ボーン・アイデンティティー(THE BOURNE IDENTITY)
![]() | ボーン・アイデンティティー マット・デイモン ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン 2004-07-07 by G-Tools |
○観客の心を巧みに掴む作品
〔1〕コンセプト(Concept)
ストーリーの中心となるアイデア(着想)やトピック(出来事)を意味する
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記憶喪失となったCIAスパイが自分が何者かを知ろうとする。
〔2〕ストーリー(Story)簡略に
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フランス、マルセイユ南方の沖合いでひとりの男が海上に浮いているのをイタ
リア漁船の船員が発見する。男は生きていた。だが記憶を失っていた。男は明
晰な頭脳と俊敏な身体を持ち、格闘技の達人で、銃器の扱いに慣れていた。男
は自分の体に埋め込まれていたカプセルが示す、チューリッヒの銀行の貸金庫
へいく。金庫の中には6ヶ国のパスポートと大金と拳銃が入っていた。男は自
分が何者なのかをつきとめるために行動を起こす。
〔3〕Main Character(主な登場人物)
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△ジェイソン・ボーン、ジョン・マイケル・ケイン、ケイ・ポール
記憶を失ったCIA秘密エージェント
△マリー・サン・ジャック
アメリカ大使館でボーンと出会う。2万ドルでパリまで車で送ってくれと頼
まれる。お金に困っていたマリーは承諾する。
〔4〕・1 視点
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物語の大半はボーンの視点である。ボーンは自分が何者であるかわらかない。
だが観客には、ボーンがCIAの秘密エージェント(工作員)であることが知ら
される。
〔5〕Comments(論評、批評、意見)
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観客の心を巧みに掴む作品である。
もし、物語の視点を最初から最後までボーンに限定したならば、観客にはボー
ンの正体を知りたいという欲求が生じるだろう。だがこの作品は、ボーンの正
体を最初に明かすことで(CIA秘密エージェント)ボーンがいかにして自分が何者
であるか知ろうとするか、を描いている。これは一見するとネタバレであるよ
うにも思える。だが、ボーンとは一体何者なのか、CIA秘密エージェントである
ボーンもまたボーンであることは確かなのだが、記憶を失ったボーンもまたボ
ーンである。ひとりの人間としてのボーンはどんな人物なのか。これはすべて
の人に当てはまる問い掛けでもある。
人は様々な役割を演じているとも言える。例えば、ここのひとりの男がいると
する。この男は妻に対する夫であり、息子・娘に対する父であり、父に対する
息子であり、弟・妹に対する兄である。このように様々な役割を持っている。
これらすべての役割を持っているひとりの男がふと思う――はたして本当の自
分は何者なのか、と。こうしただれもが一度はふと思うことがある事柄を基本
に据えているため、作品の最初からボーンがCIA秘密エージェントであることが
わかってもかまわないのである。
以上のことは本マガジンのバックナンバー「サイモン・バーチ」と比較すると
よいだろう。(描き方を比較)
「サイモン・バーチ」は少年のドラマとして、自分が何者なのか、自分が産ま
れてきた意味を探す様子が描かれている。
「ボーン・アイデンティティ」ではそれが、スパイアクションスリラーとして
描かれている。
○ボーンのキャラクターについて
ボーンとマリーは、ふたりで行動するうちに、お互いを知り合うようになる。
知らない者同士であった二人が次第に打ち解けていく様子を観るうちに、観
客にとってボーンが身近な人物に思えてくる。ボーンが人並はずれた身体能
力と頭脳を持っているスーパーマンであっても、迫りくる危険に対処しなが
ら、自分が何者であるかを必死に探し求める姿に、観客は感情移入していく。
また、CIAの秘密エージェントであったボーンは、作戦(ある要人の暗殺)に
失敗して海面に漂っているところを漁船に助けられる。
CIA秘密エージェントであるボーンのキャラクターがどうであるかは、観客に
知らされないが、物語が進んでいくうちに、優秀なエージェントであるボー
ンが周到な計画を立てて準備したにもかかわらず作戦を失敗した理由を知っ
たとき、観客はCIA秘密エージェントであるボーンではなく、ひとりの人間と
してのボーンの人柄を知る。このことが観客とボーンとの距離を近づけること
になるのである。
ボーンは自分が何者かを知ろうとする。その途中で出会ったマリーとの関係を
通して、観客はボーンがどんな人物であるかを知っていく。さらにボーンが記
憶を失った原因である作戦がなぜ失敗したかが明らかになり、ボーンのひとり
の人間としての人柄が知られる。ボーンがCIAの秘密エージェントで暗殺の指
令を受けていたという事が、かえってボーンの人間らしさの人柄を強調する結
果となる。
ボーンが自分を知りたいと思って行動すると同時に、観客がボーンという人物を
知って行くことになる、という作りになっている。人は相手を深く知れば知るほ
ど、それが人として尊敬に値することや共感することであればあるほど、相手に
親しさを感じるようになる。
この作品を観終わると、ボーンという人物に親しみを感じ、もっと彼の物語を知
りたいと思うようになるだろう。
続編の予定あるのかどうかはわからないが、ほかのボーンの物語も観たくなる作
品である。
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![]() | 「ボーン・アイデンティティー」 オリジナル・サウンドトラック サントラ ジェネオン エンタテインメント 2002-12-18 by G-Tools |
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∇参考・用語引用図書
「ストーリーアナリスト」
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社
「ハリウッド・リライティング・バイブル」
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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