マイノリティ・リポート（Minority Report）」

「マイノリティ・リポート（Minority Report）」
スティーヴン・スピルバーグ監督　2002年　アメリカ
原作：フィリップ・K・ディック

○ビリーバビリティ（真実味）ある近未来SFに謎解きとアクションとユーモア
　　の要素をもたせた作品
　　　
〔１〕プレミス（Premise）
　　　ストーリーが発展していくための基礎となるアイデア
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殺人が予知できる近未来。容疑者として予知された男が、殺人を犯さないこと
を証明するために行動する。

〔２〕ストーリー（Story）　簡略に
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2045年ワシントンD.C。殺人は３人のプリコグ（予知能力者）によって予知され、
犯罪予防局によって事前に阻止される。犯罪予防局のチーフであるジョン・アン
ダートンはある日、プリコグによって殺人事件の加害者と予知される。36時間以
内に会ったこともない知らない男を殺害するという容疑を晴らすため、ジョンは
抹消されたというマイノリティリポートのオリジナルを手に入れようとする。
　

〔３〕Main Character(主な登場人物）
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△ジョン・アンダートン
　犯罪予防局チーフ

△プリコグ
　３人の予知能力者

△アガサ
　３人の予知能力者のうちのひとりである女性予知能力者

△ダニー・ウィットワー
　司法省調査官
　
△ラマー・バージェス局長
　犯罪予防局の生みの親

△アイリス・ハイネマン博士
　殺人予知システムの設計者

〔４〕・1　モチベーション（動機づけ）及び、ペイオフ（Pay off）
　　　　　　初めに提供されて後に劇的に使われる情報や工夫
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ジョンが犯罪予防局の仕事にうちこんできたのは、息子を失ったからだ。誘拐
された可能性が高く、その生死も定かではない。自分が味わった悲しみ（息子
を失った悲しみ）を他の人には味わってほしくはないと、犯罪のない社会を実
現する殺人予知システムを用いる犯罪予防局のチーフとして仕事にうちこんで
いる。

〔４〕・２　エクスターナル・コンフリクツ（External Conflicts）外的葛藤
（主人公を危険や不安に陥れようとする敵や第三者によって作り出される困難）
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プリコグによって殺人事件の容疑者と予告されたジョンは、自分が勤めていた
犯罪予防局から追われることになる。

〔４〕・３　インターナル・コンフリクツ（Internal Conflict）内的葛藤
　　　　　　（矛盾または未解決な問題）
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ジョンはかつて、幼い息子とプールに行った。目を離した隙に息子を見失って
しまう。息子は行方不明のままである。そのため、仕事にうちこみ、妻とは別
居中である。ダウンタウンに深夜出掛けて行き、ドラッグを買っている。

〔５〕Comments（論評、批評、意見）
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ビリーバビリティ（真実味）ある近未来SFに謎解きとアクションとユーモアの
要素をもたせた作品である。

〔ビリーバビリティ（真実味、現実味）〕
個人向け広告の究極の形を提示している。２０４５年のワシントンD.Cでは店に
入ると虹彩スキャンで個人が識別されて様々な製品やサービスを勧められる。

〔謎解き〕
　犯人探しの謎解きではなく、なぜ殺したのかという動機の謎解きである。

〔アクション〕
犯罪予防局と司法捜査官たちに追われるジョンが住宅街や自動車製造工場で派手
に逃げ回る。

〔ユーモア〕
アガサ（３人のプリコグのうちのひとり）が数分後を予知するシーンや、ジョン
がGAPでアガサの服を調達するシーンや、ジョンが闇医者のアパートの冷蔵庫を
開けて食べ物を探すシーンなど。ストーリーの大きな筋とは関係ない細かな事柄
や行動に笑い（ユーモア）を取り入れている。
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ジョンは、会ったことも名前を聞いたこともない男を殺すという予知が間違って
いることを証明するため、だれも殺さないつもりで行動する。しかし、名前を聞
いたこともない男に会ったとき、ジョンはその男を殺したいと思うようになる
（Pay offの解消）。
ジョンはここで巧妙な罠が仕掛けられていることを知る（新たな謎、展開）。
この謎を解いてみせるのは司法捜査官のダニー・ウィットワーである。

「マイノリティ・リポート」では悪役が存在する。ワシントンD.Cで行われている
殺人予知システムを全米に拡大するかどうかの投票が近い状況で、殺人予知シス
テムが完全ではないこと（以下に２つ）が知れることをおそれる人物がいる。
　
〈１〉３人のプリコグの予知はたいてい一致する。だが、稀に一致しないこと
　　がある。一致しなかった１人の予知はマイノリティリポートとして無視さ
　　れる（消去される）。　
　
〈２〉プリコブの予知を最初に知ることができる者は、予知の内容をふまえて
　　　偽装工作を行うことができる。

悪役を設定することで善と悪の対立構造がはっきりする。殺人予知システムが
完璧ではないことが明らかになるのと連動して、システムを自分の都合のよい
ように利用する悪人が誰なのかが明かになる。

完璧だと思われたシステムにも例外（マイノリティリポートの存在）がある。
そういったシステムを自分の都合のいいように利用する人間がいる。
　
〔主人公について〕
完璧なシステムは存在しないが、よりよくしていくための努力と行動を惜しまず、
少数意見にも耳を傾ける。そういった意味での「理想」を追い求めることになる
ジョン・アンダートンに観客はヒーローの姿をみる。もっとも、ジョンは自分が
殺人者にならないために行動する。これはサバイバルという人間の基本的な欲求
を表しているので、観客はジョンの行動について納得する。

SF原作を映画化するのは難しいと言われる。複雑な設定、きちんと辻褄が合うか
どうか、などに苦心する。また、有名なSF原作をもとにしている場合、映画用に
多少の脚色をしたり、設定を変えたり、結末を変えたりすることがある。そうす
ることで原作のファンからきびしい批評に晒されることもある。
こういったリスクを負いながらも、ハリウッドの巨匠と言われる監督とハリウッ
ドのトップスターが組んで、このSF作品を制作した。巨匠といわれる地位に安住
することなく、意欲的にSF作品に取り組んでいる。
近未来の世界観は個人向け広告などビリーバビリティ（真実味、現実味）があり、
アクションも豊富で、謎解きもユーモアもあるよくできた作品である。

（2002年10月中旬時点で全米興収ランキング１６位ではあるが……。トムクルー
　ズ出演作は、最近はアメリカよりも日本でヒットすることが多いという。
　例 「バニラスカイ」）

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∇「マイノリティ・リポート―ディック作品集」ハヤカワ文庫SF
フィリップ・K. ディック (著), Philip K. Dick (原著), 浅倉 久志 (翻訳)

∇「マイノリティ・リポート オリジナル・サウンドトラック」
　　ジョン・ウィリアムズ
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∇参考・用語引用図書　
「ストーリーアナリスト」　
１９９９フィルム　アンド　メディア研究所　愛育社

「ハリウッド・リライティング・バイブル」　
２０００ フィルム　アンド　メディア研究所　愛育社
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