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小説家を見つけたら(FINDING FORRESTER)

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「小説家を見つけたら(FINDING FORRESTER)」
ガス・ヴァン・サント監督 2000年 アメリカ 136分


〔1〕Log Line(ストーリーを述べてある一文)
―――――――――――――――――――――
16歳の黒人少年が老作家と出会い、お互いに大切なものを得ていく。


〔2〕Story(物語)簡略に
―――――――――――――――――――――
ブロンクスの黒人少年ジャマールは少年達にウインドウと呼ばれている謎の
老人に出会う。老人はかつてピューリッツァー賞を受賞した有名な作家ウィリ
アム・フォレスターである。
 
普段から文を書いていたジャマールは、フォレスターに書き方を教わるかわり
に、フォレスターのことを誰にも話さないと約束する。
 
進学校へ転校したジャマールはバスケと学業を両立させる。そんななか、作文
コンテストに提出したフォレスターの作文に剽窃の疑いがかかる。

フォレスターに助けを求めるが、断られてしまう。しかし、作文コンテスト当
日、フォレスターが学校に現れてジャマールの潔白を証明する。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ジャマール・ウォレス
 ニューヨークサウスブロンクスに住む16歳の黒人少年。父親が蒸発し、母親
 と二人で住んでいる。バスケットボールが得意。仲間たちには内緒だが、
 世界のさまざまな文学作品を を読破し、自らもノートに文を書きためてい
 る。

△ウィリアム・フォレスター
 老作家。23歳のときに書いた処女作でピューリッツァー賞を受賞。第2作
 は出版していない。町の少年たちの間では「ウインドウ」と呼ばれている。
 (アパートの上の階の窓からバスケットグラウンドをいつも見ているから)

△クレア・スペンス
 ジャマールが転校した先であるメイラー校(進学校)の女生徒。理事の娘で
 もある。メイラー校を見学にきたジャマールに校内を案内する。

△ロバート・クロフォード
 メイラー校の文学教師。ジャマールに文才があることが理解できない。その
 ため、ジャマールの作文が剽窃だと評議会に報告する。


〔4〕・1 キャラクター・ドリヴン(Character Driven)
―――――――――――――――――――――
(キャラクターが精神的な葛藤や人間関係上の問題を解決しようとすることに
 よって進展して行くストーリー)

ジャマールは16歳の高校生。人生をどう生きたらいいのか、どう生きるべきか
考えている。地元の仲間たちとバスケをしたり、いきつけの店で冗談を言い合
ったりしているが、自分の才能を伸ばす手がかりをみつけられないでいる。そ
んなとき、フォレスターと出会うことによって刺激され、才能を磨いていくよ
うになる。


〔4〕・2 アクト・ブレイクス(Act Breaks)次のアクトがはじまる時点
―――――――――――――――――――――
ウインドウ(フォレスター)の部屋に忍び込めるかどうか、肝試しをすること
になる。フォレスターの部屋に忍び込んだジャマールは自分のバックパックを
置いてきてしまう。
かえってきたバックパックの中のノート(文を書きためている)を確認すると、
いたるところに書き込みがされていた。それをみたジャマールは、ほかの文も
添削してもらいたいと、フォレスターの部屋の扉を叩く。

 
〔4〕・3 ダイアニサイアック(Dionysiac)
―――――――――――――――――――――
(夢中になる。主人公に共感を得る)

サウスブロンクスに住んでいるジャマールには文才があるが、まわりにの人
たちはそれに気がつかない。それはジャマール自身が仲間たちから「浮いて」
しまいたくないと思っているので、学力テストのことも、文を書いているこ
とも隠しているからでもある。

そんなジャマールだったが学力テストの点がよかったことと、バスケがうまい
こから、私立の有名進学校への転校の話がもちあがる。転校したジャマールは、
ブロンクスの黒人少年に文が書けるはずがないという決めつけによって窮地に
立たされる。


