の興味を引く仕掛けを用意する必要があります。


●映画作品「ファインディング・ニモ」(※1)を例にみてみましょう。
------------------------
マーリンは人間のダイバーにさらわれた息子のニモを探しています。魚たちの
群れに向かって「誰かボートを見なかったかい?」と必死に尋ねますが、みん
な先を急いでるらしく誰も相手にしてくれません。

でも、マーリンはドリーと出会ってニモ探しの旅をはじめることになります。
しかし普通なら、マーリンひとりがいくら呼び掛けてみたところで、だれも相
手にしてくれません。そんな状況でマーリンの呼びかけに応えてくれたドリー
はちょっと変わり者(特徴的なキャラクター)だという位置付けになります。

それはいいとして、マーリンとドリーがサメに出会ってしまったときのことで
す。それも、サメの中でも最も強暴なことで知られるホホジロサメでした。サ
メは、マーリンがカクレクマノミという種類の魚だとわかると「カクレクマノ
ミ? マジで?」「なあなあ、ジョーク言って」とせがみます。

ここではじめてマーリンがみんなに注目されます。なぜジョークを言ってくれ
と頼まれたのか。カクレクマノミの英語名は「Clown fish」。Clown には「道
化者、ピエロ」という意味があるからなのです。

また、マーリンとドリーがアオウミガメの甲羅に上に載せてもらって東オース
トラリア海流に乗っているときのことです。マーリンは「クラゲライダー」だ
と紹介されたことで、歓声を上げる子ガメたちに、いっせいにのしかかられて
「おじさん面白い?」「どこから来たの?」「ホントにクラゲの森を通ったの
?」と訊かれて人気者になります。

子供は好奇心が旺盛ですが「クラゲライダー」と紹介されたことで、子供たち
の好奇心がさらに刺激されて、マーリンはたいへんな人気者になりました。

サメに遭ったときは、カクレクマノミということでジョークをせがまれただけ
でしたが、アオウミガメに会ったときには、「小さいのにクラゲとやり合う命
知らずなすげえ奴」と注目を集めたのです。

やがて、こうした命知らずに見える行動をするのは、人間にさらわれた息子の
ニモを探すためだと知ってもらうことで、みんなの応援と助けを受けることが
できるようになるのです。

マーリンは必死にニモを探しているうちに、クラゲの森を通ったことで、みん
なに注目されるようになりました。これはマーリンが自分に注目が集まるよう
にと狙ってそうなったわけではありません。息子のニモに会いたいという必死
の行動が、結果的にみんなの注目を集めるようになったのです。

だからといってなんでも必死になれば、いつしかみんなの注目を集めることが
できるというわけではありません。
「ファインディング・ニモ」は映画作品なので、多くの人の映画を観てもらう
ことを目的のひとつとしています。そのためには立体的で特徴的で魅力あるキ
ャラクターを配置する必要があります。「息子を必死に探すマーリン」は観客
が感情移入しやすいキャラクターです。こうして観客になりそうな人々の注目
を集めているのです。

映画作りには、こうした綿密なキャラクター設定やストーリー構築の技術が必
要なのです。
------------------------

もし、あなたが「私は校長先生でもないので、『ぜひ壇上でみなさんにお話し
てください』とだれかに頼まれることもないさ。だれかに伝えたいことはある
けれど、だれも私の話なんてきいてないよぉ……」と思っていたとしても、心
配ありません。なぜなら、あなたと同じように思っている人はたくんいるので
すから。

そして、聞き手の興味をひくことができるようになれば、徐々にではあっても、
あなたの話に耳を傾ける人は増えていくことでしょう。
逆の言い方をすればこうです。たとえあなたが校長先生であったとしても、聞
き手(小学生)の興味を引くために必要なことをしなければ、あなたの話は聞
いてもらえないでしょう。
一見するとちゃんと座ってお話を聞いているように見えても、タケシ君みたい
に、給食の献立や学校の不思議のことを考えているかもしれません。

