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ダークマン(DARKMAN)

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「ダークマン(DARKMAN)」
サム・ライミ監督 1990年 アメリカ 


〔1〕ログライン(Log line)ストーリーを述べてある一文
―――――――――――――――――――――
大火傷を負った科学者が誰の顔にでもなれるマスクを使って悪者に復讐する。


〔2〕ストーリー(Story) 簡略に
―――――――――――――――――――――
人口皮膚の研究をしている科学者のペイトンは、突然やってきた男達に痛めつ
けられる。研究所も爆破される。
全身の40%に火傷(特に顔と手が重傷)を負ったペイトンは自分の研究機器
をなんとかかき集めて人工皮膚マスクをつくる。そしてペイトンは、自分を襲
った男達へひとりづつ復讐していく。やがて恋人のジュリーが、本性を現した
敵の親玉に捕まる。ペイトンはジュリーを助けるために戦いを挑む。


〔3〕メインキャラクター(Main Character)主な登場人物
―――――――――――――――――――――
△ペイトン
 人口皮膚の研究をしている科学者。恋人のジュリーとの結婚を考えている。
 とつぜん研究所に現れた男達によって全身火傷を負う(特に顔と手が重傷)。
 この火傷により、痛みを感じない身体になる。感覚の入力がなく、精神的に
 飢えるため、疎外感、孤独、怒りも制御不能となる。アドレナリンの大量流
 出で驚くべき力が出るようになる。

△ジュリー
 ペイトンの恋人。弁護士。ペイトンに結婚を申し込まれる。ストラック産業
 の取引関係のメモを手にしたことで、ペイトンの研究所が襲われる。そのメ
 モはストラック産業から地域委員会へ賄賂が送られたことを証明する書類だ
 ったからだ。

△ストラック
 ストラック産業社長。ジュリーに賄賂のことを口止めする。ジュリーを守る
 フリをして、裏では手下を使ってペイトンの研究所を襲わせている。

△ロバート・G・デュラン
 町を取り仕切る裏社会のボス。麻薬取引で有名。ストラックの手下としては
 たらく。


〔4〕・1 プロローグ(Prologue) 独立した序の部分
―――――――――――――――――――――
プロローグでは主人公ペイトンの直接的なアンタゴニスト(敵対者)の紹介―
―デュランがいかに冷酷なギャングであるか――が描かれている
 
あるギャング団が、デュランのギャング団によって壊滅させられる。デュラン
は葉巻カットの小道具で、倒した相手の指をカットしてコレクションしている。
 

〔4〕・2 セットアップ(ストーリーの最初の数分間)
―――――――――――――――――――――
Pay Off 初めに提供されて後に劇的に使われる情報を2つ。
 
1.主人公ペイトンの研究室。人工皮膚の実験。人工皮膚は99分過ぎると崩
  壊してしまうことを知らせる。

2.恋人ジュリーとの幸せな生活。朝、ベッドルームでジュリーが電話で仕事
  の打合せをしている。ここでストラック産業の賄賂のことを観客に提示し
  ている。
 

〔4〕・3 カタリスト(Catalyst)要因となる物・人、きっかけ、刺激。
―――――――――――――――――――――
ジュリーが賄賂の疑惑をストラックに突きつける。これによってストラックが
証拠のメモを手に入れるため手下(デュラン)にペイトンの研究室を襲わせる。


〔4〕・4 セントラル・クエスチョ(Central Question)
―――――――――――――――――――――
ペイトンは自分を火傷させた敵に復讐できるのか。

ペイトンは火傷して変わり果ててしまった自分と向き合い、自分が何者である
かというアイデンティティを再び確立することができるのか。

ペイトンは愛する恋人に受け入れてもらえるのだろうか。

ペイトンは敵対者から恋人を救うことができるのか。


〔4〕・5 アクト1,2,3.
――――――――――――――――――――
〔アクト1〕
 全身火傷を負ったペイトンは病院を抜け出す。
 自分の研究を使って人工皮膚マスクを作る。

〔アクト2〕
 自分を襲った敵対者(デュランたち)を、ひとりづつ復讐していく。

〔アクト3〕
 敵対者の親玉ストラックに捕まったジェリーを助ける。


〔4〕・6 フォーシャドゥイングとペイオフ
――――――――――――――――――――
(フォーシャドゥイングとは、出来事をセットアップするために使われる視覚
 的手がかりやダイアローグ、もしくは後のストーリーでペイオフされる情報
 のこと)

セットアップ部。朝、ベッドルームの電話で仕事の打合せをするジェリーに、
ペイトンがコーヒーを持ってくる。コーヒーカップを賄賂の証拠書類の上に置
くペイトン。書類の上にはコーヒーカップの丸いシミができる。
 
後にジェリーはストラックの社長室でコーヒーのシミがついた書類を目にする。
書類は焼けてしまったと思っていたジェリーは、ストラックが書類を手に入れ
ていたことを知る(ストラックが裏で糸をひいていたことを知る)。


〔5〕Comments(論評、批評、意見)
――――――――――――――――――――
ダーマンの設定は興味深い。
まず、顔と手にひどい火傷を負う。手を見ればその人がどんな人物かある程度
わかるとも言われる。いわば第2の顔である。その手と、顔を奪われたことで、
ペイトンはまさに「だれでもない者」になる。

しかしペイトンは人工皮膚の研究を用い、だれにでもなれるマスクを作る。
だれでもないと同時に、マスクを被ることによってだれにもでもなることがで
きるのである。ただし日光の下では99分の制限時間付である。

また、火傷の苦痛を伝える神経を遮断したので、痛みを感じない。感覚の入力
がないために精神的に飢える。これにより、疎外感、孤独、を感じ、怒りも抑
制不能となる。アドレナリンの大量流出で驚くべき力が出る。

このような状態はどこかで聞いたことがないだろうか。どこかのカルト宗教団
体と似ているかもしれない。

顔と手に火傷を負わなくても、自分がだれであるかわからないと悩み、疎外感
や孤独を感じている人は多い。そんな人たちはマスクを与えられる(ある組織
や集団の一員になる)ことを望む。マスクを与えてくれた人のめには驚くべき
力を発揮する。たとえそれが他人を傷づける行為だとしても、他人の痛みを感
じ取ることはできなくなっている。

「おかしなことが起こったんだ。つまり、仮面を作ると、根本的な部分が変わ
った。邪悪になったのだ。そう――怪物だ」(ペイトンのセリフ)

旅の恥じはかきすて。普段真面目で善良と言われている人でも旅先ではついハ
メをはずして、普段しないような悪さをしてしまうこともあるという。

短い旅なら2,3日で終わるだろう。たいていの映画作品は約100分ほどで
終わる。人工皮膚は太陽の下では99分を過ぎると崩壊する。

マスクを被れば「だれか」になれるが、それも太陽の下では99分間である。
マスクを脱げば「だれでもない」。これは、人間のあたりまえの姿かもしれな
い。ペイトンはこの苦痛と戦いながら、恋人ジュリーを救出する。このとき、
ペイトンはストラックを死に追いやる。火傷以前のペイトンならストラックを
死に至らしめることはしなかっただろう。そのことを自覚したペイトンは
「だれでもありだれでもない」という苦痛にひとりで立ち向かって行く覚悟を
する。

ここに、ひとりのダークヒーローが誕生したのである。

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「ダークマン」
二見文庫 嵯峨 静江 (翻訳)


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∇参考・用語引用図書 
「ストーリーアナリスト」 
1999フィルム アンド メディア研究所 愛育社

「ハリウッド・リライティング・バイブル」 
2000 フィルム アンド メディア研究所 愛育社
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