〔4〕・4 レイズ・ザ・ステイクス(Raise the Stakes)
―――――――――――――――――――――
(掛け金を釣り上げる。現在あるコンフリクト(葛藤・対立)を更に高め、
 より一層危険な状態にする)

作文に剽窃の疑いがかかったジャマールはフォレスターに助けてもらえない。
そんなとき、地元のバスケットコートへ友達に会いにいくが、みんなジャマー
ルを仲間として以前のようには受け入れようとはしてくれない。なぜなら、転
校先の学校でいそがしくなったジャマールは、友達が集まる地元のいきつけの
店に顔を出せなくなっていたからだ。

師であるフォレスターに助けてもらえず、地元の友達は受け入れてもらえない。
どこにも行き場所がないと感じるジャマールであった――。


〔5〕Comments(論評、批評、意見)
―――――――――――――――――――――
この作品は一種の「シンデレラタイプ」といえる。
「シンデレラタイプ」とは、人と人が出会い、お互いに刺激し合い、さまざ
まな経験を通して成長していき、最後に栄光を勝ち取るというストーリーで
ある。
このようなストーリーは多くの人に受け入れられる要素を持っている。だれ
もがそういう経験があるだろうし、あったらいいなと願っているだろう。す
ばらしい人との出会いは喜びであり、人生を豊かにするからだ。

サポーティング・キャラクターはバランス良く配置されている。たとえばジャ
マールの兄テリル。父親が蒸発して独立した兄は球場の駐車場係をしている。
兄は弟の才能や人柄を理解し、応援している(バックグラウンド)。
また転校先のメイラー校ではクレア・スペンスという女生徒と出会うことで、
少しだが恋も描かれている(恋愛)。バスケチームではライバルとしてハート
ウェルが現れ、スタメン争いをする(対立・競争)。
 
また、ジャマールを応援したくなる十分なバックグラウンドが描かれている。
ストーリーの舞台はほとんどがブロンクスの町である。だれもがチャンスをつ
かみたいと思っているが、なかなかそうはいかない。そんな町の少年であるジ
ャマールが学業とスポーツでチャンスをつかもうとしている。そこに立ちはだ
かるバスケチームのライバル。そして文学教師のクロフォード。せっかくつか
みかけたチャンスが潰されそうになることに、映画の観客はいたたまれなくな
り、ジャマールを応援したくなるのである。

ジャマールを助けることができるのはフォレスターである。しかしフォレスタ
ーは兄の死や、批評家の勝手な批評を嫌っているということもあって、新しい
本を出版しようとはしない。表舞台に出ることも避けている。しかし、人生で
大切なものに出会えたことを自覚したフォレスターは、ジャマールを助けるた
めに作文コンテスト会場へ向かうのである。

この作品の題材は「文を書く」ということ。これは、言葉の持つ意味と力に重
きを置いているアメリカ合衆国では、普遍的なテーマである。人間の世界は言
葉で成り立っているからだ。
 
ジャマールはブロンクスのバスケット選手だというだけで、きちんとした文が
書けるはずがないと決めつけられてしまう。しかし、きちんとした訓練を続け
ればだれでもきちんとした文が書けるようになることはみなが知っていること
だ(過去の作品では「マイ・フェア・レディ」がある)、
このような理由から、正確でしっかりとした言葉を用いてチャンスをつかんで
いく、というストーリーは欧米社会で受け入れられる可能性が高いと考えられ
る。日本でも、このような作品がより広く受け入れられる時代になってきてい
るだろう。

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「小説家を見つけたら」
ソニー・マガジンズ文庫 ジェームズ・W. エリソン (著), James W. Ellison (原著), 石川 順子 (翻訳)
 
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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999 フィルム アンド メディア研究所 愛育社

「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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メールマガジン→「ストーリー・アナリシス (Story Analysis)」


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Comments

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Posted by: target marketing | 10/04/2014 19:46

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