では最後にもう一度↓

●だれかになにかを伝えたいのならば、伝えるための方法を考えなけれ
  ばいけません。聞き手の興味を引く仕掛けを用意しましょう。

----------------------------------------------------------------------
※1「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」
  アンドリュー・スタントン監督/ジョン・ラセッター製作総指揮/2003年/
  アメリカ/101分。
  オーストラリア・グレートバリアリーフ。魚(カクレクマノミ)の子供
 (ニモ)が人間にさらわれる。父(マーリン)はニモを探しに冒険に旅立つ。
「ファインディン
グ・ニモ」
竹書房・ピクサー文庫
「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」 ←映画作品レビュー
---------------------------------------------------------------------- 
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
----------------------------------------------------------------------
∇書籍紹介
 わかりやすい文を書くために参考になる書籍を以下に紹介します。
「理科系の作文技術」 木下 是雄 (著) 中公新書
「日本語の作文技術」 本多勝一(著) 朝日文庫 
「日本語で生きるとは」 片岡 義男 (著) 筑摩書房
「日本語の外へ」     片岡 義男 (著) 角川文庫
----------------------------------------------------------------------

| | Comments (0) | TrackBack (0)

04/21/2004

自分がわかっていることは他人もわかっている?

そんなことはありませんよね。
例えば東京のJR山の手線(東京の都心部を円状に走るJR線)の駅名をすべて言え
る人がいるとしましょう。その人にとっては渋谷駅から浜松町、東京方面行きの
山の手線に乗って一駅目はなんという名前の駅(恵比寿)かはすぐにわかります。

でも、今日はじめて東京にやってきた人々のすべてが渋谷の次の駅が恵比寿駅だ
とわかっているわけではありません。
なんだか当たり前の話をしているようですが、これはとても大事なんです。

他の例でお話しましょう。
------------------------
タケシ君(としておきましょう)が友人のコウイチ君の家にはじめて遊びに行き
ました。2階にあるコウイチ君の部屋に入り、いつも学校で話題にしているテレ
ビゲームのサッカーゲームをしてしばらく遊んだ後、タケシ君はソワソワしはじ
めました。サッカーゲームはちょうど試合が盛りあがっています。でも、タケ
シ君は「タイム!」と言って立ち上がりました。

タケシ君 「トイレいきたい」
コウイチ君「はやく行ってきな。1階だよ」

タケシ君は階段を駆け下りると、廊下の突き当たりの左右にそれぞれ扉をみつけ
ました。我慢はもうかぎりなく限界に近い状態です。タケシ君にはどちらの扉も
同じに見えました。自分の家のトイレは廊下の左側なので、考える暇もなくタケ
シ君は左側の扉のノブに手をかけました。

扉にはカギが掛かっていました。タケシ君は扉をノックしました。反応がありま
せん。もう我慢も限界ギリギリです。今度は激しく何度もノックしました。扉の
向こうで人が暴れている音が聞こえました。そして奇声も聞こえます!

慌てた様子で2階からコウイチ君が降りてました。
「たいへんだぁ! あいつが目を覚ましちゃったぁ!」
------------------------

実は、トイレは廊下の突き当たりの右側でした。コウイチ君にとっては自分の家
であり、毎日トイレを使っているので、トイレの場所を間違えるはずはありませ
ん。そういうわけなので、「トイレは1階だよ」と教えてあげただけで、充分だ
と思ったのです。

タケシ君とコウイチ君それぞれにとって「わかっていること」や「知っているこ
と」と、どちらか一方だけが「わかっていること」や「知っていること」を明確
に意識することが必要です。

二人にとって「わかっていること」はサッカーゲームの内容や遊び方です。これ
はあらかじめ学校で何度も話題になっているので、はじめて二人がゲームで対戦
することになっても、すぐにゲームを楽しむことができたのです。

一方、どちらか一方だけが「わかっていること」は、コウイチ君の家のトイレの
場所です。ほんとうならコウイチ君はもっと詳しくトイレの場所を説明してあげ
たことでしょう(例「トイレは1階の廊下の突き当たりの右側だよ」)。でも、
サッカーゲームで盛りあがっていた途中だったので、コウイチ君は、タケシ君が
トイレをすぐに済ませてきてゲームを再開させたいという思いから、つい説明不
足になってしまったのかもしれません。

このように、他の何かに気を取られているときや、忙しいときなどは特に説明が
省略されてしまいやすくなります。忙しいときなどこそ、詳しい説明が必要なの
です。

人は自分にとってあたりまえと思えることを省略する傾向があります。なぜなら
自分がわかりきったことを繰り返すのは面倒だと思うからです。


●映画作品「ファインディング・ニモ」(※1)を例にみてみましょう。

マーリンは人間のダイバーにさらわれた息子のニモを探しています。いろいろな
魚に出会う度に、息子がさらわれたことを説明します。それを聞く度にドリーも
「まぁ大変!」といったかんじで驚きます。なぜならドリーは物忘れがひどくて、
マーリンとの旅の目的(ニモを探し出すこと)をすぐに忘れてしまうからです。

マーリンにとってみれば相棒のドリーにまで幾度も説明しなくてはならないので、
なんだか面倒に思ったりもします。

「物忘れがひどいドリー」という設定にした利点は、作品にユーモアのセンスを
持たせことができるということです。そして、わかりやすさの点から利点という
ことを言うと、観客を迷わせなずに目標に向かってしっかり誘導することができ
るということです。

マーリンは、相棒のドリー相手にさえ、幾度も「息子のニモがさらわれたので助
けたい」ということを説明します。これは、観客に主人公たち(マーリンとドリ
ー)の目的をはっきり印象づける効果があります。そうすることで、サメに襲わ
れたり、深海魚に襲われたり、クラゲに刺されたりといろいろな障害に遇いなが
らも「旅の目的」=「さらわれたニモを探し出す」を明確にすることができるの
です。

マーリン自身も、幾度も「息子がさらわれたんだ」と説明することで、大きな障
害に遇っても、強い信念でニモを探し出す勇気と力を湧き上がらせているといえ
るでしょう。

たとえ自分にとってわかりきっていることでも、幾度も丁寧に説明することで、
対象を注意深くみつめ、自分がこれからやろうとしていることを明確にすること
ができます。
あとは明確な目的(目標)を達成するためになにをすればよいかを
見極めて、必要なことを確実に実行していけばよいのです。

マーリンは幾度も自分にとってわかりきったこと(息子のニモがさられた)を説
明することで、目的に向かって自分を奮い立たせ、困難を乗り越えてニモの元へ
向かうのです。

(ちなみに、タケシ君がノックした扉の部屋にはリスザルが飼われていたそうで
す。いたずら好きのリスザルは、このときちょうどお昼寝時間で、カギがかかっ
た部屋にいたのでした。)

----------------------------------------------------------------------
※1「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」
  アンドリュー・スタントン監督/ジョン・ラセッター製作総指揮/2003年/
  アメリカ/101分。
  オーストラリア・グレートバリアリーフ。魚(カクレクマノミ)の子供
 (ニモ)が人間にさらわれる。父(マーリン)はニモを探しに冒険に旅立つ。
「ファインディング・ニモ」竹書房・ピクサー文庫
「ファインディング・ニモ (FINDING NEMO)」 ←映画作品レビュー
---------------------------------------------------------------------- 
∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
----------------------------------------------------------------------
∇書籍紹介
 わかりやすい文を書くために参考になる書籍を以下に紹介します。
「理科系の作文技術」 木下 是雄 (著) 中公新書
「日本語の作文技術」 本多勝一(著) 朝日文庫 
「日本語で生きるとは」 片岡 義男 (著) 筑摩書房
「日本語の外へ」     片岡 義男 (著) 角川文庫
----------------------------------------------------------------------

| | Comments (0) | TrackBack (0)

04/15/2004

モンスターズ・インク(MONSTERS,INC.)

モンスターズ・インク
大平透 立木文彦 高乃麗 青山穣 ジョン・グッドマン 長島雄一
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
2004-04-23


by G-Tools
ピーター・ドクター 、デビット・シルバーマン監督 2001年 アメリカ ディズニー・ピクサー

●必要な労力を惜しまない、チャレンジ精神と戦略をもつ、全編フルCGアニ
  メーションの成功作品

〔1〕プレミス(Premise)
   ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア

―――――――――――――――――――――
怖がらせ屋のモンスターが、モンスターズシティに入り込んでしまった人間の
女の子を助けようとする。


〔2〕ストーリー(Story)簡略に
―――――――――――――――――――――
モンスターズインク。そこは人間の子供の悲鳴をエネルギーとして採取する会
社である。ある日、人間の子供(女の子)がモンスターシティに入り込んでし
まう。モンスターズインクで業績トップのサリーは女の子を守り、人間の世界
に帰してあげようとする。
 

〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ジェームズ・P・サリバン(サリー)
 全身を毛で被われた巨体モンスター。
 モンスターズインクで業務成績トップを誇る。

△マイク・マゾウスキ(マイク)
 球体形の、ひとつ目モンスター。サリーとは仕事上の相棒関係である。
 サリーと幼馴染でもあるようだ。

△ブー
 人間の女の子。モンスターズシティに入り込む。

△ランドール・ボッグズ
 トカゲ型モンスター。サリーの仕事上のライバル(業務成績第2位)。
 カメレオンのように体の色を変えることができる。

△セリア
 髪の毛に5匹の蛇をもつ、ひとつ目モンスター。
 モンスターズインクの受付嬢でマイクと熱愛中。

△ロズ
 ナメクジ型モンスター。モンスターズインクの書類担当責任者。
 

〔4〕・1 ルール
―――――――――――――――――――――
モンスターの世界には侵してはならなり3つのルールがある。

〈1〉人間界のものを持ち帰ってはいけない
〈2〉モンスターシティには人間の子供を入れてはいけない
〈3〉人間の子供を愛してはいけない


〔4〕・2 感情的気質/感情的反応
―――――――――――――――――――――
(登場人物の感情的気質はその人物を形づくり、感情的反応はその人物の肉づ
 けを行う)

観客が登場人物(サリー)との一体感を得れば、観客はストーリーの世界へス
ムーズに入っていくことができる。一体感を得るためには、サリーの感情的反
応をわかりやすく描くことが必要だ。

サリーはモンスターズインクの業績トップ社員としての誇りを持っている。だ
が傲慢になることがないため、社員みんなに好かれている(ランドールを除く)。
そんなサリーが人間の女の子のお守をすることになる。最初は女の子を恐れて
いたサリーだが、「ブー」と名前をつけて家に帰そうとする。その途中、ブー
がゴミ処理装置に入れられてしまったと思い込んだサリーは、動転して気を失
いそうになる。

仕事をバリバリこなし、同僚たちから好かれているサリーが、人間の女の子の
お守をすることになる。ブーと名前をつけて、家に帰してあげようとしたり、
ブーのことを心配したりする。こういったサリーの感情的反応に観客は感情移
入する。

また、人間の女の子に「ブー」と名前をつけたことは重要だ。作品中でもマイ
クがサリーに「人間の女の子に名前まで付けてはマズいよ」といった意味のセ
リフがある。名前をつけることで対象を認識し、名前を呼びつづけることで
「ブー」の存在が大きくなっていく。これは観客の感情的反応に大きく関係す
る事柄だ。


〔4〕・3 キャラクター・アーク(Character Arc)
―――――――――――――――――――――
(ストーリーの中でのキャラクターの経験を通して起こる、キャラクターの性
 格や価値観の変化)

仕事熱心で悲鳴獲得ポイントNO1のサリーは、その地位を維持するために精
力的に仕事をこなしていく。常に危険(とされている)と隣りあわせの仕事の
ため、トップの成績を誇るサリーはモンスターシティの人々からヒーローとし
てみられている。

そんなサリーがブーを出会うことで、仕事だと割り切って子供を脅かしてきた
ことについて考えるようになり、ストーリーの最後には今までとは違った目的・
内容の仕事をするようになる。

 
〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
全編フルCGアニメーションの成功作品である。

---------------------------------------------------------------
ある作品が赤字になる可能性が高い要素として、次の3つをあげることができ
る。それは、「水」「未来」「CG」である。

水を狙ったとおりに撮影するのは難しい。ビジュアルエフェクト技術やCG技
術でもまだまだ難しいという。海や川での撮影は天候に左右されやすく、日数
がかかり、俳優やスタッフも危険にさらされる可能性が高い。

SFものは世界観をゼロから構築しなければならない。セットやCGなどの制
作費が膨大になる可能性が高い。

CGアニメはアニメーターやCG技術者の人件費がかかる。制作日数のぶんだ
け人件費がかかるのだ。

----(『映画の達人』日経エンタテインメント!編 日経BPムック参考・参照)----

「モンスターズインク」は全編CGで描かれた作品である。全編をCGで描く
必要があるのか? この問いに対する答えは「必要がある」となる。

ストーリーの舞台はモンスターシティである。モンスターの世界を舞台として
いるのだ。仮にモンスターを人間が演じるとなると、着ぐるみと特殊メイクで
動物等の動きを真似する、という形になるだろう。制作費を安くしようとする
とデパートの屋上の怪獣ショーになる。制作費を沢山費やすには相当の覚悟が
必要だ。膨大な制作費をかけて「コント」作品として十分に楽しめる作品もあ
る(例 「猿の惑星(PLANET OF THE APES)」 ティム・バートン監督)←ここま
でやると逆におもしろいだろうという期待がおおいに持てるのだ。

モンスターをCGで描くことで、どのようなモンスターのどのような動きも表
現することができる。モンスターは最初から有名スターではないので、それぞ
れのモンスターに明確なキャラクターが備わっていなければならない。
モンスターズシティには多くのモンスターがいるが、基本的にサリーとマイク
の二人に焦点を絞っている。この二人を中心に、ライバルのランドールや受付
嬢のセリア等が登場する。これらの登場モンスターひとりひとりには動機や目
的がある。そのため、モンスター達のキャラクターが際立っており、ストーリ
ーの世界観を観客に知らせる手助けをしたり、ストーリーを前へ押し進めたり
している。

作品の初めのほうで、モンスターズインクの新入社員向けの案内テープが流れ
る。これによりモンスターズインクが何をしている会社なのか、何を目的とし
ているのか、会社(モンスターズシティ)のヒーローはだれなのか、といった
ことがわかるようになっている。
また、DVD版には「マンとモンの歴史」といったような題名のショート作品が収
められており、現在に至るまでの人間とモンスターとの関係を短い物語で紹介
している。

このように、ゼロから作り上げた世界観を違和感なく観客に紹介している。そ
して、モンスターシティが舞台であるので、全編CGである意味に納得できる
のである。しかもCGにかなりの気合が入っていることをうかがわせる。それ
はサリーのCGである。サリーはブーに「kitty! kitty!(kitten)=子ネコ」と
呼ばれてわかるように、ネコのように全身が毛におおわれている。髪や毛をを
CGで描くには高度な技術と作業が必要だという。それにもかかわらず敢えて
毛におおわれたモンスターを主人公にしている。ここで重要なことは、登場す
るモンスターすべてを毛のあるモンスターにしなかったということだ。意気込
みを伝えたい気持はあっても、毛のあるモンスターばかりが登場すると、毛を
描くというスゴさが色褪せてしまうし、制作費も制作日数も膨れ上がることに
なる。つまり、すべてのモンスターを毛のある種類にする必要はないのだ。必
要がないところまですべてCGで描いても、それは制作者の自己満足で終わる
可能性が高い。観客が何を望んでいるか考えることが重要だ。

サリーはモンスターズインクでトップの社員である。ブーと出会うまでは自分
の仕事について深く考えることはなかった。子供の悲鳴はモンスターズシティ
のエネルギー源であり、モンスターたちはそれを必要としている。そして、悲
鳴採取量トップを誇るサリーは街のみんなにヒーロー視されている。

だが、ブーと出会うことでサリーは仕事の輝かしいキャリアを失う危険にさら
される。それは相棒のマイクのキャリアにも関係することで、それまで良き相
棒関係を続けてきた二人の友情に変化が起こる。友情を大事にしたいサリーだ
が、自分の良心に従ってブーを守って、人間の世界に帰してあげたい気持もあ
る。友情、愛情、良心の狭間で悩みながらもブーを守るために行動しつづける
サリーには感情豊かで深いキャラクター性がみられる。

ディズニーアニメのキャラクターは動きが早い。展開も早い。このように感じ
るのは大人だけで、子供にとっては程よいスピードなのだろう。ゆっくりした
展開の、お決まりのパターンの作品に慣れ親しんだ大人には、展開の早さにつ
いていけないと感じるかもしれない。。キャラクターの細かい表情やしぐさな
ど、会話を聞き取る(読み取る)ことに一生懸命で見逃してしまうかもしれな
いシーンがある(例:マイクがコンタクトレンズを装着するシーン)。
なにげないシーンにもユーモアが効いていたりするので、2度、3度とじっく
り観ると新たな発見がありそうである。

子供部屋のクローゼットはモンスターの世界につながっている、というのはイ
マジネーションをかきたてられる。日本でいうと「押し入れ」を開くとそこに
トンネルがあり……(例:松本零士『千年女王』)といった具合だ。
とこ